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    omoti_321

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    omoti_321

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    司→←えむ

    司くんはオオカミさんだった夢の中で夢を見たんだ

    それはどんな夢だったのか司が聞くと、えむはふにゃりと頬を緩ませた。ほんのり色付いた頬を見て、司は自身の胸がツキリと痛み、無意識に胸元辺りの服をぎゅうっと掴んだ。
    ――仲間が嬉しそうだというのに、どうしてオレは痛みを感じるのだろうか。

    「司くん、どうしたの?お胸痛いの?」
    「あ、いや」

    不思議だ、と司は思った。えむが司に声を掛けただけで、いや・・・・・・司に意識を向けただけで痛みが和らいでいくような気がした。夢の中の誰かがえむの頬を染める相手であったことが、嫌だったとでもいうのだろうか。ひとつの可能性が思い浮かんだが、司は頭を振った。ちいさな子どもでもあるまいし、ましては兄であるオレがそんなことで心をかき乱される筈がない。こんなことでは、咲希に叱られてしまうなと司はここにはいない妹の姿を思い浮かべた。

    「話の続きを聞かせてくれ」
    「う、うん。えっとね、あのね」

    司の体調が気になるのか、それとも夢のことが言いずらいのか先程とは違いそわそわしながらえむは言葉を紡いでいく。人差し指で下唇をすりりと触りながら、上目遣いにえむは言った。

    「つかさくんと、ちゅーする夢だったの」

    こくり、と唾を飲み込んだ。暑さで輪郭をなぞるように滴る汗が、一雫だけアスファルトにシミをつくった。ミンミンと鳴くセミの声はさっきも聞こえていたはずなのに、やけに大きく耳に響く。

    「えむは、オレとキスするのは嫌か?」

    多分、えむも気付いている。この質問の意図に。この質問の意味に。えむの大きな瞳が見開かれた後、とろりとした瞳になった。

    ――嫌じゃないよ

    目は口ほどに物を言うとはこのことか、と司は思う。えむの髪の毛は汗で湿っていたが、不快に感じることはなく、むしろ背徳感を覚えた。この髪に触れる男は、オレ以外にいないだろうな。

    「好きだ、えむ」
    「あたしも、つかさくんがすきだよ」

    自覚してすぐに思いを伝えられる喜び。
    想い人も自分を好いていた喜び。
    逸る鼓動が全身に響いて、ドクドクという音が相手に聞こえそうだ。気恥しいのに、ずっと感じていたい。むしろ、えむに聞いて欲しいとさえ思える。司はとろりと溢れ出す感情を必死に抑え、えむの唇をぺろりと舐めた。

    「ん、ふえ?」
    「えむのこと大切にしたいから、キスはまた今度にしよう」

    えむの頭を軽く撫で、司はくるりと背中を向けてゆっくりと歩き出した。えむは呆然としながら、唇に手を添えて頬を真っ赤に染め上げた。

    「現実の司くんの方が、オオカミさんだ」

    えむは熱い吐息を漏らしながら、とてとてと司の背中を追いかけていった。


    おしまい
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