かいみこ 何が合図だったのか、そんなことは分からない。
何かが気に障ったのかもしれないし、逆に好ましく思ったのかもしれない。欲情に火がついたか、ただの嗜虐心か。もしくは好奇心。
そもそも理由なんかなかったのかもしれない。
暴力というものは馬鹿が使う手段で、それを理解できるはずもない。
不自然にギターの音が止まる。怪訝に思って振り返る。思いがけず正面から目が合い、出そうとしていた言葉を失う。その一瞬が命取りだった。
その手が頬に触れた瞬間。体温、感触。いっそ、心地よさを感じたほどだった。甲斐田紫音という男は、当然のように人に触れる男だった。常に人を揶揄うような態度のくせに、いつの間にか警戒心の中にするりと入り込む。
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