涙の在り処おそらくあの場に居た者達は勘違いしているだろう。六車本人も含めてだ。
檜佐木が彦禰と相対する時思い浮かべていたのは東仙のことではない。時灘との時はもちろん東仙のことを思っていたのだけれど、彦禰の時は違う。ただ彦禰に、解りやすく教えておくべきこととしてあったのが東仙からの教えだっただけだ。
彦禰を見ながら、ずっと脳裏にあったのは無力だった子供の頃の自分自身の姿。
そして助けてくれた六車の姿。
檜佐木にこの世界の優しい生き方を教えてくれたのは東仙ではない。東仙は檜佐木にただただ闇の深さと怖さしか教えてはくれなかった。
それはたしかに覚えておくべきことではあるけれど、そこに優しさはなかったのだと今なら解る。
闇は深く、怖いものだ。
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