【二次創作】海や水族館デートに行く話(春クリ)付き合って初めての外出に、海へ行くことにした。まだ海開きの時期には早いが、海辺を見てから海岸沿いの水族館へも行こうと話していた。
「海ですよ、海! 早く行きましょう!」
春の手を引いて、クリスは浜辺へ足を踏み入れる。波打ち際で遊ぶ子供やカップルを横目に見ながら、二人は砂浜を歩く。
「こんな風に誰かと海に来るなんて、初めてです」
クリスは嬉しそうに笑った。彼女の笑顔を見ると、春も自然と顔がほころぶ。
「喜んでもらえてよかったです。足元に気をつけて」
差し伸べられた手を取り、砂に足を取られないように注意しながら歩いていくと、目の前には青い海が広がっていた。太陽の光を受けて輝く海面を見ているだけで、気持ちが高揚する。
「綺麗……」
思わず漏れた呟きを聞き取ったのか、隣にいる彼は優しく微笑んだ。
その表情に胸がきゅっと締め付けられ、クリスの頬が熱くなる。
「本当に綺麗ですね」
穏やかな彼の声を聞いていると、幸せすぎて泣きそうになる。そんな感情は初めてだった。
繋いだ手にぎゅっと力を入れると、彼も同じ力で握り返してくれた。それだけで心の底から安心して、この人と一緒にいて良かったと思うのだ。
「あの、春さん」
「ん?」
「もう少しここにいてもいいですか?」
「もちろん」
二人で並んで座り、寄せては返す波の音を聞く。ただそれだけのことなのに、どうしてこんなにも心地良いのだろう。
***
水族館に移動して、水槽を見て回る。魚などの生物の解説文までまじまじと読んでいるため、進むのに時間がかかるが、二人にとっては、それも楽しい時間だった。
「可愛いですね」
小さな熱帯魚の群れを見ながら、クリスはうっとりとした様子で言う。
「そうですね」
「あっちのクラゲも可愛らしいです」
「ええ、見て行きましょうか」
春は彼女のペースに合わせてゆっくりと歩きながら、一つ一つの展示物を楽しんだ。
イルカショーの会場へ移動すると、既にかなりの人数が集まっていた。運良く中段の席を確保できて、期待が高まる。
「楽しみですね!」
「私、実はこういうの見るのは初めてで」
「そうなんですね、とってもかわいくて迫力がありますよ!」
「それは楽しみですね」
ステージ上のプールでは、トレーナーの指示に従ってイルカが次々と芸を披露していく。イルカたちは頭がよく、観客に向かって水を吹きかけたり、空中高くジャンプしたりと様々なパフォーマンスを見せてくれた。
「すごいですね、あんなに高く跳べるだなんて」
そう言って、二人は頷き合う。
やがてショーが終わると、会場からは拍手が起こった。
「楽しかったですね」
「はい! 次はお土産屋さんに行きませんか? 私、ぬいぐるみが欲しいです」
クリスの言葉に笑って返し、二人は売店へ向かった。
会計を済ませてから、少し離れたところにあるベンチに座る。イルカの小さなぬいぐるみキーホルダーを、クリスはさっそくショルダーバッグに取り付ける。
「おそろいですね」
自分のものと色違いのストラップを見せる彼女に、春の心は温かくなった。
「今日はありがとうございました」
帰り道の途中、クリスは言った。
「こちらこそ。とても楽しかったです」
「また来ましょうね」
「そうですね」
「今度はどこへ行きましょう。春さんといっしょなら、きっとどこでも楽しいです」
そう言って笑う彼女を見て、春は自分の心がまた温かくなるのを感じた。
いっしょにいつ時間が楽しすぎて、クリスはこのまま時間が止まればいいと思ったけれど、電車はすぐに目的の駅に到着してしまう。名残惜しく思いながらも降車し、いつもの分かれ道まで送り届ける。
「じゃあ、私はここで」
「はい。……あの、春さん」
クリスが袖を引き、春は顔を寄せる。そこにコツンと額を合わせて「大事にしますね、この子」と、イルカのキーホルダー同士を同じように額合わせにした。
「うん、私も大事にします」
「じゃあ、また明日」
額をさすってはにかむと、クリスは家に向かって駆け出した。
その後姿を見送った後、カバンについたイルカのキーホルダーと目が合い、春もはにかむ。今日はいつもより寂しくない。