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    3mew

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    3mew

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    人狼ゲームを楽しむ星核ハンター。
    過去の星核ハンター概念。5人で仲良く人狼で心理戦したりして、遊んでる話を書きたかった~。

    ざっくり本文で説明してない用語っぽいの補足。
    白・黒→白は村人陣営、黒は人狼陣営のこと。
    対抗 →同役職により対立のこと。
    吊る →投票に寄る処刑のこと。
    CO  →カミングアウト。役職の開示。
    真  →真実。真占い。みたいに使う。

    星核ハンターの休日「本日、みんなを集めた理由は他でもない。今日は皆さんに……人狼ゲームをしてもらいます」
     ちょうどいい円卓を星核ハンターの5人が囲みながら、主催者の星が意気揚々とデスゲームの前口上のように話しはじめた。それぞれ、半分が嬉しそうに、もう半分は呆れ気味に、思い思いの反応で楽しそうな主催者である星に注目していた。
     銀狼は深い溜め息を吐いて、星を半目で見やる。
    「私が集めたんでしょ……」
    「うむ。助手の銀狼くん、大義であった……エーテル編集って便利だね」
    「あなたはどういう立場なの」
    「ゲームの開催者……?」
     星と銀狼は楽しそうに話しているが、この中で詳細な話を知っているのはその2人しかおらず、カフカ、刃、ホタルは集められた理由を聞いていない。
     今日の星核ハンターは本来別行動のはずで、全員が集まる予定ではなかった。しかし、突然全員が任務を終えたあと、銀狼のエーテル編集によって、ひとつの部屋に集められ、5人は丸テーブルを囲むような形で顔を突き合わせていた。
     ホタルが楽しそうな2人を見て微笑みながら、星に向けて聞いた。
    「とにかく、今日はみんなでゲームしたくて集めてくれたんだね」
    「その通り」
    「ふふっ、そっか。じゃあ、あたしも楽しもうかな……?」
     銀狼がゲームに対して乗り気なホタルに、何か言いたげな視線を向けた。いつもは銀狼が誘ってもホタルはゲームに触れることがあまりない。しかし、今日は星がいることもあって乗り気なようだった……。銀狼からすると、星をひいきしがちなホタルの様子に不満もあって、冗談半分、責めるような視線を送る。
     ホタルは銀狼からの気まずい視線を流して、刃とカフカの方を見た。
     刃は何も言わずに押し黙っていたが、特に立ち去る様子は見せない。ただし歓迎する雰囲気ではなく、どうせ逃げようとも巻き込まれるだろうと、諦念を抱いてただ立ちすくんでいるという方がより正しい。
     カフカも、特に何も言わなかったが、終始星の方をじっと見つめていた。星も視線に気づいていたが、ゲームの主催者らしい粛々たる面持ちで視線を返している。何度か無言の意味ありげな視線を交わしているが、途中から星が(視線を逸らしたら負けかもしれない)と無邪気な笑顔で視線を返し続けていた。
     沈黙を破ってカフカが口を開く。
    「楽しそうね。ルールは決めてあるの?」
     カフカがようやく星から視線を外して、銀狼の方を見た。
    「うん。人数も5人だし、人狼ゲームに慣れてない初心者が2人混ざってるから、複雑なルールにはしてない。それにセオリーの少ないものにしようかなって」
    「ふふっ。この中で、人狼ゲームに慣れていない人は〝2人〟なのね?私も実際にプレイしたことはないけど……」
    「こういう心理戦のゲームはカフカの十八番でしょ……」
    「あら、君にゲームのことで褒められるなんて、光栄ね」
     のらりくらりと躱すようにカフカが微笑むと、銀狼はまた深めのため息を聞かせた。
    「この前、少人数で遊べる人狼ゲームについて話していたわね。ワンナイト人狼というものだったかしら?」
    「うん。今日はそれにしようかなって。カジュアルに遊べるし」

     腰に手を当てて、銀狼は机の上にカードを広げる。恐ろしげな人狼のカード。人畜無害な村人のカード。水晶とタロットカードを持った占い師のカード。マントを羽織った怪しげな怪盗のカード。人狼ゲームで扱われる役職がそれぞれ描かれていた。カード自体のデザインも銀狼が作ったのか、役職の絵柄は、全員が見覚えのあるパンクなゲーム好き少女がモデルになっているらしい。
     ホタルは興味深そうにテーブルを見つめる。どうやらテーブルゲームのようだと確認すると、とっつきやすそうに感じて少しだけ胸をなでおろしていた。しかし、まだ少し不安さを残しながら銀狼を見つめる。
    「銀狼?あたし人狼ゲームって良く知らないんだけど……知らなくてもできるの?」
    「うん。単純なルールだから、やっていくうちに何となく分かると思う。ここには初心者をまくしたてるようなガチ勢もいないしね」
    「えっと……ガチ勢?」
    「とにかくルールを説明するね」
     銀狼は、人狼ゲームのルールを噛み砕いて全員に説明し始める。
    「人狼ゲームっていうのは、村人陣営と人狼陣営という敵と味方のチームに分かれて、それぞれ会議での話し合いをしながら勝利を目指していく推理ゲーム……」
    「推理ゲーム……難しそうだね?」
    「まぁ難しいかはルール次第。推理といっても、そんなに頭を使うわけじゃ……うーん、星?やっぱりあなたがゲームの概要をざっくり説明してくれる?」
     星は腕を組んで助手の銀狼の解説を待っていたので、「えっ」と気の抜けた返事をしてしまう。銀狼は自分が説明すると、どうも小難しそうになってしまうかもしれないと思って、星に説明役をパスした。
     星は銀狼の意図を汲み取って、こほん、と咳払いをする。
    「えーっと……みんなは、ここに集められた5人の村人。5人は一緒の村で、手を取り合って仲良く暮らしているんだ」
     星は語り部のように身振り手振りを交えながら、優しい口調で話し始める。ホタルは前のめりになって星の話に耳を傾けている。
    「けど、ある日――この中に、狼が混じっていると村のみんなは知ることになる……」
    「狼?」
    「うん。狼は村人に扮していて、見た目では見分けがつかない。……しかし、狼は一晩ごとに一人の村人を食べてしまうのだ!」
     星が、手を構えて狼のポーズを取って見せると、カフカが微笑ましい表情で見守っていた。星はノリノリで説明していたが、何かカフカの見守るような視線がこそばゆく、またこほんと小さく咳払いして口に手を当てた。
    「だから、村人のみんなは正体を隠した狼を探し出して、村から追い出さなくちゃいけない。だいたい雰囲気ははそんな感じ」
    「なるほど……」
     ホタルは机に並べられたカードを見つめながら、大体のゲームの概要を理解していった。
     銀狼が説明を繋ぐようにバトンを受け取って、今回の人狼ゲームにおける配役を説明し始める。
     人狼のカードが2枚。村人のカードが3枚。占い師のカードが1枚。怪盗のカードが1枚。合計7枚のカードを見やすいように並べる。
     ホタルはカードの枚数を見て首を傾げる。
    「5人なのにカードは7枚なの?」
    「7枚の中から、5人にカードが配られる。残った2枚は伏せたまま机の真ん中に置く。今は表にしてるけど、本来は裏にして、こう隠す。――こういう感じね」
     銀狼はカードを表にしたまま、人狼、村人の2枚を机の真ん中に置き、それぞれにカードを配った。
    「こうすると、ゲーム中、場の真ん中の2枚は裏にするからわからないけど――人狼が2人いるかもしれないし、1人かもしれないし……。仮に人狼がひとりわかっても、内訳はわからないってことだね」
    「人狼が2人だったら、心強いね?」
     刃は自分に向けて配られた人狼のカードに視線を落として、初めて口を開く。
    「……人狼が勝利するにはどうする」
    「話し合ったあとに、それぞれ『誰が人狼だと思うか』を選ぶんだけど、今回のルールの場合、投票数の多い役職の負け。吊られた人が村人だったら、村人陣営の負け。人狼だったら、人狼陣営の負け。刃の質問の答としては、人狼は村人が吊られるように仕向ける必要があるってことだね。――吊るっていうのは、村から追放するってことね」
    「……」
    「まぁ、今は表にしちゃってるから、誰がどの役職かはわかるけど……このままテストプレイしてみようか」


     ◇
     ――テストセッション。
     配役:銀狼-(占い師)、星-(村人)、カフカ-(怪盗)、ホタル-(村人)、刃-(人狼)、墓場-(村人・人狼)。
     それぞれに配られた札を確認してから銀狼の方を見た。
    「まずゲームが始まったら、それぞれの早くを確認してから、夜時間が来る。この夜の時間のうちにそれぞれが役職に沿ったが行動をする」

     ホタルは頷きながら、自分のカードと銀狼の手元のカードを見つめる。
    「村人は何をするの?」
    「村人は〝何もしない〟。RP的には、夜は家で過ごして警戒してるって感じかな」
    「なるほど……銀狼は占い師だからすることがあるの?」
    「そう」

     銀狼は自分の手元の占い師の全員に見せるようにして、説明する。
    「夜の時間の最初に、占い師が行動する。占い師は、〝伏せてあるそれぞれのカードを1枚だけ見ることが出来る〟」
     銀狼は星の方に手を伸ばして、表にしてある村人のカードをぴらりとめくるフリをする。
    「イメージ的には、こんな感じ。これで、占い師である私にだけ、星が村人であるってことがわかる――それと、〝配られなかったカードのどちらかを調べることも出来る〟」

     次に、人狼のカードを渡された刃の方を見る。
    「刃は人狼だから、〝誰か人狼陣営であるか、自分の味方を確認する〟」
    「……今回は俺だけだが」
    「うん。でもターン自体は遂行する。味方がいない場合もここでわかるね――それと、人狼が居ない場合もこのターンは行われる」
    「人狼が居ない場合?……そうか」
     刃はテーブルの中心にある2枚のカードを見て、納得したように目を閉じた。
    「そう。7枚のうち、場の札は2枚だから、人狼のカードが2枚とも誰にも配られないことがあり得る。その場合は誰にもわからないけど、いわゆる〝平和村〟っていう人狼が居ないセッションになる。レアケースだけどね」

     次にカフカの方を見ると、カフカは柔らかく笑いながら首を傾げる。
    「カフカの怪盗という役職は村人陣営。カフカは怪盗だから、夜のターンの役職の処理を終えた最後に〝自分と、誰かのカードを見ずに入れ替える。そしてその後、自分だけが入れ替えた役職を確認する〟。……ここだけちょっとややこしいかもね」
    「やることは単純ね。……こういうことでしょう?」
     カフカは星の手元の村人カードに手を伸ばして、それと自分のカードを入れ替える。
    「そう。それで、カフカは盗った役職を確認する」
    「今回は、村人ね」
    「で、星は役職を盗まれた側だけど、〝交換された側それを確認できない〟。元々確認していた村人っていう役職だって思って動く」
     星は手元のカードを見て、うんうんと頷く。
    「怪盗は村人陣営だから、今回の場合はカフカに盗まれてても、特にやることは変わらないよね」
    「うん。怪盗が村人を盗んだ場合、そんなに難しいことはない。怪盗も村人陣営のまま。村人も村人陣営のまま。変わらず村人として振る舞えば良い」
     それから銀狼は「テストプレイだから、1回巻き戻すね」と言って、カフカと星のカードをもとに戻す。
    「今度は怪盗のカフカが、刃のカードを盗ってみて」
    「ええ。これでいい?」
    「……」
     カフカは、説明の流れがわかっていたかのように、スッと手際よく刃の人狼カードと、自分の怪盗カードを入れ替えた。
    「これを怪盗の私は、こっそり自分だけ確認するのね」
    「そう」
     カフカはにこやかに頷いて、人狼のカードを自分の眼前にやって確認したフリをする。「あら、人狼になっちゃったわ……どうしましょう」と困り眉を見せると、銀狼は「はいはい、ありがと。優しいチュートリアルお姉さん」とドライな反応で説明の続きを話し始める。
    「怪盗が人狼を盗んだ場合、〝怪盗は人狼の陣営としてプレイする〟。盗まれた側である人狼は怪盗に変わるんだけど、〝村人陣営になっていることを確認できない〟。」
     刃は、カフカに交換された怪盗のカードをそっと持ち上げてしげしげと見つめてから、怪盗のカードを裏に伏せた。
    「……話し合い中で、自分の人狼カードが怪盗にすげ替えられた、とわかった場合は人狼としてプレイしない……ということか」
    「そういうこと。なかなか飲み込みが早い――もっと言えば今回の刃の状況だと、元々人狼だったのが村人に変わっていて、〝本来村人陣営だった怪盗は、人狼に変わっている〟……誰に盗まれたのかが分かれば、そいつが人狼、つまり敵って推理も出来る」
     カフカが刃から盗んだ人狼カードをひらひらと見せつけたあとに、刃と同じように人狼のカードを裏に伏せる。刃は元々重たそうな瞼を更に落として、カフカに薄らとした視線を返した。
    「――けど、盗んだ私がそれを話し合い中で話すことはないから……刃ちゃんは、自分が人狼かもしれないし、村人かもしれないという状況になる」
    「そう。基本的に人狼は、怪盗に役職を盗まれるかもしれないから、ゲーム中は自分が人狼であるかどうかもわからないってことね。それに加えて、〝人狼に味方が居た場合、味方だと思っている人が味方じゃなくなるし、怪盗から人狼になった人も味方の人狼がわからない〟……これに関してはややこしいから、頭の片隅に入れておくくらいでいいよ」
     銀狼は説明する内容を整理するように、視線を上向きにして、……何かを思い出したのか、こほんと咳払いをする。
    「あと、怪盗は〝役職を交換しないということも出来る〟。……ただ特殊な役職である怪盗がいるのに、能力をを使わなかったら面白くないから、使ったほうがおすすめ」

     ホタルは怪盗のやりとりをするカフカと刃を見て、真剣な様子でゲームの流れを想像していた。銀狼は「まぁ、ここらへんはやっていくうちにわかると思うから――占い師を盗んだ場合も面白いんだけど、それは実際に出た時のお楽しみということで」クセっぽく早口めに説明しながら、銀狼は透明な液晶で何かを入力していた。
    「本来夜の時間の、それぞれの役職が行動している間は、目隠しするんだよね。アナログゲーム的には、机に顔を伏せる感じ――だけど、まぁこの卓には音だけで気配を読む達人も居るから、そういうズルはできないようにする」
     銀狼が透明な液晶を操作すると、円卓の真ん中に、卵型でウサギの耳がついた謎の機械がふわふわと浮かぶ。
    『人狼ゲームAIプロミーです』
     ホタルはくすっと笑みをこぼして、宙に浮かぶうさぎ機械を見つめる。
    「ふふっ、かわいい。この子は審判みたいなもの?」
    「そう。これはテストプレイだけど、占いの時間になると、――こうなる。どうぞ、プロミー」
    『人狼AIプロミーが、夜時間のターンを処理します』
     すると、全員それぞれの周囲に直方体のエーテル編集データがあらわれ、それに包まれると、周りとの空間を遮断した。ホタルは周囲の景色と音が聞こえないまま、そっと直方体の内側に触れてみる。特に普通の薄壁のようなものではなく、一切の音と振動が遮断されていた。
     銀狼がパチンと指を鳴らすと、それぞれを包んでいた直方体が消える。
    「今みたいに、それぞれのターンの処理の間は周りの音が聞こえなくなるから、安心してね。ちなみに役職の交換、確認は内側のモニターに表示されるから、それを触って操作して」
     銀狼がトントン拍子で説明すると、全員が頷いて返事をした。

    「じゃあ、話し合いは省くけど、テストプレイとして、この人が人狼――敵だって思う人全員が一斉に指さしてみよう」
     銀狼が人差し指を構えてから、星の方を見てアイコンタクトを送った。それから、一瞬だけカフカの方を見る。星は銀狼の意図を理解して、投票するための人差し指を構える。
    「せーのっ」
     それぞれが銀狼と同じように、敵陣営を指差す。

     投票結果:銀狼→ホタル、星→カフカ、カフカ→刃、ホタル→刃、刃→カフカ。
     最多投票:カフカ2票。刃2票。

     それぞれが差した指をそのまま、カフカはふわりと眉を上げて銀狼をちらりと見てから、流れるように星を見ていた。ホタルは焦った様子できょろきょろとそれぞれの投票先を確認している。
    「えっと、銀狼?村人っていうか、人狼以外は人狼を指差すんじゃないの?……今回の場合は刃だったよね?」
    「さっき交換したでしょ。怪盗に交換されたから、今回はカフカが人狼」
    「あ、そっか……?」
     ホタルは裏返したままのカフカ、刃の両者のカードを見つめる。
    「ええっと、一番投票された人が追放される……吊られるんだよね?」
    「そう。この場合は、カフカと刃が両方吊られる」
    「これって誰が勝ちなの?」
    「吊られている人の中に人狼が居るから、村人陣営の勝ち」
    「あ、そうなんだ……でも村人も個人では吊られちゃってるし、人狼も負けだから、2人共ちょっとかわいそうだね……?」
     ホタルはカフカと刃を交互に見て、口元に手を当てて控えめに微笑んでいた。カフカは刃とにこやかに視線を見合わせようとしていたが、刃は我関せずといった様子で、説明を聞きながらも腕を組んで、しんとしていた。
     それぞれの手元に配られた役職の札を集めながら、銀狼が説明を続ける。
    「まぁ、投票は今みたいにいっせーのでやるから、示し合わせることは出来ない。仮に合わせようとしても、その中に人狼がいるかも知れないしね。今みたいに、狙って最多数を同票にするのは難しいよ」
    「そういうものなんだ……?」
    「うん。このあたりもやってみたらわかるかな。なにか他に質問ある?」
     星は腕を組んだまま、銀狼の説明に感心しきりだったが、ハッと思いついて銀狼に聞いた。
    「投票は、しないこともできるよね?」
    「あ。そうだね。忘れてた。……さっき人狼の説明をしてた時に言ったけど、稀に、1人も人狼が居ない〝平和村〟というのがありえる。……もしも、話し合ったうえで本当に誰も人狼が居ないと確信できたなら、投票をしないっていう選択もできる……誰かが裏切ったら人狼に勝ちになるけどね」
     銀狼は説明をしきると、「じゃ、さっそくやってみよう……!」とうずうずした様子で、ゲーム開始の準備を始めた。



     一通りの説明を終えたあと、銀狼は7枚のカードを人狼AIプロミーに渡した。(私もズルはしないからね)と言わんばかりに、楽しげな笑顔のまま両手を上げて、ゲームの進行をプロミーに任せる。
     ――人狼AIプロミーが『それでは、ワタシ人狼AIプロミーが人狼ゲームの始まりを宣言致します。アナタたちは5人の村人たち、この中に役職を隠した5名の者たちが――』と長ゼリフが始まろうとしたところで銀狼がピシャリと遮る。「あなたはふつうに進行してくれていいから」。言われると、プロミーは若干機械音声の声色に不満さを込めながら『情緒がないな……』と小声で愚痴を言ったあと『カードを配ります』と、それぞれの手元に1枚ずつ配っていった。残りの2枚が机の真ん中に置かれる。




     ◇
     ――第一セッション。
     星は、伏せたまま配られたカードをめくって、狼姿のおそろしげ……な気がするデフォルメ銀狼の絵と視線を合わせる。
    (人狼か……)
     確認したあと、それぞれの様子を見る。銀狼、刃は特に表情に変化なし。カフカは、カードを見てから少しだけ笑顔になったようにも見えた。ホタルは少し張り切った様子で自分に配られたカードを確認していた。
    『それでは、人狼AIプロミーが夜時間を処理します』
     銀狼の声を元にしたプロミーの機械音声が聞こえると、直方体のエーテル編集空間に囲まれる。
     電話ボックスのような狭いエーテル編集の空間のなか、星の前にAIプロミーが現れる。
    『アナタの役職は、人狼です。今回のもう一人の人狼は――刃です』
    「刃か。わかった」
    『それぞれの夜時間の処理までしばらくお待ち下さい』
    「はーい」
     それから少しの間待つと、夜時間の処理が終わり、エーテル編集の閉鎖空間が解かれる。

     星視点配役:銀狼-(?)、星-(人狼)、カフカ-(?)、ホタル-(?)、刃-(人狼)。墓場-(?・?)。

    『昼の時間になりました。みなさんは話し合いによって、村人の中に紛れた人狼を探し出してください』

     星はまず、ジッとホタルと視線を合わせようとして、様子を見る。ホタルはそれぞれの表情にすぐに気を配っていて、星がこちらを見ているのに気づくと、ふわっと眉を上げてから少し真剣そうに微笑み返した。
    『それでは、話し合いを開始してください』
     銀狼が開口一番に話し始める。
    「言い忘れてたけど、話し合いの時間は3分で設定してあるから」
     銀狼は特に先程の説明している間とも変わりない様子で、楽しげにそう説明した。

    「じゃ、一番最初だから流れとして聞くけど、占い師の人はいる?このルールだったら、占いはCO……自分の役職を晒すのにデメリットはないからね。名乗り出ても大丈夫だよ」
     ホタルは真剣な様子で話を銀狼の話を聞いて、手を上げた。
    「はいはい!あたし、占い師だよ」
     星がホタルのCOを聞いて一瞬だけ、むーんと難しそうに考え込む。しかしそれから、――すぐにニヤリと笑って、重ねるように発言する。
    「占い師は私だよ」
     えっへん、と腰に手を当てて、ホタルを鋭く見つめる。ホタルは焦った様子で銀狼と星を交互に見つめる。
    「え、ええっと、占い師って2人いることあるの?」
    「無いよ。どっちかが嘘」

     銀狼は特に驚いた様子もなく、淡々と説明して、ホタル、星の順番に観察するように視線を送る。それから「フェア精神に溢れてるね~……」と星をからかうように見ていた。ホタルは状況がよくわからないまま、焦った風に状況を整理しながら言葉にする。
    「えっと、つまり嘘をついてる星が人狼ってことだよね?」
    「ホタルが嘘ついてるんでしょ?人狼なのはホタルだよ」
    「そ、そういうことになるんだね……?」
     銀狼が2人の会話を遮って、小さなため息を聞かせる。
    「ホタルのリアクションは、さすがに真……本物の占い師っぽいね?」
     銀狼の鋭くからかうような視線が星に向けられると、知らんぷりするように顔をそらす。
    「私は銀狼を占って、村人って出たよ?ホタルは誰を占ったの」
    「あ、あれ?星が聞くの?……あたしも銀狼を占って、村人って出た」
    「お、両白――私は両陣営から村人だって言われてる、いわゆる確定村人ってやつだね~」
     銀狼は腰に手を当てて、「確実に村人って分かる人は、嘘をつかないし、信用できる。みんな今日は私の言うことを聞くように~」と、心なしかいつもより割合機嫌が良さそうにしていた。

     星視点配役:銀狼-(確定村人)、星-(人狼)、カフカ-(?)、ホタル-(占い師)、刃-(人狼)。墓場-(怪盗?・村人)。

    「一応……占いの結果を先に言ったっていう意味では、星のほうがちょっと白いかもね」
    「そうなの……!?あ、あたし怪しい?」
    「ホタル、怪しいポイント1。あとから同じ相手に被せるなんて、嘘っぽいよね~……」
    「ちょ、ちょっと、カフカと刃は信じてくれるでしょ……?」
     ホタルは、縋るようにカフカと刃を見たが、2人共見守る様子でいて、話を振られると刃は目を瞑った。カフカは全体の話の流れと表情を観察するようにしてから、話し始める。
    「……星とホタルは占い師と言っているから……投票する先を決めるのなら、星とホタルのどちらが偽物かを見極めるのがいいでしょうね?」
    「うん。そうだね」
     星はカフカの推理に耳を傾けてしきりに頷いて見せる。カフカは薄瞼に落として、ホタルを見たあと、星――ではなく、そのまま流れるように刃に視線を送る。
    「――ただし、銀狼ちゃんが確実に村人だということがわかっているから。私から見ると、刃ちゃんに投票しても良いと思う」
     刃は言われるとすぐに重いまぶたを開いて、ほんの僅かに驚いた様子を見せながら、鋭くカフカに視線を返した。
    「なぜ俺になる」
    「どうしてって、私からすると、星とホタルの二分の一を選んでもいいけど、刃ちゃんがもうひとつの人狼を引いている確率もあるもの。……人狼に投票できればだれでもいいものね?」
     刃はカフカの薄らとした観察するような瞳に、「はぁ」と重く短いため息を吐いた。
    「……机に伏せてあるカードは2枚。カフカ、お前が見えていない中で俺のカードも含めて3枚だ。俺を選んで人狼が当たる確率は三分の一だが」
     刃は視線を机の真ん中に写しながら、自分の考えをカフカに向けて話した。すると、カフカは我が意を得たりと言わんばかりにもっと楽しげに微笑んだ。
    「あら、〝思ったよりちゃんと推理しているのね〟、刃ちゃん」
    「……それがどうした」
    「刃ちゃんも、楽しめているかと思って。ふふっ」
     カフカのあからさまな揺さぶりに対して、刃は手慣れたように、しんと無言で返事をする。
    「刃ちゃんはその言い方だと、村人なのね?」
    「……ああ」
    「私も村人なの。だけど、見えていないカードの中に、怪盗も混ざってる……それを刃ちゃんが引く可能性もあると思うんだけど」
     カフカは話しながら全員の表情を伺うように順番に見つめて、最後に机の上のカード2枚に見つめる。
    「――もしも、怪盗が刃ちゃんなら、誰を選ぶかって考えると……ゲームの上手い銀狼ちゃんか、さっきの意趣返しで私を選ぶんじゃないかしら」
    「……お前も立場は同じだろう」
    「まぁ、怪盗なら言わない理由もなさそうだし……どっちにしても刃ちゃんは村人っていうことね」
    「……なぜ聞いた」
    「こういう探り合いをするゲームでしょう?」
     銀狼は若干呆れ気味にカフカを見つめる。「そうだけど、なんか違う……」と眠たげな瞼をもっと深く落とした。

    「カフカ、あんまり余計な話に時間を使うと、ノイズっていうか……場を荒らして話し合いをさせないようにしてる、人狼っぽく見えて怪しまれるよ」
    「ふぅん、じゃあ、銀狼ちゃんは私が村人じゃないように見えるの?」
    「一応、話し合いの時間は限られてるから、気にしたほうがいいよってだけ」
    「ふふ、忠告ありがとう」
     ――カフカがお礼を言い終えるのと同時に、AIプロミーが発言する。

    『議論時間終了です。……それでは、合図とともに投票先を指さしてください』
    「ああもうほら、結構議論時間短いんだから……」
     銀狼が、細くため息を吐ききると、――カフカが、星だけにわかるように一瞬ウィンクをした。星はハッとしてその意図を汲み取る。
     AIプロミーが『3……2……1……』とカウントダウンをはじめ、みな思い思いに指を構えて、0のタイミングとともに投票先を指差す。

     投票結果:銀狼→星、星→カフカ、カフカ→刃、ホタル→星、刃→カフカ。
     最多投票:星2票。カフカ2票。

    『投票の結果、星、カフカが処刑されます』

     ホタルは口元に手を当てて「しょ、処刑……」と少しばかり驚いて、銀狼は「村の総意で追放される人を、吊るとか処刑とかって言うの」とざっくりと説明した。
     AIプロミーが、勝敗結果を告げる。

    『今回の人狼は……星、刃です。人狼である星が処刑されたため――村人陣営の勝利です』

    「お、おぉ~……あたしたちの勝ち?」
     ホタルは流れとしてあまり勝ったような感じはしなかったが、ルール上は勝利であると告げられて少し困惑していた。次いで、プロミーが続ける。
    『各々の役職を公開します。銀狼-(村人)。星-(人狼)。カフカ-(村人)。ホタル-(占い師)。刃-(人狼)。墓場-(村人・怪盗)。……以上が今回のセッションにおける各役職でした』
     人狼AIプロミーは丁寧にそれぞれの眼前の透明液晶に勝敗結果と、配役を表示してくれていた。ホタルは興味深そうに役職を見ながら、「こういう感じだったんだ……」と小さく頷いていた。

     カフカは頬に手を当てて、困ったように首を傾げていた。
    「はぁ……けど、何の罪もない村人も一緒に処刑されてしまったのね……悲しい結末ね」
    「いや、カフカ、絶対狙ってたでしょ……」
    「あら、思ったように話していただけなのに、そんな風に言わなくても」
     星は自分自身が思った通りの、初戦らしいある程度初心者向けの流れで試合を終えられていたものの、よく考えたらより満足感の高い結末になったと、思わず笑顔になっていた。ととと、とカフカの方の席まで歩いていって、腕をぎゅっと絡める。カフカはふわりと眉を上げて、笑顔がもっと柔らかなものに変わる。
    「カフカと2人で天国に行けるなら悪くないかな~……」
    「ふふっ、じゃあ……一緒に行きましょうか」
    「えへへ」
     カフカがなでり、なでりと星の頭を優しく撫でていると、銀狼が呆れ全開の表情になっていた。
    「ちゃんと真面目に人狼してくれる……?」
    「あはは、冗談冗談」
     ぱっと星がカフカの腕から離れると、まだ笑顔で緩みきったまま抑えきれずにいた。
    「今みたいにこういうゲームって、嘘が上手いとか、推理だけじゃなくて、信用を得るのが大事だったりするから、……気楽に楽しもう?」
     ホタルは、少し難しい表情でさっきまでは少し気負っていたが、星の意図に気づいて、お礼の代わりに微笑んで返した。






     ◇
     ――第二セッション。
     プロミーに配られたカードを、そっとめくって確認する。今回星に配られたカードは、怪しげな仮面にマントを羽織ったデフォルメ銀狼の姿が描かれている。
    (怪盗……面白そう)
     また、それぞれが役職を確認する表情を観察してみる。
     カフカと銀狼は変わらずポーカーフェイス。平常心に見える。ホタルはさっきよりはリラックスした表情に見えた。少し離れてきただろうか。一番特徴的な反応をしているように見えたのは――刃。少ない表情ではあるもののカードを睨むように顔をしかめていた。しかし、人狼を引いたというわけではないのかもしれない。
    『それでは、人狼AIプロミーが夜時間の処理をします』

     外界との景色と音が遮断されたあと、AIプロミーから機械音声の指示が出される。
    『アナタの役職は怪盗です。それぞれの役職の処理を行ったあと、自分と誰かのカードを入れ替えることが出来ます。――少々お待ちください』
     星はそれぞれの夜時間の役職の処理が終わるまでの間、誰の役職を盗もうかと考える。選択肢としては、盗まないことも出来るが、それでは面白くない。面白そうな反応をしていたのは、刃。人狼を引いていた時の刃は、特に表情に変化はなかった。村人でもない。人狼でもない。そして、怪盗でもないとすると――残る役職で刃が動揺するのは、占い師かもしれない。
    (刃と役職を交換したら……面白いかな?)
     AIプロミーの声が響く。
    『それでは、怪盗の役職の処理をします。誰かのカードを指定してください。選ばないことも出来ます』
    「刃の役職を盗む」
    『刃の役職を指定しました。――手元のカードが入れ替わっているので、確認してください』
     カードがエーテル体特有の明滅をして、もとに戻る。ほんの一瞬で交換されたらしい。ハイテク技術だ……と星は感心しながら自分のカードを開く。
    「……占い師だ」
     刃のやけにわかりやすい反応が本当だったことで、少し面白くなって口に手を当ててしまう。人狼――悪役になって孤立しても一切動揺しなかったものの、誰かを見定めるような役回りは苦手なのかもしれない。
     少しの間待つと、夜時間の処理が終わり、エーテル編集の閉鎖空間が解かれて、テーブルを囲む4人が見えるようになる。

     星視点配役:銀狼-(?)、星-(怪盗)、カフカ-(?)、ホタル-(?)、刃-(占い師)、墓場-(?・?)。

    『それでは、話し合いを開始してください』
     星がまた全員の表情を観察しようとすると、先程よりもテンポよく銀狼が切り出す。
    「じゃ、役職のある人はいる?」
     銀狼は先程と同じく役職を聞いて、会話を回そうとする。カフカは目を瞑ってなにも言わず、ホタルもさっきより楽しそうに周囲の様子を見ていた。少し遅れて、刃が名乗り出る。
    「俺が占い師だ」
     全員の視線が刃に集まる。何だか真面目にゲームをプレイしている刃がおもしろく、特にホタルは笑みが漏れないように口元を手で押さえていた。
    「じゃあ、刃は誰を占ったの?」
    「カフカを占った。……村人と出た」
    「あら」
     カフカは少しご機嫌そうに笑顔を見せて、表情を伺うように刃を見る。
    「私を気にしてくれたのね。ありがとう刃ちゃん」
    「……お前が人狼だと面倒だからな」
    「ふふっ、それは残念だったわね……?」
     カフカは少しからかうように刃を見て笑う。やはり刃は相手にしないように顔ごと視線を逸らしていた。
     星がそのやり取りの後ろにつけて、発言する。
    「はいはいはーい、私は怪盗で、刃の役職を盗んだよ。刃は占い師だったから言ってることは本当だね……カフカは白」
    「あ、そういう事もできるんだ……?」
     星がうんうんと頷きながら「そうそう、怪盗が占い師を当てたら、怪盗からは占い師がわかるから、村陣営に有利になるんだよね~」と説明していると――銀狼が不敵に微笑む。

    「星と刃が嘘ついてるね。私が怪盗だよ。――私はカフカの役職を盗んで、村人だった」
    「そう来るか……」
     ホタルは銀狼と星を交互に見ながら、「えっ?ええーっと……」と頭を押さえて、盤面を整理しようとする。銀狼が解説するように状況説明をはじめた。
    「私視点では、盗んだ先のカフカが白だってわかってる。星視点では、盗んだ先の刃が白であることと、刃が占ったカフカも白だってわかってる――っていう感じだね。両陣営から白を出されてるカフカは、確定白、村人ってこと」
     星は意外な展開になって、頭を整理しつつ銀狼を見つめる。
    「後から被せた方が信用がないっていうのは――銀狼がさっき自分で言ってたよね?」
    「それもケースバイケースだけど……今回の場合には意図がある。私は占いじゃないからね。……先に言ったほうが有利だって思って、嘘を吐いているやつが居たら、場合によっては炙り出せる。……星も、刃が言ってから怪盗のこと言ったしね?……怪盗が村人を盗んだ場合、村人同士の交換で意味がないけど、こうやって有効活用できる」
    「……饒舌だ!銀狼が人狼!悪者は銀狼!」
    「並べるとラップみたいになるからやめて」
     全員が星と銀狼の衝突を見守りつつ、盤面を整理していく。

     銀狼視点配役:銀狼-(怪盗)、星-(怪盗騙り人狼)、カフカ-(確定村人)、ホタル-(村人?)、刃-(占い師騙り人狼)
     星視点配役 :銀狼-(怪盗騙り人狼)、星-(怪盗)、カフカ-(確定村人)、ホタル-(村人?)、刃-(占い師)

     カフカが少し悩ましそうな顔をしながら、銀狼に聞く。
    「他に占いは居ないようだから、銀狼ちゃんからすると占いは誰も引いていないってことかしら」
    「そうだね。何か違和感ある?」
    「そうね。うーん……」
     カフカは銀狼に観察するような視線を向けて、銀狼はどこ吹く風と言った様子で涼しそうな表情をしていた。
    「さっき、確定で村人だとわかっている人の言うことを聞いたほうが良いと言っていたから、今日は私が話しましょうか」
    「えー、カフカが仕切るのか~。……まぁ流れとしてはそうなるけどね」
    「あら、不満そうね?」
    「別に、ほら早く話して」
     カフカは促されると、少しずつ考えを話し始めた。
    「このルールでは、村人は人狼だと思う1人に票を集める事が重要だと思う。だから、刃ちゃんの意見も重要ね」
     話を振られると、刃は気だるそうに瞼を起こした。
    「俺は、俺を占い師だと言った小娘を信じるのが正しいのだろう」
    「そうとも限らない。……星が人狼で嘘を吐いていて、刃ちゃんを味方につけようとしている可能性がある。――あくまで星はあとから刃ちゃんの役職を言ってみせただけだから」
    「……ややこしいな」
    「実際、刃ちゃんは星が味方だと思って、対立している銀狼ちゃんに票を入れようとしていたでしょう?」
    「……」
     確かに刃はカフカの言う通り、自分の弁を擁護した星を味方だと思っていた。しっかりと見定めなくてはいけないと、ため息をつきつつ刃はゲームの行く末を静かに見守る構えを取った。

    「けれど、考えてみると……銀狼ちゃんの言い分も、少し怪しいと思う。星が人狼の味方である刃ちゃんを占いだと言って、刃ちゃんも占い師だと嘘を吐いたということになる……それについて銀狼ちゃんは、どう思う?」
     銀狼は腕を組みながら、へぇ……と感心するようにカフカに視線を寄せる。が、余裕のある笑みで反論をした。
    「言ってることはわかるよ。確かに刃が占いだって嘘をつく可能性は……あんまりないかもね?でも、私が後出しした動機は説明した通り、こうしないと村人が有利な状況にならないから……黙ってたほうがマズいでしょ?」
    「そうね。君から見ると、そう。……それと、ホタル?」
    「は、はい……っ!?」
     ホタルは自分が話を振られると思わず、少し怯むようなリアクションをしてしまう。目をぐるぐるとさせながら頭を整理していると、カフカが優しく微笑んだ。
    「ホタルも、ほとんど村人だと思うから、君がどこに票をいれるのかが重要なの」
    「そ、そっか。あたしは……う~~ん……」
     ホタルは星と銀狼を交互に見て、2人の表情を確認する。それぞれが真剣な面持ちでホタルに視線を返してきて、さらにホタルは思考をあちこちに彷徨わせてしまう。
    「あ、あたしは、星が本当のこと言ってると思う!」
    「はーん……ホタルって、ゲーム中でも星をひいきしちゃうんだ~……」
    「えっ!?」
     銀狼が肩を落として、沈んだ様子を見せると、ホタルは慌てて銀狼の方を見る。
    「ち、ちがうよ?銀狼の言う通りなら、刃が占い師だって嘘ついてるってことになるんだよね?あたしも、刃がそんな器用なことするかな~って……思って……」
    「……」
    「す、する……かな?するかも……意外と順応性高いし……」
     刃は静かに黙したまま、ノーリアクションで腕を組んでいた。
     星が少し面白がる気持ち半分でホタルに語りかける。
    「ホタルは私のこと信じてくれないんだ……、私が嘘つきだって思うんだ……」
    「えっ!?」
     今度はしょんぼりした様子を見せる星の方を見て、ホタルは焦りきった様子で手を前に振る。
    「ち、ちがうよ!?星の方が正しいと思うっていうか、あたしはえっと……!」
    『議論時間終了です。……それでは、合図とともに投票先を指さしてください』
     AIプロミーがにっちもさっちもいかなそうな議論を遮って、終了時間を知らせる。
     それぞれが表情を確認して、指を構え――『3……2……1……』という機械音声のカウントダウンが終わるのと同時に、それぞれに投票する。

     投票結果:銀狼→星、星→銀狼、カフカ→星、ホタル→星、刃→銀狼。
     最多投票:星3票。

    『投票の結果、星が処刑されます』

    「えぇっ……!?」
     星は絵に描いたようにショッキングな表情を召せて、がっくりと項垂れる。
     周りがリアクションする前に、人狼AIプロミーが勝敗の結果を告げる。

    『今回の人狼は……銀狼です。村人陣営である星が処刑されたため――人狼陣営の勝利です』

    「よ~っし!」
     銀狼は小さくガッツポーズを取って見せて、ぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべている星の方に向けて、ビクトリーと言わんばかりにVサインを見せつける。
    『各々の役職を公開します。銀狼-(人狼)。星-(怪盗)。カフカ-(村人)。ホタル-(村人)。刃-(占い師)。墓場-(村人・人狼)。……以上が今回のセッションにおける各役職でした』
     ホタルはわたわたと慌てて、手元のカードで口元を隠す。
    「ご、ごめんねっ!星……!君の言う事のほうが本当だって思ったんだけど……」
    「ふっふっふ……ホタルは自分が星をひいきしてるんじゃないかって思って、正しい判断が出来てるかわからなくて、逆を選んだんじゃない?」
    「そ、それは……うう~……そうかも……」
     ホタルは星と同じように肩をがっくりと落としていた。
     銀狼はカフカを見て少し首を傾げる。
    「カフカはどうするかな~って思ってたけど、星だと思ったんだ?」
    「そうね……カードを引いた時に星が、何か悪いことを企んでいるような表情をしていたから……迷ってしまったの」
     カフカは少し困り眉に微笑みながら、星の方を見つめる。視線を返して、「うう~……」と星は目をばってんにして机に突っ伏した。
    「カフカにも疑われるなんて~……本当の占い師なのに……ひどい……!」
    「ふふっ、ごめんなさい」
    「もう……次はカフカの事信じてあげない……ふーん……私の味方は刃だけなんだ……」
     とたたた……と星は刃の方に小走りに移動して、ひっしりとくっついた。刃は全く微動だにせず、リアクションらしいものがまったくないが、星はじーっとカフカを半目で見ていた。
    「あら。ふふっ、怒らせちゃったみたい……」
     カフカは困ったようなふうに銀狼を見たが、銀狼は(どっちにしても星のリアクションが欲しかっただけなんじゃ……)と訝しんだ視線で返した。ホタルは反応のない刃にピッタリとくっついている様子が微笑ましくて、思わず表情がほころんでいた。





     ◇
     ――第三セッション。
     前の試合のしょんぼり感が表情から抜けきらないまま、星はプロミーに配られたカードを確認する。カードの表面を見ると、人畜無害そうな一般人のデフォルメ銀狼の絵が描かれていた。
    (村人か~。役職いっぱい引いたし、村人も良いね)
     それぞれの表情をまた確認しようとする。銀狼とカフカはやはり表情は揺るがさず、ホタルと刃も比較的静かな反応をしていたように見えた。
     ある程度、ゲーム内の状況に慣れてきたのか、それともこれと言って思うところもない役職だったのか……。

    『それでは、人狼AIプロミーが夜時間の処理をします』
     外界との景色と音が遮断されたあと、AIプロミーから機械音声の指示が出される。
    『アナタの役職は、村人です。村人は、それぞれの役職のターンが終えるまでしばらくお待ち下さい。……好きな音楽を流すサービスもあるよ』
    「あ、大丈夫」
    『ノリが悪い……』
     たまに感情豊かな様子を見せる人狼AIプロミーが可笑しくて、星は「ふふっ、ありがとね」と笑いながらも、待ち時間でそれぞれのリアクションについて考えてみた。
     ホタルと刃が静かなリアクションをしていたことから、2人は穏やかな気持でいられる役職か、――あるいは一度来たことがあってやり方を何となく理解している役職ということもあるかもしれない。カフカと銀狼はどういう役職を引いたとしても、これと言ったわかりやすいリアクションを見せないと思う。だからこそ、この2人が役を引いている可能性もある。
     星自身が村人を引いていることから、確率としては今回が一番他の4人に役職がある可能性がある。
     考えながら待っていると、夜時間の処理が終わり、エーテル編集の閉鎖空間が解かれて、テーブルを囲む4人が見えた。

     星視点配役:銀狼-(?)、星-(村人)、カフカ-(?)、ホタル-(?)、刃-(?)。

    『それでは、話し合いを開始してください』
     星は自分が村人なのでまずは静観する構えで、他のメンバーの出方を伺う。セッションのはじめは銀狼が話しを回し始めることが多かったが、少し慣れてきたと見てか、銀狼も一旦それぞれの様子を見ていたようだ。
     それぞれが視線だけで探るように見る中、――刃が少し重苦しそうに口を開く。
    「俺が占い師だ」
     他の4人全員が刃に視線を寄せて、思い思いにゲームの口火を切った刃をにこやかに見つめる。刃は淡々と占い結果を続けた。
    「俺は墓場の……机の上にある誰にも配られていないカードを見た。その内一枚は人狼だった」
    「おぉ、ナイス刃。いい情報だね?じゃあ、今日はこの中に人狼がいても一人ってことになる」
     銀狼はごきげんな様子で状況をわかりやすく補足する。それぞれ少し慣れてきて状況を飲み込みながら、様子を探り合っていた。……少しの間、リアクションがないのを見てから、カフカが「ハーイ」と目を瞑ったまま手を上げて、柔らかな笑顔を見せる。
    「私は怪盗。――ホタルの役職を盗んで、村人だった」
    「え?あたし?……そうだね。あたしは村人だったよ。村人は怪盗に盗まれても、変わらないもんね」
     ホタルはカフカに言われて、裏面のカードに視線を落として答えた。カフカもホタルと、自分の発言を聞いた周囲の反応を確認してから頷いた。
    「ええ。私から見たら村人だとわかるから、より村人らしい立ち位置になる」
    「そっか……ありがと、カフカ」
     銀狼が、とんとんと、腕を組んだまま指を遊ばせながら「うーん……」と眉を寄せる。
    「対抗……例えば他の占い師とか、怪盗とか、COしたい人は居ない?」
     訝しむようにいうものの、銀狼の言葉に返事する者は居ない。それぞれがそれぞれを警戒するように観察し合っている。議論時間のタイマーを見ながら、星が少し慌てて発言する。
    「えーっと、私は村人だけど、本当に他の役職は誰もいない?」
    「……。……居ないっぽいね」
     銀狼がまた腕を難しい顔で組んだまま目を瞑る。

     各視点配役:銀狼-(?)、星-(?)、カフカ-(怪盗?)、ホタル-(村人?)、刃-(占い師?)。墓場-(人狼?・?)。

    「まぁ、推理するのには難しいけど、必ずしも人狼陣営が誰かの役職を騙らなければいけないわけではない」
     星が少し首を傾げながら、おそらく数人が思いついていたことを口にする。
    「平和村かもしれないよね?」
    「それを話し合いで発言するのは、ちょっと黒いけどね」
    「それはわかってるけど、みんなもそう思ってるんじゃない?」
     銀狼も流れとして発言しただけで、星の発言に訝しむ様子もなく頷いていた。
     占い師である刃に対抗が居ない、つまり真の占い師である刃が、誰も引いていない墓場のカードのひとつを人狼であると確認したことからこれは、全員視点の中で正しい事になる。刃以外の残りの4人中に人狼が居ても、一人しか居ない。
     しかし、カフカは怪盗でホタルの役職を盗んでおり、ホタルが村人であることがわかっている。これも対抗が居ないことから、真実のように見える。カフカ、ホタルも村人陣営であるとすると、残りは、星、銀狼の中に人狼がいるかもしれないという状況になる。しかし互いに、比較的人狼ゲームのノウハウを理解している2人が、どの役職であるとも発言していない。
     ホタルがまた少しの沈黙を感じて、自分から発言する。
    「あたしって一応、色んな人の視点から見て村人なんだよね?……あたしが発言してみても良い?」
    「うん……まぁ刃の方が白いけど。星も私も、一応表面的には容疑者だしね」
    「平和村っていうのは、墓場の2枚がどっちも人狼っていうことだよね。……それで、占い師も、怪盗も出てる。……変なところはないと思うけど、これってどういう風に探ったら良いのかな?」
    「んー。……まぁ実は可能性としてはいろいろあるんだけどね」
    「可能性って?」
    「激レアケースとしては、怪盗カフカ・占い刃の2人が人狼で、墓場の両方が、占い・怪盗になってる場合。こういう騙りは可能だね。他の人は村人だから言いようがない」
    「えっ!?……なるほど……?」
     ホタルはカフカと刃、それぞれの表情を見たが、銀狼がコホン、と咳払いをしてから早口めに訂正する。
    「ただ、言っといてなんだけど、墓場が役職2つってことになるし、それはほぼ無い。最初に占いって言ったのが刃だから、そんな複雑でリスキーなことはしないと思う。……カフカのほうが占いならあり得たかもしれないけど」
    「あら。私も刃ちゃんと同じ初心者なのに……」
    「はいはい。冗談。これは本当にないと思うケースね。――で、カフカが怪しいのは他の意味で全然あり得る」
     銀狼はカフカの冗談をいなして、しかし誤魔化されないと言わんばかりにカフカに鋭い視線を向ける。カフカはふわりと眉を上げて、にこやかな笑顔で返事をする。
    「刃が占い。墓場の一枚は人狼。これは前提として、カフカの怪盗は騙りやすい状況のCOだったね。……全員が発言していないのを見てから、怪盗って切り出して、あとは〝自分が人狼なら、残りの誰かを村人って当てれば、真になる〟」
    「ふぅん。……なるほどね」
     カフカは銀狼に言われた内容を噛み砕くように思考する様子を見せて、口元に手を当ててから少し真剣な面持ちで答える。
    「けど、銀狼ちゃん?それはやっぱり他に怪盗がいるかもしれないってリスクは排除できないでしょう?私がわざわざ怪盗を名乗り出る意味はある?」
    「他の怪盗が出てきたとしても、その人とカフカが対抗になるだけだし。――もしカフカが人狼だったら、何も言わないよりは選びそうだよね?」
    「もっともらしいけど――そうね……」
     カフカは少しだけ考えてから、星を見て、表情で何かを探ろうとする。星はのんきに、やっほーと言わんばかりに手を小さく振って返す。可愛らしい反応にカフカが微笑んで、すぐにまた真剣な話に戻る。
    「銀狼ちゃんの話では、どのみち刃ちゃんは村人。私が何も言わなければ、刃ちゃん以外の4人の中から情報がない中で探ることになる――そういうランダムに誰かを選ぶ状況なら、みんなは私を選ぶような気がするの」
    「……否定できない」
     銀狼だけではなく、この中の全員が、カフカが怪しまれるようなのらりくらりとした立ち回りをしていると感じているし、日頃から星核ハンターのみんなをからかったり、任務の中でちょっとした余計な遊びをいれるのを知っている。だから、正体不明の誰かによって何かしらのいたずらが行われた……という場合、真っ先に怪しまれるのはカフカだった。
     星が銀狼とカフカを交互に見て、「いやいや!」と遮るように否定する。
    「カフカに投票するとは限らないと思うよ?私は少なくともそうだし、みんなも、ゲームの中なら銀狼の方が怪しんだりするんじゃない?」
    「……君はさっき私のことを信じないと言っていたのにね?」
    「あ」
    「ふふっありがとう、星」
     思わずさっきのセッションでのことを忘れて居て、星はふわりと視線を上げて逸らしてしまった。カフカは腕を組み直して、発言を続ける。
    「星の言っていることはその通りかもしれない。……けど、私が言いたいのはまっさらな状態だと私は吊られやすい、注目されやすいということね。……私が村人だとしたら、人狼から注意を逸らさせてしまうことになるでしょう」
    「ん?……確かに」
     星はカフカばかり怪しまれることはない気がする、ということをシンプルに伝えたかっただけだが、口元に手を当てながら納得していた。銀狼もカフカの考え方と発言を聞いて、「……うん」と頷いてみせた。
    「……ごめん、疑って悪かった。カフカの考え方はすっごく村人っぽい」
    「あら、怪しまないでいてくれるの?」
    「真面目に考えてたしね。私視点は怪しいなら星だけど、星も怪しくないね」
     全員が話しの顛末を見届けている中、人狼AIプロミーが話し合いの時間が終了した知らせを告げる。
    『議論時間終了です。……それでは、合図とともに投票先を指さしてください。……また平和村を願う場合には誰も指ささないでください。全員が平和村を選んだ場合のみ、平和村の投票が成り立ちます。……準備はいい?』
     補足しつつ、プロミーが『3……2……1……』とカウントダウンをはじめ、それぞれが投票先を指定する。

     投票結果:銀狼→投票無し、星→投票無し、カフカ→投票無し、ホタル→投票無し、刃→投票無し。
     最多投票:無し。

    『投票の結果、この村で処刑されるものは出ませんでした』

     全員が人狼AIプロミーの勝敗結果の報告を、固唾をのんで見守る。

    『今回の人狼は……居ませんでした。村人陣営の誰一人欠けること無く、村人陣営の勝利です』

    「おぉ、やった~!」
     星は両手を上げて満面の笑顔で喜ぶ。ホタルもしきりに笑顔のまま頷いて「よかった~!」と胸をなでおろしていた。
    「ふふっ、良かった。ね、銀狼ちゃん」
    「はいはい、疑って悪かったって」
    「君のおかげでもあると思うわ」
     思惑のない純粋なカフカの褒め言葉がめずらしく、銀狼は視線を逸らしつつ頬をかく仕草を見せる。
     プロミーが淡々と役職の概要の説明を発言する。
    『各々の役職を公開します。銀狼-(村人)。星-(村人)。カフカ-(怪盗)。ホタル-(村人)。刃-(占い師)。墓場-(人狼、人狼)。……以上が今回のセッションにおける各役職でした』
     カフカが刃の方を見て「刃ちゃんも、良い仕事ぶりだったわ」と笑顔を向けると、しかし刃は快い表情は見せずに朴訥とした様子でカフカ、そして銀狼を見る。
    「……お前たちが俺を疑う理由もあったはずだが」
    「刃ちゃんを信頼していたもの」
    「……ふん」
     カフカとしては素直な表情を見せていたが、やはり刃は表情固くそっけない返事する。
    「刃はそんな高度なことしないでしょ。はじめに発言して、確かに墓場の人狼を指定するって意外とリスクはないけどね」
    「……ああ、なるほどな。やり方は覚えた」
    「おーこわい。楽しみにしておくね~」
     銀狼は挑戦的な笑みのまま、プロミーに次のセッションへの準備を促す。


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    3mew

    PROGRESS人狼ゲームを楽しむ星核ハンター。
    過去の星核ハンター概念。5人で仲良く人狼で心理戦したりして、遊んでる話を書きたかった~。

    ざっくり本文で説明してない用語っぽいの補足。
    白・黒→白は村人陣営、黒は人狼陣営のこと。
    対抗 →同役職により対立のこと。
    吊る →投票に寄る処刑のこと。
    CO  →カミングアウト。役職の開示。
    真  →真実。真占い。みたいに使う。
    星核ハンターの休日「本日、みんなを集めた理由は他でもない。今日は皆さんに……人狼ゲームをしてもらいます」
     ちょうどいい円卓を星核ハンターの5人が囲みながら、主催者の星が意気揚々とデスゲームの前口上のように話しはじめた。それぞれ、半分が嬉しそうに、もう半分は呆れ気味に、思い思いの反応で楽しそうな主催者である星に注目していた。
     銀狼は深い溜め息を吐いて、星を半目で見やる。
    「私が集めたんでしょ……」
    「うむ。助手の銀狼くん、大義であった……エーテル編集って便利だね」
    「あなたはどういう立場なの」
    「ゲームの開催者……?」
     星と銀狼は楽しそうに話しているが、この中で詳細な話を知っているのはその2人しかおらず、カフカ、刃、ホタルは集められた理由を聞いていない。
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