青波を往く(冒頭部分) 巨大な翼を広げて魔獣が鋭い鳴き声を上げる。鋭いくちばしの届かないぎりぎりの距離を保ちながら少年は根気強く語りかけた。
「落ち着いてくれないか。君はどうして――」
少年の言葉を遮り、魔獣は翼を打ち鳴らす。大気を操る力が竜巻のような大風を巻き起こし、煽られた少年が後ろへひっくり返った。遠巻きに見守っていた村人たちも暴風を受けて悲鳴を上げる。
村人たちの前に立ちはだかるのは近くの森に住む魔獣の一種で、オニドリルと呼ばれる非常に気性の荒い生き物だった。村に野生の魔獣が入ってくることはほとんどないのだが、今朝早くに突然一羽のオニドリルが降り立ち、村の中心にある井戸に陣取ったまま離れようとしなくなってしまったのだ。村人の生活に無くてはならない井戸であるが使うどころか近づけもしない。寄ろうとすれば容赦なく激しい風を起こしくちばしを突き出してくる。
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