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    おわり

    @owari33_fin

    基本的にアズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    ミーティア3️⃣後編-15 『涙』

     その日も朝、ハーツラビュルのド派手な洗面台で顔洗って気がついたら一緒に持ってきてたタオルが消えてた。
     辺りを探れば、ゴミ箱の中にタオルが捨ててあって、ニヤニヤした奴らがオレのこと見てて、頭の中でツバ吐き捨てた。オレが無言で顔を袖で拭ってたら、反応が悪いって舌打ちして「スート無しが」って吐き捨てて、どっかに行っちまった。
     〝スート無し〟は、ここ最近オレを指す最大級の悪口だ。ハーツラビュル寮生には、寮長より直々にスートが与えられる。それはまさしく、この寮の王である金魚ちゃんのトランプ兵という証だ。それがないオレは、まだハーツラビュル寮生じゃないとでもいいたげに、アイツらはオレを〝スート無し〟と呼ぶ。
     ウミガメくんもハナダイくんも、スートに関しては、寮長不在の際どうやって決めればいいか調べた上で、オレのスートを決めると言ってはくれてるけど、金魚ちゃんがいなくなった寮は思った以上に混乱してて、さらにオレへの嫌がらせの対応までしてるから、そんな余裕は無さそうだ。
     だから、オレのスートが決まるのはまだ先だろう。
    (クソつまんねぇ……)
     タオルをゴミ箱から拾う気にもなれなくて、オレはそのままの足で購買に向かうためにハーツラビュルの玄関広間に行けば、入口からキンと響く金切声が響いてる。階段の柱に隠れてこっそりと覗けば、金魚ちゃんそっくりのどこもかしこも赤く染まった雌が、学園長と入口で揉めてた。金魚ちゃんそっくりの雌は、金魚ちゃんのママだ。
    「ローズハートさん! 何度も言いますが、お願いしますから落ち着いてください!!」
    「落ち着けですって!? 貴方が管理するこの学園のせいで、私の息子は行方不明になったのよ!!? その自覚がお有りなの!??」
    「それは……ローズハート君の意識で学園を中退すると手紙に……」
    「何が手紙よ!!! 私のリドルが私の意に沿わない事をするはずないでしょ!!! もしそうなら全部、貴方たちがリドルに悪影響を与えたのよ!!?」
     その後も、こんな学園にリドルを進学させるんじゃなかった。何が名門校だって、金魚ちゃんママは全てを否定する言葉を吐いては、金魚ちゃんごと全てに怒りをぶちまけてた。
     オレは、その言い合いから隠れる様に、柱に寄りかかりその場に座り込む。
     金魚ちゃんが姿を消してすぐ、金魚ちゃんママが学園に連日乗り込んできては、金魚ちゃんの手がかりになりそうな何かを探して回り、色んなところをひっくり返しては、こうやってせんせぇやウミガメくんに怒鳴ってた。
     ジェイドも、金魚ちゃんの隣の席陣取ってたから、なにか手がかりはないかと、金魚ちゃんの机の中ひっくり返した金魚ちゃんママに詰め寄られてた。
    「リドルさんも苛烈な人でしたが、お母様はさらに凄まじいですね」……なんて言ったジェイドがさすがにビビるほどの剣幕で、それを見たアズールが、自分のママと比べてひと言、金魚ちゃんママの姿見て「酷いな」と言ってたらしい。
     オレは、ややこしいことになるから絶対に金魚ちゃんママの前には姿を見せるなと、ウミガメくんたちに部屋の中に押し込まれて、結局金魚ちゃんママに会うことはなかった。
     会ったところで、金魚ちゃんも誰も、オレが金魚ちゃん襲ったことなんて言ってねぇんだから、黙ってれば分かんねーのに。
     こーいう、金魚ちゃんのママの声を隠れたドア越しに聞いている時、世界がどんどん色を無くした。金魚ちゃんに出会う前、陸に上がったときの様に世界から色が消え行く。いや、多分あの時よりずっと重症だ。
     せめてハーツラビュルに転寮すれば少しは耐えられるかもしれないと、金魚ちゃんの残り香を探して転寮したけれど、金魚ちゃんを知ってしまったオレの世界は、その金魚ちゃんを失えばもう、崩壊する一方だ。
     金魚ちゃんの〝ボクの代わりに学校を卒業するんだよ〟っていうのも、なんかもう罰にしか思えなくなってきた。
     どうして金魚ちゃんは、こんな事オレに言ったんだろう? 金魚ちゃんにとって学校ってそれほど大事? それとも、オレが金魚ちゃんを追っかけたりしないように、本当はイジワルでこんなこと言ったの? そんなにオレのこと嫌い? ねぇ、金魚ちゃん教えてよ……
     心の中の金魚ちゃんに尋ねれば、頭の中、オレの稚魚だけは産みたくないって言った、あの金魚ちゃんの泣き顔が浮かんで……オレは、突き刺すように痛くなった胸元を、服の上から押さえた。




     * * *

    「じゃあ、なんでもない日のパーティーに関する議題だ」
     ナイトレイブンカレッジで一番寮生の多いハーツラビュルは、談話室もクソ広かった。そこに一年から三年までの寮生が集められて、一ヶ月後に控えたハーツラビュル名物の〝なんでもない日〟のパーティーに向けての準備に関しての集まりだ。
     手元に配られたプリントは、金魚ちゃんの綺麗な字で当番の名前が書かれていて、俺の名前だけウミガメくんの字で、カニちゃんとサバちゃんと組まされてた。
     それ見た周りの奴らが、「またエースとデュースにオクタヴィネルの人魚の世話させんのか」とか「スート無しは壊す以外できねーだろ」ってひそひそ声が聞こえてきた。例え魂の形を変える儀式をして転寮しても、オレはまだこいつらにとってオクタヴィネル寮生のままなんだ。
     ジクジクと胸の中に染みていく何かに、心に染みができてはじわりと広がってったその時、寮の床をカツコツ音を鳴らして何かが近づいてきて、その音に反射的にみんな背筋が伸びた。
     その正体は、金魚ちゃんと同じ赤毛した、金魚ちゃんママだ。
     金魚ちゃんママが、せんせぇたちを振り払って、金魚ちゃんの部屋に向かおうとしてる。慌てたウミガメくんもハナダイくんも、急いで廊下に出て金魚ちゃんママの所に行って「落ち着いてください」みたいなことを言ってるけど、今までで一番切れてる金魚ちゃんママは、魔法でみんなを薙ぎ払って金魚ちゃんの部屋まで到達し、行方知れずになった息子の足跡が分かるものは何か無いかと探して回った。
     ウミガメくんやハナダイくんが「もうやめてあげてください!」って、金魚ちゃんの残していった大切な宝物を、金魚ちゃんママは手で薙ぎ払っては床に捨てていく。
     本棚にきれいに並べられた教科書や参考書も、金魚ちゃんのクローゼットやチェストの中身も、金魚ちゃんの報告書のような日記も、全て確認されて床に捨てられてた。もちろんその時、金魚ちゃんが本棚に飾っていたオレがあげたかわいい消しゴムは、一番最初に不要だとゴミ箱に捨てられた。
     最後の最後、ベッドの上下、シーツを剥いだ中身、羽毛まで全て明かしながら、金魚ちゃんに「親不孝者」「酷い息子」となじる姿に、さすがの寮生も小声で「うへぇ、酷い毒親じゃん」「寮長かわいそう」なんて口々に言ってる。
    「お前ら、早く談話室にもどれ」
     いつになく余裕のないウミガメくんに言われて、みんなぞろぞろと金魚ちゃんの部屋の前から撤収する。
    「フロイド先輩も、もう行きましょう」
     小声でオレにそう言ったカニちゃんに引っ張られたオレは、もう一度振り返って、部屋にひとり佇む金魚ちゃんママを見れば。その顔は怒り狂った真っ赤な顔じゃなく、ただ悔しそうにグッと奥歯を噛み締め、金魚ちゃんと同じスレートグレーの瞳から、涙が滲んでいた。
     それを見た瞬間、オレの背中を押していたカニちゃんを押しのけ、金魚ちゃんママの腕を掴んでいた。
     背後からオレの事呼ぶカニちゃんの声や、金魚ちゃんママが腕掴まれて、オレのこと「無礼だ」って言おうとして直前——

    「オレが金魚ちゃんを……」

     って……オレは金魚ちゃんママに、あの時のことを言ってしまった。
     その先の記憶は、金魚ちゃんママの強烈な平手打ちに始まり、その後箍が外れたかのようなオレへの罵倒で黒く塗りつぶされた。
    「私のリドルを返して!!!」
     散々、オレを罵倒して最後に出た金魚ちゃんママの本心に、オレはただ「ごめんなさい」と、金魚ちゃんそっくりの顔した金魚ちゃんママに謝ることしかできなかった。
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