タイトル未定「冬弥! おはよ!」
信号が変わるのを待っていると、突然背中にのしかかった鈍い衝撃と共に、冬弥が暇さえあれば反芻してやまないよく通る明るい声が耳に入った。少し緊張する気持ちを落ち着かせるように一旦息を吐いてから振り向くと、冬弥の返事を待つ可愛らしい笑顔がそこにはあった。
「おはよう、白石」
「行きでばったり会うのって何か珍しいね。このまま一緒に行ってもいい?」
「ああ、もちろん」
「ありがと!」
杏が再びパッと笑う。グレーの鋭い瞳でその眩しい笑顔を捉えると、きつく胸を締め付けられるような感覚がして苦しくなった。恋煩いで自発的に苦しくなるくらいなら全ての根源である杏の姿を視界に入れなければいいのだが、それができないから冬弥は今日も胸の内で想いを募らせて一人で感傷的な気分になっている。
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