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    ほしみや

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    書き途中のお話を随時書けたところまでぽいぽい投げる用。(全部書けたら手直ししてpixivにもアップします)

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    ほしみや

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    トレデュとケイエーの女体化百合のお話。
    (途中まで。続きを書いたら増えます)
    ※ナイトレイブンカレッジが女子校
    ※全員女の子
    ※ハーツラビュル寮にのみ姉妹制度がある
    という捏造設定です。
    書きたいエピソードがいくつかあるので、全てを書き終わったら手直しをしてまとめてpixivにアップする予定です。
    (こちらは以前、エース受けワンライで書いたにょたゆりケイエーちゃんのSSが元になっています)

    トランプ兵達の秘密の花園【始まりの話】

     ハーツラビュル寮には、いわゆる姉妹制度というものが存在する。ナイトレイブンカレッジの中でハーツラビュル寮にのみ存在する制度だ。
     なにしろトランプ兵たちは覚えることが多い。全810条にも及ぶ女王の法律を始め、独特の規律、『なんでもない日』のパーティーは準備から片付けに至るまで事細かにルールが決まっている。入学したての一年生などは毎年困惑し、戸惑ってしまう。
     そのため、いつしか上級生が下級生と擬似的に『姉妹』になるという制度が生まれ、伝統として根付いていた。日常生活から姉である上級生が下級生の世話を焼き、教えを伝え、規律と秩序を守るのが目的とされている。
     姉妹になるための方法は主に二通り。上級生が気に入った下級生へ妹にならないか誘うか、あるいは逆に下級生が姉になって欲しい上級生に申し出るか。
     相互で合意を得た二人は、薔薇の迷路の奥にある秘密の庭園で姉妹になる事を誓い合う。契りとして互いの寮服の薔薇のブローチを交換し、付け合うのが決まりだった。
     契りを交わすことでブローチには微弱な魔力が宿り、仄かに光るようになる。姉妹のいる子はそれで判別出来るという仕組みだ。自身の左胸から相手の左胸の上へ。心臓の位置へと交換した一輪の薔薇に血が通うように光が灯る様は、神秘的ですらある。
     ちなみに制度などとは言うものの、元々寮生の間で自発的に生まれたものであり、強制力はない。入学してから卒業するまで、姉も妹も持たない寮生も当然存在する。
     だがそこはやはり多感な年頃の女子の園。儀式めいた契りを交わす行為に特別感を抱く寮生も多い。
     姉妹関係にある二人は普通の先輩後輩よりも関わりは深くなり、姉や妹がいるというだけで周囲の反応は変わってくる。娯楽の少ない孤島、全寮制の女子校という環境も相まって、姉妹の二人はまるで恋人同士のような扱いを受けるのが常だった。『姉妹の申し出をされるのは、殆ど好きだと告白をされるようなもの』というのが寮生達の間の認識だ。




    「ただいま……ってエースだけか」
    「デュースおかえりー。アイツら今日は遠征で遅くなるんだってさ」
     部活を終えて帰寮したデュースに、自分のベッドでゴロゴロと仰向けに寝そべっていたエースは声だけで返事をする。
     一年生の四人部屋、同室の他の二人についての詳細を聞いたデュースは「そうか」と頷く。それから何気なく自分の机の方へと向かおうとして……突如、驚いた顔でエースの方へと振り返った。腰まであるネイビーのサラサラとしたストレートヘアと制服のスカートが勢いよく翻る。
    「エ、エース!? お前っ、それ……!」
    「あ、やっと気付いた〜。もーデュースちゃんってば鈍すぎでしょー!」
     エースの寮服の胸元で仄かに光っている薔薇のブローチを指さすデュースに、ベッドから起き上がったエースはふふんと胸を張ってみせる。
     さっきから誰かに自慢したくてたまらなかったというのに、そんな時に限って同室の二人は不在。デュースが帰ってくるのを密かに心待ちにしていたのだ。かつ、自分から言い出すのは格好が悪いのでデュースから気付くのを待っていた。目論見通りの表情と反応をするのにエースはすっかりご機嫌だった。
    「そ、それって姉妹の契りを交わしたっていう証だろ!? エース、もう姉貴が出来たのか!?」
    「まぁねー 。てか、姉貴って言い方すんなっての! 今日の放課後に先輩の方から申し込まれてさ、そのまま契りまで交わしてきたんだよねー」
     何の気なしというような口調だが、誇らしげな様子は隠しきれていない。
     入学してから二週間、寮内でも姉妹の契りを交わした寮生がちらほらと見受けられるようになってきていた。
     入学してからのエースとデュースといえば十億マドルのシャンデリア破壊事件から始まり、ドワーフ鉱山での化け物退治だの、リドルへの決闘申し込みからのオーバーブロッドだのと騒々しい日々が続いていたのだ。いつの間に、とデュースが驚くのも無理はない。
     加えて二人は何かとお互いライバル意識で張り合っている。デュースよりも先に姉が出来たことでエースは完全に優越感に浸っていた。
    「あ、相手は誰なんだ!? 聞いてもいいのか?」
    「別に隠す事でもないでしょ……ケイト先輩だけど?」
    「ダイヤモンド先輩か! 明るくて陽気でエースとお似合いだもんな! それで、どんなふうに言われたんだ!?」
     キラキラとした眼差しでデュースはベッドに乗り上げ、意気込んで問いかけてくる。興味を示してくれるのは単純に嬉しいが、あまりにも真っ直ぐな瞳に気圧されてなんだか気恥ずかしくなる。癖毛の前髪を指先で弄びながら、ゴニョゴニョと言葉を濁してしまうエースだ。
    「どんなって……先輩から「エースちゃんって可愛い〜、ねーねーオレの妹になってよ〜♪」って言われたから「別にいーっすよ」って答えただけだし……」
    「え……それだけか?」
    「はぁ!? それだけだとなんか不満なワケっ?」
     ぱちくりと目を瞬かせるデュースの様子が頭にきたエースはキッと目を吊り上げる。真っ赤になって憤慨するエースにデュース慌てたように手を振った。
    「いや、だって……『姉妹の申し出をされるのは、殆ど好きだと告白をされるようなもの』って聞いたから……そんな軽い感じだとは思わなくて……」
    「はー……あのさぁ、お前鵜呑みにしすぎだし色々と夢見すぎっ! みんながみんなそんな大仰に告って告られて〜みたいなことやってるわけないじゃん!」
     エースだって『姉妹』の二人が恋人のように特別な扱いをされることは当然知っている。エースの姉……姉妹制度の方ではなく七歳年上の実姉は、このハーツラビュル寮のOGなのだ。入学前から事細かに話を聞いていた。
     ケイトの申し出を受け入れたのは、別にケイトに対して特別な感情があったわけではない。ただ、ノリが似ているから気が合いそうだとか。見るからに緩くて厳しくなさそうで、姉妹になったら気楽そうだとか。深く踏み込まず、明るく楽しくの人間関係でいたいと思ってる部分を感じ取っての了承だった。
     それに姉妹になっていれば、周りからは一目置かれる。びっくりするくらい軽い口調で申し出てきたケイトだって、エースを選んだ理由は殆ど同じだろう。互いにとって都合が良い、利害関係の一致だとなんとなく察し合い、理解して結んだ契りだ。
    「そ、そうなのか……。すまない、僕は今までダチと恋バナみたいな話をしたことがなくて、その、憧れてたから……勝手に一人で盛り上がっちまった……」
     あからさまにしゅんとなるデュースに、エースは「まー良いけどさぁ」と肩に掛かるテラコッタの髪をかき上げる。
    「でも、やっぱり姉がいるってのは羨ましいな。僕も姉になって欲しい先輩がいるんだが……すごくモテるっていうか、みんなの憧れで人気者だから……僕なんかが妹にして欲しいなんて申し出ていいのか悩んじまって……」
    「あー、トレイ先輩だろ? あの人年下女子にモテる女子っつーか、包容力っての? 面倒見が良くて世話焼きだし、頼り甲斐があるせいで一年生の心ナチュラルに掴んでるもんな〜」
     確かにトレイに姉になって欲しいと思っている下級生は多い。だが、当の本人であるトレイは『俺はハーツラビュルの副寮長、みんなの姉だぞ』というスタンスを崩さないのだ。我こそは空いているトレイの妹ポジションに、と狙う下級生が数多いるのはエースも耳にしていた。
     デュースもトレイに対して、何やら特別な感情を向けているだろうことはなんとなく察していたのだが。エースの言葉を聞いたデュースはぎょっと度肝を抜かれたように狼狽えた。
    「んなっ!? な、なななんで……なんでクローバー先輩だって分かったんだ!?」
     エース、人の心が読める魔法でも使ったのか!? と素っ頓狂な声を上げている。エースは呆れて額に軽めのデコピンをピシピシと食らわせる。
    「ばぁーか、魔法なんか使わなくたってデュース見てりゃわかるっつーの。態度に出すぎ! わかりやすすぎ〜!」
    「いっ! うぅ……そんなに出ちまってるのか……」
     額を抑えてデュースは俯く。エースの察しが良いのもあるが、純粋で素直な性格のデュースはトレイに対して明らかに好意が隠しきれていないのだ。
     あれでよく隠せているつもりでいるなと呆れつつ、俯いたままのデュースにエースは小さくため息を吐く。しょぼくれたデュースなんて張り合いがない。仕方ないからコイツが憧れてる『恋バナみたいなの』の一つでもノってやるか。
    「で? なんでトレイ先輩に姉になって欲しいワケ?」
    「……僕が昔ヤンチャしてた話はエースにもしたよな?」
     ちらり、サラサラの前髪から覗くピーコックグリーンの瞳にああ、と頷く。
    「デュースちゃんが元ヤンレディースの総長で、盛大に脱色した金髪でブイブイいわせて、マジホイに乗り回しながら鉄バット振り回して、舎弟が百人くらいいて、売られた喧嘩は男だろうが女だろうが買う地元じゃ負け知らずだった話ね〜」
    「おいコラ話を勝手に盛るな! そこまでじゃなかった……はずだ!」
     はずってなんだよ、胸を張るとこ間違ってんぞ、というツッコミをエースはすんでのことろで飲み込む。
    「はいはい、それで?」
    「……まあ、それで今は改心してちゃんと優等生になろうって、お淑やかになろうって頑張ってるんだが……その、なかなか上手くいかないし、勉強も今までサボってた分のツケが回ってて……クローバー先輩に相談したんだ。先輩は親身になって聞いてくれて。勉強を教えて欲しいって泣きついた時も最初はびっくりした顔をしてたんだけど、僕が分かるまで根気よく教えてくれて。いつも、忙しい合間を縫って付き合ってくれるんだ。優しくて面倒見が良くて……僕もいつか、あんなふうになりたいって思う。先輩と姉妹になって、もっと近付きたい」
    「ふぅん……ま、頑張れよ。上手くいったら教えろよなー」
     自分で聞いておいたくせに途中で飽きていたエースは、再び自分のベッドにごろんと寝そべる。見下ろすデュースはというと、生真面目に「ああ、わかった」と拳を胸元に当てて頷いていた。
     ……デュースは「自分なんかが〜」とか言ってたけどさ。オレから見たらトレイ先輩も結構デュースのこと特別に見てる気するけどねー。
     監督生と一緒になってデュースと戯れ合っている時に、なにやら視線を感じて振り返ればトレイだった、なんてことが今までに一度や二度じゃない。その度に「はは、お前たちは本当に仲良しだなぁ」なんて穏やかにトレイは笑って話しかけてくる。が、眼鏡の奥の瞳が笑っていないのをエースは確かに感じ取っていた。
     意外と脈アリでは、と口には出さず心の中だけで呟くに止めたのは、自分にはない熱量で語るデュースがほんのちょっぴりだけ羨ましい、なんて思ってしまったから。
     自身の心には見ないふりでエースは寝返りを打つ。左胸でほんのりと光を灯すバラのブローチに無意識にそっと触れていた。


     ……あれから二週間。ケイトとの姉妹関係は良好で、毎日は至って楽しい。
     同じ末っ子同士だったが、ケイトは意外と世話焼きで何かとエースを可愛い可愛いと甘やかしてきた。
     休み時間などに出くわすと必ずと言っていいほど「あ、エースちゃんだ〜、おいでおいで〜」なんて笑顔で手招きされる。ついていけば、餌付けのように「これ新作のやつなんだよ〜食べる?」なんて菓子を与えられる。それから自分では出来ないようなヘアアレンジで髪を結ってくれたり、「マジカメで見た流行りのメイクしてあげる♪」とささっと取り出したメイク道具で可愛く粧してくれたりする。
     数分間のお喋りの間に、ケイトの手で可愛く飾り立てるのは悪い気はしなくて。むしろ自分を愛おしいものを眺めるように、垂れ目の瞳を窄めてくるケイトを見るのがエースは好きだった。
     甘いものが苦手なくせに、自分に与えるためだけに常に小さな菓子を持ち歩いていることも。可愛がられて甘やかされていることが単純に嬉しかった。
     夜にケイトの部屋に遊びに行って、他愛のない話をしながら消灯時刻ギリギリまで過ごす日も多い。
     先週の休日はお互い予定が空いていたため、麓の街まで一緒に出掛けた。流行りやバズりに詳しいケイトとするショッピングは楽しく、互いに似合う服をコーディネートして選び合い、試着してはしゃぎ合った。ケイトお勧めのカフェでランチをして、チェーン店のコーヒーショップで門限まで時間を忘れてお喋りをして、すっかりご満悦で帰寮したのだ。
     ……そう、毎日は至って楽しい。最初の頃はエースだって特に何の疑問も持たずにいた。だがここ最近、少しずつ胸にモヤモヤとしたわだかまりが増えてきている。


    「なぁエース聞いてくれよ!」
     自室の扉を開けた途端、待ち構えていたようにデュースから声が掛かる。全く、ただいまの一言くらい言わせてくれとエースはわかりやすく眉を顰めた。
    「……はいはーい、今度はなーにー?」
     制服から寮服へと着替えるエースの後ろ、頬を紅潮させたデュースは満面の笑みでついてくる。まるで尻尾をぶんぶんと振り回して喜び勇む犬のようだ。
     対するエースはというと、内心で思い切り舌打ちをする。上手くいったら教えろとは言ったものの、ほぼ毎日のようにいちいちトレイとの進展具合を報告してくるデュースに若干うんざりしているのだ。
     デュースから嬉々として語られるのは、いつものようにトレイに勉強を教えてもらっただの、今日はトレイとどんな会話をしただのという取るに足らない話だ。
    「エースも相変わらずダイヤモンド先輩と仲良しだな! ダイヤモンド先輩のマジカメ見たぞ、今日もいっぱい写真上がってたもんな!」
     適当に相槌を打って一通り聞き流していたエースだが、続けられたデュースの言葉にぴくんっと眉をしならせる。
     一瞬の沈黙の後に「あー……うん、まぁねー」と間延びした声での返答。デュースはエースの様子が常と違うことには気付いてはいない。
     ケイトのマジカメに上がる写真。それこそが、ここ最近エースのモヤモヤを形成する悩みの種なのだ。
     ケイトは何かと可愛い可愛いとエースを甘やかすのと同じだけ、事あるごとにエースとのツーショットをマジカメにアップする。『#姉妹制度 #今日の姉妹ツーショ #けーちゃんの可愛い妹ちゃん♡』を始めとした沢山のタグ付けされた投稿は、一日のうちに何度も頻繁に繰り返される。まるでバズらせるための仲良しアピールをしているようで、エースは無性に腹立たしい気持ちになっていた。
     ……元々SNS中毒だとは思ってたけどさぁ……あんまりにもあからさまっつーか……。オレのこと、姉妹制度利用して承認欲求を満たすための道具だと思ってんのかな……だったら別に、オレじゃなくてもいーんじゃん……。
     胸中を渦巻く不審感が呼び水になって、どんどんとマイナス思考に囚われていく。元々お互いにとって都合の良い、利害関係の一致で始まった姉妹関係だ。特別な感情なんてない、後腐れのない関係のはず。ケイトのことを責める理由なんてないはずで、傷つくことだってないはずなのに。
     与えられる菓子や施されるメイクなども、ケイトから向けられる全てがバズりのための小道具なのかと思うと悲しくて、腹立たしくて、悔しい。それを無邪気に喜んでいた自分も馬鹿みたいだ。
     どうしてこんなにモヤモヤするのか、自分自身の感情が理解できずに唇を噛み締める。エースの心の中など知らないデュースは、弾んだ声で更に笑いかけてきた。
    「それで、今日は夜にクローバー先輩と二人でエッグタルトを作る予定なんだ! 僕が卵が好きだって言ったら一緒に作ろうって先輩から誘ってくれて……そうだ、 上手く出来たらエースにもお裾分けするな!」
    「…………」
     あーあ……。いいな、デュースは。きっと、トレイ先輩から本気で想われている。嘘で固められた仲良しごっこしてるオレ達なんかとは違って、本気で。
     嫉妬と羨望で目の前が眩んで、デュースを羨んでる事自体認めたくなくて。とてもデュースの方を見ていられず、俯く先で自分のスニーカーのつま先ばかりを睨みつける。
     喉がカラカラに渇いて、握り込んだ掌に刺さる爪が痛い。
     もう姉妹関係だろうが恋人同士だろうが、なんでもいいからさっさとくっついちゃえばいいだろ。当て付けみたいでホントに毎回毎回さぁ……
    「……うっざ」
    「えっ……? ど、どうしたんだエース?」
     気付いた時にはポロリと口から本音が溢れていた。ようやくエースの様子がおかしいことに気づき、デュースはぱちぱちと目を瞬かせる。ぱっと顔を上げたエースはデュースを思い切り睨みつけた。
    「お前のトレイ先輩と上手くいってます〜アピールがうざいって言ってんの! どんだけ仲良くしてようがトレイ先輩とは姉妹関係でもないくせに! 自分から姉になって欲しいって言い出す勇気もない負け犬がキャンキャンキャンキャンうるせーんだわ、調子乗ってんじゃねーよ、バァーカ!」
    「なっ! なんでテメェにそんな言い方されなきゃなんねぇんだよ! あぁ!?」
     ブチッと額に青筋を浮かべたデュースの手で胸ぐらを掴まれる。勢いよく寮服の胸元を捻り上げられたせいで、エースはつんのめるようにつま先立ちになった。締まる首元に息が詰まって喉が苦しい。
     何より……ヤンキー時代そのもののガン付けと、地を這うようなドスの効いた低い声。デュースが纏う暴力的な迫力にエースは内心酷く動揺し、竦み上がっていた。だが、今更後には引くわけにはいかない。更に煽るように顎を逸らし、挑発的に鼻で笑い飛ばしてみせる。
    「あは、なに……オレのこと殴んの? すぐ手が出て暴力で解決しようとする癖って治んないんだねー。お淑やかな優等生になるんだーとか言ってたのはどこの誰ですかぁ? トレイ先輩が知ったらどう思うんだろうね?」
     トレイの名を出した瞬間、ピーコックグリーンの瞳が俄かに見開かれ、ぐらぐらと揺らぐ。ギリッと奥歯を噛み締めた後で、デュースは無言のままエースの胸元から手を離した。急に突き放された勢いでエースはよろめき床にべちゃんと尻もちをつく。
    「っ、痛ってーな……くそが……!」
     痛みに顔を顰めて睨み上げれば見下ろすデュースの瞳は冷たい。ふん、と息を吐き捨てて、エースは立ち上がると自室のドアから飛び出していく。
     むっかつく! なんだよアイツ……!
     煮え立つようにムカムカとする腹立たしさを抱えて、荒々しく廊下を歩く。無意識のうちにやってきていたのはケイトの部屋の前だった。
     荒ぶる感情のまま強めにゴンゴンとノックをすれば、少しの間があいてケイトが驚いたように扉から顔を覗かせた。
    「わ、エースちゃんかー、どうしちゃったの? なんかあった?」
     なになに、お顔が怖いよ〜? キュートなエースちゃんが台無しじゃん〜? なんて冗談めかして笑いながら、ケイトは廊下まで出てくる。柔らかく両手で頬を包み込まれ、温かさに少しだけ気が緩んでいると手を引かれて部屋の中へといざなわれた。
    「監督生ちゃんかデュースちゃんと喧嘩でもしちゃったの〜?」
    「…………そんなとこ」
     むすりと答えるエースの頭を、ケイトは眉を下げてよしよしと撫でつける。
    「そかそかぁ……色々あるよねー。大丈夫、きっとすぐ仲直りできるよぉー」
     落ち着かせるように両肩を押されてベッドへと座らされる。優しく微笑まれながらよしよしと宥められているうちに、ささくれ立った心は少しずつ落ち着いていた。
     ……そうだよ、オレだってちゃんとケイト先輩から想われてるし。こうやって急に部屋に押し掛けて来たって受け入れてくれるし、甘やかしてくれるもん。オレだけの姉だもん。オレはちゃんと先輩の特別だもん。
     言い聞かせるエースの隣に座ったケイトは「うんうん♪ いつものエースちゃんに戻ったね〜」と笑って肩を抱いてくる。それからおもむろに取り出したスマホを掲げた。
    「それじゃ、せっかくだしけーちゃんのお部屋に遊びにきてくれたエースちゃんと記念に一枚〜☆ っと!」
     そのままパシャリと切られるシャッターに、え、と戸惑う。向けられたカメラには条件反射で思わず顔を向けてしまったけれど、心の中には再び暗雲が立ち込め始めていた。
    「うん、今日もかーわいっ♡」
     機嫌良くニコニコと撮った写真を加工し始めるケイトの様子に、余計に何も言えなくなってしまって。例の如くたくさんのタグ付けをされた写真がマジカメに投稿されるのを、唇を噛み締めて黙って見つめる。
    「ねね、ほら見てー、もういいねついたよ。エースちゃんとの姉妹の写真上げるとすっごく反応良いんだよね〜。ほんと姉妹制度ってサイコ〜!」
     けれども笑顔で吐き出されたその台詞だけは、どうしても聞き流すことが出来なかった。エースの中で今まで降り積もっていた鬱憤が一気に膨れ上がり、ブチンと鈍い音を立てて破裂する。
    「……なにそれ」
    「えっ?」
    「……先輩って、結局それなんだ」
    「え、なぁに? どしたのエースちゃん……?」
    「……もーいい。やめる。オレもう、ケイト先輩の妹なんか今すぐやめるからっ!」
     ケイトの問いかけには答えず、立ち上がり鋭く吐き捨てた突然のエースの言葉に、ケイトは驚いたようにリーフグリーンの瞳を見開いた。けれどもすぐさま困ったように眉を寄せて取り繕ってくる。
    「えぇえっ!? ちょ、ちょっと待ってよぉ、エースちゃん急にどうしちゃったの? そんなこと言わないでー……けーちゃん悲しいよぉー……?」
     大袈裟な仕草で焦ったようにぱたぱたとエースの正面に回り込む。顔を覗き込んでくるケイトからはふわりと淡く香水が香る。さっぱりと甘くないビターな檸檬の香り。見た目の華やかさや派手さよりも随分と控えめな、微かな存在だけを残して去っていく、ケイトの纏う匂いが密かにずっと好きだった。
     振り切るようにふいっと顔を背ければ、細くて滑らかな手に両手を握られてゆらゆらと揺らされる。その度にケイトの腰まである緩やかなロングヘアーもふわふわと揺れる。幼い子をあやすような仕草に更に苛つき、エースは握られた掌を力任せに振り払った。
    「っ、言っとくけど本気だからっ!妹との写真撮っていいね稼ぎしたいだけのくせに! 別にオレじゃなくたって誰だっていいんでしょ!」
     自分で口にしながら胸が潰れそうに苦しい。誰でもいいんじゃなくて、オレがいいって、エースちゃんじゃなきゃダメなんだって思って欲しかった。そう考えている自分に気付いて初めて、思っていたよりもずっとケイトのことを好きだったのだと知ってしまった。
    「いいね稼ぎなんて……そんなつもりじゃないんだよぉー……」
     困った笑顔のままで、髪をよしよしと優しく撫でられる。両サイドを編み込んでリボンで結えた髪型は、今朝ケイトがセットしてくれたものだ。チェック柄のリボンはこの間の休日にアクセサリーショップでお揃いにしようと買ったもの。エースのチェリー色と色違いのオレンジは、ケイトの後ろ髪に留められている。
     一緒に選び合った時の笑顔も楽しかった気持ちも、仲良しごっこと映えのために消費されるものでしかなかったんだ。じわりと浮かんできた涙の膜で目の前が滲んで烟っていく。泣いてるのなんて無様でみっともなくて、見せたくないと俯く。
    「……ね、大丈夫? ちょっと落ち着こ?」
     こんなに心が張り裂けそうでぐちゃぐちゃになっているというのに。ケイトは落ち着いた態度を崩すことなく自分を慰めてくる。
     年上の余裕を見せつけられているようでますます癪に障る。いっそのことショックを受けてくれたら多少は胸がすくかもしれないのに。これじゃ泣いて喚いて駄々を捏ねて、自分が一人で癇癪を起こしているみたいだ。
    「……しらない。もういいもん、別の姉になってくれる先輩探すから。オレのブローチ返してよ」
     ……本当は別の先輩を探すつもりなんて、微塵もないけど。
     声が微かに潤んで震えてしまったのに気付かないフリで、自身の胸元のブローチを外そうと手を掛ける。耐えきれずとうとう溢れた涙がぽたりと手の甲に落ちた途端。ぐいっと強い力で腕を引かれる。
     驚く間もなく、そのまま両肩を勢いよく押されてぐるりと視界が回った。背中に走る衝動と共に身体がスプリングの上で大きく跳ねる。
     背後のベッドに押し倒されたのだと理解して顔を上げれば、ケイトが無言で上に乗り上げていた。シーツに縫い止めるようにきつく掴まれた両手首が痛い。
     顔を顰めて思い切り睨みつけようとしたところで、エースは小さく息を飲んだ。逆光の中、普段の飄々とした笑顔の消えた暗い瞳。今までに見た事のない、しんと冷え切った顔だった。
    「……ダメだから。そんなの許さない。エースちゃんはオレの妹でしょ?他の子の妹になるなんて許さない。オレじゃない子の妹になるなんて……絶対に絶対に許さない……!」
     言い終えると同時に逃がさないと言うようにぎゅうっと力強く抱きしめられた。胸部の柔らかさと体温、ドクドクと脈打つ鼓動の速さが伝わってくる。こんなにも切羽詰まったような、傷ついたようなケイトの姿なんて知らない。
     今までずっと、広く浅くの人間関係しか築いて来なかったケイトから、剥き出しの感情をぶつけられている。独占欲を、向けられている。その事実にさっきまでとは別の感情で胸が締め付けられて苦しくなって。つられたように心臓が早鐘を打ち始める。
     ……なんで。なんでそんな顔すんの? もしかしなくても、先輩もオレとおんなじように思ってるの……?
     力強く抱きしめられた腕の中、ぱちぱちと瞬きを繰り返せば、睫毛に乗っていた雫が頬に散る。それこそ今にも泣き出しそうな、くぐもった声で。唸るようにケイトの言葉が耳元で響いてくる。
    「……エースちゃんとの写真をたくさん上げるのは、みんなに『みてみて〜! オレの妹ちゃん可愛いでしょ!』って見せつけるためなんだよ? オレのだから絶対にとっちゃダメ! って世界中の人に見せつけてマウントとって牽制してんの。……ね、オレの言ってること、わかんないかなぁ?」
     最後だけ、ゾクゾクするような甘く掠れた囁き。吹き込まれた言葉が脳内にじわじわ染み渡る。普段の良く回る口がウソみたいに、言葉が全く出てこない。心臓がキュウッと苦しくて、鼓動がドキドキ煩い。
    「…………、これでわかんないとか、オレ、そこまでバカじゃないもん……」
     ようやくぽそりと出てきた言葉はそんな可愛くないもので。けれど顔を上げたケイトは可笑しそうに肩を揺らして笑うと、エースの両頬を手で挟み込んでくる。至近距離で視線を重ねて、拗ねたように尖らせている唇に柔らかく唇が重ねられた。
    「…………ごめんね。いっぱい不安にさせちゃってたんだね」
     唇を離し、真剣な声色で小さく呟かれるのに、ふるふると首を横に振る。
    「……もういーよ。ちゃんとわかったもん」
     充分、わかったから。ケイトからどれだけ強く想われているのかも。自分がケイトをどう思っているのかも。
     微笑んだケイトは眦から溢れた涙の跡を辿るようにちゅ、ちゅ、と柔らかく唇を押し当ててくる。くすぐったくて身を捩り、エースはくすくすと肩を揺らした。
    「あーあ、可愛くて大事なエースちゃんのこと泣かせちゃった。やらかしけーちゃん反省会だな〜」
    「……泣いてないし」
     バレバレだとはわかりつつもぷうっと頬を膨らませてみせる。嘘つき〜と可笑しそうにケイトは指先でエースの頬をつついて。上から退くように起き上がった。
    「スート溶けちゃってる。メイク直したげるね」
    「ん……」
     腕を引いて起こしてくるケイトにこくりと頷けば、唐突にぎゅっと抱きしめられる。先程までとは違う、激しさや必死さのない、あくまで包み込むような優しい抱擁だ。
    「……エースちゃん、すき。だいすきだよ……」
     けれども次いで告げられた、誰にも渡さない、という言葉は確かにエースを縛り離れていかなくさせる、魔法みたいな響きで。こきゅ、と唾液を飲み下すとエースもケイトのピアスの付けられた耳たぶを手で覆う。
    「……オレも、すき。けーちゃんだいすき……」
     誰にも渡さないもん、と同じように返して。重なる胸元では二つ分の心音に呼応するように、薔薇のブローチが淡く光を放っていた。



    「女の子同士だとさ、手ぇ繋いで歩いてても仲良しだから〜って許されちゃう感あるよね♪」
    「まぁそーだけど……寮の廊下でまですることなくない?」
     なんてぶつぶつ言いながらもお互い気持ちを確かめ合ったことで少々浮かれていたため、エースは絡められたケイトの手を好きにさせていた。
     あの後、涙で崩れてしまったメイクを直してもらって。自室に戻りデュースに謝ろうとするエースに何故かケイトはついてくると言い出したのだ。
     曰く、「ちゃんとデュースちゃんと仲直り出来るか、姉として見守っててあげる♪」とのことだけれど。エレメンタリースクールの子供じゃないんだから……と反発したくもなる。
     ご機嫌なケイトと裏腹に頬を膨らませながら階段を降り、一年の寮生の部屋が並ぶフロアへと足を踏み入れた時だった。
    「あれ、エース! ダイヤモンド先輩も!」
    「デュース……」
     ばったりと出くわしたのは今まさに顔を合わせようとしていたデュース本人だ。エースとケイトを交互に見つめた後で、繋がれた二人の手に視線を落としてくるデュースにエースは慌ててぱっと繋いでいた手を離した。
    「……ほら、エースちゃん」
     小声で促すようにケイトに肩を押され、一つ息を吐き出して。エースはデュースの前へと歩み出た。
    「……その……さっきはごめん。ケイト先輩とちょっとだけ上手くいってなくて……八つ当たりした……」
     気まずさから俯いて、ボソボソと謝罪を口にする。デュースはぱちぱちと目を瞬かせると、屈託のない笑顔を向けてきた。
    「いや、僕の方こそ自分のことでいっぱいいっぱいになっちまって……エースの都合も考えずに悪かったな。ダイヤモンド先輩とは今は上手くいったんだろ? 良かったじゃないか!」
    「……ん。へへ、まーね」
     純粋で無邪気なデュースにつられて小さく笑えば、デュースは何やら目の前できゅっと両拳を握り締める。
    「僕も、エースに負け犬だって言われて目が覚めたんだ! 嫌われたくないって最初からビビって尻尾巻いて諦めてるなんてダセーよな! ダメ元かもしれないが今からクローバー先輩に姉になって欲しいって申し込んでくるつもりだ!」
     ッシャア! と意気込んで自分の胸を拳で叩くデュース。まるで決闘の申し込みをするかの勢いに少々呆気に取られつつも、エースは笑ってデュースの肩を叩いた。
    「そっか、頑張れよ」
    「ふふ、デュースちゃんガンバ〜!」
     後ろで見守っていたケイトもデュースに向けて両手を振り笑顔で声援を送る。
    「押忍! あざますっ! 行ってきやす!」
     ぐっと拳を掲げて颯爽と身を翻し、ハーツラビュル寮キッチンへと向かうデュース。戦いに挑む選手のような後ろ姿を二人して見送る。
    「……ンン〜、デュースちゃんはああ言ってたけどさ、トレイくんってもう既にデュースちゃんにベタ惚れって感じなんだよね〜」
    「あ、やっぱそーなんだ」
     デュースの姿が見えなくなったところで、口を開いたのはケイトだ。顔の横に垂れてきた毛束をいじいじと指で弄りながら苦笑するのにエースも笑って振り返る。
    「そー。てか逆にトレイくんの愛が重すぎてさ、けーちゃんちょっと心配〜。デュースちゃん大丈夫かな〜……」
    「ま、あの二人のことは首突っ込むだけ野暮ってもんでしょー。……それに愛が重すぎんのはどっかの誰かさんもわりと人のこと言えないと思うけどぉー?」
    「えーっ? 誰のことか知らないけど、その妹ちゃんも大概だとオレは思うなぁ〜?」
     ぐいぐい肘で牽制し合った末に肩を揺らして笑い合って。再び繋ぎあった手を揺らしながら、二人はケイトの部屋へと向けて戻って行った。
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    Replies from the creator

    ほしみや

    MAIKINGトレデュとケイエーの女体化百合のお話。
    (途中まで。続きを書いたら増えます)
    ※ナイトレイブンカレッジが女子校
    ※全員女の子
    ※ハーツラビュル寮にのみ姉妹制度がある
    という捏造設定です。
    書きたいエピソードがいくつかあるので、全てを書き終わったら手直しをしてまとめてpixivにアップする予定です。
    (こちらは以前、エース受けワンライで書いたにょたゆりケイエーちゃんのSSが元になっています)
    トランプ兵達の秘密の花園【始まりの話】

     ハーツラビュル寮には、いわゆる姉妹制度というものが存在する。ナイトレイブンカレッジの中でハーツラビュル寮にのみ存在する制度だ。
     なにしろトランプ兵たちは覚えることが多い。全810条にも及ぶ女王の法律を始め、独特の規律、『なんでもない日』のパーティーは準備から片付けに至るまで事細かにルールが決まっている。入学したての一年生などは毎年困惑し、戸惑ってしまう。
     そのため、いつしか上級生が下級生と擬似的に『姉妹』になるという制度が生まれ、伝統として根付いていた。日常生活から姉である上級生が下級生の世話を焼き、教えを伝え、規律と秩序を守るのが目的とされている。
     姉妹になるための方法は主に二通り。上級生が気に入った下級生へ妹にならないか誘うか、あるいは逆に下級生が姉になって欲しい上級生に申し出るか。
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