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    case669

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    case669

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    レオジャミです。レオジャミです。逆でも読める気がするけどレオジャミです。

    ##レオジャミ

    【虫除け】

    「ほんと、顔だけはいいんだよなあアイツ」
    放課後の運動場。
    バスケ部基礎体力強化月間と銘打ち、走り込みや筋トレの合間の休憩時間に漏れ聞こえた会話になんとは無しに顔を向ければ、同じバスケ部の三年生が何処か遠くを見ながらぼやいていた。
    「綺麗な顔してるしな。案外、アイツでヌいてるやつも多いって噂だぜ」
    「嘘だろ綺麗っつったって野郎の顔だぞ」
    「これだけ女っ気無ければあれぐらい整ってりゃ十分使えるだろ」
    下世話な話とは思う物の、男子校であれば珍しい話でもない。ジャミル自身、髪の長さゆえにそういう対象にされやすいという自覚はあるし、以前はそれなりに勘違いした男から告白まがいの事をされたことも、多少強引な手段で迫られたこともある。ホリデーで幾重にも被った猫を全部まとめてかなぐり捨ててやってからはぴたりと無くなったが。
    「そもそもアイツ、入学してすぐに当時の寮長と寝たって噂だろ」
    「まじかよ。確かに俺が入学した時でもまだ美少女みたいな所あったもんな」
    「どんだけ顔が可愛かろうが野郎は無理だわ」
    「俺はパシりにしてる奴らも全員食ってるって噂が本当なら、いっぺんくらいヤってみてぇな」
    「正気か!?あのキングスカラーだぞ!?」
    は?と。思わず声が漏れ、三年生たちの視線の先を見る。運動場の端の方、空中で箒に膝を引っ掻けてさかさまにぶら下がりながら腹筋する一団の中に、浮いた箒の上に器用にしゃがみ込みにやにやと楽し気に部員に発破をかけるレオナ・キングスカラーその人がいた。
    「傍に行くとわりとがっしりしてるとは思うんだけどよぉ、普段もっとイカツい獣人に囲まれてるトコ見るとたまにムラっとする事はあるんだよな」
    「見てくれだけは上等だしな」
    「案外誘ったらノってくれたりしねえかな」
    「失敗したら砂にされるぞ」
    「でも噂通りにサバナクローの女王様やってるならワンチャンあるだろ?」
    思わず上級生の会話に口を挟みそうになり、慌ててもぐもぐごくんと飲み下す。そんな人ではない、と言ってやりたかったが、あながち間違っているとも言えない。
    だってジャミルだってレオナの顔を見ればムラっとするのだ。普段の気だるげな表情も良いし、勝ち誇ったドヤ顔も良い。笑うと案外無邪気に見える所も良いし、苛立っているときのしかめっ面も良い。事の最中の熱に浮かされた顔も良いし、イく時の顔なんか、とそこまで考えて慌てて首を振る。今はそんな事を考えている場合ではない。そもそも、レオナの事を考えるとムラムラというかそわそわというか、とにかく落ち着かなくなってしまうからあえて考えないようにしてたのだ。部長と言う立場上、常に運動場の端っこからがなり立てているレオナの声を聞かないようにしていたというのに。
    気付けば三年生たちの会話は違う話題に移っていたようだが、ジャミルの心はざわついていた。過去の事はわからないが、サバナクローの女王様という噂は明らかに誤解だろうから好きなように騒げば良い。だが、レオナにジャミルと同じようにムラムラする人間がいるという事実を今まで予想だにしていなかった。確かに全寮制の男子校という閉鎖空間であれだけ見目の良い男は目の毒だろう。女性的な美しさといえばヴィルの方が上にも思うが、自他共に厳しいヴィルは近付き難いオーラがある。そしてレオナにはそれが無い。ぱっと見た雰囲気だけで言えばとっつきにくい王子様にも見えるが、あれでいて案外面倒見は良いし、言葉こそ嫌味ったらしい事もあるが指摘は的確だ。それに何よりあれでいて押しに弱いというか、来るもの拒まずなところがある。他寮のジャミルがこれだけあっさりとレオナの懐に入ってしまったのだから、自分の群れであるサバナクローの寮生にはもっと甘いのでは無いか。噂通りに寮生とえっちな事はしていないとしても、えっちな目で見られる事はあるんじゃなかろうか。あの見目で、あの面倒見の良さで、意地悪する時もあれば極上の飴もくれるえっちな男。
    そう、レオナはえっちなのだ。
    別にそんな不埒な輩に簡単に組み伏せられてしまうようなレオナでは無いとはわかっている。わかっていても、不快に感じるというか、もやっとするというか、なんか嫌だ。


    「というわけでレオナ先輩、対策をしましょう」
    「対策」
    もう全く身が入らない部活が終わり次第レオナをひっ捕らえてそのままレオナの部屋へ連れ込みかくかくしかじか。サバナクローの寮内などもうすっかり慣れたものだと思っていたが、あんな話を聞いた後だとなるほど確かにジャミルよりもよっぽど体格に恵まれたレオナだが、寮内では真ん中くらいか、むしろ小さい方に分類されることに気付いてしまい慄く。レオナならば体格が劣っている程度で簡単に負けたりはしないだろう。寮生も概ねレオナをボスと認め忠実な下僕である者ばかりだ。
    しかしレオナはえっちなのだ。ジャミルですらレオナのえっちさにはなかなか抗い難いのだから、サバナクローの脳筋達は辛うじて理性を保っているような際どい状態なのではなかろうか。
    「対策ったって、何するんだよ」
    それなのに当の本人といえばのんびりベッドに寝そべって危機感の無い顔でにやにやと笑うばかり。自分がどれだけえっちな顔をしているのか全くわかっていない。今のその顔だって、どれだけジャミルの心を揺さぶっていると思っているのか。
    「それを一緒に考えてください。先輩頭良いでしょう?」
    「熟慮のスカラビア副寮長様だってさぞ頭良いだろうが」
    「言葉遊びしに来たんじゃないです、真剣に考えてください!」
    手を取られて引っ張られるままにレオナの身体を跨ぐが、ジャミルの心配する気持ちを全く理解してくれない腹立たしさでドスンと少々手荒に腰の上に体重を乗せる。
    「ぐっ、……考える、たってなぁ……」
    流石に痛かったのか一瞬顔を顰めるも、すぐにくふりと笑ってジャミルの服の裾から掌が滑り込み、かさついた指先が背を撫でていた。その一度懐に入れた者に対しては対応がべた甘になるのも危ない。これがマレウス相手だったらぎゃんぎゃん吠えて喧嘩になるだろうに、レオナは文句の一つも言わずにただ楽し気にジャミルを見上げるだけだ。こんな様子では、もしかしたら寮生が涙ながらにお願いでもしたら容易く絆されてその身を差し出しかねない。寮生ならきっと、レオナが案外面倒見が良くて、甘やかし上手で、その上おねだりすると大体何でも聞いてくれる事なんて知ってるだろう。あまりに危険すぎる。
    「なんか、無いですか。俺、そういうの詳しくないんで」
    「んなこたわかってんだよ……」
    思案するように細められたエメラルドと見詰め合う。その合間にも掌は背を撫で、もう片方の手は腿まで撫でていた。ムラムラするので控えて欲しいが、あわよくば対策が固まればその後は期待する気持ちもあるのでもどかしい気持ちでじっと待つ。
    「そうだなあ……」
    しばし、そうして見つめ合っていると何かを思いついたようにレオナの左眉が上がり、ニヤァ、とあまりタチのよろしくない笑顔を浮かべていた。
    「痕でも残せばいいんじゃねぇの?」
    「痕……?」
    「テメェが嫌がるキスマークとか、噛み痕とか」
    「そんなことしたら先輩が何してるか丸わかりじゃないですか!」
    「丸わかりだからいいんだろうが。俺にはそういう事をする相手がいる、他の有象無象に用は無ぇってアピールになるだろ。なんなら俺はテメェにもつけてやりてぇんだが?」
    「お断りします」
    断られたというのに何が面白いのか、ふはっっと笑ったレオナが腹筋の力だけで起き上がり、そのままゆうるりと腕の中に囚われる。ぴったりとおでこ同士がくっつけば、レオナの綺麗な顔がえっちな色を纏わせて笑っていた。
    「要は、俺が誰かの物であることがわかればいいんだろ。フリーなら虫も寄り易いが、つがいがいるとわかれば獣人なら一気に手を出しにくくなる」
    「そういうものですか?」
    「そういうもんだ」
    ジャミルにはレオナがえっちな事はわかるけれど、恋愛についてはさっぱりわからない。じっとりと疑うように目を眇めてレオナを伺う。
    「テメェに嘘ついた事はねえだろ」
    確かに、それはそう。この男は誤魔化す事はしても嘘を吐くことは実はあまり無い。こうしてレオナいわく「つがい」というものになってからは特に。信じろと言わんばかりにぎゅうと抱き締められてちゅうちゅうと顔にいっぱいキスされていると、信じても良いかな、という気分になってきた。
    「……それじゃあ、痕、つけますか?」
    「ああ、とびっきり嫉妬深くて執着心強そうな痕を残せよ」
















    「さすがに下品よレオナ」
    欠伸を噛み殺しながら次の授業の開始を待っていると突然背後からかけられた聞きなれた声。振り返れば予想通りの怜悧な美貌が眉を潜めていた。
    「可愛いだろ、俺が誰かに取られないか心配なんだとよ」
    身体ごと背後に向き直り、元より寛げられているシャツの胸元を軽く引っ張って内側を覗かせればますますヴィルの顔が歪んだ。美の象徴様らしからぬ、いわゆるドン引きした顔。別に必要以上に見せびらかすつもりは無かったが、この男相手ならば良いだろう。こういう事を明け透けに話せる相手は案外少ない。
    「……本当に、それ、あの子が……?信じられない……」
    「アイツには俺が誰彼構わず優しくしてやるお人よしに見えてるらしいぜ?」
    んぐっ、と引き攣った顔のまま珍しく変な笑い方をして咽た。この小憎たらしい男にこれだけ百面相をさせただけでも十分な副産物。
    「お優しい俺がねだられたら誰にでも股開くんじゃねぇかってケツの心配された」
    「それは……ふふっ、ご愁傷様ね」
    大体のあらましは想像出来たらしいヴィルは手の甲で唇を隠しながらくつくつと笑いに肩を揺らしていた。本当に笑い話だ。これだけレオナが尽くした所で当の本人には何一つ伝わっちゃいない。だが。
    「でも、そんな所が可愛いんでしょう?」
    美しい毒の女王の顔を取り戻したヴィルがにんまりと笑うのに、レオナも牙を剥き出して笑ってやった。
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    受け入れた所で、レオナが本当に欲しい物はくれない。
    拒んだ所で、レオナが首を縦に振るまできっと離してはくれない。
    結局の所、すべてはこの男次第。レオナがすべきことはただ「王に愛され、そして王を愛する弟」であることだけだ。
    気紛れに顔を足の裏で踏みつけてやっても止める処かべろりと土踏まずを一舐めされ、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら移動した唇がくるぶしに甘く歯を立てる。
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    脹脛に頬ずりをしてうっとりと笑う兄を冷めた目で眺め、そして耐え切れずに顔を反らした。本人にそのつもりが無いのはわかっているが、まる 1464