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    Kilone_shallows

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    Kilone_shallows

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    ホンイサで切ないやつ描きたいって思った。
    少し加筆予定。

    夢の中へ、金平糖を。 恋をしたのは、いつだっけ。
     何をしても足りなくて、足りなくて。
     もっとあなたと一緒にいたいと思ったのはいつだっけ?
     たくさんの色で満たしてくれる

    「……ん……」

     カーテンの隙間から夜空の色が見えて、月明かりがふわりと黒髪を照らす。
     眠くて目を擦って、時計を見てみても。まだ時間は朝にも手を伸ばしていない。

    「……イサンさん? 何処に行くんですか?」
     呼びかけてもイサンらしき人物は振り返る素振りすらせずに、立ち上がり、寝室の外へと向かう。聞こえていなかったのかなとホンルも後を続いて眠い目を擦りながら地に足をつけようとしたその瞬間。
     ガタンと体が高い場所から落ちた気がして思考が覚める。
     目を見開いてイサンの方を向けば、彼は振り向いていて悲しげに笑っていた。

    「ホンル君」

     そう言っていると思う。
     曖昧なのは口の動きだけで声が聞こえないから。無音の空間で、心臓の音も呼吸の音すら聞こえない。
     イサンの匂いがわからない。
     いつもお昼時には暖かくて日が差し込む場所でお昼寝をするから柔らかくて落ち着く太陽のような匂いがするのに。無臭すぎて感覚がおかしくなりそうだ。
     掴んだはずの手から感じるはずの温度がわからない。
     今自分の手は一体何に触れている? イサンの形をした何かか?

     動悸に近い嫌な心臓の音に冷や汗が止まらなくて、過呼吸を起こさないように自身を律して落ち着こうとする。

    「さよなら」

     何も聞こえなかったはずの耳にその言葉だけが酷く劈くように届いた。気づけば伸ばして掴んでいた手をすり抜けて、檀香梅の花びらが舞い散っていく。先ほどまでそばに居たはずだと思いたかった温度は一切の温かさを保っておらず、やっと温度がわかると思った一瞬で冷たくなって急な変化に足元がおぼつかない。前に行こうとしたのに、自分の足は言うことを聞かずに動けないまま。

     地面だと思っていたのは鏡で、映る自分の虚な顔がひび割れる。そして、割れた鏡ごと何処か深くに落ちていく。

    「なんで、っなんでですか! イサンさん!」

     浮かぶのは涙。さよならなんか聞きたくない。おやすみの一言でさえも惜しいくらい、あなたの隣にいたくてたまらないのに。
     このまま、納得の行かないまま手を取れずに堕ちていくだなんて!

    「ホン……っ、く、!」

     さっきから僅かに聞こえていたくぐもった声は遠くに消えて。聞こえて欲しい声は届かなくて、苦しさだけに埋もれてしまう。

    (誰か、……助けてっ!)

     叫ぶことも出来ずに声は暗闇に溶けてしまった。

    「……嫌だ、嫌だよ……嫌だ……っ」

     魘されていることに気づいたのは隣で眠っていたイサンだった。眠りが浅かったわけでは無いはずだけれども、何となく目を覚ましてしまい水でも飲もうかなとぼんやり思っていた時に隣にいるホンルが苦しそうに涙を溢し始めて魘されていた。

     慌てて彼の体を揺さぶって何度も名前を呼んでみたが、起きる気配がなくて酷く苦しそうだ。
     このままでは危ない気がする。
     近所迷惑なんて今は気にしてはいけないとイサンは大きく息を吸って出せれる音量の最大限を出してホンルを起こした。

    「ホンル君、起きたまへ!」
    「ひっ!?」

     やっと声が届いたのか、ホンルは目を覚ましてくれた。

    「あ……いさん、さん……?」
    「あな、良かりき。魘されたりしぞ? ホンル君、落ち着きき?」
     安堵しているがまだ不安そうに首を傾げてホンルを見てくる黒曜石のように黒く綺麗な目は、夢の全てを否定してくれる。
    「うっ、あっ……」
    「いかがせる? 畏き夢にも見き?」
    「イサンさんが、いる、イサンさん、イサンさん……っ」
     質問に答えれる余裕が無いほど情けない姿を見せているだなんて今は知らない。この心温かい人が自分の手が届くところに居て、自分の手を取ってくれている。それだけのことがどれだけ今ホンルの心を救ってくれていることか。
     失うことばかりで、眺めることしか出来なかった自分の手を掴んでくれていることが。
     ひび割れたホンルの心を継ないでくれている。
    「怖い夢を見ました、すごく、怖い夢」
    「……さりか、かくせば畏からず?」
    「うん……でも、もっと撫でて欲しい。抱きしめていたい」
    「よきぞ、眠るるまでもろともにあれば」
    「やだ……眠ってもそばに居て」

     ぐすんと鼻を鳴らして我儘を溢したホンルの物珍しさにイサンは余程怖い夢を見て、寂しくなっているのだろうかと知る。大抵のことならへらりと笑って躱しているのに、こんなにも動揺するなんて。
     イサン自身が出来ることはせいぜい頭を撫でてやって、不安ならばずっと隣で手を握ってあげることくらいだろう。
     でもそれをホンルは望んだ。何よりイサンの隣から離れたくないのか抱きしめている腕の力は強めだ。息苦しさまでは感じないけれど、きっと腕の拘束から抜け出すのは少し難しいかもしれない。

    「いかなる夢を見しや?」
    「……」
    「畏き夢など、悪しき夢は話さばうつつになるが無しと聞きしためしがあれば」
    「……」
    「少しにも、うたてきことは無くせまほしきぞ?」
    「……子供っぽいって笑わないでくれますか?」

     あれほどボロボロと涙を溢して泣いた後だからか、今更恥ずかしくなってイサンの肩口に顔を埋めて表情を隠す。
     笑わないと頭を撫でてやると、ホンルは抱きしめる腕の力をまた強くして、イサンにそっと夢の中の話を伝えた。
    「あなたがいなくなって、すべての五感を失いました。何も分からなくて、ただ、怖かった……」
    「……さりか」
    「掴んだ手も、意味もなくて……」
    「うん……」
    「すごく、怖かったんです……今日は、離れないで」
     離すことなんてするわけが無い。何よりも望んだこの居場所を自ら易々と手放すなんて。
     こんなに愛して愛される幸せを知ってしまったのだから。
     夢で怖がることがないように、夢の中でも離れないためにもおまじないのキスをひとつ。

    「いと恋しきぞ、え離さぬほどぞ」
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