特別な朝に side悠―――
「……好きだ、悠。」
低く、甘く、そして柔らかいその声は唐突に頭上から降り注いだ。
意識が浮上しているにも関わらず、すぐに目を開けなかったのはなんとなく、視線を感じていたから。一夜を同じベッドで過ごしたのは今まで何回かあったけど、恋人同士の一線越えて……朝を迎えたのは今日がはじめて。……だったりする。思い出しただけでぶわってなりそうなのに、まさかこのタイミングで虎於から好きだって言われるとは思わなくて、今すぐに目を開けて「言って、もういっかい」って言いたくなる。でも絶対そんなことしたら慌てるに決まってる。いま言ってくれたのだって絶対、オレが寝てると思ってるからだろ。流石のオレも空気、読んでみる。きっとそんなことしたら虎於のヤツ、カオ真っ赤にして起きてたのか、ってするんだろうな。そうなる虎於を見たくないのか、って言われたらそりゃ見たいに決まってるんだけど。
寝返りでも打とうかな、なんて思って狸寝入りのまま居たら不意に虎於の腕が伸びてきて、掌が身体を這ってそっと抱きしめてきた。まるで壊れ物を扱うかのように、優しく、丁寧に。起きないように、ってしてくれてるんだと思う。そう思うから、気を遣わせないようにオレも寝たままのフリ。でも絶対、これだけ近づいたら起きてるってことバレないかな。だって、好きって言われてドキドキして止まんないんだよ。収まれ、って思ってるのに募った気持ちが溢れて止まらない。オレが寝ているのをいいことになのか、すり寄ってくる鼻先がくすぐったくて更に気持ちが昂りそうになる。もしかして、た、試されてる……?なんて思ってたのも束の間、少し経てば寝息が耳元を掠めてきた。
……寝た。寝るんだ。オレも高校生の前にひとりの男なんだけど!?……でも、悔しいけどそんな虎於が可愛いなんて思っちゃうの自分でも笑える。この先これから何度も迎える朝になるんだろうな。その度にきっと、この感情ごと抱き締め返してやるんだ。
ねえ、虎於。
「オレも、好きだよ」
目は開けずとも、自然と口角吊り上げながら思わずそう呟いた。
虎於の耳にも届いたらおなじように虎於も幸せだ、って感じるのかな。そうなっていくと、いいな。
つぎ目を覚ましたら、ちゃんとまた伝えよう。
ふたりで過ごす朝がほんのすこし、特別になるように。