リドルさんが、タルタロスの最下層に封じられて、あれからもう季節がひとつ巡りました。
あのあと、首無しトランプ兵の空洞の中から出されたフロイドとアズールの収められた棺や、僕がリドルさんに託された揺り籠に眠るアスターくんとサミュエルくん。四人の亡骸を囲み、現場に到着した父さんや母さん、アズールの母親や祖母、そして養父であるイヴァーノさんや、子供たちと数年暮らし孫のようにおもっていたフレドさんやアルマさんが、どれほどの涙を流したか分からない。
人魚であるフロイドやアズールは、本来なら陸に埋葬されることはないが、家族一緒がいいだろうと皆さんの意向で、子供たちの隣に埋葬された。そして、タルタロスの最下層に封じられたリドルさんは、その体を埋葬できない代わりに、彼縁の品を棺の中に収められた。
それは、アルマさんから頂いたワンピースであったり、リドルさんが未来を夢描いて手にした魔法医術師と法律に関する書籍、アズールが送ったドレスや、フロイドがリドルさんにプレゼントしたブックバンドや消しゴム……そして、あの子供たちがリドルさんに渡した似顔絵や、楽しい時間を切り取った数々の写真……それを薔薇でいっぱいにした棺に、みなさんが次々に思い思いの品を入れていく。
その最後、黒いデイドレスを着た小柄な女性が、その見覚えのある赤毛を黒いトーク型の帽子とベールで隠し、緑のリボンが掛かった白い薔薇の花を一本、棺の中央にそっと収めた。その薔薇は、リドルさんが生まれてから一六年暮らした、薔薇の王国にある彼の家の庭に植えてある薔薇の花だった。
そして、大勢の別れを惜しむ声と共に、その五つの棺は埋葬されてしまった。
その後、リドルさんの虐殺行為が、我が子を拉致され実験動物にされかけただけでなく、夫と子を殺され事を発端としたことが明るみになり、S.T.Y.X.を筆頭に、夕焼けの草原の第二王子や、あのアジーム家の後押しがあって、anathemaの末端の組織まで解体され、今までの非道徳的な行為は全て法で裁かれることとなった。
今後呪石は、S.T.Y.X.が責任を持って全て回収・廃棄することが表明され、世界は痛みを抱えたまま、少しずつ日常に戻ろうとしていた。
皆が呪石に踊らされ、そして身を滅した……その教訓を忘れないために此度の事件は歴史書に刻まれそして……リドルさんの我が子への深い愛とその悲劇は、脚色されて小説や舞台となり、この先何百年、繰り返し語られることとなる。
それは、終焉という名のミーティア——
赤く降り注ぐ呪われた星をタイトルに使うなんて……本当に悪趣味でつまらない。
僕が本当に望んだ舞台は、きっともっと面白い話のはずだった。こんな最後を見るために、僕はずっとあの三人の踊る姿をそばで見守ったつもりはない。
(こんなことなら、リドルさんを取り合って、殺し合いでもしてくれたほうが、もっと楽しめたでしょう)
「本当に、つまらない世界になってしまいました……」
僕はそうつぶやき、手にした小説をゴミ箱に捨てた。