日本の夏は暑い。湿度が高くて、汗がぜんぜん引いていかない。不快感が強いというべきだろうか。そんな中、俺は家の外へと引っ張り出されていた。
「なーぎ、ほら、早く!」
「うん」
汗ばんだ腕を掴まれる。人でごった返す通りを玲王は楽しそうな顔で歩いていた。それもそのはずで、通りには出店が所狭しと並んでいる。
焼けたソースの匂い、オレンジの提灯、発電機の騒々しい音。そして、目の前には鮮やかな色の浴衣に身を包んだ玲王がいる。
数日前、近くでお祭りがあると知った玲王は「祭りなら浴衣がいる!」と意気込んで何セットも浴衣を買い込んでいた。そんなにいっぺんには着れないでしょ、と止めたけど、ひとつに絞れなかったらしい。だから今回、玲王は淡い紫色の浴衣を着ていた。ちなみに俺は深緑の浴衣だ。帯は臙脂色なのでなかなかに攻めた組み合わせだ。なお、着なかった浴衣の中には金魚模様のものや花火模様の浴衣もあった。玲王曰く、近隣の祭はこの浴衣たちを着て制覇するつもりらしい。
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