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    sima

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    sima

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    Δドラロナで人魚パロ。人間Δド×鮫人魚Δロ。

    ちなみにΔロは全部知ってる。知った上でなんにも言われないのは何でかなぁ、って思ってる。
    お前は俺に、なんにも望んでくれない。…人間って、人魚が好きって聞いたんだけどなぁ。

    泡沫は恋をする チリンチリーンと坂道を自転車で駆け降りる。
     道ゆく観光客はこんな裏の住宅街まで来ないからか道行きは快適だ。潮風を肌で感じながら、ドラルクは道に並ぶ昔ながらの駄菓子屋をなんとはなしに見た。
    「あ、っつぅーい。しぬぅ。やだぁこんなしにかた、かっこよくないぃ……」
     金ダライに、何かがべちゃりと伏せていた。
    「んん? あれ、なんでどらこぉのにおい……、あ、どらこーじゃん! やっほー!」
     伏せていた、やる気のないあざらしのような何かががばりと顔を上げる。ドラルクは思わず自転車を止めて額を抑えた。
    「……きみ、何やってるのここで」
    「売られてる」
    「バカじゃん」
     輝く銀髪を揺らしてこてりとそれが首を傾げる。金ダライに入り切っていない、灰色の尻尾がぱしゃりと水面を叩いた。
     ドラルクは、人魚に好かれている。しかも物語と違って人間の足をくれる相手がいない人魚に、だ。足がないので地上に出れず、地上に出れないので人間のドラルクに会うことができない。結果ロナルドと名乗るこの鮫肌の人魚は、定期的にこの近辺の漁港に引っ掛かるようになった。売ってくれ! だの飾ってくれ! だの終いにゃなんでも良いから陸に連れてってくれ! だの言い募る人魚は、たぶんどこの童話を眺めてもこの子だけなことだろう。どこへ行ってもわりとドラルクと鉢合わせるのは、なかなかの強運だと思わなくもない。
    「あぁお兄さん、この子が気になるのかい?」
    「気になるって言うか……、はい、えぇまぁ」
     気になるというか知人だ。知魚か? ドラルクは頷いた。
    「そうかい。今朝方網に引っ掛かってた子でね。連れてってくれと言うから連れて来たんだが、ウチには金ダライくらいしかないもんで。氷ももう在庫が尽きちまって海に帰れと言っとるんだが、この調子でさ」
    「帰らねぇ! せっかく久々に来れたのに!」
     ぱちゃぱちゃと尾鰭が水を叩くが、その水もこの炎天下で子供の水遊びくらいの量しか残っていない。真白く滑らかな肌は徐々にかさついてきているし、吐く息は明らかに高揚とは別種の熱が混ざり始めている。
    「他人様に迷惑かけるんじゃありません! ほら、もう干上がりかけてるじゃないか」
    「おう! わりとやばい」
    「帰れ」
    「帰らない! なぁお前今日朝飯食った? 煮魚とか好き?」
    「ねぇもしかして私、商品から食うのを強要される感じ?」
    「買って!」
    「買わない!!」
    「なんで!」
    「なんでも!!」
     言い合う姿にもうこれは預けていいだろうと判断したのか、店主のお婆さんが奥からからからと荷台を引いてくる。
    「お兄さん、知り合いみたいだからね。お金はいらないよ、この子が干し魚になる前に連れてってあげな」
     何度目かの水が足された金ダライが、どんと荷台へと置かれる。
    「……な、な! ドラ公!」
     こう言ってるし、いいよな?
     荷台の持ち手を寄越される。足元できらきらした赤い目が、とっても嬉しいです! とばかりにドラルクを射た。こうなってしまうと、もうどうにもならない。ドラルクは渋々と両手をあげた。
    「……わかった、わかったよ。降参だ。でも一日だけだからね? それが終わったら、また海に返すから」
    「おう! それでもいいぜ!」
     お婆さんに礼を言って、ついでに自転車に金ダライは乗らなかったので自転車を止めさせてもらって、ドラルクは荷台を押した。降りて来た坂道を、今度は登っていく。
    「ところでロナルドくん。今日はいったい、どれくらいの人が君をお買い求めに?」
     ぴょこん、と銀の癖っ毛が跳ねる。陽光が弾けて、辺りに散る。
    「うー、んー、買ってくれたのはお前ひとり! 興味持ってたのはー、えっとー、三人くらい? ちょっと跳ねてやったら威勢が良すぎる! ってビビって逃げてったけど」
    「ばっしゃばしゃだったもんな、あの周り。今日は意外と多いんだね?」
    「喉の調子が、良くなくて」
     んん、んっ、と人魚が咳払いする。そりゃ、道理で。
     人魚は歌で人を惑わすという。例に漏れずこの人魚もそうであるようで、その歌は人の記憶をいじれるらしい。対象、加減もこの子の気分ひとつ。港にかかるたびに騒ぎにならないのは常に微弱なノイズを出しているからで、さてドラルクが今、その被害に合っていないのはひとえに彼の気遣いゆえだった。曰く、好きなヒトに使うのはダメだろ、ズルじゃん。とのことらしい。変なところで真面目な人魚だ。
    「でも、調子が良くないなら帰ろうか? ノイズが途中で切れても困るし」
     からからと台車を引きながらドラルクがそう言えば、ばちゃりと金ダライが跳ねた。やめろやめろ、また中身がすっからかんになったらどうするんだ。
    「い、いける! 問題ねぇ!! というかむしろ、ここで返すってんならノイズ消してやる……!!」
    「脅すなバカ。それやるなよ? いやほんとにやるなよ? フリじゃないからな? 街中に急に綺麗なUMAとそれ引くおっさんが現れてみろ、普通に通報案件だからな」
    「へへ、綺麗なUMA……」
    「照れるな、褒めとらん。ほら、そうなったら君だって困るだろ。少なくとも、もう私とは会えんぞ」
    「そ、それは困る……。あ、でも別に強がってはねぇから! 本当に大丈夫だ、家に着くまで程度なら余裕で持つ」
    「……本当?」
    「ほんとう!」
    「そう。じゃあよろしく頼むね」
    「おう!」
     まかせとけ! と胸を叩いた人魚がこほん、と咳払いするのに合わせて、ドラルクは耳栓を付けた。ここから住宅地に向け人通りは多くなる。ノイズの声量が上がるので一応、というやつだ。
     からからと台車を引く。徐々に海辺の景色からは離れていく。台車に乗った人魚は朗々と歌っている。ドラルクがその歌声を聞くことは今後ともないが、それはとても綺麗な音色なのだろうな、と思った。歌う姿がこんなにも、美しいのだから。
     頭の中で今後の予定を組み立てながら、ドラルクは考える。
     何度来るなと言っても来てしまう人魚は、どうやら本気でドラルクのことが好きらしい。ならば嫌われればと一度刃物で軽く脅したこともあるが、嬉しそうな顔で喜ばれてしまっては意味がない。ほんとにない。
    『――経過は良好。引き続き監視と懐柔を続行せよ』
     人魚、というイキモノがいる。それは海の底にいて、嵐を起こして、船を転覆させる。人を惑わして、引き摺り込んで、殺してしまう。
     一度、大規模な戦闘があった。恐ろしくも美しい生き物は、資源としてはあまりに魅力的だったから。
     海洋のど真ん中に穴が空いたという。嵐が吹き荒れ、船は紙風船のように飛び、嵐の中心で人魚は愉しげにわらった。海が誰のものであるのか、自分たちは何であるかの証左だった。
     潮風が吹いた。乱れた髪が頬を撫でる。
     海を統べる王は、今日も上機嫌に金ダライの中で歌っている。水が溢れるのも気にせずに体を左右に揺らして、嬉しそうに。
     ドラルクは、彼とあまり関わりたくなかった。距離を取りたかったし、可能ならもう金輪際繋がりを持ちたくなかった。
    『ドラルク、君は素晴らしい! あの不死の王に好かれるだなんて!』
     人魚を連れてこい、とドラルクの上司たちは言った。一度は逃した獲物が帰ってきたのだ、しかもソレは研究員に惚れ込んでいる! 利用しない手はなかった。研究所は大盛り上がりだった。なんであれアレは機器を壊すだろう。拘束具も解体道具も関係ない。彼の前ではどれも脆いおもちゃだ。一秒とて持ちはすまい。だが、それに気に入りの相手がいるのなら? そいつのためならば? 彼は喜んですべて受け入れることだろう。ドラルクはよく知っている。お前のためなら喰われるのだって怖くない、望むのならばなんだって! そう言った嬉しげな顔を覚えている。
     やめて欲しかった。まるで御免被る。
     誰のおかげで今、ドラルクがか弱い胃を痛めていると思っている。策を弄して時間を伸ばして、言い訳をいくつもドミノのように並べ立てていると思っている。見つからなければ、なかったことと同じなのに。そうほいほいと、きて。ああ、いやだな。すごくいやだ。だってきみ、きみは、……あれ?
     ん、と銀の頭が跳ねた。
     信号待ちの横断歩道、勝手に横を人々がすり抜けていく中で、ロナルドが嬉しそうに顔を上げる。白い、滑らかな指先が対岸を指差した。
    『なぁドラ公! 新しい店出てる! あれ、ばななの絵だろ、だよな!?』
     ぱっと振り向いて向けられた笑顔に、ドラルクはふと気がついた。あ、なるほど。
    『……懐柔には、まだ時間が必要です。皆様におかれましても、二度は逃されたくないかと思われますが』
    (絆されてたのは、私か)
     ああ、嫌だったのは。わざわざ七面倒な手回しばかりに頭を悩ませていたのは。君が、害されるのが不愉快だったのは。私が、君に。
    『な、な! あれ食べたい! なぁどらこー! ……ドラルク?』
     返事がないのを不審に思ったのか、ぱくぱくと口を動かしていたロナルドが眉を寄せる。指先が指していたのはクレープ屋の看板だ。大丈夫か、とその口が続く前に、大丈夫、聞いてたよとドラルクは返した。
    「クレープね。うん、後で作ってあげるとも」
    『作れんの!?』
    「作れるよ、なんだったらあれより豪華なものを作ってみせよう。……けどまずは、君を風呂場に入れてからね」
     いい? とドラルクが言えば、彼はこくこくと頷いた。
    『わかった! ありがとな、どらこー!』
     ぱっと、花が咲くように彼が笑う。
     いやはや、早めに気づけてよかった。なにせドラルクは生まれてこの方、この手のものに馴染みがなかったので。仕事に追われていると、どうにもそういう余裕がなくなるものだがそれもあんまりよくないらしい。本当、手遅れになる前でよかった。
    (……囲っちゃおう)
     帰れと言ってもダメなのだし。研究所に渡すのは論外だし。相手も自分を好きだというのなら、何も問題ないだろう。いやはや本当に。手遅れになる前に気づけてよかった。
     ドラルクの目の前で、ふんふ〜んと人魚は嬉しげに体を揺らしている。
    『くれーぷ〜! どらこーがつくったなんかすげぇくれーぷ〜!』
     美しい人魚を前に、かちゃかちゃと凄い勢いで今後の算段が組まれていく。
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