オレにこだわりは無えんだが「よお、今帰ったぜ」
「お疲れ様だったね、レノ。謀略の世界はどうだった?」
「スーツに眼鏡か。なかなか洒落た格好だな!」
久々に帰還した義勇軍本部。仲間たちがわいわいと集まる中、レノは少し離れたところから呆然と自分を見つめるグール=ヴールと目が合った。
――あ、やべえ、旦那が固まってんな。
その姿を見て、レノはようやく「あの時」のことを思い出した。
***
「――レノ、そろそろ起きた方がいいのではないか? 既に日は昇ったようだが」
「……ん、もうそんな時間か」
「今日は君が朝食の当番だと聞いている」
「ああ、もうじき起きるさ。……心配すんなよ、『旦那』」
レノがそう呼ぶ度、グール=ヴールは少しむず痒いような気持ちになる。こんな風に呼ばれるようになった切っ掛けはほんの数日前、レノにはじめてカードゲームとやらを教えられた時だったか。たどたどしくカードを切った自分に呆れるかと思いきや、勝負を終えたレノはそれは穏やかな表情で、親しみと敬愛に満ちた眼差しを向けて自分を『旦那』と呼んだのだ。「初めてにしちゃ上出来だ。筋も悪くねえ」という褒め言葉とともに。
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