煙のベールはいずれ祝福の証となるだろう あの日からどのくらい経ったのだろうか。煙も掻き消してしまいそうな雨降りだった日々も、今では日が差すことの方が多い。直正が自宅に来た日から暦は少しずつ変わっていく。最初は数えてみようかとも思ったが、女々しいし、面倒なのですぐにやめた。
やめたことと言えばもう一つ。追い求めるように吸い込んでいた紫煙を今では殆ど吸っていない。時々少しだけ、落ち着かない時や癖のような感覚で口元に持っていくこともあるが、数口だけ味わってすぐに消してしまう。もう影を追わなくて良くなったのだから、いつまでも縋る必要はない。
あくまで自分はだが。
「ふぅ…………」
「…………」
自分の隣でソファに凭れながら煙草を吹かす男は、今でも変わらず吸い続けている。やめないのか聞こうとも思ったが、自分が吸うよりも前から吸っているのだから難しい話だろう。自分といる時は気を遣って吸う本数を減らしているみたいだ。こっちも吸っていたからわざわざ部屋から出ていくことはないが。
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