身を低くしたエースは、草の中から飛び出して向かいの薔薇の木々の間に体をねじこんだ。その際に枝で頬を引っ掛けたが、すでに体中が傷だらけだからさほど気にすることでもない。それよりも、早く落ち着ける場所に行きたかった。昼過ぎからこんな調子だから人の気配を探りすぎて疲れていたし、体力だって既に限界だ。普段なら数歩で行ける距離なのに、今はとんでもなく遠く感じる。
(なんとか、日が暮れる前に)
いつも以上に敏感になっている鼻に薔薇の匂いは少々きついが、ここ以外に安全な場所も行くあても無かった。
(よし。次で寮の前まで行ける)
後ろ足に力を込めると、掠める枝も踏んづけた花弁も気にせず一気に駆け出した。と、その瞬間、体が宙に浮いた。
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