Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    mRBeNI2

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    mRBeNI2

    ☆quiet follow

    2025.2.9 VALENTINE ROSE FESで無配したSS(直集)です。楽しんでいただけたらと思います。

    #虎トウ
    #直集

    煙のベールはいずれ祝福の証となるだろう あの日からどのくらい経ったのだろうか。煙も掻き消してしまいそうな雨降りだった日々も、今では日が差すことの方が多い。直正が自宅に来た日から暦は少しずつ変わっていく。最初は数えてみようかとも思ったが、女々しいし、面倒なのですぐにやめた。
     やめたことと言えばもう一つ。追い求めるように吸い込んでいた紫煙を今では殆ど吸っていない。時々少しだけ、落ち着かない時や癖のような感覚で口元に持っていくこともあるが、数口だけ味わってすぐに消してしまう。もう影を追わなくて良くなったのだから、いつまでも縋る必要はない。
    あくまで自分はだが。
    「ふぅ…………」
    「…………」
     自分の隣でソファに凭れながら煙草を吹かす男は、今でも変わらず吸い続けている。やめないのか聞こうとも思ったが、自分が吸うよりも前から吸っているのだから難しい話だろう。自分といる時は気を遣って吸う本数を減らしているみたいだ。こっちも吸っていたからわざわざ部屋から出ていくことはないが。
     疲れている時や考え事をしている時は吸う本数が増えるということがここ最近知ったことだ。海に行った日に車内が白くなる程吸っていたが、あれもきっと考え事をしていたのだろう。恐らくは、俺自身のことで。思い出して少しだけ口元がへの字になってしまったが、直正は気にせず吸い続けている。きっと今も何か考え事でもしているんだろうな。最近仕事が忙しいようだったからそのことかもしれない。自分のことかとは思わないのか、と聞かれたら数パーセントは有り得るかもしれないと答えるだろう。それくらい直正からは愛情を注いでもらっている。壊れ物を扱うかの様に優しく、丁寧に。不安を解消していくかの様に。だからまだ先の触れ合いはしていない。キスすらも。もう自分は成人していて子供ではないのだから、気にしなくて良いと言うのに。それでも頬や頭を撫でられながら微笑まれてしまえば終わりだ。纏っているツンとくる匂いも嫌いになれない。
    「なぁ、おい」
    「……」
    「おい」
    「……」
     態と無視を決めている訳では無い。どれくらい集中して考え込んでいるのか。呼び掛けても返事が来ないと勝手に蔑ろにされているように感じて気分が悪い。集中している所に茶々を入れる方が悪いのは百も承知だ。しかも大切な仕事のことであるのに。だけど、それでも、今隣に居るのは自分なのだから自分を少しでも見て欲しいと思うのは我儘なのだろうか。あぁ、それこそやっぱり女々しいか。
     いや、女々しかろうと少しだけこっちを向け。直正がまた煙草を咥えようとしたところで、直正の頬に手を添えて誘うように笑みを浮かべてみる。吃驚した顔でこちらを見てくる。やっと目が合った。
    「なぁ……煙草じゃなくて、もっとイイモン吸ってみねぇか?」
     直正の少しかさついた唇に親指を当ててみる。少しくらい、手を出して来やがれ。煽るようにまた顔を覗き込もうとすると、煙草をまた吸い始める。それに思わずムッとして、文句を言おうとすると視界は白一色に変貌する。煙にいきなり包まれて靄がかかる。
    「え……」
     自分の驚いた声は部屋に響くことなく、直正の口内へと吸い込まれていく。声だけでなく、自分の肺の中にあった酸素も徐々に吸われ、頭がぼぅっとしてくる。口内には直正の分厚い熱い舌が入り込み、全てを絡め取ろうとしてくる。知らない感覚に、いきなりのことに身体が動かない。酸素が足りなくて脳味噌が溶けていく、痺れていく。
    「んぅ……ふぅ……っ」
    「……ん、あぁ、確かに煙草よりも美味いかもな」
     余裕綽々といった顔で俺の頬を撫で返してくる。自分と言えばキス一つでこんな風になるとは思わなくて愕然としている。そして煙草と言えば硬くて苦くて辛い味だと思っていた。それがこんなにも柔らかくて、苦味の中に甘さがほんのりある味だなんて。酸欠になった脳と肺に一生懸命酸素を取り込もうとするが、まだ混乱している。そんな俺にまた直正は白い煙を吹きかけてくる。また、やられるのか。思わず身構えてしまうが、キスはされなかった。
    「初めてのキスでガチガチに固まっちゃう様な可愛い恋人に、すぐに手を出す男じゃないよ、俺は」
    こういうところが狡いんだ。やってられねぇ。
    また仕事のことを考え出したのだろう。再び静かに煙草を吹かし始める。自分は直正の肩に額をグリグリと押し当てて顔を見られまいとするだけ。本当に、どうしてこんな男の方が上手なんだ。でも、やっぱり、嫌いになれない。嫌いじゃない。

     また煙をかけられる時が来たら、その時はきっと、もっと追い求めてしまうだろうか。ずっと煙からは逃れられないのか。それならいっそ、それを使って全て包み込んでくれたら良い。そうすれば、もっと深くまで繋がれたのだと勘違いできるから。同じ煙でも自分が吸う紫煙とも硝煙とも土煙とも全て違う。柔らかくて苦くて切ない幸せなベールに覆われたい。



     ──きっと永遠を誓えるから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖👏💴💖💖💴💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works