オレが一定の距離保ってついてくと、途中何度か振り返って、オレのことギッ! って睨むアスターは、結局三〇分弱ぐらい歩いて最後、その場にしゃがみ込んだ。
「アスターさぁ、こんなとこいてもつまんねぇし、早く金魚ちゃんのとこ戻ろ〜よ?」
「……だ」
「なんて? ぅんなちっせぇ声じゃ聞こえねーって」
「ヤダっていったの!! 帰りたいならおじさんひとりで帰って!! ぼく、おじさんの事キライなのに、なんでついてくるの!?」
「んぇ〜? オレ別にアスターのことキライじゃねーよ?」
嫌いじゃないって言えば、アスターが目を丸くして驚いた。どうやら嫌われるような事をしていた自覚はあったようだ。
「金魚ちゃんもアズールもサミュエルも、今頃アスターのこと心配して探してると思うよ。だからさぁ、こんなつまんねぇ散歩やめて、さっさと戻ろ?」
「やだ……とうさんたちが、むかえに来てくれるまで、ぼく、もどらない……!!」
意固地になったアスターが、またグズグズ泣き出しながら、なんかやたらと悔しそうに、溢れる涙を手の甲で拭ってる。
オレが金魚ちゃんと再会する前、ジェイドがアズールたちに姿見せたせいで、サミュエルが一瞬行方不明になった話をアズールから聞いていたが、アスターもアズールや金魚ちゃんに見つけてもらいたいのだろうか? なんでそんなメンドクセーことすんだろって、考えれば考えるほどわっかんなくて眉間に皺が寄る。
まぁでも、アスターがそうしたいなら、じゃあしゃーねぇかって、アスターから少し離れた場所にドカリと座れば「なんで、おじさんもすわるの!?」ってまた怒られた。
「べつにぃ、アスターのせいでいっぱい歩いたから疲れただけだし」
それ聞いて、なんかしかめっ面したアスターは「ぼくのせいじゃない」って膝に顔押し付けてまた拗ねてる。
それからアスターの泣いてる声と波の音を聞きながら、オレは無言で海を見てた。正直、見慣れた海を眺めても時間なんか全く潰せるわけもなく、〜ヒマ、帰りてぇって気持ちでいっぱいだ。それでも我慢できたのは、そばで泣いてるのがアスターだからだ。
金魚ちゃんに似てるからとか、金魚ちゃんから生まれたからでない、今はもうオレ個人的にアスターを気に入っていた。それに……
(オレ、別にアズールのこと嫌いじゃねぇしなぁ)
金魚ちゃんが絡むと、アズールはかなりはっきりした嫉妬心と余裕の無さを見せてくる。確かにそんなアズールに腹が立った事もいっぱいあるし、金魚ちゃんがアズールの〝妻〟なんてやってんのも、やだなって気持ちもある。でも、だからといってアズールが嫌いかと聞かれれば、答えはノーだ。
はじめは、あれほど金魚ちゃんの成績とユニーク魔法と弱みぐらいしか興味のなかったアズールが、ある日を境に金魚ちゃんの事を好きだと、金魚ちゃん自身に伝える前にオレに言ってきた。
あの日のことは今でもたまに思い出す。言われる前からすでにダダ漏れだったアズールの金魚ちゃんへの気持ちの変化を知ってたオレは、「うん、知ってる。それで?」って、前と今のあまりの様変わりさにちょっと腹立ってたからそう言い返してやれば、気づかれてた事に驚いた顔したアズールは、それでも絶対に引く気はないってオレに言った。
あーいう、目標が定まってる時のアズールの行動力はエグい。あれよあれよと、オレがあのクソムカつく呪石の呪いと、金魚ちゃんへ上手く伝えられない気持ちでガキみたいに暴れてた時、アズールは金魚ちゃんをモノにすべく、自ら進んで手繰り寄せた好機に、ずっと考えて動いて、結果金魚ちゃんの〝夫〟に収まった。オレがあの時のアズールの立場にいたとして、金魚ちゃんと二人で学校から逃げて、何もかもうまく事を運べただろうか?
ここまで上手くやってのけて、正直腹が立つ以上にすげぇなって気持ちのほうがデカい。なによりやっぱ、アズールはムカつく以上に面白い。海の中では、なんでもそれなりに出来て、色んなことに面白みを失っていたオレからしたら、海でも陸でも、バカみてぇなクソデカい野心を持って、手足では数え足りない貪欲さで、ずっと上を目指すアズールは、インテリ二枚目気取ってるくせして泥臭くて、そーいうアズールが見ていて面白かった。
そして、ジェイドと面白半分でアズールの後ろくっついて、そうやって知った世界の先に金魚ちゃんがいた。そっから先、開けた世界を思い返しても、オレにとって全ての面白いのキッカケになったアズールを、ムカついたとしても嫌いになれるわけねぇんだよな。
なんつーかきっとアズールのことは、ジェイドと同じ、腹が立ってムカついて、顔も見たくないぐらいなっても縁を切れない、なんかもう身内に近い存在なのかも……とまで考えて、それは嫌だなぁと笑ってしまう。アズールが家族や兄弟になったら、親父以上に馬鹿みたいにこき使われて、ジェイド以上に面倒くさくなるとこしか想像できない。