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    2025.2.9 VALENTINE ROSE FESの無配SS(ドルカイ)になります。楽しんでいただけたらと思います。

    #虎トウ
    #ドルカイ

    紙一重というのもまた一興か 祭事とはどのくらいの頻度で行われるものなのだろうか。自分の故郷と比較しようとしたが、比較したところで何か変わる訳でもないからすぐにやめる。此処に今居るのであれば、あの人の辿る道を見守ることが大切だ。
     特別な面を着け、衣を纏い、舞を踊るカイドウを遠目から眺める。神聖な儀式の邪魔にならないよう、祭場から離れた所に腰を落とす。もっと近くであの綺麗な姿を、優美に舞う姿を見たい。しかし、それは他の国から来た自分がどれくらい受け入れられるか分からないことだ。避けた方が無難かと思いやめたのだ。だが、全てが終わり次第、傍に駆け寄ることは許されたい。

     舞を踊るのは神官の役目。その年に選ばれた神官がその年の祭事を取り仕切り、精霊へ捧げる祝詞をあげ、舞を踊るという。
     だからだろうか。出逢った時から側近を含め、多忙そうにしていたのは。生真面目で堅苦しい性格が祭事に関わると更に厳しいという噂を聞いた。恐らく故郷を想う気持ちからであるのだろうが。そういった硬く閉ざされた花弁が開く時を見たいと思ったから、自分はその噂の主を知りたくなったのだと思う。そうして見れば見る程、噂の通りだと思うと同時に一瞬だけ綻ぶ表情に釘付けになった。その一瞬を逃しはしまいと、再び見たいと思う。惹かれるというのはこういう事だとも知った。自分の中で大切にしたい者の一人になっていた。関わりのある奴らの中でもカイドウみたいな性格の奴もいない訳ではない。しかしそういった意味で惹かれていくのだから不思議だ。
     つらつらと適当なことを考えながら、ぼんやりと向こうで舞を踊る男を眺める。あの細い身体からは想像もできない力強く、そして素早くしなやかな動き。床を蹴り高く翔ぶ姿が綺麗だ。今、どんな表情をしているのか知りたい。面をしており、それは秘されたままであるから、余計に暴いてみたくなる。長いと思っていた祭事はいつの間にか終わり、鐘が鳴り響いていた。

    「カイドウ」
    「あぁ、無事に終わって良かった」
     呼び掛けると、面をしたままこちらを振り返ってくる。その面の下はどうなっているかわからないが、息が上がっている。舞を踊るにも体力だけでなく、気力もいるのだろう。声も少しだけ疲労が滲んでいる。
    「見ていたか」
    「あぁ、見事な舞だった」
    「そうか……」
     祭事に慣れている者から見る舞と、慣れていない者から見る舞とではきっと求めるものも、見なければならない視点も何もかも違うと思われる。それでも、自分からの一言で緊張が和らいだことが少しだけわかる。ほぅ、と零された息は周りを取り囲む側近や係の者には気が付かれなかったことだろう。
    「カイドウ、面は取らないのか?」
    「自室に戻って着替える時に外す」
    「そうか」
     残念だが、そういう決まりならば仕方がない。カイドウが歩きだした為、後ろを静かについて歩く。しかし、その歩き姿に違和感を覚える。普段と違う衣装を纏っているからだとも思ったが、そうでは無いようだ。左脚を僅かにだが引き摺るような歩き方。それこそ、周りに悟られないように何とも無いかのように歩いているが。どうしたのか観察してみると、足袋に滲む朱紅い雫……。いつの間にか怪我をしたのか。これの痛みを隠す為に面を外さないのか。舞を踊っている時は微塵も気が付かなかった。大切な祭事を成し遂げる為に隠そうとしていたのか。何処までも、何処までも──。

    「……カイドウ」
    「どうした?っ、何をする!」
    「良いから。……衣装も面も汚さないようにするから……身を預けてくれ」
     カイドウの身体を抱え、カイドウの自室へと急ぐ。少しでも早く傷を手当したい。この綺麗な人に傷を残したくない。
     自室に辿り着き、椅子へと座らせる。目の前へ傅くように膝をつき、左脚を手に取る。カイドウが気恥しそうに身動ぎをする。かたり。椅子が鳴る。足袋を脱がせると、白い爪先からはじわりじわりと血が滲んでいる。ふわりと香るのは鉄の匂いと汗の匂いである筈なのに、何処か芳しくも感じるから可笑しい話だ。どれだけ、自分はこの男のことを求めているというのだ。滴り落ちそうになっているその血を掬う様に舐めとる。一滴たりとも逃したくない。
    「やめっ、汚いだろう!」
     右脚で思い切り蹴られてしまった。何て足癖の悪い男だ。面の下の表情は未だに見られないが、覗く耳元が少しだけ桃色に染まっている。それを見ることができただけでも良しとすべきか。謝罪の言葉を述べながら、今度はしっかりと手当をする。

     大切にしたいと思うと同時に全てを暴いて、乱したいと想うのは、どういう感情からなのだろうか。そして、高潔なこの男を乱してみたいと思う自分のこの心は、きっと清廉潔白なこの男としては忌避することであろう。矛盾した感情を併せ持つ自分を、傍に置いて欲しいというのは些か我儘であろうか。曝け出すにも、暴くにも、全てにおいて紙一重となりかねない。今でなくて良い。何れ賭けをしてみるのも一興かもしれない。この男との関係を変える時が来た時にやってみようか。
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