僕の恋心は結晶になった。最初は真っ赤で綺麗なハートだったのに、見る間に赤黒くどろどろ表面が溶けた汚い塊になった。
やっぱりこんなものをKKに抱いてはいけなかった。
僕はほっとしてそれをKKがくれた妖怪のイラストの紙に包んでKKが出張のお土産に買ってくれた小さなお菓子の缶に入れて秘密の場所に埋めた。
「あーーーすっきりした」
大学受験が終わった時のような晴れ晴れとした気分だ。空も飛べそうなほど身体が軽い。
余計なものがなくなった僕は何もかも上手く行くようになった。卒論にも集中できるし、友だちには明るくなったと言われたし、祓い屋の仕事もKKの言動に一喜一憂することなくこなせるようになった。思い悩む時間もなくなって余裕ができた。
「なんかお兄ちゃんらしくないよ」
麻里に言われ、僕は唐揚げの咀嚼を一度止めると再び噛んで飲み込んだ。
「そうか?むしろ前のオレに戻ったと思うけどな」
KKのことを忘れたわけじゃないし、ダメなところは数あれどいいところはもっとあって、そこをサポートしつつ尊敬もしている。良い相棒で師弟に戻れたんだ。良いことでしかない。
「そうかもしれないけど、でも……」
麻里は唐揚げに箸を出さず、こちらをちらちらと伺う。
「……もしかしてオレがKKのことを好きだったって気づいてた?」
予想通り麻里は驚いた表情をしたので僕はご飯を口に入れるのを止めて笑顔を見せた。
「そっか、心配かけてごめんな。でも望みのない恋愛は止めたから」
「望みのないって……」
「そうだろ?男同士で、二十も年上で、妻子持ちなんだから」
KKが僕を恋愛対象にする要素はどこにもない。わかっていたのに好きになってしまったから、自分で捨てた。
「今日のオレの方が普通にKKとコミュニケーション取れてただろ。これからは何の問題もないから」
粉をまぶして揚げただけの唐揚げと玄米入り白米を頬張る。美味しい。久しぶりに純粋に食べ物が美味しい気がする。麻里はそれ何も言わずマカロニサラダを食べる。少しだけ胸に穴が空いた感覚がするのは失恋によくあることだ。時間が解決してくれるだろう。
僕の汚れた恋心は今も地中に眠っている。