「ん、んっ、ぁっ、あぁッ……!」
「クッ……!!」
ベッドの上、うつ伏せに肩を押さえつけられ、腰だけを高く上げた体勢で、ボクは後ろからアズールに性器を挿入されている。未だ痛むとはいえ、何度も彼の性器を受け入れたせいで、圧迫感は伴えどアズールの性器を根本まで受け入れてしまえるようになったボクの体は、彼の義務的な射精で中に出された精子を、当たり前に受け入れられるようになっていた。
義務的な射精を終えると、アズールの性器が体内から引き抜かれ、ベッドに沈み込んだボクを無視して、アズールはシャワーブースに向かってしまう。程なくして聞こえてくるのはシャワーから降り注ぐ水音だけだ。
ボクとアズールがこの部屋に監禁されて、もう三週間近く経つ……はずだ。はずだと言うのは、外を確認できる窓がないせいで、今が朝か夜か全く分からないからだ。時間感覚の狂う空間で、anathemaによる身体検査の他は、毎日最低一回、アズールにこうして義務的に抱かれる生活を送っていた。
こんなことになる前、あれだけ気さくに話しかけてくれていたのがウソのように、ボクに話しかけるどころか、顔すら見たくないと極力ボクを触らないように必要最低限の接触で行われる性行為は、子を成すという神聖な行為にも関わらず、ボクたちのそれは義務的な、愛のかけらもないような酷いものだった。
ここでの食事は、テーブルの上にぬるい水とエナジーバーが用意され、好きなように食べて良いとされていたが、味気ない栄養バランス食品を好まないアズールは、ここ最近徐々に食事の回数すら減っていた。さらには部屋にひとつしかないベッドを性交に使っているせいか、ベッドを使うことを拒否するアズールは、自分用の毛布に包まり部屋の隅の床で寝る始末だ。ここ数日、本当に顔色も悪く、目の下のクマも酷い。
最初のうちは、アズールのこの態度に腹が立ったりもしたが、毎日のように呪石の呪を受けた身体を調べられ、ボクの身体にしっかりと存在する疑似子宮や、初めて図書館で呪が原因で身体を重ねたあの時、アズールの瞳が赤くなった事も、ボクが幼少期に受けた呪石の祝福が原因だと、ボク自身認めざるおえなかった。
だが、幼少期ボクが願ったのは、児童書で見た〝素敵な家族〟のはずだ……ボクにそういった好意を持っていないアズールをその相手に選ぶなんて、やはり呪石という存在は奇跡でなく呪でしかない。
だから余計に、ボクにはアズールをこんな事に巻き込んだ責任があった。
あのタルタロス内で、自分の事を〝繊細〟だと称したアズールには、ボクとの望まない強制的な性行為も、シャワーやトイレだけでない、ボクとの性行為も全て監視された状態で、あんな風に毛布に包まって硬い床で寝る生活は相当な負担だろう。
せめて、ベッドを増やしてもらうか、食事の改善を訴えなければと、そう考え眠りに落ちたボクは、ハァハァと苦しげな息で目が覚めた。
起き上がってあたりを見回せば、普段は毛布を手繰り寄せ包まるアズールが、熱いと言って毛布を蹴り。やたらとその顔が赤いことに気づく。彼の名を呼んで近づき額に手を当てれば、それは酷く熱く、高熱であることは一瞬でわかった。
「アズール、大丈夫かい? ボクの声、聞こえる??」
呼びかけても答えないアズールに、これはダメだと、彼の脇の下に腕を入れ、引きずるように持ち上げたが、想像以上に重くて簡単には動かない。それでも必死に引きずってベッドまで運んだボクは、部屋の隅に設置されたカメラに向かい訴えた。
「誰か……アズールが熱を出したんだ! 人魚の治療資格のある職員をこちらによこしてくれ!! できれば、身体の熱を冷ますような冷却パックや、経口補水液も一緒に持ってきてはくれないか!?」
ボクの訴えに、数分もしないうちに人魚の治療資格を持った職員がやってきた。診断名は〝心因性発熱〟……ウイルスが原因の発熱とは違い薬で簡単に治らない病状に、ボクはグッと奥歯を噛んだ。
彼を巻き込んだ認識はあったのに、その責任を全うしようと直ぐに行動に移さなかった。そのせいでアズールはこうして熱を出してしまった。全部、ボクのせいじゃないかと、職員がアズールを医務室で治療しようとしたがボクはそれを拒否して、この部屋の中でアズールの世話をすることに決めた。
とにかく熱を下げさせなければと、身体の太い動脈の部分に冷却パックを挟み、酷い汗を拭いては新しい服に着替えさせた。アズールの身体をまじまじと見たことのなかったボクは、思った以上に鍛えられた身体にびっくりした。以前、ジャックが『アズール先輩が筋トレをしている』と話していたのを聞いたデュースが、大食堂ででエースやエペル、それに監督生と話していたのを聞いてはいたが、ここまでしっかり鍛えているとは思わなかった。あの重さは筋肉のせいだったようだ。
服を着替えさせて、経口補水液のペッドボトルを口元につける。
「アズール水分だよ、少しでも飲むんだ」
声を掛けるが、眉を寄せるだけで飲もうとはしてくれない。これだけ汗をかいたんだ、脱水症状を起こす可能性もある。仕方がないと、後で知られたらアズールに文句を言われる事を覚悟して、経口補水液を口に含み、彼の唇に合わせゆっくりと口移しで飲ませていたら、よほど喉が乾いていたのか、すごい勢いでボクの咥内の水を飲み込んでいく。それを三回繰り返したが、四回目でもまだ足りなかったのか、アズールが無意識にボクの頭を掴み、咥内に舌を差し込んできた。
経口補水液の甘さを欲しているのか、ボクの舌先に残るその味をも欲して、アズールの舌が器用にボクの舌に絡まってジュッと吸い付かれた。
「んんんッ!!?」
身体を離そうにも、ガッチリと頭を掴まれていて身動きが取れない、それでも舌にあった甘さが消えれば、満足したようで眠ってしまった。ほんの少し安定したのか、茹で蛸のように赤かった顔の熱が引いている。それにはほんの少しだけ安心した。
そこから数時間。アズールに口移しで経口補水液とエネルギーゼリー飲料を飲ませ、枕元に座り彼の様子を見ていれば、次は寒いと言って毛布を手繰り寄せる。急いで冷却パックを取り除き、職員に追加で毛布を持ってこさせようとすれば、手を伸ばしたアズールが、無意識にボクの身体を抱きしめ、毛布の中に引きずり込んだ。
「ちょ!? アズール!!?」
抱きしめられたことに驚いて、彼の腕の中でもがいてみるも、夢の中で湯たんぽでも抱きしめているつもりなのか、ガッチリと抱き込まれて身動きさえとれない。
目が覚めて、ボクを抱きしめてるなんて知ったら、アズールはきっとまた不機嫌に怒るはずだ。
それって絶対に面倒なのに、心細さから母親の胸に顔を埋める子供のようにさえ見え。ボクはお母様に「これからは夜はひとりで眠るように」と言われた子供の時の事を思い出した。あの日の夜、初めてお母様のいないベッドの広さに、怖くなって泣いて、泣き疲れて眠りに落ちた事を思い出した。
今のアズールと、あの時のボクを一緒にしたら、きっとキミは怒るんだろうけれど、そんな事を思い出してしまったら、もう彼の腕の中に大人しく収まる以外できなかった。
頬に触れるアズールの髪を、無意識に手のひらで撫でながら。起きた時に、ほんの少しでも熱が引いているようにと、そう祈りながら……アズールの体温に、ボクの意識もゆっくりと微睡み落ちていった。