よくやった、と手下の髪を乱してやると、嬉しそうに歓声を上げて張り切って宴の準備に駆けていった。いつもするわけではないが、今日は特別だ。今日の敵船は中々上物の宝をたんまりため込んでいたし、美食家でも連れていたのか食糧庫の中も豪勢だった。ブラッドリー好みの酒も手に入った。ここ最近で一番の収穫と言っていい。船中が浮かれていた。寄港地も近付いているため、今日の宴は大いに盛り上がるだろう。
すれ違う手下がこんなに仕留めたと自慢してきたので同じように髪を撫でてやる。弾む足取りで去っていく手下を見送り、ちらりと背後に目を遣った。
「で? てめえはどこが気に入らねえんだ?」
ミスラと呼びかけると、緑の瞳がゆっくり瞬いた。いつもと同じような顔をして、そのくせ殺気が隠しきれていない。こんなに浮かれていなければ誰も近づいては来なかっただろう。何せ、宝を運び込んでからずっとブラッドリーの傍を離れないのだ。気に入らないと無言で主張しながら。
こんな宝があったと報告しに来る手下の髪を乱しながら不機嫌なミスラを引きつれて歩く。すれ違う手下がほとんどいなくなった頃になって、ようやくミスラが口を開いた。
「あれ、俺にはしませんよね」
「何をだよ」
「あの、よくやったってやつです」
だるそうに首筋を掻いた指先が、無意識にか自身の髪を弄ぶ。恐らくミスラが言いたいのは、よくやったという言葉というより頭を撫でるという仕草だろう。確かにしたことはないが、どうも不機嫌の原因はそれだったらしい。
今日一番敵を沈めたのは俺ですからと言って、ブラッドリーが何かするのをじっと待っている。殺気を湛えたまま。口角が上がるのを止められなかった。手近な船室に引き込んで扉を閉める。首に腕を回して引き寄せれば、剣呑に光る緑の瞳がブラッドリーの眼前に差し出された。
「あれは、てめえにやるもんじゃねえよ」
そう囁くとミスラの顔が分かりやすく顰められた。先程まで血に染まっていた手が、鮮烈に敵を屠っていた腕が、今はブラッドリーを捕らえる為だけに動いている。獲物にするように強く腰を掴まれて、思わず喉を鳴らした。こんなこと、たった一人にしか許していないというのに。
微かな吐息でさえも許さぬように唇を塞がれる。何もかもを奪い取ろうとする嵐のようなやり方に、どうしても魂が震えてしまった。絡めとろうと動くのを交わして、逆に舌先を吸い上げる。ぴくりと動いた指先に笑い出したくなった。
震えた呼吸に、機嫌を損ねたように腰を掴む手が爪を立てる。離れた唇が捕食するようにブラッドリーの首筋に噛みついた。
「っ、……俺様からの、褒美は……もういいのか?」
「俺が、勝手に貰うのでいいです」
全てを、と、そう聞こえた気がした。当然叶えられると、微塵も疑っていない強者の顔をして。ブラッドリーの全てを奪うのだと当たり前のように言うのだ。
「いいぜ。やれるもんならな」
言い終える前に噛みつかれた。