「あれ。どこ行くの?」
「えっと…あの、委員会」
私がそう言って机に置いてあった鞄を取ると、さっきまで話していた友人たちが顔を寄せ合って何かひそひそと話し始める。
(ねえ、そういや委員会一緒なのって)
(そう!あの沢辺、あいつ!)
二人はくすくすと笑いながらそんなことを話している。ねえ、聞こえてるよ、と言っても良かったけど、それにさらに反応されるのは嫌だった。私はため息をつきながら教室を出る。
高校2年生に進級した私は、学期始まりのくじ引きで図書委員に任命された。それは別に嫌なことじゃない。問題は私と組むことになったもう一人の生徒が、あの沢辺雪祈ということだ。
沢辺くんは色んな意味で普通の生徒じゃない。ものすごくピアノがうまくて、しかもとても大人びていて、顔立ちが綺麗だ。そんな生徒が学年にいたら、女子は放っておかないし、男子だって彼を話題にする。その沢辺くんと一緒に図書委員をしなければいけない私が委員会の度に、一体どれだけいらない苦労をしているかは察してもらえると思う。廊下を一緒に歩けばすれ違った女子にひそひそと何か噂されるし、私が友達に何気なく委員会の話を振ると、返ってくるのは「そういやあの沢辺雪祈と委員会、一緒なんだよね?」みたいな質問だ。
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