【二次創作】星とホタルを見る話(春クリ)夜空を見上げると、天の川が広がっている。都会でもこんなにきれいに見えるのかと、春は少し驚いた。
「ついてきてくれて、ありがとうございます。天体観測をやってみたかったんです」
星座早見表を手に、クリスは嬉しそうに微笑んだ。
「よかったです。喜んでもらえて」
春は、クリスの隣で、一緒に星座表を覗く。そして、「あ」と声をあげた。
「どうしたの?」
「見て下さい、あれ」
春は空を指差す。一番目立つ赤い星、アルデバランだ。
「大きな星ですね」
「アルデバランっていうんですよ。七夕の彦星に例えられるんです」
「そういえば、前にプラネタリウムで習いました。……でも、あんな星あったでしょうか?」
「あの星、二重星なんですよ」
二重星は、恒星が二個以上重なっている天体のことである。口径を計算してみると、アルデバランは約六百万光年の距離にあることが分かった。
「じゃあ、結構近いところにあるんですね」
「そうですよ。案外、肉眼で見ることだってできます。肉眼で、なんて、ちょっとロマンチックじゃないですか?」
「そうですね。星がよく見えて、うれしいです」
クリスは星座早見表をバッグにしまい、夜空を見上げる。春も、倣って空を見上げる。二人の間に心地よい沈黙が流れた。
「……ねえ、クリスちゃん」
しばらく二人で夜空を眺めた後、春が口を開く。
「どうしました?」
「どうして、急に星を見たくなったんですか?」
クリスは一呼吸置き、ゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「星が、好きなんです。こうして星空を見ていると、とっても安心するんです。なんだか懐かしい感じがして」
「懐かしい、ですか?」
「はい。おかしいですよね、星空を見て懐かしいなんて」
「そうでしょうか。私は素敵だと思いますよ、そういうの」
春は、やさしく微笑む。そして、「少し歩きませんか?」とクリスを誘った。
家までの帰り道。二人は川べりをゆっくり歩いていた。
満天の星空を、その光を湛えた川面が映し出している。
クリスは、そんな川面をじっと見つめ、何か考え込んでいるようだった。春も、その隣で一緒に川面を見ていた。
「あ、ホタルがいますね」
春が、川面を指差した。ホタルは、数匹の群れになって、光を灯しながら浮遊していた。
「ほんとですね。でも、あっちのホタルの数が少ないような気がします」
クリスが指差した方を見ると、一匹だけ寂しく漂うホタルがいた。そのホタルは、他の仲間から離れて、川を下ろうとしていた。
「あっ、危なっ……」
その瞬間、クリスの体がよろめいた。咄嗟に春は手を伸ばし、倒れそうになったクリスを支える。
「だ、大丈夫ですか?」
「……すみません、足を滑らせてしまって。ありがとうございます」
「いいえ。あまり無茶はしないで下さいね」
春は、クリスを支えていた手の力を少し緩める。クリスが、春の袖を掴んだ。
「どうしました?」
「もう少しだけ、このままでいていいですか……?」
「……ええ、どうぞ」
二人は、しばらく川面を見つめていた。ホタルがゆらゆらと揺れながら光っている。他のホタルたちも群れて、空でも川でも美しい輝きを見せていた。
「春さん、また一緒に星を見ませんか?」
「もちろんですよ」
クリスの言葉に、春は応える。彼女の表情には、優しく温かい笑みが浮かんでいた。