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    case669

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    パソコン整理してたら確実に中学か高校くらいの時に書いたビクフリ未満を発掘してしまったので供養。昔の過ぎて恥ずかしいというよりも成長してなさ過ぎて笑ってしまったなんも変わってねえ

    ##ビクフリ

    「彼女が死んだ日だ」
    ビクトールの、今までに見た事も無いくらいに真面目な顔で紡がれたその言葉に俺はただ、そうか、と応えただけだった。
    朝っぱらから何の冗談だと殴る事も、何の話だと聞き返す事もしない。
    それ以上聞く必要が無かった。
    だが、奴の気遣うような態度に、少しだけ笑った。


    酷く、爽やかな朝。
    窓から差し込む陽光は冷たい石造りの城を暖めようとするかの如く差込み、城の人々に日の始まりを告げる。
    日に日に増えて行く不安が無い訳では無いものの、既に勝利の見えて来た戦いに城内は浮き足立ったように騒がしい。
    その騒がしさの一部でもある同郷の同室者二人と擦れ違いに入って来た男は俺の素っ気無い反応に驚いたようだった。
    「もっと、驚いた方が良かったか?」
    驚いて目を瞠ったままの男に問うと、奴は決まり悪そうに視線を逸らして頭を掻いた。
    がしがしと、痛そうなまでのその動きに背を向け、床に置いてあった防具を身に付け始める。
    穏やかな日差しに照らされていた防具は心地よく暖かかった。
    ああ、今日もいい天気だ。
    「驚かないのか?」
    視線を逸らしたまま、問い返される。
    背を向けていたから見えた訳じゃないが奴が視線を逸らしている事なんて判りきっている。
    奴はいつでもそうだ。
    妙な気を回して俺からオデッサの話題を遠ざけて。
    その癖、今みたいに律儀に伝えることだけは伝えに来やがる。
    また、笑いが込み上げた。
    「今、俺がすべきことは彼女の死を悲しむ事じゃない。それ所じゃないだろ、今は。」
    バンダナを額に巻き、強く締める。
    きゅ、と布の引き攣れる音を後頭部に聞き、最後に愛剣のベルトを腰に巻く。
    慣れた重みを手に入れた身体がようやく目を覚ます。
    未練がましく小さな欠伸を噛み殺し、両腕を組んで大きく伸びをした。
    「おい、フリック……」
    気付けば何時の間にか背後に立っていたビクトールが肩に手を掛け、ぐい、と引いたから反射的に手を払う。
    仲間だと思って気を赦しているとはいえ、背後に立たれても気付かなかったのは癪に障る。
    それに、奴の怒ったような、戸惑ったような声もだ。
    何でそこまでお前に気遣われなきゃなんないんだ。
    「用はそれだけか?なら出てけ。」
    気分の良い朝にわざわざ気分を害してくれた奴には顔も向けずに言ってやる。
    背後に立たれる不快感から逃れる為にも一歩、前に進んだ。
    「あのなぁ……とにかくお前こっち向け」
    なんだか段々頭が痛くなってくる。
    怒りたいのはこっちなのになんでお前が怒ってるんだよ。
    ずきずきとこめかみが痛い。
    リュウカンのところに行って薬でももらって来るべきか……いや、それよりコイツを追い出した方が早いな。
    「何でわざわざお前と面突き合せなきゃなんないんだ。どうせ後の会議で嫌でも顔合わせるだろ。」
    そうだ、会議が午後にあるから…午後の訓練のメニューを考えておかなきゃならないのか。
    いやもう面倒臭い、頭痛も酷くなってきたし適当に解散にしちまうか。
    …そうだ、グレンシールに借りた本も返さなくては。
    そう思い出してテーブルの上に置きっぱなしの本を取る為に前へ進もうとしたがそれは叶わなかった。
    「フリック!」
    有無を言わせぬ強さで肩を掴まれ、ベッドへと横倒しにされる。
    ったくなんで朝っぱらからお前に怒鳴られなきゃなんないんだ。
    ぽた、とシーツの上に透明な染みが一つ出来たが俺は知らない。
    何も知らない。
    ず、と鼻を啜ると奴と顔を合わせないまま扉の方へと向って立ち上がる。
    もう怒るのすら面倒なんだよ。
    文句を言うにも頭が痛くて回らない。
    奴を無視して出てってやる。
    本はまた後で取りに来ればいい。
    「………その顔で外に出るつもりか。」
    奴がまだ何か言って来たが聞いてやるつもりも無い。
    悪いがお前なんかに心配されるような顔はしていない。
    何故かがくがくと震える足を何とか叱咤しながら扉へと向かう。
    酷く短い距離なのに何故か酷く遠く感じる。
    背後でまだ何か奴が言ってたみたいだがもう何も聞こえない。
    耳に入らない。
    それよりも自分の心臓の音ばかりが耳に響く。
    血管という血管が酷く脈打っているのが自分でも判る。
    さっきまで暖かいベッドから出て寒さすら感じていたはずなのに今はもう暑い。

    じんわりと汗を纏ったような手を扉へと伸ばし、ノブを掴もうとした手は空ぶった。
    慌てて再度ノブへと手を伸ばそうとするも触れたのは扉の平らな感触。
    ごん、と何かぶつかったような鈍い音が遠くに聞こえる。
    額に鈍い痛みが走った気がするがもう判らない。

    ああちくしょう。
    だから嫌いなんだ。
    ぽたぽたと扉の前の床に際限なく落ちる雫を見詰めながら思った。

    彼女が死んだ日、たったそれだけの事。

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