妄執たる血の聖女あの日、狩人様から安全なオドン教会へ行くように言われ1日が経った。
着いた時には人が数人居た事に驚いたが
希望も有った。
ここは本当に安全なのだ。
少なくとも今は。
ならば血の聖女として皆様に施しと希望を与えなければ行けない。
幼い頃血の聖女として選ばれたアデーラは
特殊な血の実験と聖女としての振る舞いを叩き込まれた。
血の医療の権力が強いこの街では
血の聖女の振る舞いは街の人間に取って高貴で崇高に映らなければいけない。
血の聖女に選ばれた事に誇りを持て。
血に汚されるな。
おのが痛みや感情等余計なものはもつな。
ただ街の人間の希望たれ。
血の医療協会の為に。
人並みに初恋も有ったが知られてはいけなかった。
他の聖女候補が恋に落ち人並みの幸せを得ようとしたが、血の秘密を…協会の禁忌が洩れる事を恐れた者達が二人を殺した。
獣に襲われた様に。
そして2度と同じ事を繰り返す聖女候補が出ない様見せしめとして、被害者が辛うじて相手と女だったと言う事が分る証拠を残したのだった。
事情を知らぬ者達は憐れみを。
事情を知る者達は恐れと、吐き気を催す様な不快感を。
当時のアデーラはまだあどけなさが残る年頃では有ったが、この件依頼誰かを好きになっても打ち明けず抑え込んで生きてきた。
(私も誰かを好きになったら殺されてしまう。ならずっと隠し通す…自分も好きになった人も殺されるなんてそんなの嫌だ…嫌だよ…)
まだ母親に甘えたい歳のアデーラを抱きしめてくれる者は傍にいない。
不安と恐怖に泣きそうになり耐える為彼女はずっと自分をきつく抱きしめた。
誰かを好きになり1人の女性として愛されたい想いと、聖女となるべくしての誇りを持つ自分。
そんな矛盾を抑え込み生きてきた彼女がある時
一組の母娘が街に流れ着いたと噂で聞いた。
どんな人達だろうこの街に着たばかりであれば不安も有る筈。せめて血の施しをして少しでも早く街に馴染んで欲しい…。
そう思い当時アデーラの責任人者にして、聖女の母とも言うべき人に進言しようと彼女の部屋を訪ねた。
彼女に血の施しをと言うやいなや
眉間に深い皺と目には苦々しい物を見るような視線をアデーラに向ける。
「アレは穢れた者達。本来なら殺されてもおかしくない者達…血が薄いから協会の慈悲でこの街に置いてやるだけ。お前は近寄っては駄目よ血の聖女アデーラ」
そう言い彼女は部屋を出て行くように告げた。
穢れた者達?
血が薄い?
聞き返そうとしたがそれを赦さぬ彼女の雰囲気に呑まれ、部屋を後にした。
そしてこの事が後に彼女を狂わせるとは当の本人も、
街に流れ着いたアリアンナ母娘も誰もが想像出来なかった。