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    rr1ox

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    rr1ox

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    前世化物体質夢主のョョ名前変換小説です。お相手は💛予定。捏造や改変、近親相姦が含まれる場合がございます。

    主人公
    エレイン・ブランドー
    ディオの妹として生を受ける。金髪に琥珀の瞳、サラサラで髪は腰のあたりまで伸ばしている。
    前世化物体質(腕を切り落としても再生する)で生まれ、忌み嫌われてきた。原作知識あり。

    #ジョジョ夢
    jojoDream
    #JOJO夢

    ミッドナイト・プリンセス ぱちりと目が覚める。なんだか体が動かしづらい。私は死んだはずではなかったのだろうか? そっと腕を上げてみると、クリームパンのようにぷにぷにとした腕と小さな手が見えた。まるで赤ん坊のような手だ。ああ、やはり私は死んでしまっていたのだ。ほっとした反面、また生きなければならないのかという少しの不安。不安になってほぎゃあ、ほぎゃあと泣き声を上げた。赤ん坊だからか感情の制御が効かない。そういえば母親はどこにいるのだろうか。見当たらない不安も襲う。もしかして赤ん坊のまま死んでしまうのだろうか。

     ドタドタと急いで駆け寄ってくる気配がする。優しく頬に手が触れる感覚とともに、少し苛立った声がかけられた。

    「おい、うるさいぞ。さっさと泣きやめ。あのクズがあれるだろ」

     そう言われてもすぐに泣き止められるわけがないだろ! 赤ちゃんだぞ! と思いながら声の方を見やると、キラキラと輝くブロンドの髪に、美しい琥珀の瞳が目に飛び込んだ。四歳くらいの少年だろうか。きれい、だ。何処かで見たことあるような顔立ちだけれど、それよりもあまりの顔の綺麗さに泣き止んだ。赤ちゃんなのに泣き止めた。

    「フン、それでいい。おとなしくしておけよ」

     ふくよかな頬をツンツンとつついて「あぶ、ぅ」と声が漏れ出る。口は悪いが優しく微笑む顔にドキッとした。その表情を見て、ああ、この人は私の兄なんだと理解した。幼いながらに私が生まれて嬉しく思ってくれると良い。ああ、でも、前世持っていた特異な体質を今世は持っていないといいのだが。持っていたらきっと、私は気味悪がられ嫌われてしまうだろう。前回がそうだったように。もう考えるのはやめよう。悪い方向に考えがいってしまう。いっそのこと眠ってしまおうと思い目をつぶる。そう遠くない距離から、兄と別の人間が言い争う声が聞こえる。話の内容からしておそらく兄が言い争っている相手は父なのだろう。私はこの家でやっていけるのだろうか。せめて、父からの些細な逃れ方を赤ん坊に教えてくれた兄の支えになってあげたい。そう思いながら、意識は暗闇に沈んでいった。

    □□□

     あれから数年が過ぎた。優しかった母は亡くなり、兄とお互いを父から庇い合い、支え合いながら今日まで過ごしている。私の名前はエレイン。エレイン・ブランドー。そして兄の名前はディオ。そう、ディオ・ブランドー。驚いたことに、私はジョジョの奇妙な冒険の世界に、それも本来はいないはずのラスボスのディオの妹として生を受けたようだった。金髪に琥珀の瞳、だが髪質は兄とは似ておらずサラサラである。顔も兄のようなキツいツリ目ではなく、少しツッているくらい。今は兄とともに、亡き母のドレスを売りに行くところだ。本当は売りに行きたくない。優しかった母の遺品は既に何品か売られて残りは少なく、その中でも綺麗なものなのだ。残りは少ないと言ったが、もう最後の一つと言っても良い。

     兄の左手を強く、離れないように握りながらとぼとぼと道を歩く。兄の頬には涙の跡がある。クズの父親からドレスを売れと言われたときに流した涙だ。私も一緒に涙を流して、共に父を殺すことを決意した。兄がチェスやポーカーでイカサマをする手伝いをして稼いだ金で毒殺計画を立てている。もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐであのクズでどうしようもない人間失格の父親が死ぬ。もう少しの辛抱なのだ。

     貧民街でドレスを持ち歩く幼い少年少女は目立つらしい。ぐいと力強く、兄さんと繋いでいる手とは反対の腕を引かれて後ろに無理やり体が向く。己の背後にいたのは明らかにガラの悪い事がわかる男だった。

    「よう、お嬢ちゃんたち。良いドレスを持っているじゃあないか。俺に寄越しちゃあくれないか?」

     言葉は優しくても顔は邪悪に歪んでいる。子供相手に負けるわけがないと思っている顔だ。ギチギチと音がなるほどに掴まれた腕から、離す気は毛頭ないことが伝わってくる。捕まえているのがドレスを持つディオ兄さんではなく、明らかに幼い私の方を狙っているのも悪どい。私を人質かなにかにする気満々なのだろう。

    「大人しく渡してくれれば何もしないぜ。そう、大人しく、な……」

     何処からともなくナイフを男は取り出して私の腕にナイフを当てる。予想どおり、私を人質にしてきた。当てるどころか押し付けてきて、ピリリと鋭い痛みが走る。血が滴る私の腕を見て、兄さんは悔しそうに歯噛みしていた。「腕を切り落としたら、次は嬢ちゃんの首だなァ?」という男の下卑た声が路地に響く。ここは貧民街、こんなことは日常茶飯事で、誰も気にもとめてくれない。だから、自分たちでどうにかするしかなかった。

     すうとすぐに痛みが引いていく感覚がする。目視で腕を確認するが、血が流れていないように見える。まさか。いやそれならもしかしたら不気味さのあまり男は逃げ出すかもしれない。でも、兄さんに嫌われる。思い悩むあまりにグッと下唇を血が出るほど噛んで言った。

    「いいよ、切りなよ。それであなたが満足するならね」
    「エレイン!? なにを……!?」
    「あぁん!? なんだとガキがァ!」

     これは賭けだ。前世と同じ体質でなければ、腕を切り落とされれば衛生環境も最悪な街だ。私は死んでしまうだろう。唇の傷ももうない。あるのは傷だった場所の上にある血液だけ。ググッとナイフに力が込められるのがわかる。痛い。痛いけれど、兄さんを逃がすにはこれしかない。それにあの痛みの引き方は、前世で散々経験したソレと同じものだ。私は、私はおそらく、今世でも化物だろう。そして兄に……。

     目を閉じて兄を思う。せめて嫌われたくない。知られたくなんてない。だから逃げて。逃げられないのなら目を閉じて見ないでほしかった。嫌わないで。赤ん坊の頃から私を可愛がってそばにおいてくれたひと。擦りむいたところや切り傷を作ってもすぐに治る私を、手間がかからないからという理由でも引かなかった唯一の人。

    「私の腕をさっさと切り落とせと言ってるのよ、このアホンダラ!!」
    「そんなに言うならやってやるよ!! ああ、やってやるともさ、ええ!!」
    「エレイン!! やめろ!!」

     腕に激痛が走る。骨が成人男性の力で無理やり折られる感覚がする。メシミシと音がして気持ちが悪い。なんて切れ味の悪い刃物を使っているのだこの男は。ブツッと音を立てて私の腕が鮮血を垂らしながらゆったりと地面に落ちていく。

    「あ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁ!!」
    「エレインーーーーー!!」

     痛みのあまりに叫び声を上げる。駆け寄ってくる兄さん、やってやったぞ、と薄ら笑う男、ボコ、と音がし始める私の腕。ああ、やはりこの忌々しい体質を私は前世から引き継いでしまったらしい。笑っていた男の顔がどんどんと引きつっていく。よく見てろ、お前は今から人間ではない化物を見ることになるのだから。

    「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!!」

     本当は治癒し始める段階で痛みなんて無いけれど、より印象付けるために大胆に叫び声を上げる。ミシミシと音を立てながら元の長さに戻ってゆく骨、ボコボコと音を立てて泡立つように骨にまとわりついて形成されていく肉。目の前で見せつけられた男は顔を真っ青にしていた。いい気味だ。そしてあっという間に、私の腕は何ともなかったように復活した。冷静にグッパと手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。問題はない。元の腕は転がったままだ。あとでどうにかしなければならない。でも今は、兄さんを守るのが先だ。

    「ねぇ」
    「ひっ!!」

     恐怖に顔が引き攣り、悍ましいものを見たかのような顔をする男。それはそうだろう。人間の腕がトカゲの尻尾のように、だがそれよりもグロテスクかつ、完璧に再生していくさまを見せられたのだから。尻餅をついてションベンまで漏らしている。気持ち悪い。

    「貴方では私達は殺せない。わかったらさっさとどっかに行ってくんない?」
    「ひいぃぃッ!!」

     慌てて何度も転びながら立ち上がり逃げてゆく。良かった、兄さんが狙われなくて。兄さんは普通の人間だから。化け物ではないから。私達、とあえて兄さんもさも同じ体質かのように言ったのも効いたのだろう。そうだといい。ああ、もう痛くないはずなのに、切り落とされた左腕がまだ痛む気がして、ギュッと右手で左手を庇うように掴んだ。

    「エレイン……」
    「にぃ、さ……。…………え、と……、あの……」

     兄さんから優しい声でかけられる。後ろを向くことはできなかった。もしも表情が恐怖に歪んでいたら、私は耐えきれなくて何がなんでも死のうとするだろう。前世は頭に銃を撃たれて死んだ。だからきっと、この気味の悪い体質でも脳を損傷すれば死ねるはず。

    「……ありがとう」
    「え」

     そっと兄さんの両手が再生した左手を包んだ。優しく、受け入れてくれるように。包み込んで。気味悪くないのだろうか。前世は親兄弟から気味悪がられて捨てられ、天然の生物兵器として利用された私を。体の良いストレス発散のサンドバッグにもされた私を。人間扱いされなかった私を。兄はそのキツいツリ目を柔らかく円を描いて微笑んで、私をまっすぐと見た。

    「おれを守ってくれたんだろ? こんな秘密があったなんて知らなかったけど、今まで明かしてくれなかった秘密を曝け出してまでおれと、母のドレスを助けてくれるなんて……」
    「………………ないの?」
    「ン?」

     大事なものに触れるかのように、私の手に触れる。瞳は優しさの仮面を被った“利用価値のあるもの”を見つけた色を乗せていて。私の特異体質を知って尚、こんなに温かく手に触れてもらえたのは初めてだった。

    「気持ち悪く、ないの……? こんな私……」
    「気持ち悪いもんか。身を挺して守ってくれたのに。それに、このおれの、ディオのただ一人の妹だぞ?」

     ほろり、と涙がこぼれた。受け入れてくれた。こんな、自分でも気味が悪くて仕方がない体を持つ私を。前世から誰かに言ってほしかった言葉を、兄さんは私にくれる。ああ、嬉しい。それがたとえ家族愛ではなく、利用価値のある道具の一つとしての考えだとしても、私はとても嬉しい。兄さんは頭がいいから、きっと私を道具としても最高に使ってくれるだろう。私が私自身にできなかったことをして。「泣くな、ほら」と涙を拭われながら、私は兄に一生ついて行くことを決めたのだった。この人に、私の身の全てを捧げよう。吸血鬼となったあとも、血液でも肉でもなんでも、迷わずに分け与えよう。

    「泣くな。はやくドレスを売りに行かなければ、また殴られるぞ」
    「うん、うん……。兄さん、大好き……」
    「……おれもエレインが好きだぜ」

     表面上だけの言葉だったとしても、私がその一言にどれだけ救われているのか。前世の私も報われた気がしている。誰も彼もが彼を悪だと言っても、私にとってディオ兄さんは、間違いなく私の救世主だ。

     この日から私はより一層兄にベッタリになり、世が世ならブラコン、と呼ばれていたのだろう。それは憎き父がとうとう毒薬で死に至り、ジョースター家に引き取られてからも変わることはなかった。

    □□□

     ジョースター家であろう豪華な邸宅の前で馬車が止まる。ガチャリと扉を開けて荷物を放り出す兄。そのまま飛び降りていく。これが気品溢れるように美しく見えるものだから、我が兄ながら不思議なものだと思っていた。

    「エレイン」
    「ありがとう、兄さん」

     エスコートに差し出してくれた兄の手に躊躇せずに手を乗せて降りる。優雅に見えるように、貧民街出身だと馬鹿にされないように。まさか暇つぶしも兼ねて兄から教わっていた立ち居振る舞いが役に立つ日が来るとは思わなかった。そっと音を立てずに馬車を降りた私達に、一人の黒髪の少年が寄ってくるのが見える。ああ、この瞬間にも長き因縁が始まるのだ。なぜなら、彼の名前は、

    「君たちはディオ・ブランドー、それからエレイン・ブランドーだね?」
    「そういう君は、ジョナサン・ジョースター」
    「みんなジョジョって呼んでるよ……これからよろしく」

     ジョナサン・ジョースター。あだ名は、ジョジョ。ジョジョの奇妙な冒険の、始まりの主人公その人だ。丸いクリクリとした目が可愛らしい少年。今日から私のもう一人の兄のように一緒に暮らす人。ジョジョ主人公の中で紳士で一番優しい性格をしたジョナサンなら、もしかしたらこの体質と知っても受け入れてくれるかもしれないと思いつつも、やはり前世からのトラウマというものは強力で、思わず兄さんの服の裾をギュッと握って後ろに隠れてしまう。

    「すまない、妹は人見知りでね」
    「いや、構わないよ。これからお互いを知って仲良くなればいいさ」

     裾を掴んだ手を解いて、手を繋いでくれる。兄さんのぬくもりを手のひらから感じる。今は大好きなこの人がいてくれるから、私はなんでもできる。

    「エレイン・ブランドー、です。……よろしくお願いします」

     兄と手を繋いだままぺこりと頭を下げる。すぐによろしくね!と、元気の良い返事が返ってきた。さすが主人公。気にしている素振りは一切無く、まるで太陽みたいな人だなぁと思った。キラキラと輝いている、素敵な少年だ。一番は月のように静かに煌めくディオ兄さんだが。兄さんによくできました、というように頭を撫でられる。とても嬉しい。

    「ダニーッ!」

     遠くから犬が走ってきた。名前を呼んでいるところから、ジョナサンの飼い犬だろうか。尻尾をぶんぶんと振りながら主人に駆け寄っていく。可愛い。大丈夫、噛まないよと説明されながら、ダニーはこちらへ嬉しそうに近づいてきた。でも私は犬が苦手だ。体質のことを知らず知らずのうちに嗅ぎ分けているのか、警戒され嫌われてしまうから。にも関わらず、ダニーは私達のそばにも駆け寄ってくる。初めてでビクッと震える私を尻目に、兄はダニーに膝蹴りを入れた。

    「な、何をするんだァーッ!!ゆるさんッ!!」

     フン、と嘲るように笑ったあとに兄はボクシングの構えを取る。一触即発の空気が流れる中、邸宅の中から坊ちゃま!とジョナサンを呼ぶ声が聞こえて有耶無耶になり、三人で邸宅へと入っていった。

    □□□

    「疲れたろう、ディオくん、エレインさん! ロンドンは遠いからね、君たちは今からわたしたちの家族だ。私の息子、ジョジョと同じように生活してくれたまえ」
    「ジョースター卿のご好意、大変感謝いたします」
    「兄ともども引き取っていただきありがとうございます」

     兄とともに、これから父となるジョースター卿に二人で頭を下げる。兄と手を繋いだままなのは年の幼さ故に許して欲しい。兄のぬくもりを感じていないと不安なのだ。「くれぐれも、あまり傷は作らないようにな」と兄にひっそりと耳打ちされて、こくりと頷いた。傷もすぐに治ってしまうため、化物体質だとバレないようにしなければならない。もしバレてしまったら、離れ離れになってしまうかもしれないから。利用価値のあるかもしれない私を、兄さんはまだ手離しはしないだろう。

    「ジョジョ……、ダニーの事はもういいね?」
    「はい……。ぼくも急に知らない犬が走ってきたらビックリすると思うし、気にしてません」
    「ご、ごめんね。犬は苦手なの……。だからきっと、兄さんは私を守るために……」
    「うん、大丈夫」

     しゅんとしながら謝ると、ジョジョは本当に気にしていないように微笑んでくれる。なんて優しい人なのだろう。きっとジョースター卿の教えが良いからなのだろう。

    「来たまえディオくん、エレインさん。君たちの部屋に案内しよう」
    「はい、ジョースター卿」

     ジョースター卿から兄さんに視線を送ると、兄さんは壁にかかった不気味な石仮面をじっと見ていた。そっとジョジョがディオ兄さんの荷物を持とうとする。あ、と思った頃にはもう遅く、繋いでいた手が離れて、ディオ兄さんの手がジョナサンの手首をガッと掴んだ。思いっきり力を入れて掴まれたために、ジョナサンはうめき声をあげる。

    「何してんだ? 気安くぼくの鞄に触るんじゃあないぜ」
    「え?」

     兄弟として、友人として仲良くしようとするジョナサンに冷たい言葉を放つ兄を見ながら、ジョナサンに心のなかで謝った。兄さんと同じ貧民街で育った身からすると、ジョナサンはあまりにも眩しい、太陽のような、みんなを照らすひだまりのような人だから腹が立ってしまうのかもしれない。地獄とも呼べるような環境で育ってしまったが故に、温室育ちというだけで気に入らないのだろう。

     早く来なさい、とジョースター卿に声をかけられて、「行くぞ、エレイン」とディオ兄さんに手を取られて必然的について行くことになる。階段の前で打ちひしがれているジョナサンに、口パクで「ごめんね」と伝えながら、兄にバレないように手を振った。するとジョナサンは、ぱああと音を立てるように破顔した。あまり気に病まないでいてくれるといいのだが。

     ジョースター卿に連れられるままに屋敷を案内される。その間も兄さんと固く手を繋いで歩いていたら、ジョースター卿に「とても仲の良い兄妹なんだね」と微笑まれた。少し照れるが、寝るときも一緒なんです、と、素直に答えた。

    「兄さんと一緒にいると安心して、ぬくもりを感じて、悪夢を見ないんです」
    「一人で寝ると悪夢を見るのかい?」
    「ええ、毎回。とても怖い夢を」
    「そうか……」

     ジョースター卿が考え倦ねている。貴族の仲間入りをして、淑女になるのであれば、兄妹といえども同じベッドで眠るのは良くないのだろう。でもディオ兄さんがいないときに眠り見る夢は怖い。みんな誰も彼もが私を嫌い、恐れ、知ろうとはしない。酷い言葉をかけられ、ときには死ねと言われることもあるから。せめて14〜5歳くらいまでは共寝を許してはくれないだろうか。ちらりとジョースター卿の顔色をうかがう。

    「うむ……。なるべく一人で眠れるようになってほしいが、悪夢を見るのであれば……数年間は許そう」

     表情が自分でも明るくなるのがわかる。さっそく兄さんに「今夜、一緒に寝ても良い?」と聞くと「もちろんさ」と答えられてますます嬉しくなる。なれない家で、初めての夜は不安でいっぱいだが、兄さんがそばにいるなら安心して眠れる。まだ昼だというのに、今から早く夜が来ないか楽しみになってきていた。

    「この部屋を使いなさい。ここはエレインさんの部屋で、そのすぐ右隣がディオくんの部屋だ」
    「ありがとうございます、ジョースター卿」

     さっそくディオ兄さんと私の部屋の中を覗いてみた。貧民街にいたときとは比べ物にならないくらい広い。奥に扉があり、そこも覗いてみると寝室に繋がっていた。もう一つの扉はお風呂。なんとトイレもあった。ザ・貴族の部屋という印象に気分が上がってくる。ベッドに飛び込むと、兄さんから「おい、はしたないぞ」と注意されるが、まるで雲の上にいるかのようにフカフカだった。私の部屋にはくまのぬいぐるみも置いてあり、可愛くて小脇に抱え、反対の手でディオ兄さんと手を繋いで今度は兄さんの部屋を覗いた。内装は異なっているが、部屋の構造は概ね一緒だった。ディオ兄さんは落ち着いたシックな印象の部屋で、私はそれに少し可愛らしく小物が置いてあった。

    「気に入ってくれたかな?」
    「はい!! とても気に入りました!! ありがとうございます!!」

     ジョースター卿が屈みながらニコニコと話しかけてきたので、くまちゃんをぎゅううと抱きながらお礼を述べると、ぽんぽんと軽く頭を撫でてくれる。これが父というものか。私たちの父は絵に書いたようなクズであったために、父からの愛情は感じたことがなかった。なんだかむず痒い。「しばらく兄妹水入らずで楽しんでなさい」と声をかけられ、ジョースター卿と召使いたちが去っていく。

     さっそく兄さんの部屋のソファーに横並びに座って「素敵なお部屋だね、兄さん!」と興奮気味に話しかけた。相当ニコニコしていたのだろう。ディオ兄さんはふ、と微笑みながらくしゃくしゃと頭を撫でまぜる。乱れた上は、手ぐしで直してくれた。

    「ああ、いい部屋をもらったよ。お前とも隣同士だから、何かあったら駆けつけられるし」
    「何かあったら、すぐディオ兄さんの部屋行く!」
    「そうしろ」

     ディオ兄さんが繰り返し手ぐしで整えてくれる。髪に触れる手はとても優しく、今までの人生で今が最高潮に幸せで、この時間が永遠に続いたらいいのにな、とさえ思った。ソファーの上で、ディオ兄さんと手を繋いだまま、夕飯にメイドが呼びに来るまでずっと兄さんとのお喋りを楽しんでいた。

    □□□

     夜になり、枕を抱えて控えめにノックをする。中から「どうぞ」と返答を待ってから扉を開ければ、兄さんは大きな窓の前にある椅子の上で本を読んでいる最中であった。

    「あのね、兄さん」
    「ああ、わかっている。昼の約束の共寝だろ? その前に抱きしめよう、ほら」

     机の上に本を置いて、両腕を広げる兄の腕の中に飛び込んだ。すぐにぎゅううと抱きしめられる。あっかい。どくどくと兄さんの心臓の鼓動が聞こえる。安心する。すう、と息を吸い込めば、胸いっぱいに兄さんの香りが広がる。私が一番安心できる匂いだ。

    「ふふ、安心する」
    「全く……、お前はいつまでも甘えただな」
    「だって、怖い夢見るもん。夜は怖い。でも兄さんとなら安心できるの」
    「……そうだな」

     ぽんぽんと、優しく頭を撫でてくれる。やはり兄さんは私には優しい。二人きりの兄妹だけの、兄さんだけの特別は私を大いに満足させてくれる。満足するまで兄さんの胸板にすりすりと頬を擦り寄せる。これをすると、兄さんは私のことをまるで猫みたいだな、と笑ってくれる。兄さんの、少し口角を上げる笑みが好きだ。

    「兄さん、大好き」
    「ああ、知っているよ」

     右手に本を持った兄さんは、左手でぽんぽんと私の背を叩く。これはそろそろ寝るぞ、の合図だ。大人しく兄さんの膝の上から降りた私は、兄さんのベッドの上に横になった。隣に兄さんも寝転ぶが、手に持った本を読み始めている。

    「俺はもう少しこの本を読む。だからお前は先に寝ていろ」
    「うん……」

     ベッドの上で、兄のぬくもりを感じているとすぐに眠くなる。眠気で上手く回らない口でおやすみ、と言うと、兄さんは私にだけしてくれる柔らかい声で「おやすみ」と返してくれた。軽く頭を撫でられている感覚に安心して、私の意識は闇に落ちていった。

    □□□

     あれから、ジョースター家での日々が始まった。ディオ兄さんはマナーもきちんとしていて頭も良い。そんな完璧人間である兄さんと比べられるジョナサン兄さんはたまったものじゃないだろう。ディオ兄さんより多少劣っている自覚のある私よりも酷いのだから、ジョースター卿もより躾を厳しくしている節はありそうだが。

     ジョースター卿に勉学を教えてもらっているとき、ディオ兄さんは全問正解しているが、ジョナサン兄さんは6問間違えて手にムチを打たれている。女子は勉学は必要ないと言われたが、私が兄さんと同じものを学んで知りたいと望んだために、私も同じものを学んでいる。おそらくその姿勢から、ジョナサンよりも間違えている私にはなんの叱責も無いのだろう。この時代の男子って大変だ。

     ディオ兄さんはあまりジョナサン兄さんをよく思っていないみたいだから、あとでこっそり、兄さんにバレないようにジョナサン兄さんと勉強会をしようと誓った。ひとまず、夕飯前に取っておいてあるクッキーをジョナサン兄さんに、後ろ手でこっそり渡しておいた。お互い頑張ろうね、と微笑めばジョナサン兄さんは嬉しそうに破顔した。

     夕飯の席でも、ジョナサン兄さんは忙しく食べていた。食べ盛りの子どもという感じ満載で微笑ましくなるが、英国貴族らしさは全く無い。ジョースター卿の顔がしかめっ面になっていく。気づけジョナサン兄さん。ジョースター卿の顔色をうかがいながら、ゆっくりと食事をとる。兄さんほど完璧にはできないから、せめて丁寧にやらなければ。

     緊張でマナーがわからなくなると、隣りにいるディオ兄さんがこっそりと教えてくれた。教えてもらっている最中、ガシャ!という音の後にジョースター卿がダーンッ!!と思い切り机を叩く音が響く。び、びっくりした。続けざまに怒声が食堂内に響く。

    「ジョジョ! お前それでも紳士か! 作法がなっとらんぞッ! 作法が!」

     ふう、と落ち着くようにため息をつくジョースター卿。あ、これは相当怒っているぞ。案の定、ジョースター卿は執事に息子の食器を下げるように命じていた。驚く声を上げる息子に叱咤は続く。ディオ兄さんの「フン! マヌケが」という言葉に追い打ちをかけられたジョナサン兄さんは、悲しそうな顔色を浮かべて食堂から走り去っていってしまった。私は隣に教えてくれる、手本となってくれる兄さんがいるから良いが、ジョナサン兄さんは父を見て真似るしか無い。いや、現状真似すらしていないのだが。しかしまだ成長期だ、あれだけでは食べ足りないだろう。ディオ兄さんの寝室に行く前の少しの時間に、なにかお菓子を持って行ってあげよう。だが今は食事に集中だ。なにせ私一人だけ、遅れてゆっくり食べているのだから!



     コンコンコン、となるべく静かに三回ノックを叩いてジョナサン兄さんに来訪を告げる。中から「誰……?」と聞こえたので「ジョナサン兄さん、私」と答えると、驚いたような顔とともに扉が開かれた。

    「っ、エレイン……!?」
    「ディオ兄さんに内緒で来たの。お腹すいでるでしょ? 二人だけの秘密、ね?」

     人差し指を唇の前に当て、しーっという動作を取る。ディオ兄さんとは違い、私はジョナサン兄さんとは仲良くしたいと思っている。でもディオ兄さんは、私とジョナサン兄さんが仲良くすることもきっと気に入らないだろう。だからディオ兄さんには内緒だ。ディオ兄さんだけが私の唯一で救世主であることは変わらない。ただ一人の血の繋がった兄妹であることも。

    「ありがとう、すごく嬉しいよ」
    「良かった! あのね、私はジョナサン兄さんと仲良くしたいって思ってる。ディオ兄さんにバレたら咎められるかもしれないけど」
    「うん。じゃあまた、こうしてこっそり話そう」
    「うん! 仲良くしようね、ジョナサン兄さん!」

     そろそろディオ兄さんのとこへ行かなくちゃ、と呟いて、お互いに手を振り合って別れる。あんまり遅くなると、ディオ兄さんに勘繰られて気づかれてしまうかもしれない。気づかれてしまえば、きっともうジョナサン兄さんと話すことはできなくなるだろう。それは避けたかった。

     こんこん、とディオ兄さんの部屋の扉を叩く。「開いてるぞ」という声を聞いてそっと扉を開けて中を覗き込めば、珍しく扉の目の前にディオ兄さんがいた。腕を胸の前で組んで仁王立ちする兄さんは、美人なのも合わさって迫力がある。

    「今日はいつもより少し遅かったじゃあないか。何かあったのか?」
    「ううん、なんでもないよ! 兄さんと寝るのに、テディを連れて行くか迷っただけ!」

     ジロりと目線が私の腕へ向けられる。事実、昨日は抱えていたテディを私は今日は持っていない。これで誤魔化されてくれるかは分からないが、頼むからごまかされてくれと心のなかで必死に頼み込む。

    「兄さんと密着して寝たくて……」
    「…………フン、まぁいいだろう。許す」

     手を顔の前にしてあざと可愛くお願い♡ とポーズをしたら兄さんは満足したらしく、誤魔化されてくれた。ほっ。おそらく今日は比較的機嫌の良い日というのもあるだろう。兄さんは怒りっぽくて、怒るときの勘はそれはそれは鋭いのだ。ジョナサン兄さんと仲良く話してたなんて言ったら、なんて言われるかわかったものじゃない。

    「ありがとう兄さん! 大好き!」
    「おれも好きだ、エレイン。俺のたった一人の妹」

     飛び込むようにぎゅうと抱きつけば、兄さんも抱きしめ返してくれる。この瞬間が何よりも好きだ。兄さんのぬくもりにも香りにも力強さにも囲まれるから。抱き締められたままひょい、と持ち上げられてベッドへとスタスタ向かっていく。さすが兄さん、8〜9歳の私を軽々と持っている。本日はどうやらこのぎゅっとしたまま寝てくれそうだ。嬉しくてくふくふと笑うと、兄さんから頬にキスが降ってくる。

    「今日は本を読まずに、私と寝てくれるの?」
    「ああ、そうだとも。我が妹よ」
    「やった! 嬉しい! 起きるときもぎゅってしててね」
    「ああ、わかった」

     本を読まずに先に寝かしつけてくれる兄さんなんて珍しくて、いつも以上に甘えてしまう。胸にすり寄りながらうとうとしていると、ぽんぽんと一定のリズムで背中を叩いてくれた。ああ、幸せだ。兄さんの隣が一番幸せを実感できる。私の幸福の象徴。

    「にいしゃ……」
    「ン? なんだ? 眠いんだろうからさっさと寝ろ」
    「ん……。あの、あのね……。わた、し……。兄さんのためなら、何だって、でき、るよ……」
    「……そうか、ありがとう」

     再びちゅうと額に柔らかい感触がした。兄さんがこんなに愛情表現をしてくれるのもレアなことなので、私はますます嬉しくなり幸福に包まれて、あっという間に寝落ちてしまっていた。

    □□□

     ザワザワ、ザワザワ

     今日はジョナサン兄さんのボクシングの試合がある日だ。娯楽が少ないこの時代は、スポーツが熱狂的な支持を得ているらしく、ジョナサン兄さんもその例に漏れなかった。
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