ぐちゃぐちゃに荒らされた薔薇の迷路は、昨日までの面影もなく、混ざった色のせいで汚くさえ見えた。
「なんでこんな……」「一体誰がこんな事しやがったんだ!?」
カニちゃんとサバちゃんが慌てふためくのを見ながら、オレの心はどんどんと冷えてく。
今ここにいない金魚ちゃんの為に今日まで準備してきた。いや、それだけじゃねぇ、ちょっと仲良くなったハーツラビュルのやつらと一緒に、オレにとって初めての『なんでもない日のパーティー』の準備、ワイワイ騒ぎながらさぁ、思っていた以上にオレはきっと楽しんでた。だからそのために柄にもなく我慢だってしたし、進んでパーティー成功のために動いたりもした。何年後、何十年後かに再会したときに、金魚ちゃんに胸張って学校卒業したよって、同時に金魚ちゃんのトランプ兵として、オレも『なんでもない日のパーティー』の準備をしたんだよって、驚かしてやるんだってそんな事考えながら準備してきた。
それが、今目の前で汚く混ざりあったペンキでぶち壊しにされてんの。
(あ〜、もうムリ……限界)
オレはくるりと踵を返して歩き出した。その背後でカニちゃんが「フロイド先輩!? どこ行くんすか!??」って焦って声上げた。んなもん決まってんだろ、
「こんな事したバカ、絞めにいくンだよ……」
完全にブチギレたオレの顔に、カニちゃんもサバちゃんも焦ってヒェって一声。「私闘はダメですって!」「止まってください!!」って左右からオレの事止めようとしてる。うぜぇって二人を振りほどいて寮内を探せば、オレの事〝スート無し〟って呼んでる雑魚連中が、パーティーの準備サボって談話室でくっちゃべってんの。くっそムカついたから、近くにあった椅子をコイツら目掛けて蹴っ飛ばした。
「あっぶねぇ!! なにすんだよ!!!」
ギリギリで身をかわしやがった。チッって舌打ちして、ハーツラビュルの真紅の魔法石が付いたマジカルペンを胸元から引き抜いて、顔引き攣らせてる雑魚に向けた。
「あはっ! オレぇ、今思い出しちゃったァ。お前さぁ、一年の時に金魚ちゃんのこと「気に入らねー」って、裏で悪口言って嫌がらせしてたろ?」
指摘されたボスヅラしてる真ん中のトランプ兵は、急に顔色変えて「だからな何なんだよ! あの時は、ローズハートにも問題があったろ!」とか叫んでんの。
「それだけじゃねぇだろ? その嫌ってるはずの金魚ちゃんで、同クラのイグニハイドのやつに無理やりエグいコラ作らせてたよなぁ? ……もしかしなくてもさぁ、アレ使って文句言いながら毎晩抜いてたりしたぁ? あはは、キモ……」
オレがそう言えば、隣りにいたダイヤのトランプ兵が引いてる素振りを見せたけど、実はこいつも大概だ。
「隣のオマエ、オマエもさぁ……金魚ちゃんの手拭いたハンカチ盗んでたよね? アレ、何に使ってたの??」
「その背後のやつも、オマエも、オマエも、オマエも……オレの事目の敵にしてるのってそーいう理由なんでしょ? オレが金魚ちゃんと〝ソ〜イウコト〟して羨ましかったの? それで、オレの事ムカついて『なんでもない日のパーティー』ぶっ潰そうなんて……オマエ、バカじゃね?」
今まで、「寮長を傷つけた」とかなんとか正義ヅラして言ってたコイツらは、本心では金魚ちゃんを下心の籠もった目で見ては、脳内で口には出せないような事を、頭の中の金魚ちゃんにしてた。それ指摘してニタァと蔑むように笑ってやれば、怒った雑魚がオレにマジカルペンを向ける。
「スート無しが何言ってんだよ! どうせ、俺らを攻撃する理由が欲しくてお前自身で薔薇の迷路をペンキでめちゃくちゃな色に塗ったんだろ!!」
「あはっ! はい、ゲロったぁ♡ 第一発見者のオレとカニちゃんサバちゃんしか知らないことを、なぁ〜んで、ここでくっちゃべってたオマエが知ってんの?」
「それは、さっきお前が……」
「オレは〝『なんでもない日のパーティー』ぶっ潰そうなんて……〟としか言ってねぇよ?」
ぐぬぬって顔して、もうごまかせないと悟った奴らは、顔青くして悔しそうにオレの事睨みつけてる。
「お前ら全員、ほんと何やってんの? ……そんなに寮長寮長って言ってるくせに、金魚ちゃんの大切な『なんでもない日のパーティー』ぶっ潰そうなんて……オレがお前らのカッスカスの頭絞めて、タルトの飾りにしてやろうか?」
そしたら少しはマシになろだろ? そう煽ってやれば、胸元からペンを引き抜いて、オマエの血で薔薇を赤く塗ってやる! みたいなこと言ってんの。
「上等だァ、コラ! 逆にオレがお前らの血で薔薇を塗って、落とし前付けさせてやるよ。来いよ……」
オレの言葉に火蓋が切って落とされ、談話室で魔法ぶっ放してきた。
「ファイアーボール!」「フレイムブラスト!!」
オレが人魚だからか、火属性魔法ばっかり使ってくる雑魚に向かって走りながら、巻きつく尾で魔法を跳ね返せば、雑魚二匹が跳ね返ってきた魔法に頭とケツ燃えて「アチアチ」言いながら叩いたり、近くにあった花瓶の水ぶっかけて消してた。
運動部のトランプ兵は、魔法が跳ね返されるなら腕力でと思ったのか、拳で殴りかかってきた。けど、ぬるいスピードで迫ってくる拳なんで、簡単にヒラリと交わして、逆にそいつの腕掴んでテーブルに向かって投げた。簡単に投げ飛ばされテーブルの上、ペットボトルなぎ倒し、一緒に机の上に会ったスナック菓子まみれになった。
この光景を慌てながら見てるカニちゃんとサバちゃんは、アワアワするだけでなんもできない。その二人の背後、この騒ぎに飛んできたハナダイくんが「あちゃ〜、やっぱりこうなったかぁ」って苦笑いしてる。
「ケイト先輩、そんな呑気な事でいいんすか……!?」
「早く止めないと、談話室が大変なことに!」
慌てるカニちゃんとサバちゃんと温度差が酷い。
「いや、このまま好きにさせよう」
ハナダイくんの背後に現れたウミガメくんは、そう言って部屋に防衛魔法を展開した。これでどれだけ暴れても、部屋の物が壊れることはねぇってことだ。
「どうせこのままにしてても、一部の連中はフロイドを認めない。ならナイトレイブンカレッジ流の方法で、フロイド自身で寮の奴らに認めさせるしかないだろ」
「そ~言うこと! だからフロイドくんたち、これが最後だって思いっきりやっちゃいなよ!!」
ナイトレイブンカレッジ流……つまり勝ったほう、強者に従うってことだ。本当にシンプルでわかりやすい。
そう、それそれ。そうこなくっちゃってオレは、残り三人、その中のひとりはあのボスヅラしたトランプ兵に向かって「だってさぁ」って、再度マジカルペンを突きつけた。