「では、確かに……確かに受け取りました。が——」
ボクの目の前、学園長はボクが提出した“決闘申請書”の上から下までを読んで、学園長の机の上にある大きな木製の判を手にし、ボクを見た。
「本当に決闘しちゃうんですか? 今のハーツラビュルの寮長をしてる子は、生活態度はアレですけど、魔法に関しては学年でも上位の成績を修めてるんですけど……入学したての一年生がどうにか出来る程、彼は弱くないですよ。怪我とかして、もしも親御さんから苦情が来たら……! あ〜もう! 考えただけで胃に穴が!!」
「例え上級生であっても、ボクは負けるつもりはありません」
「決闘を挑む子は、大体そう言うんですよ。まぁいいです、受理はしましたから、途中でやめた! は簡単にできませんからね!!」
バンッ! と音を立て、ボクの申請書の上に判が押された。
「ありがとうございます、学園長」
「くれぐれも、怪我には注意してくださいよ」
「それでは失礼します」頭を下げ部屋を後にすれば、ドアの前に心配そうなトレイとケイト先輩が立っていた。トレイの唇の端には、殴られて出来た傷を覆うように絆創膏が付いていた。
「リドル、本当によかったのか? 俺達がお前に変な事を言ったせいで、先走ったりしてないか?」
「もしオレたちのためにリドルちゃんが無理してるなら、寮長にはオレたちが謝るから、だからリドルちゃんは気にしなくていいんだよ?」
2人は、自分たちの言葉でボクが焚き付けられて寮長の座をかけて戦おうと考えた……と思っているようだ。
「火曜日のハンバーグ……」
「「え!?」」
「“ハートの女王の法律”第186条、火曜日にハンバーグを食べるべからず……第271条、昼食後15分以内に席を立たねばならない……第339条、食後の紅茶は必ず角砂糖を2つ入れたレモンティーでなければならない……彼は食事ひとつとってもあまりにもルール違反が多すぎる。ボクはそれが許せない……!」
そうだ、規律を取り戻し、法律を守らなければ、その先に自由はない。無闇やたらとルールを破れば、いつしか大切な自由を失うんだ。
「だからボクが、ハーツラビュルの王になる。二言はないよ」
「……はは、あははは! 変わったなぁリドル。そうだよな、もうあれから7年も経ってるんだもんな……うん、そうだな……リドル、この先何があっても、俺はお前をサポートするから」
「オレも! リドルちゃんが寮長になったら、なんでも言う事聞いちゃうからね!」
ケイト先輩の発言に、ボクはひとつ思うことを口にする。
「でしたらケイト先輩、ボクが寮長になったらその呼び方を改めていただけませんか?」
呼び方? と、頭に疑問符を浮かべるケイト先輩は、ボクを見て「リドル“ちゃん”……って呼ばれるの嫌だった?」と聞いてきた。
「もちろん、ボクは小さな子供じゃありませんから」
ボクの返答に、ケイト先輩は声を上げて笑う。なんで笑ってるんだ。
「あはは! まさか、そんな事言われるなんて意外すぎて……!」
「笑い事ではありません。ボクが寮長になった暁には、しっかりと約束を守ってくださいね」
「うん、だから絶対に勝ってね!」
「言われなくとも、ボクは誰にも負けません」
そうだ、お母様のもとで14年と少し、ボクは必死にお母様の望まれるボクになった。だから誰にも、簡単に負けるつもりはない。あの苦しさも、きっとこの時のためにあった。絶対にボクは、寮に正しい秩序と法を取り戻す。
「行こう二人とも」
ボクはそう言い、寮長との戦いの場である寮へと踵を返した。