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    rakugakisouko

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    rakugakisouko

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    ホリブル10で頒布予定のサンプルです。
    タイトル通りのお話です。

    真斗がレンに指輪をもらう話真斗サイド

    「なにをしている?」
    真斗がレンから指輪をもらう話

    「なにをしている?」
    「なにも」
    ソファに座って二人でテレビを見ていた。画面を流れるテンポのいい会話は音也とトキヤのもの。
    「ならなぜ俺の指を撫でている」
    肩が当たるほど近くに座るレンはさっきからテレビではなく真斗の左手に夢中だ。
    「綺麗な手だなって。けどレディとは違うなって」
    真斗よりも少しだけ大きな両手が真斗の左手の隅々までを触ってくる。指の間や爪の形を確かめるように。
    「だからなんだと言うのだ?」
    「なんでもないよ。テレビ見てていいよ」
    そう言いながらもレンは真斗の手を撫でている。さっきよりも少しずつ力が込められ、マッサージのようになってきた。
    「集中できん」
    「ごめんごめん」
    そう言ったがレンは止める気配がない。仕方なく真斗はそのままにしてやっていた。
     
    ***
    「一ノ瀬、最近神宮寺が変なのだ」
    仕事の休憩中、真斗は最近の悩みをトキヤに打ち明ける。稽古中の台本を読もうと思ったが、どうにもレンの行動が気になってセリフが頭に入ってこない。そう思ったところで目の前で栄養についての本を読んでいるトキヤに声をかけた。
    「変とは?」
    「俺の手をよく握ってくるのだ」
    「惚気ですか?」
    「違う。ただ握るのではなくこう……」
    「こう?」
    「手を撫でるように触ってくるのだ」
    最近はソファーに座っている時だけでなく、ベットに入って眠るまでの間も触ってくる。そのうち気持ちよくなって寝てしまうこともしばしば。
    「新手のセクハラですか?」
    「俺にもわからない」
    「なんの話?」
    「音也……またそんなに食べて」
    トキヤの隣で雑誌を読みながらお菓子を食べていた音也。食べているお菓子は最近、セシルが主演でコーマシャルが始まった新作らしい。
    「運動するから大丈夫!」
    その分減るのだと言う顔にトキヤは呆れ返っている。本当だからこそなおさら。
    「それよりなんの話?」
    「レンのセクハラの話です」
    「せくはら?」
    音也の頭には?マークが並んでいる。隣にいたが、話を聞いていたわけではなかったらしい。
    「家でずっと手を触ってくるのだ。気がつくと」
    「……なんで?」
    トキヤの方を見ながら音也が聞く。
    「私に聞かれても困ります」
    トキヤは匙を投げた。
    「どうしたらいいと思う?」
    「どうにもならないんじゃない?」
    ――音也も投げたようだった。

    *****

    「それで俺たちのところに相談に来たと?」
    真斗が次に相談したのは翔と那月、セシルの三人。この日は三人で前回のライブのアンコールについてのインタビューだったらしい。
    「そうだ」
    「レンくん、おうちではそんなことをしてるんですね。かわいいです!」
    「仲良きことはいいことです!」
    レンのセクハラ?をかわいいと言うのはこの二人くらいだろう。そんな二人に少し遠い目をする翔。
    「来栖……俺はどうしたらいいと思う?」
    もう頼りは常識人枠の翔しかいない。そんな思いを込めて見つめる真斗。
    「俺に聞かれてもな…レンには言ったんだろう?」
    「あぁ。しかし一向にやめる気配はない」
    ずっとそんな調子のため、真斗が家事をしたいと思ってもレンが手を触っていてなかなか動けない。だからこそ困っていた。
    「その様子だと何回も言ったんだな」
    真斗は深くため息をつく。そんな真斗を見ていたセシルは何かを思いついたようだ。
    「同じことをすればいいのではないのですか?」
    「同じように?」
    「マサトも家でレンの手を繋げばいいのです!そうすればマサトの気持ちをレンも分かって、やめてくれるのではないでしょうか?」
    「なるほどな」
    相談はしてみるものだと真斗は思った。
     
    ***
     
    「どうしたの?」
    「なんでもない。気にするな」
    真斗は今、テレビを見ながらレンの手を触っている。
    「……気になるんだけど」
    「気にするな」
    セシルのアドバイス通りにレンに自分がされたこと同じことをしている。様子を見ながらやっているが、かなり戸惑っているらしい。成功だなと思っていると突然、手を掴まれる。
    「神宮寺?」
    今度はいつものようにレンが真斗にやりはじめた。いつもよりも強めに掴んでいるからかやり返せない。
    「……」
    レンはなにも言わない。しかし、じっと真斗の手を見つめながら触っていく。
    「お前は本当に何がしたいんだ?」
    真斗が聞くと今度は少し手を止めて答えてくれた。
    「うーん。何がしたいと聞かれると難しいかな」
    「難しい?」
    「オレの欲しい結果のためのプロセスだからね」
    そういってレンはまた、手を触り始める。
    ――真斗の欲しい答えはまだない。

    ***

    「マサト、どうでしたか?作戦はうまく行きましたか?」
    ロケの移動中にセシルが聞いてきた。次のお店がかなりの山奥のため、到着まで時間がかかる。
    「すまない。うまくいかなかった」
    「そうですか。レンはなかなか手ごわいですね」
    「本当に。それどころか……」
    やり返されたことを言おうと思って、この前の夜のことを思い出して真斗は言葉が続かなくなった
    「それどころか?」
    「いや、なんでもない。せっかく相談にのってもらったのにすまない」
    「それはいいのです。あれは渡せたのですか?」
    「何と言って渡せばいいか悩んでしまってな。まだ渡せていない」
    そこまで言ったところで車が止まる。
    「聖川さん、愛島さんお店に到着しました」
    「はい、わかりました」
    「はい!今行きます!」
    話はそこまでだった。

    ***

    「トキヤ」
    「愛島さん、お疲れ様です」
    ロケ終了後、真斗は雑誌のインタビューがあるらしくそこで別れた。セシルは次の番組の資料を取りに事務所に寄ったのだった。
    「おつかれさまです。トキヤは打ち合わせですか?」
    「はい。愛島さんはたしか、聖川さんとロケでしたね」
    「はい!わらび餅おいしかったです!」
    「それはよかったです。放送、楽しみにしてます」
    「楽しみにしていてください!」
    「そういえばレンのセクハラのことは聞きましたか?」
    「せくはら?あぁ、真斗の手をよく触るというやつですか?」
    「はい。どうにも聖川さんがお困りのようでしたので」
    「まだ解決していないようです。同じようにすれば教えてくれるのではアドバイスしてみましたが……」
    「試してみたけれど、分からずじまいというわけですか」
    「その通りです!」
    「ここまでくるとしばらく様子を見るしかなさそうですね」
    こうして問題は再び先延ばしになった。

    *****

    「一ノ瀬」
    一ノ瀬トキヤは嫌な予感がした。とはいえ、真斗のその声にトキヤは抗えない。
    「聖川さん?」
    「やっぱりダメだった。教えてくれなかった」
    セシルの提案に乗ったと言うのは知っていた。だからこそ真斗の言いたいこともすぐに察した。
    「そうですか……」
    もはやそれ以上のことを言えない。どこか悔しそうな真斗に、本当にレンは何もしたいのだろうと思わずにいられない。頼りにしてくれることは嬉しいが、この悩みが解決しない限り相談し続けられることは目に見えている。せめぎあう葛藤がトキヤの中に生まれつつあった。
    「俺はどうしたらいいのだろう……」
    と言われてもトキヤも困る。レンの考えが分からなすぎて。
    「レンは他には何か言っていませんでしたか?」
    「何か……欲しい結果のためのプロセス?みたいなことを言っていた」
    「はぁ……」
    これではますます分からない。
    「レンは本当に何をしたいんでしょうか……」
    「分からん」
    二人で悩んでいるとトキヤの隣でアンケートを書いていた音也が参戦する。今回は話を聞いていたらしい。
    「レンの欲しいものかぁ……」
    三人揃って考えるが思いつかない。
    「聖川さん、次お願いします」
    「行ってくる」
    「いってらっしゃーい!」
    スタッフに呼ばれて真斗は部屋を出て行った。扉が閉まった瞬間、トキヤは音也の方を見た。
    「あなた分かってるんでしょう?」
    「何が?」
    しらばっくれる音也を軽く睨みつける。
    「レンの欲しいものです」
    「あっ、バレた?」
    「まったく……聖川さんが気づかなかったらいいものの」
    「ごめんごめん。でもレンの奇行?はそろそろ終わると思うよ」
    「なぜ分かるんですか?」
    「……男としての勘?」
    「私も男ですが?」

    ***
     
    そんな会話が繰り広げられているとは露知らず、真斗はモデルの撮影をしていた。
    「聖川さん、もう少しこちらに視線をください」
    カメラマンの指示に従いながら、真斗は仕事をこなす。
    「お疲れ様でした。これで終了になります」
    「お疲れ様でした」
    労いの言葉をかけられながら、楽屋へと向かう。首元のネクタイが苦しくて、歩きながら少し弛める。
    「おつかれーマサ」
    「お疲れ様です。聖川さん」
    先に終わっていた音也とトキヤはすでに帰り支度をすませていた。
    「あぁ。二人ともこの後は?」
    「今日はこれで二人とも終わりだよー」
    夕飯にでも誘おうと思った時に鳴るスマホ。着信の主は先ほどまで話題の人物。
    「もしもし?」
    『聖川、終わった?』
    「ちょうど今、終わったところだ」
    『オレも今終わったんだけど、そっち迎えに行っていい?』
    「かまわないが……」
    『じゃあ行くね。玄関で待ってて』
    スマホを切ると音也とトキヤが真斗の方を見ている。
    「神宮寺が来るらしい」
    「噂をすればって感じだね!」
    「音也、私たちも帰りますよ」
    「はーい!」
    すでに帰る準備が終わっていた二人。
    「神宮寺は二人のことも送るつもりだと思うが……」
    「今日は遠慮しておきます。聖川さん、ではまた次の仕事で」
    「またねマサ!」
    二人はすぐに帰ってしまう。まるで打合わせていたかのように早く、真斗は首を傾げた。とはいえ、レンが来る前に帰り支度をしておかねばならない。着ていたジャケットを脱ぎ始めた。
     

    ー後略ー

    *****

    レンサイド

    ー前略ー

    「レン」
    「セッシー?」
    事務所に行くと、前からセシルが歩いて来た。
    「これからお仕事ですか?」
    「そうだよ。でもその前に来月のスケジュールの確認をしにね。それよりセッシーだね。聖川に入知恵したの」
    「バレていましたか」
    「たぶんそうかなって」
    「でもお陰で撹乱できたのではないですか?」
    セシルの口調は確信を得ている答え方だった。やはり隠せてはおけなかったようだ。
    「そんなに分かりやすかった?」
    「レンの真斗への眼差しがいつも以上に温かったので。それに少し緊張している気もしていました」
    よく見ている。出会った時もそうだった。
    「あたり。けどしばらくは内緒ね」
    「もちろん!」
    そういって二人は別れた。レンはセシルが小さい声でこう言っていたのは聞こえなかった。


    「必ず成功しますよ。ミューズのご加護が二人を包んでいるのだから」

    ***

    「レン」
    「イッチー。おつかれさま」
    「お疲れ様です。それより聖川さんが困っていましたよ」
    「あいつ、メンバー全員に相談したのか……」
    「それだけの奇行をしていればするでしょう?」
    「奇行って……相変わらず容赦が無いね」
    なんのためらいもなく出される言葉には棘がある。
    「今更でしょう。あなた、本当に何がしたいんですか?」
    「うーん、ちょっと欲しいものがあってね」
    「聖川さんに内緒で?」
    「そうだよ」
    小さくため息を一つ吐かれる。オレが言わないと察したらしい。
    「ほどほどにしてあげてくださいね」
    「心に留めておくね」
    そういってレンはトキヤと別れた。

    *****

    『おチビちゃん、明日のロケの後時間ある?』
    レンが翔に連絡を入れたのは真斗たちがそんな会話をしてから一月後だった。
    『あるけど、なんか合ったのか?聖川と」
    『何もないけど?聖川関連って意味では合ってるよ』
    『何時にどこに行けばいい?』
    『オレが事務所に迎えに行くから終わったら待ってて』
    『わかった』

    ***

    「おチビちゃん、おつかれさま」
    「レンもお疲れ」
    翔が乗り込むのは後部座席左側。助手席には座らない。
    「じゃあ行こうか」
    レンが静かに車を発進させる。
    「で、話ってなんだ?」
    「おチビちゃん、オーダーメイドのアクセサリーよくつけてるだろ?」
    「そうだな。自分の好みに近づけられるからな。で、それがどうかしたのか?」
    「よければなんだけど、紹介してもらえないかなって」
    「紹介って、なんでまた……」
    そこまで言って翔はハッとする。
    「お前、もしかして……」
    「おチビちゃんが思った通りだよ」
    「金額はお前のことだから気にしないんだよな」
    「それなりにもらっているからね」
    「ある程度のデザインは決まってるのか?」
    「うん」
    「なら一度それを見せてくれ。お前の希望に一番合うところ紹介してやる」

    ***

    「これなんだけど」
    行きつけの個室付きの居酒屋に入ってすぐにスマホに表示された一枚の写真。銀と青色の宝石を埋め込んだシンプルなデザイン。あまりにもシンプルすぎて翔はふと思ったことを聞く。
    「なんでオーダーメイドなんだ?」
    「同じじゃ嫌だったんだよ」
    レンはその後の言葉が喉から先に出てこないようだった。翔も静かにレンの発する思いを待つ。
    「あいつはしがらみもあったけど、それでもいろんなものを与えられてきたんだと思う。演技がうまいのはそれを吸収するだけの器があるからだ。それはあいつ自身がそれを受け止められるように、いや受け止めるようにしてきた一種の賜物だとも思う。そんなたくさんのものを持っている中でも見つけてほしいから」
    たくさんの中の一つ。けれどもたくさんの数は人によって違う。真斗のたくさんはきっと人よりも多い。その中で見つけてもらいたい。そんな心の中にいる幼いレンの願望。とはいえ、大きく派手なものは似合わないし本人もあまり使いたがらない。だからこのデザインになった。
    「ならここがいいと思う」
    そういって翔が取り出したのは一枚の名刺。

    「きっとお前の願いを最高の形にしてくれると思うぜ」

    ー後略ー

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