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    なくら

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    なくら

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    何度目か分からないギアティル出会い編です。
    いつかこのお話も漫画化したい。(2020年12月くらいの作品)

    ##蒼い世界の中心で
    ##小説

    You are My HERO オレには大好きなヒーローがいた。
     誰よりも強くて、速くて、格好よくて…。
     そんな"青いハリネズミ"のヒーローさん。
     赤ん坊の頃から読み聞かせてもらっていた"絵本の"ヒーローは、オレの憧れだった。


     その日の夜、オレはいつものように母さんにお願いをして、大好きな絵本の読み聞かせをしてもらっていた。
     オレが好きなその絵本は「音速の青いハリネズミが悪の卵男を倒す」という、そんなお話だった。
     毎晩のように読んでもらっていたものだけれど、オレは飽きもせず最後まで聞き入ってはその度に目を輝かせていた。

    「…そうしてハリネズミは卵男を倒し、世界に平和が戻ったのでした。ーーーおしまい。」
     母さんは最後の一文を読み上げると、絵本をパタン、と閉じた。
     オレはというと、絵本の余韻に浸って目を輝かせていた。
     
    「ねえお母さん!ハリネズミさんってすっごく強いんだね!」
    「ええ、そうね。」
    「ハリネズミさんなら、戦争だって終わらせて、世界を平和にしてくれるよね!」
    「ええ、きっと。……ティルは本当にこの絵本のヒーローのことが大好きなのね」
    「うんっ!!」

     そのような話をしてから、オレは母に早く寝るように促されたため、そのままウトウトと眠りについた。

     その夜、夢の中で絵本の中の青いヒーローに会った気がした。




     次の日、オレは村の子どもたちが輪を作り、なにやら話し合っているところを見かけた。
    「一体いつになったら終わるんだろう」とか、
    「この国は一体どうなってしまうのだろう」とか、
     盗み聞きをしようとしたわけではないけれど、話している内容が聞こえてきた。
     どうやら戦争の話をしているらしい。

     昨夜母親に同意してもらったこともあって、その日のオレは、いつもに増して憧れのヒーローの存在を信じて疑わなかった。
     その時ちょうどその絵本を持ち歩いていたこともあって、オレは得意になって子どもたちの輪の中に入っていった。
    「大丈夫だよ!戦争なんて、青いハリネズミさんがすぐに終わらせてくれるから!」
     絵本を見せながらそう話すオレに驚きながらも、子どもたちのうちの1人が口を開いた。
    「はりねずみって…まさかその絵本の?」
    「うんっ!そうだよ!」
     その子どもは、他の子らと顔を見合わせた後、プッと吹き出し、しまいにはみんなで一斉に笑いだした。

    「なっ…どうして笑うの!?」
     なぜ笑われているのか分からなくて、オレは順にその子たちの顔を見ていった。
     どの子も腹を抱えたり、涙を浮かべたりしながら笑っていた。
    「バッカじゃねーのお前!」
    「絵本の話なんて本気で信じてるのかよ!」
     口々に言う彼らの言葉を聞いて、オレは目に涙を浮かべた。
     悔しいだとか、怒りだとか、そういう感情からだったと思う。

    「この世界を救ってくれるヒーローは、絶対絶対いるんだもん!!」
     オレはそれだけ言い残すと、いまだ笑い続ける彼らに背を向け、駆け出していった。




     さっきのことで涙が止まらず、オレは1人嗚咽を漏らしながら、絵本を抱えて森の中を歩いていた。
     それで足元がよく見えていなかったらしい。
     オレは木の根っこに躓いて転んでしまった。
     その拍子に、絵本も落っことしてしまい、開いた状態で地面についてしまった。
     それがトドメとなり、オレはついに大きな声をあげて泣き出した。



     と、その時。一陣の風が吹いた。
     ーーーー少なくとも、オレにはそう感じられた。


     風が止んだと思ったら、そこにはオレと同い年くらいの男の子が立っていた。
     その時オレは、絵本からヒーローが飛び出してきたのかと思った。
     理由は簡単だ。
     その男の子は、絵本のヒーローと同じように、青く逆立った頭をしていたから。
     

     オレが憧れのヒーローに似たその人に見とれていると、彼が声をかけてきた。
    「お前、どうしたんだ?どっかケガでもしたのか?」
     "ヒーロー"はオレが涙を流していたのが気になったらしい。
     そういえばさっき転んだから、膝から少し血が出てて、ズボンが滲んでいる。
    「やっぱりケガしてるじゃないか!…ちょっと待ってろ」
     そう言うと、ダッと何処かへ駆け出していった。
     すごく足が速かったものだから、あっという間にその子の姿が見えなくなった。
     ふと地面に落ちている絵本を見ると、ヒーローがピンチの時に颯爽と現れるシーンが開かれていた。
    (まさか本当に?)
     そんなことを考えていると、さっきの男の子が走って戻ってきた。
     その手には、救急箱のようなものを持っている。

    「ほら、足見せてみ」
     言われるがままにオレはズボンをたくしあげ、ケガをしているほうの足を見せた。
    「そんなにひどいケガではなさそうだな」
     言いつつその子は消毒と絆創膏で軽い応急処置をしてくれた。

    「ね、ねぇ。その救急箱どこから持ってきたの?」
    「ん?そこの村からだけど?」
    「村から!?こんなほんのちょっとの間に!?」
     オレは泣いてる間ずっと森の中を歩んでいたから、ここから村まではそれなりに離れているはずだった。
     それなのに、たった一瞬の間にこの子は村から物を取ってこれたというのだ。

     先ほどの疑念が確信に変わった気がした。
     オレはすくっと立ち上がると「あなたの名前を教えてください!」と言った。
     少年に治療してもらった足が少しだけ痛んだが、そんなのは全然気にならなかった。
     突然立ち上がって、捲し立てるようにそう言いはなったオレに彼は驚いていたが、
    「ギア」とだけ短く答えてくれた。


     これがオレとアニキとの出会いだった。
     絵本のインパクトも相まって、衝撃的な出来事だった。
     とにかく彼のことが知りたくて知りたくてたまらなかった。
     俗に言う「一目惚れ」ってやつだったのかもしれない。
     それからオレの"ギア"を追いかける日々は始まった。
     彼がどこへ行こうとも、ずっと後ろをついていった。

     一緒にいるうちにだんだん分かってきたけど、彼はどうやら絵本から飛び出してきたわけではなかったようだ。(当然と言えば当然なんだけど…)
     でも、もはやそんなことはどうでもいいくらいに、オレは彼に夢中になっていた。

     彼は、オレの憧れだった。





     オレはいつもの天井が目に映り、今まで見ていたのが夢だったということを理解した。
     アニキと初めて出会った頃の夢だった。
     お陰で目覚めは最高。今日は良い日になりそうだ。

     当時からアニキは格好よかったなあ、なんて思い出しながら、隣で寝息を立てている彼に視線を移す。
     村がニンテルド兵に教われて以来、オレはアニキともう1人、ネルと3人で生活していた。
     彼女もまた、村が襲撃に遭った日の生き残りだ。

     またいつニンテルド兵が襲ってくるかも分からないので、3人とも同じ部屋で寝るようにしている。
     そのため、毎朝こうして堂々とアニキの寝顔が見られるので、ちょっとラッキー…なんて思ってもいたり。
     うん、今日もギアのアニキは格好いい。


     しばらくアニキの寝顔を眺めて満足したオレは、2人を起こさないようにそっと部屋を出た。
     まだ朝日は満足に顔を出していない時刻だった。
     今日は風が吹いているので、涼しくて気持ちが良い。
     グッと伸びをして、そのまま柔軟体操を始めた。
     目を覚ますには、やはりストレッチが一番だ。

     オレがしばらく体を動かしていると、アニキが部屋から出てきた。
     起きるのは、オレ・アニキ・ネル。
     大体いつも同じ順番だ。
    「おはよう、アニキ!」
     オレがそう言うと、
    「ん…はよ」
     あまり元気とは言えない声が返ってきた。
     寝起きのため、まだボーっとしているようだ。

    「……なんか今日はやけに機嫌がいいな?」
     今朝みた夢のお陰で、いつもよりテンションが高かったらしい。
     それがアニキにも伝わったようだ。
    「フフ、わかる?」
     アニキが気付いてくれたものだから、ますます気分がよくなった。
     やっぱり今日は良い日だ。

     そんな夢心地の気分のまま、アニキに近付き、となりに立った。
     初めて出会ったころは同じくらいの身長だったけど、今ではアニキのほうが背が高いとハッキリ分かるくらい、差をつけられてしまった。(最初からアニキのほうが背が高かったけど)
     体格だって、アニキのほうがずっとガッシリしてる。
     オレだって毎日鍛えてるんだけどなあ。
     やっぱりアニキのようにはいかないや。
     うんうん、今日もアニキは格好いい。

     思わずニヤけてしまうオレにアニキは「なんだよ?」と尋ねてきた。
     オレはニヤけたまま「なんでも!」と返した。



     "世界を救ってくれる青いハリネズミさん"。

     今も変わらず信じてるーーーーなんて言ったら、「子どもっぽい」って笑われちゃうかな?
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