自覚 #1 湊はずるい、と。
恐らく返す言葉がないのであろう時に、若干拗ねた素振りを見せながら静弥はそう口にする。
今回なんかはまさにその典型例で、久しぶりにふたりきりになれたというのに色々御託を並べて素直に甘えてくれないものだから、静弥の言葉を遮り強引に腕を引いて抱き寄せてみればこの調子である。
湊に言わせれば、ずるいのはむしろ静弥の方だ。
そういう後から思い返して恥ずかしくなるようなことをさせているのは一体誰のせいなのか、と。言い返してやろうかと思ったのは一度や二度の話では無い。
けれど、普段の澄ました調子は何処へやら、こうして耳まで真っ赤に染めて俯向く静弥があんまりにも可愛らしくていじらしいものだから、またこういう静弥が見たくてついつい湊から甘やかしてしまうのだ。
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