神の目にとまる話ほんのちょっぴり残っていたお小遣いと、野盗を追っ払って奪ったボロい短剣を片手に離島の港に到着する。
アタシには夢がある。見たい景色がある。知りたいことがある。冒険が、夢の果てが、きっとアタシを待っている。
おっかあには死ぬほど怒られた。きっと今頃アタシがいないことに気付いて鬼みたいな顔して探し回ってるに違いない。
おっとうは、何も言わなかった。言っても無駄だと思われているらしい。こっそり家を出たアタシに気付いて家の前まで出てきたけれど、突っ立ったまま手を振りも呼び止めもおっかあを起こしもしなかった。
分かってるよ、わがままだって。分かってるよ、親不孝だって。でもさあ、この国はもうダメなんじゃないかって思うんだ、アタシ。それこそ劇薬でもぶち込まれないと立ち直れないくらい、もうダメなんだよ。お上様はアタシたち稲妻の人間なんて見ちゃいない。見えてるのは稲妻って概念だけだ。そんな国と心中するつもりはない。アタシが好きなのは稲妻の人間であって、土地じゃない。暮らしであって、城じゃない。人であって、国じゃない。
1945