君と共に歩く未来 僕から見た"アシュトン・アンカース"。
初めての出会い。魔物龍に取り憑かれたのは、僕らのせいだと言って、強引に旅についてきた。
ある町にて。そこらにあった樽に、夢中になっていた彼。そこからちっとも動こうとしなかったから、終いにはセリーヌさんに強引に引きずり回されていた。
それから………
「…どうしたのクロード?僕の顔に何かついてる?」
これまでのアシュトンの印象について考えていたため、僕は無意識に彼のことを見つめていたらしい。
アシュトンは困惑した面持ちで、こちらを見ていた。
「いや、別になんでもないよ。」
思い浮かべていたアシュトンのシーンがあまり良いものでは無かったため、僕は手を振り誤魔化した。
僕たちは今、ラクールにあるホテルで寝泊まりしていた。
古文書の解読を頼むべく、明日にはリンガに向かう予定だ。
その時、アシュトンが背中に背負っている、2匹の龍が鳴いた。
僕には2匹が何を言っているのか分からなかったけれど、アシュトンにだけは言葉を理解することができた。
「ギョロとウルルンも、クロードがずっとこっち見てたって言ってるよ。」
アシュトンだけならまだしも、彼には2匹の龍もついている。
6つの目は誤魔化せないということだ。
6つの目にじっと見つめられ、僕は観念して話すことにした。
「いや、本当に大したことじゃなくてね。初めて会った時からアシュトンってこう……自分に正直だよなあ、なんて考えてたんだ。」
なんとか言葉を選びつつ打ち明けた。
しかし、それもアシュトンには見抜かれたらしい。
「……クロード、無理に言葉を選ばなくても、はっきり言ってもいいよ。"ワガママ"だって。」
図星だった。
アシュトンは、良く言えば自分に正直。悪く言えばワガママだよなあ、なんて考えていた。
でもそれは、決して嫌な気持ちで考えていたわけじゃなくて。むしろ……
「いや、悪く考えていたわけじゃないんだよ。なんていうか……"うらやましい"って思ったんだ。」
「うらやましい?」
ワガママなことが"うらやましい"だなんて、アシュトンにはよく分からなかったらしく、首をかしげている。
「僕はね、そう……。人の目を気にして、自分を押し殺す生活を送っていたから、アシュトンがうらやましいと思ったんだ。」
言いつつ、僕は士官学校時代のことを思い出していた。
誰からも"英雄、ロニキス・J・ケニーの息子"としてしか見られず、誰も僕自身を見てくれなかった。
だから僕は「英雄の息子」らしく、優等生を演じていた。
僕は、そんな自分のことも嫌だった。
なんのしがらみもなく、自由に生きることができたなら――――
「僕から見れば、クロードだって十分ワガママだと思うよ。」
「え?」
アシュトンの予想外の返しに、僕は心底驚いた。
「よくレナを困らせてるじゃない。ほら、武具大会の時とかさ。マーズ村でもすごかった、ってセリーヌが言ってたよ。」
言われて僕は顔が熱くなるのを感じた。
「あ、あれはワガママというか…!」
アシュトンの言う、武具大会とマーズ村。それは僕がレナとケンカしてしまったところだ。
この2つの共通点は、レナの幼なじみ・ディアスが居たことだ。
彼を見るレナの表情・雰囲気から、レナがディアスに特別な感情を抱いていることが分かった。
そう思うと、なんだか気持ちがモヤモヤして、気付いたらケンカになってしまっていた。
そう。この感情は要するに―――…
「"嫉妬"だって、立派なワガママだと僕は思うよ。だって、自分の勝手で"こっちを見ててほしい"って思うことだろう?」
自分の感情の名前を言い当てられ、僕はますます赤くなった。
と、同時に、自分のワガママでレナを振り回してしまっていたことに気付く。
「クロードが今までどんなところに居たのかは分からないけどさ、ここでなら自分を押し殺す必要なんてないんじゃない?」
そう言われて気が付いた。
そうか。誰もが英雄ロニキスのことを知らないこの土地でも、僕は心の中のどこかで、優等生を演じようとしていたのかもしれない。
ここでは「英雄の息子」を演じる必要なんてないんだ。
そう思うと、少し気持ちが軽くなったような気がした。
「うん、ありがとう。アシュトン。」
アシュトンは、にこりと笑うと、そろそろ寝ようか、と言ってベッドに寝転んだ。
僕は、そうだね、と返して部屋の明かりを消した。
僕は毎晩のように、寝室を抜け出しては通信機が繋がらないか試している。
けれど今日は、不思議とそんな気にならず、初めて毎日の日課をすっぽかした。
これまでは帰りたい一心だったけれど、初めてこの世界で、みんなと共に歩む未来について考えたんだ。