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    なくら

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    なくら

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    クロードとアシュトンの小話。
    自由な彼と、自由に憧れる少年のお話…みたいな。(2021年5月くらいの作品)

    ##スターオーシャン
    ##小説

    君と共に歩く未来 僕から見た"アシュトン・アンカース"。

     初めての出会い。魔物龍に取り憑かれたのは、僕らのせいだと言って、強引に旅についてきた。
     ある町にて。そこらにあった樽に、夢中になっていた彼。そこからちっとも動こうとしなかったから、終いにはセリーヌさんに強引に引きずり回されていた。
     それから………


    「…どうしたのクロード?僕の顔に何かついてる?」
     これまでのアシュトンの印象について考えていたため、僕は無意識に彼のことを見つめていたらしい。
     アシュトンは困惑した面持ちで、こちらを見ていた。
    「いや、別になんでもないよ。」
     思い浮かべていたアシュトンのシーンがあまり良いものでは無かったため、僕は手を振り誤魔化した。

     僕たちは今、ラクールにあるホテルで寝泊まりしていた。
     古文書の解読を頼むべく、明日にはリンガに向かう予定だ。

     その時、アシュトンが背中に背負っている、2匹の龍が鳴いた。
     僕には2匹が何を言っているのか分からなかったけれど、アシュトンにだけは言葉を理解することができた。
    「ギョロとウルルンも、クロードがずっとこっち見てたって言ってるよ。」
     アシュトンだけならまだしも、彼には2匹の龍もついている。
     6つの目は誤魔化せないということだ。

     6つの目にじっと見つめられ、僕は観念して話すことにした。
    「いや、本当に大したことじゃなくてね。初めて会った時からアシュトンってこう……自分に正直だよなあ、なんて考えてたんだ。」
     なんとか言葉を選びつつ打ち明けた。
     しかし、それもアシュトンには見抜かれたらしい。
    「……クロード、無理に言葉を選ばなくても、はっきり言ってもいいよ。"ワガママ"だって。」

     図星だった。
     アシュトンは、良く言えば自分に正直。悪く言えばワガママだよなあ、なんて考えていた。
     でもそれは、決して嫌な気持ちで考えていたわけじゃなくて。むしろ……
    「いや、悪く考えていたわけじゃないんだよ。なんていうか……"うらやましい"って思ったんだ。」
    「うらやましい?」
     ワガママなことが"うらやましい"だなんて、アシュトンにはよく分からなかったらしく、首をかしげている。
    「僕はね、そう……。人の目を気にして、自分を押し殺す生活を送っていたから、アシュトンがうらやましいと思ったんだ。」

     言いつつ、僕は士官学校時代のことを思い出していた。
     誰からも"英雄、ロニキス・J・ケニーの息子"としてしか見られず、誰も僕自身を見てくれなかった。
     だから僕は「英雄の息子」らしく、優等生を演じていた。
     僕は、そんな自分のことも嫌だった。
     なんのしがらみもなく、自由に生きることができたなら――――

    「僕から見れば、クロードだって十分ワガママだと思うよ。」
    「え?」
    アシュトンの予想外の返しに、僕は心底驚いた。
    「よくレナを困らせてるじゃない。ほら、武具大会の時とかさ。マーズ村でもすごかった、ってセリーヌが言ってたよ。」
     言われて僕は顔が熱くなるのを感じた。
    「あ、あれはワガママというか…!」
     アシュトンの言う、武具大会とマーズ村。それは僕がレナとケンカしてしまったところだ。
     この2つの共通点は、レナの幼なじみ・ディアスが居たことだ。
     彼を見るレナの表情・雰囲気から、レナがディアスに特別な感情を抱いていることが分かった。
     そう思うと、なんだか気持ちがモヤモヤして、気付いたらケンカになってしまっていた。
     そう。この感情は要するに―――…

    「"嫉妬"だって、立派なワガママだと僕は思うよ。だって、自分の勝手で"こっちを見ててほしい"って思うことだろう?」
     自分の感情の名前を言い当てられ、僕はますます赤くなった。
     と、同時に、自分のワガママでレナを振り回してしまっていたことに気付く。
    「クロードが今までどんなところに居たのかは分からないけどさ、ここでなら自分を押し殺す必要なんてないんじゃない?」

     そう言われて気が付いた。
     そうか。誰もが英雄ロニキスのことを知らないこの土地でも、僕は心の中のどこかで、優等生を演じようとしていたのかもしれない。
     ここでは「英雄の息子」を演じる必要なんてないんだ。
     そう思うと、少し気持ちが軽くなったような気がした。

    「うん、ありがとう。アシュトン。」
     アシュトンは、にこりと笑うと、そろそろ寝ようか、と言ってベッドに寝転んだ。
     僕は、そうだね、と返して部屋の明かりを消した。

     僕は毎晩のように、寝室を抜け出しては通信機が繋がらないか試している。
     けれど今日は、不思議とそんな気にならず、初めて毎日の日課をすっぽかした。


     これまでは帰りたい一心だったけれど、初めてこの世界で、みんなと共に歩む未来について考えたんだ。
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