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    私の3周目(英語版では1周目)のノマエン以降のレムラキこうなったよ小説です。
    ・過去も未来も捏造もりもり
    ・英語版準拠なので違和感あるところもあるかもですが「この宇宙はそうなんだな」で流してもらえると
    ・ほぼ無意識かつレ→(←ラ)なレムラキ未満

    R 自分はここでも運が悪いのか。レムナンはその船団に入国した瞬間にそう予感していた。
     深宇宙での探査が一区切りついたのもあり、レムナンが補給のために近くの惑星を検索したのは、つい数日前だ。ヒットしたのは「グリーゼ移動船団」という、聞き覚えのない星系だった。おそらく、船団の航路がこの近辺を通っていたことで「近隣惑星」としてサーチされたのだろう。そのまま、そのグリーゼについての詳細をディスプレイに映す。星間航行船の一時的な滞在許可あり、ただし居住区との往来は原則不可、フードプリンター用食材等の購買施設や短期的な宿泊施設あり、治安良好、直近数十年における軍介入のある事件・事故の記録なし。そこまで確認して、ふう、と息を吐いた。ひとまず、自分の目的はこの星でも果たせそうだ。観光に行くわけでも、国民の誰かに用事があるわけでもない。船のメンテナンスを考えると最低でもひと晩は滞在しなければならないが、その1日だけ滞在できれば何の問題もない。用事を済ませたらまた深宇宙に戻ろう。そこまで考えて、レムナンは航路決定のウィンドウを表示した。

    「ようこそ、グリーゼ移動船団へ」
     入国審査を終え、レムナンはグリーゼの来訪者用の船内に降り立った。軽く見回したところ、他に停泊している船はないようだった。船団というだけあって、複数の船が連なって移動しているようだったが、ここはそのうち特に小さな船の中だということは上陸前からわかっている。固い床はそれなりの広さがあり、ドアが2つ左手に並び、それぞれ「宿泊」と「購買」と共用語で書かれた看板がついている。奥にはのっぺりとした、おそらく何かしらのロックはかかっているのだろう風体の扉。右手には小さな窓が3つほどで、外には宙が見える。ここにあるのはそれだけだ。ようこそ、というのが形式的な挨拶というのは承知しているが、あまりにも殺風景で、レムナンは思わず身震いをする。しかし、その震えには他にも原因があった。
     他の人間の気配が、この船には一切ない。何より、レムナンがここに降り立ってから、誰にも会っていない。最初に挨拶をしてきたのも、遠隔で人間が操作している機械からの音声だった。その声によると、各施設も基本的には自動機械販売で、有事があれば人が応じる、というシステムになっているらしい。ただ、機械に慣れたレムナンでも自動音声かと一瞬疑うほどに、抑揚のない声だった。この船を外から見た時、おそらく居住区からは遠い船に案内されているのだろうとは思っていたが、そこで従事するはずの人間や擬知体までいないとは考えもしなかった。まるで隔離施設のような空気だ。「他星とのやりとりを拒んでいるのではない」という形だけを示すような場所。確かに人間との接触が苦手なレムナンではあるが、人と擬知体からの応対に慣れがあったのも事実だ。国民が異邦人と接触するのが嫌なら擬知体に任せればいいのに、それもしていない。ただし、窓から見えるおそらく居住区だろう巨大な船を見ても、文明が発達していないようには見えない。むしろ高度な技術国のようないでたちだ。
     たまにその船の窓に人影が写り、じっと動かないのを見て、レムナンは無意識に肩をすくめた。人はいないが、確かに「そこに」いるのだ。

     必要な食料や燃料は、船内の施設でどれもすぐに揃えられた。しかし用事の最中も音を立てるものは自分と機械ぐらいで、本来なら心休まる状況のはずなのに、どうにも「人の視線」がそこらじゅうにある感覚が拭えない。行動の全てを逐一スキャンされているような気分だ。深宇宙に引き返したい気持ちが一層強まってはいるものの、船のメンテナンスは船内設備の稼動を止めなければならない。これから他の星系に向かおうにも、今の燃料の量で到達できる星系があるか怪しい。ならば休まずに完徹してメンテナンス作業してもいいが、それで何か見落としでもしたら目も当てられない。とにかく、今日の夜だけなんとか耐えないといけないようだ。
     暗雲わだかまる気分のままレムナンが施設を出て船の方に顔を向けると、先程まではいなかった人が船の前にいた。急にそこだけ明るくなったように感じて、目を細める。だが、よく見ると別に発光しているわけではない。こんな無機質な場所で、その色があまりに鮮やかだから、目が勘違いしたのだ。
     荒涼の中のその青いものが、ふいに振り向く。顔が見えた。頭には鳥の羽根のようなものでできた帽子をかぶり、顔にフェイスペイントのような化粧が施されているが、この格好がここの国民の通常の装いなのかどうかは、異邦人の自分には判断できない。ただ、今までにレムナンが見たことのない風格なのは確かだった。
    「……ああ、概念伝達はできないのか」
    「え?」
     ここで初めて聞いた、機械を通していない声。ただその意味を取れなくて、ずいぶん間の抜けた音が口から出てしまう。レムナンの声が聞こえたのかどうかは定かではないが、その人物はずんずんとこちらに向かって歩いてきた。目と鼻の先、ほどではないがかなり近くまで寄られて、レムナンの体は反射的に身構えた。危害を加えられそうな気配はない。が、そもそも他人が近くにいる状況自体が、レムナンの頭の中に警報を鳴らしている。
     レムナンのそんな様子には頓着せず、大きなヘッドフォンに手を添えながら、その人はレムナンをまっすぐ見つめてきた。その瞳は奥底まで見通せるようで、そんなことを何者にも許さない鋭さがある。レムナンはその中に、自分の引きつった表情筋を見た。
    「ねえ、この船って君のだよね。この次はどこに行くの」
    「え、ええと、深宇宙、ですけど……貴方は」
    「僕はここの国民だよ」
     国民、やっぱりそうなんだ、でも、とレムナンは納得と違和感を同時に抱いた。こんな気味が悪くて味気のない場所に、こんな人が「国民」として収まっているのか。本当にこの国はどうなっているんだろう。ぱちぱちと白い睫毛をしぱたたかせていると、その国民は来訪者とその船を交互に見つつ、なぜか満足げに頷いた。
    「しかし……へえ、深宇宙ね。さしずめ往還船のクルーってところかな。そんな僻地ってことはしばらく籠もりっきりだったんだろう。じゃあこの国についてもほとんど知らないンじゃない?」
     ぎく、とレムナンの猫背が伸びる。全て言い当てられているのも勿論、最後の一文がレムナンの背筋を寒くさせた。確かに自分はこの国についてほとんど知らない。それはそうだ、今しがた来たばかり、しかも補給ができるかどうかぐらいにしか興味のないような人間だ。わざわざ確認するということは、もしかして、何かしらの規則が外星人にも適用され、それに違反すると捕縛されるのだろうか。例えば、AC主義者と言われるような人達のようにグノーシアを信奉していると、とか。この人はその警告をしに来たのかもしれない。わざわざ生身で来るということは、よほど自分は危険視されているのかもしれない。もしかしたら、判断次第では軍に引き渡されるかも、と最悪の想像をした頭から血液が引いていく心地がして、レムナンはわなわなと色の悪い口を動かした。
    「す、すいません……で、でも明日、明日には出航するので……」
    「別に責めているわけじゃないよ。まあでもそうだな、1つ問題といこうか」
    「え?」
    「この国では知性が重要でね、知性が低ければ……そうだな、ここにはないけど、他の星だと道端に石ころが転がってたりするんだってね。例えばそういうのと同じ扱いになるンだ。せっかく来たんだから、多少はこの国の雰囲気を味わってもらおうと思ってね」
    「ええ……」
     距離を取るように身を引いていた。自分に危険を及ぼす意図はないのに安堵こそしたが、知性が重要だなんて、自分がもしここの国民なら石くず扱い待ったなしだろう。この人はずいぶん平然と喋っているが、つまりそんな無碍には扱われていないということだろうか。よそ者の自分に対してやたらと気安いのは、それが理由なのかもしれない。「こいつなら自分に手を出すことはできない」。そう見くびられているのか、とレムナンの胸の奥あたりで棘々しい感情が這いずりだす。
     しかし、レムナンはどこかで、それは違う、とも感じていた。その悪びれもしない、いっそ堂々としている様子には、自分の嫌悪するそれはないのだろうと。
     その人が少しだけ考え込むそぶりをした後、また真正面からレムナンに向き合った。
    「ふむ、じゃあ基本中の基本と行こうか。この国の特産品はなんだと思う?」
    「とくさんひん」
     馴染みのない単語だ。たどたどしく返したレムナンに、「そう」とその人は首肯した。
    「この国の誇る一番の輸出品のことだよ」
    「え、ええと……」
     自分にそんなものがわかるのだろうか。もしくはこの国はそんなに有名な国なのだろうか。あてもなくきょろきょろと辺りを見回すが、ただの無彩色だらけの船の内部でしかない。とはいえ、船の中で特産となるほどの何かを生産できるとは思えない。特異な加工技術の必要な製品か、あるいは情報資産だろうか。移動船団ならではの特色があるのだろうか。材料の少ない思考を巡らせていると、「悩んでいるのが顔に出てるよ、君」と愉悦を隠さない声が飛んでくる。もしかして、からかわれているだけなのでは? レムナンに軽く睨みつけられて、出題者はやれやれと頭を振った。
    「まったく、答えられないからって反抗的になるのはあまり感心しないな。あと急いで答える必要もないよ、明日また来るからそれまで考えるといい」
     あ、端末を使って検索するのは禁止だよ。そんな念押しまでして、細い指でびっとこちらを指してくる。それよりも、「明日も来る」という言葉に、レムナンは頭を抱えたくなった。今日中にメンテナンスを済ませて明日とっとと出航するつもりだったのに、この奇妙な人のためにここで待たないといけないのか。無意識に声のトーンが沈み、まるで恨み言のような音が口から漏れ出した。
    「なんなんですか、貴方は……いきなり来て……」
    「だからここの国民だってば。ああそうだ、僕はこの国でもそれなりの地位にはいるからね、もし危害を加えたりしたら君の身の安全は保障されないと思うよ」
    「……な、なにも、しませんよ」
     なぜかこちらが危険人物になっていて目を剥く。「へえ!」と大仰にその国民は反応したが、声色は喜色満面だった。
    「そんなに顔に不機嫌が出てるのに? あははっ、概念伝達が使えない代わりに顔で喋れるなんて器用なものだね!」
    「……」
     本当に、この人に明日も会う羽目になるのか。ただ、それなりの地位と言われたら無視もできない。国の上流階級をぞんざいに扱った結果、指名手配なんてされたらたまったものではない。なるべく後顧の憂いなく、自分は深宇宙にいたいのだから。レムナンの隈の上からのすわった視線にも動じず、ひらひらと手をふって扉の方に歩き出したその人は、本当に楽しそうに笑った。
    「じゃあ明日まで、せいぜいここの空気を楽しむといいさ!」
     たぶん大体は冗談なのだ、と思いたい。レムナンはそう願いつつ、ここに来て一番大きな溜息をついた。やっぱり、自分は運が悪いのだ。

     メンテナンスの結果、船に悪いところは特段見当たらなかった。そこまでの不運がなくてよかった、とレムナンは薄っぺらいベッドマットに横たわりながら胸を撫でおろしていた。
     グリーゼの宿泊施設は、まるで独房のような部屋だった。作りこそしっかりしているし、身体洗浄装置などの基本的な設備はあるが、個室は質素なベッドと机と椅子だけで、壁は一面グレー色で窓もなく、天井にぽつんと照明があるだけ。先ほど食事も配膳ロボによって運ばれてきたが、スープのようなどろどろしたものが清潔ではありそうな皿に入っていた。味は吐き出すほどではないが、わざわざ味わいたいものでもない。これが普通の観光客だったら怒鳴り散らしているかもしれない。
     とはいえ、驚きこそすれ、レムナンにそこまでの不満はなかった。ベッドも快適かはともかく体を休めるのに支障はないし、食事も食べられるものが食器に乗っているだけで十分だ。自分の船の方が安心はできるのも、また事実ではあるが。
     やることもないし、もう寝てしまおうか。瞼を閉じようとしたレムナンの眼前に、突如として無地のディスプレイが出現した。急に現れた青白い光源に、「うわっ」とつい慄いてしまう。体を起こすと、ディスプレイも顔の前を維持するように動き、体の静止とともにヴィンと音を立てて情報を表示した。
    「えっ?」
     まず目に入ったのは、記憶に新しい人相だった。しかし格好こそ同じものの、記憶の中にはない、表情の落ちた顔。ほんの少し言葉を交しただけだが、かの人はこんな感情のない顔はしないだろう、とさえ思える。ついまじまじと眺めてしまってから、我に返ってディスプレイ上部に視線を移す。そこには「通告」とひときわ大きい文字が表示されていた。その下には、「この通告は、この国民について、他星系への一切の口外をしないように依頼するものである」という文言と、その国民の名前だろう短い記載だけが映っている。それをレムナンが確認できた途端、また鈍い電子音を立ててディスプレイは消えてしまった。おそらく内容はもう頭に入っただろう、という判断からだろうが、レムナンの頭の中ではその情報達は咀嚼されないまま漂っていた。
     口外しては駄目。つまりこの国は、あの人について他の星に知られたくない、のだろう。どうして? ずいぶんと口は悪かったし性格もそんなにいいものではないだろうが、国がわざわざ口止めしてくるほどのこととは思えない。それにそんなに危険なのであれば、そもそもあの人が自分に会いに来たことも不自然だ。自分が何かされた場合、そのことについて外で話すなというのは難しいはずだから。いや、それなりの地位と言っていたから自由はある、のかもしれない。でも、そもそも国にマークされているのに地位があるのも変なのでは? ぐるぐると回る思考はちっとも落ち着かず、レムナンの頭の中はぐちゃぐちゃに散らかっていった。
     本来であれば、何も考える必要なんてないのだ。言われた通り、あの人のことは外で話さなければいいだけの話だ。だいたい、「依頼」とは書かれていたものの、外星人をこのようにもてなす国のことだ、もし破れば自分が何をされるかわかったものではない。しかし納得のできないものに従うのは、どうしてもレムナンには難しかった。だって、あの人は嘘をついているようにも、自分に対する悪意もなかったように見えたのだから。だから、初対面であってもあれだけ話すことができたのだろう。……向こうが無防備にずかずかと近づいてきたので、警戒する暇があまりなかったのも事実だが。
    「ラキオ……」
     顔の上に書かれていた "Raqio" の文字を思い返していた。

     体は休まったものの、頭の方はどこかもやもやしたものを覚えながら、レムナンの翌朝は始まった。黙々と準備をし、宿泊施設を後にする。もうメンテナンスは済んでいるし、必要な物資も揃っている。もうここでやることはない、ただ1つを除いては。
    「やあ、よく眠れたかな? その目の隈を見る限りそうでもないのかな。……いや、よく考えたら君、昨日もそんな顔してたね」
     レムナンが自船に向かうと、すでにそこには昨日の人物が立っていた。昨夜と同様に顔に青を基調としたメイクを施し、ヘッドフォンと羽根帽子のようなものを身に付けている。なんとなく、旅に向かなそうな格好だなあ、とレムナンは心の中でだけつぶやいた。自分の顔についてあれこれ言われたのは無視することにする。
    「ああ、昨日の、……ラキオ、さん、ですよね」
    「ん? 昨日、僕は君に名乗った覚えはないけれど、どこで――ああ」
     知ってしまったのを隠す必要はないだろう、とレムナンがその名前を口にした。とその人、ラキオが訝しげに片方の眉尻を上げる。が、すぐにじろりと嫌悪の滲む視線で睨んできた。
    「もしかして、この国から僕について何か通告でもされたの?」
    「え、ええ……貴方のことをこの国の外で口にするなって」
    「……フン」
     ラキオは不機嫌を隠さずに鼻を鳴らした。
    「さしずめ、こんなところで外の人間と喋ってるのが気に喰わないンだろうね。別に誰と話そうとも自由だろうに」
    「は、はあ」
     悪感情にレムナンは気圧されると同時に、頭の冷えているところで、ラキオの不快感の原因を推察もしていた。きっと、この人は自分の国のルールを破っているのだ。他の国民がここに来ないのは、興味や目的がないからではなく、他所の星からの人間に接触することを禁止されているのかもしれない。なら、どうしてこの人は、連日ここ来ては自分に話しかけてくるのだろう。
    「ま、そんなことはどうでもいいよ、で、昨日の問題の答えはわかったかい?」
     吐き捨てるように切り替えたラキオが、改めてレムナンに向き直る。そのことを少しだけ忘れていたレムナンが、うっ、と言葉を詰まらすと、途端に口角を持ち上げた。
    「ふふン、まあ昨日の様子じゃそうだろうと思ってたけど。それじゃ可哀想な君に答えを教えてあげようかな」
     勝ち誇った顔にレムナンの瞳から光が薄れる。最初からこちらの負けが決まっている勝負は嫌いだからだ。その後、自分は大体ろくな目に遭わないから。その視線を気にも留めず、ラキオは自身の胸に手をやった。
    「正解は "人" だよ」
    「……え」
    「この国では知性が大事だと言っただろう? だからこの国では、知性があればその分の地位もある、すなわち優秀な特産品ってわけだ。知性のある人間はどこでも重用されるからね」
     こともなげに放たれた「答え」に、レムナンの頭の中は掻き回された。じゃあ、この人は自分自身が商品であるという自覚があるということか。こんなにも人らしいのに。商品なんて、そんな、自分の意志も、存在も何もかも尊重されなさそうなものとして? この人は胸を張っているのか? 本当に?
     でも、この人は国のルールを守っていない。人を商品とするこの国の。だから、国としてはあまり宣伝したくないのだ、きっと。「この人がグリーゼの品」だと。しかも地位がある、知性がある「よい商品」なのに宣伝できない、というのは、この国からすれば歯痒いものに違いない。
    「余所者をこんな船に隔離するのも当然だね。商品を盗みそうな奴にやすやすと侵入されては困るだろうし。きっと監視もしっかりされてるンじゃない?」
    「あ、……それは、そんな感じは、しています」
    「へえ、わかるものなんだ。この国も案外適当なのかな」
    「いや、でも……なんとなくわかる、ぐらいなので、本当にあるかは……」
    「ま、君の感覚の正誤なんてどうでもいいよ。どうせ何の影響もないしね」
     ラキオが気まぐれに辺りを見回す。さすがにどこに何が設置してあるかまではわからないが、視線のような感覚をレムナンはずっと感じていた。自分の気のせいかも、と考えていたが、ラキオの話からすると本当にあるのかもしれない。しかし、当然ラキオ自身も国から見られているということになるのだが、本当に問題ないのだろうか。自分と違って、この国でこれからも生活するはずなのに。
    「でだ、せっかくこの国のことを教えたんだ、次は君の船を見せてほしい」
    「は?」
     目の前のよくわからない人から、さらによくわからない事を言われて、レムナンは目を白黒させた。今の船を手に入れてからというもの、他の人を乗せたことはない。船は、言ってしまえば自分だけの城のようなものだ。たった1人、安心できる場所として。逃避の最中でもあるレムナンにはろくな資産はないが、1人でいられる空間いうだけで、ただただ大事なものであり居場所だった。だからしっかりメンテナンスしたのだ。それを、昨日会ったばかりの人に見せる? どうして? それはちょっと、と口を開きかけたレムナンの前で、ラキオは腕を組んでレムナンの顔を下から覗き込んだ。
    「なに、ちょっとだけ中を見せてほしいだけだよ。いかに上流階級といえど、船を所有する権利はこの国の国民にはないンだよね。おまけにこんなに古くて狭苦しそうな船だ、お目にかかれる機会もあまりなさそうだし。おや、つまり僕は運がいいみたいだね」
    「……、それ、本当に、見せてほしくて言ってますか……?」
     いくらなんでも。うっすらと頭痛を覚えてまなじりを押さえる。絞り出した問はあっさり返された。
    「そうだけど? この状況で僕が嘘を言うわけないだろう? 君にどれくらいの知能があるのかは知らないけど、少なくとも無駄に想像力は逞しいようだね。いや、想像というより妄想かな?」
     この人、頭はきっといいんだろうけど、自分の言葉がどう捉えられるかは考えてないんだな。頭いい人でも考えられないことってあるんだな。負けず劣らず失礼な考えを巡らせつつ、レムナンは溜息をついた。まさか、言葉の棘を投げつけられて毒気を抜かれるとは思ってもみなかった。
     この人と会話して、わかったことが1つだけある。この人は多分ずっと、自分に対しておそらく敵愾心も、そして憐みも抱いていないということだ。ただまっすぐに、自分のしたいことをこちらに伝えている、のだろう。そのために自分を脅してはこないし、逆に憐憫の情で抱き込もうともしない。その2つのどちらかで接されることの多かったレムナンには、ラキオのこの態度はいっそ好ましく見えた。
     だから。少しだけなら自分の城に招いてもいいか、とこの時は思ったのだ。
    「……まあ、いいですけど」

    「へえ、狭い船でも寝床は複数用意してあるンだね」
     レムナンの船の中、寝室スペースをぐるりと見回して、ラキオは後ろからついてくるレムナンに感心したように言った。カプセル式の寝室は3人分あり、この船が1人用であることを考えればいささか過剰に見えるのだろう。「ええ」と船の主は口を開いた。
    「例えば……緊急の避難とかで、一時的に人を乗せないといけない、ってことはありますから……僕以外、使ったことは、ないですけど」
    「ふうん」
     ラキオがこのレムナンの船に乗って、真っ先に確認したのはこの寝室スペースだった。船の星の出身だし、やはり身近だろう生活面に興味があるのだろうか。そこから順繰りに、シャワールーム、コールドスリープ室、作業をするための個室兼メインコンソール、機器類のある部屋と案内していく。案内というより、ラキオが勝手に歩くのを追いかけながら、都度質問に答える、という方が近い。どっちが主なんだろう、とレムナンはその小さい背を眺めながら、でも狭い場所で背後に立たれるよりはマシかもしれない、と奇妙な安堵を覚えていた。コツコツ、と固い足音が船内に響く。記憶にこびりついた嫌な声が脳内で笑うのを、レムナンは首を振って払った。
     最後の部屋、動力室へと辿りつく。中央に鎮座する動力システムを、ラキオはその周囲を歩きながら観察していた。ぐるりと全周を確認したところで顎に手をやって何かを思案し始め、気になることでもあるのだろうか、とレムナンはその顔を横から覗く。そうして気づいたのだが、その顔は思っていたよりも幼い。態度や特異に見える化粧に眩まされていたが、もしかしたら自分の識別年齢と大して違わないか、もしかすると下かもしれなかった。
    「どうか、しましたか……? 気になることでも……?」
    「いや、この動力炉はずいぶん旧式、確か60年ほど前のもののようだけど、深宇宙に行っている時点で時間経過による旧式化は避けられないんだろうと思っただけ。とはいえ、この世代は前後の世代に比べて不良とかの報告も少なくて稼働年数も安定して長いから、きっとその理由で採用されているンだろう? 性能だけで考えれば最新式に換装するなり船ごと換えるべきなんだろうだけど、それで未知の不良を引いたら対応も大変だろうし、少々古くて性能が落ちても枯れた技術の方が緊急時に対応しやすいンだろうね。深宇宙のど真ん中で機器不良で航行不可なんて、とんだ愚鈍のすることだ」
     ただ実際の探査は機器がやるから、動力の長期稼動性は何よりも重要ってわけだ。だから効率のよさはもちろん、燃料の容量そのものも確保する必要がある。しかも探査対象が深宇宙だしね。深宇宙探査って、乗ってる人間はコールドスリープと機器のチェックを繰り返すだけなんだろう? だから人間用のスペースは少ない。君はあれをよく寝室と呼べるね? ははっ、働き者ほど優遇されるのはどこでも変わらないね。とはいえ往還船も人命救助の義務はあるから、最低限の設備は必要だけど容量は割きたくない。どうせ身体に異常が起きたら航路をどこかの星に向けるだけ向けて、冷凍睡眠で凌ぐんだろう? 治療ポッドすら搭載してないなんてね。そうなると、もはや人間をわざわざ乗せるコストすら削減したいだろうけど、今後の技術に期待ってところなのかな。機器類のメンテナンスは流石の擬知体でも無理なのかな? まあ電波障害だって皆無とは言い切れないわけだし、せっかくの探査船がデブリの材料になるのを避けられるようになるまでは必要そうだね、君の仕事も。
     滔々と語られたそれに、レムナンは目を瞬かせた。航行船はほとんど見たことがない、と言っていたはずだ。わざわざ見せろと迫ってくるぐらいだから興味はあるのだろうと想像してはいたが、初見でここまで意見を出してくるとは思いもしなかった。
    「機械、わかるんですか?」
     やっとのことで口から出たのはたどたどしい疑問だけだった。
    「は? 今の僕の発言で『機械がわかる』になるなら、君の見立ては甘すぎるンじゃない? こんなの多少知識のある人間なら誰でもわかるだろう」
    「普通の人、は、見ただけでいつごろの機械かなんてわかりませんよ……」
    「そうかな。ここにしっかり世代だって明記されているし、ただの知識問題じゃないか」
     ほら、と動力炉の壁の一部に書かれた "GSC2 85th-gen" という表記を指差す。その「知識」とやらは、何のために身につけたのだろう。いや、先ほど教えられたではないか、この国では、あればあるほどよいのが知識だ。この人は、知識を詰め込まれることが、辛くはないのだろうか。優秀な商品と呼ばれるだけなのに。
     昨日会ったばかりの人に抱いた感情が、自分自身が嫌うものと近しいことに、レムナンは気づいていない。

     ひとしきり船の中身を見終わって、乗船口に戻ってきた。色々と喋っていたものの、狭い船なのでそこまでの時間は経過しておらず、まだ昼前、といったぐらいだ。
    「これで、全部です、……満足、しましたか」
     見せると言ったのは自分だが、まさか丸ごと、しかも丹念に見せる羽目になるとは思わなかった。ちょっとだけ、とは何だったのか。一番時間がかかったのは動力室だが、他にも、シャワー室の防音性だかとか、概念伝達ポートは開閉可能か等、あらゆることを問われた。正直聞いてどうするのかよくわからない質問ばかりだったが、もしかすると知識欲が旺盛なのかもしれない。知識を詰め込むのは辛くないのだろうかと先程憂慮していたが、逆にむしろ好きなのかもしれない、だからこの国でも地位も高いのかも、とレムナンはこっそりと認識を改めていた。
    「うん。そして決めたよ」
     とにかく、これで終わりだ、そう安心した矢先、返ってきた言葉の意図に不安を覚える。言葉というより、その顔に浮かぶ笑みに、嫌な予感がする。痛みを知らなさそうな唇が、綺麗な弧を描いている。その口から出てくるであろう答えを、正直あまり知りたくはない、が、レムナンはその先を尋ねずにはいられなかった。
    「何、を、ですか?」
    「僕をこの船に乗せてよ」
    「……えっ」
     レムナンの全身が硬直するのにも構わず、不自然なほど愉しげにラキオは続きを口にした。
    「学校の課題でね、近場の星系に赴いて何か研究結果を持ち帰る必要があるンだ。しかしそのための航宙手段から自分で用意しろと言われてね、さすがの僕でも宇宙船を用意するのは難儀だと思っていたところに君が来たってわけだ! まさに渡りに船というやつだね!」
    「学校、の課題……? そんな、外星に行ってまでなんて、そんなこと、学校でしているんですか?」
     レムナン自身は学校というものに縁はなく、ただの勉学の場所という程度の認識しかないが、それでもわざわざ外の星系に赴いてまで何かさせるとは思えない。外は色々な危険に溢れているのに、勉学のためだけに、船を持つ許可すらない人に独力で向かうような危険を犯させるのだろうか。
     すると、ラキオが急にそっぽを向いた。目が伏せられて、長い睫毛が頬に影を作る。
    「別に、全員がやってるわけじゃないよ、多分僕ぐらいじゃないかな」
     その物言いは、先ほどまでに比べて少しだけ翳っていた。
    「それは、どうして」
    「さっきも言ったけど、僕のことが気に入らないからだろうね。向こうとしては帰ってきて当然、もし帰ってこなくても不出来が排除できて万々歳、渋るなら論外、ってところじゃない? 全く、陰湿なことこの上ないな」
    「え、……そんな、の」
     どうして、とまた言いかけて、レムナンの脳内には昨日の通告が浮かんだ。国からああ言われる、しかも国を挙げて国民の知性を高めて商品にしている、ということは、つまりその知性を高めるための学校でも、きっと同じような扱いをされているのだ。危険な外に自ら飛び込ませる真似をして、帰ってこなくてもいい、なんて。この人は、ここに安心できる居場所がないのだ、だからそんな顔をするのだ、きっと。
     なのにどうして、こんなにも毅然としていられるのか。不安ではないのだろうか。――逃げたくなったり、しないのだろうか。
    「ああ、乗せると言ってもそんな遠出する必要はないよ、深宇宙に行く前に途中の星系で降ろせばいい」
    「で、でも、じゃあ帰りはどうするんですか」
    「また誰かに乗せてもらうよ。ああ、だから有人の惑星に限定させてもらうよ? 無人の星で人が来るのを指をくわえて待つ時間はないからね」
     あっけらかんと言っているが、そんなに簡単に乗せてくれる人がいるのだろうか。今回であれば、自分の目的地である深宇宙に行くついでに適当な星系に立ち寄ればいいだけだから、そこまで大仰な話ではない。一方で帰りは、つまりこの薄気味の悪い国にわざわざ立ち寄らせる必要があるということだ。乗せてくれる人を探すだけでも骨が折れそうだし、仮に見つかったとして、その人が有害ではないという保証はどこにもないはずだ。代償を要求された時、この人は払えるのだろうか。
     第一に、自分という昨日会ったばかりの異邦の人間について、この人はどれくらい把握しているのだろう。レムナンには、自分のことを話した自覚も、ラキオに素性を聞かれた記憶もない。そんな人の船に2人きりで乗るなんて、もし自分に悪意があったらどうなると思っているのだろうか。自信があるほうではないが、おそらく自分でも力、いや、暴力では勝てるだろう。そんな推測も正しいと確信できるぐらいには、眼の前の人は華奢に見える。おそらく武器の類いも持っていない。自分は大丈夫、とでも思っているのだろうか。その自信は、どこから来るのだろう。
     その疑問にレムナンが答えを予測する前に、ターコイズブルーの視線がレムナンを居抜いた。
    「で、どうするの?」


    「本当に狭いね」
    「この船でいいって言ったのは貴方ですよ……」
    「選べる状況じゃなかったからね」
     メインコンソールに、2人は立っていた。レムナン、そしてラキオも必要な物は持ち込み、今は船の発進準備中といったところだ。
     あの後、しぶしぶレムナンが申し出を了承すると、ラキオは「話がわかるじゃないか」と満足げに微笑んだ。それがレムナンにはいやに眩しく、同時に腹立たしく映った。まったく褒められた気がしない。恨みがましく、あんなに船のことを聞いたのはそのためですか、と問い質してみたものの、「それもあるけど、単純な興味だよ。言ったじゃないか、こんな船を見る機会なんてなかなかないって。君はもう少し記憶力の向上に気を配った方がいいンじゃない?」という罵倒半分の答えが返ってきた。確かに力では勝てるだろうが、口ではそもそも戦いたくもない。たとえ自分がもう少し上手く喋れたとしても。
    「……そういえば、国の外で口外するなって言われてるのに、貴方は星系の外に出ていいんですか」
     ふと思い出して、乗せろと募られてから気になっていた話題を持ち出す。宣伝されたくない商品が国の外で好き勝手ぶらつかれたら、国は困るのではないだろうか。どうしてそんなことを学校が許可したのだろう?
    「そンなの、他人の星間航行船にでも乗らない限りは問題ないよ。基本的に出身星なんて言う必要もないし。帰りの船の持ち主だって君みたいに警告されるだろうしね」
     言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。出身を標榜して歩く義務があるわけでもないのだ。例えば、レムナンが擬知体しかいない星の生まれということを、それこそ目の前の人は知っているかどうかも怪しい。だいたい、この人に国の言うことを聞く気など、端からないのだろう。
    「……あと、一応、聞きたいんです、けど」
    「何?」
    「僕が……その、悪い人、とかで。貴方をどこかに売り払ったりする、とか、考えなかったんですか」
     心にもないことをあえて聞くのに意味などないのかもしれない、これはただ、それこそ単純な興味だった。が、無意味な質問であることを見透されたのかもしれない。そうレムナンの心によぎったのは、目の前の顔が歪んだからだ。
    「はっ、そんなことして君には何のメリットもないことぐらいわかってるけど? だいたい、どこの馬の骨とも知らない人間から出所不明のグリーゼ人を買うなんてリスクが高すぎる。そんなのに食いつくような馬鹿はいないよ。もし仮に僕を買う馬鹿がいたとして、僕は立場だけ見ればただのグリーゼ上流階級の国民だ。そんなのが余所から来た人間に攫われて売られた、なんてことが他国に知られてみなよ。グリーゼの面汚しになるだろう? 君とその馬鹿は指名手配されて、深宇宙どころか宇宙の果てまで逃げ続けることになるだろうね」
     脅しめいた言葉の数々と怒りを隠さない表情に、「す、すいません……」とか細い謝罪を口にする。しかし疑念自体はわだかまって残っていた。確かに理屈ではそうなのかもしれない。だが、人間というのはそこまで周到なものだろうか。例えば、自分がいっときの欲に眩んで、その薄い腹に拳を叩き込んで意識を失わせる可能性だってあるだろう。それに、誰かに売られずとも、首輪をつけられ自由のない愛玩物として飼われる、なんて事態も起こりうるのだ。ただ自分はそうする人間ではなかった、というだけでしかないのに。僕のことを信用しているのだろうか、いや、そうではない、とレムナンは安直な考えを否定したものの、答えはまだ掴めなかった。……あと、「攫った」という人聞きの悪い単語は聞こえなかったことにする。
     押し黙ったレムナンを見て、納得したと思ったらしい。ネイルの塗られた指が宙を叩き、ディスプレイを呼び出した。そこには手近な惑星がリストアップされている。
    「さて、ここから一番近い星系というと、今はルゥアン星系だね。じゃあ……ああ君、名前はなんていうの」
    「……今、ですか」
    「人の名前は口にしておいて、君がこれまで名乗らなかったのが悪いンじゃないか」
     ただ名乗るタイミングがなかっただけだし、そんな風に言うのなら自分から聞けばいいのに。しかし弁明が無駄なこともさすがに身に染みている。
     それにしても、素性もよく知らないどころか名前も把握していない人の船に乗せてもらうなんて、本当にこの人の危機管理はどうなっているのだろう? 自分に迫る危機ばかり考えざるを得ないレムナンからすると、あっぴろげなラキオの振舞いは異常にも見える。ただ、きっと、答えはわからないままなんだろうな、とレムナンは早々に考えるのを諦めた。航路を見る限り、3日ほどでこの船はルゥアン星系には到着する見通しだ。その間に、この奇妙な同乗者と親睦を深めるつもりはない。話していて疲れはするものの、存外に不快ではないから、会話を多少するくらいなら問題はない。そのくらいだ。とにかく人を避けたい自分としては珍しいことだ、という自認はあるが、だからといってあと数日の付き合いで何かを得ようという気はない。結局、偶然が重なって数日いっしょにいるだけの人だ。きっと、名前もすぐに忘れるんだろう、お互いに。
     そんなことを考えながら、レムナンです、と名乗る。と、「じゃあよろしく、レムナン」とラキオは手を差し出してきた。予想外のことに固まったレムナンに、その手を握手の形にしたまま、ラキオが首を傾げる。
    「あれ、違うの? 誰かと協力するときは握手するって読んだんだけど。グリーゼにはそういう風習ないンだけど、君のところにもなかったのかな」
    「あ、いや、大丈夫……です」
     おずおずと手を伸ばして、その手を握る。見てくれ通り、小さくて細い。華やかな色のネイルが自分の身の間近にあるのに、不思議と怖くはなかった。ただ、やっぱりあの国には不釣り合いだな、とぼんやりした考えが脳裏によぎった。
    「君の手、やけに汗ばんでない? その割に乾燥してるし」
    「……別に、いいじゃないですか」
     ああもう、とレムナンは盛大に顔をしかめた。まあいい、少しの辛抱だ、このやかましくて鮮やかな人といるのも。そしたらまた、深宇宙での日々が始まるのだ。




     グリーゼは船団であり、その空は昔から人工的な青に染まっていると聞いた。自分が最初に足を踏み入れたあの外星者用船はその限りではなかったが、住居スペースではしっかりと見た目の上でも気候を操作しているのだと。そして、船団全体の移動のハブとなるこの主船であっても、その光景は今も変わっていない。
     が、明らかに「以前とは違う」ものがあることを、自分は知っている。この裸体像だ。よく知った顔の。もっと言えば、今隣に立っている人の。
    「そういえばラキオさん、最初は学校に提出する研究のためって言って、この国を出たんでしたっけ」
    「そうだったね」
     もうずいぶんと呼び慣れた名前とともに思い出話をする。あれも何年も前の話だ。結局、あの時2人で乗った船は手放すしかなかったのが惜しまれる。今頃ルゥアンの片隅で眠っているのか、それともあの星にいたグノーシアにいいように使われてしまっているのだろうか。
    「研究、出すところ壊しちゃいましたね」
    「問題ないよ。この国をこうして革命できたこと自体が、僕の研究成果だからね。その内容については、これから国民が判断してくれるよ」
     きっぱりと断言して、その革命の象徴たる唱導者――旧政府からは姦しい扇動者と蔑まれていたが――のラキオは、自身の像を仰ぎ見た。その視線を追ってレムナンも像を見上げる。台座には "RAQIO" "Gliese Revolution Memorial Plaza" と、像のモデルとこの場所の名前が刻まれたプレートがある。腰に巻かれた(というより自分が強請って巻いてもらった)意匠を凝らした布と、鳥の羽根でできたヘッドドレス以外は、何もまとっていない像だ。顔周りは特徴的な化粧が目立つように掘られ、逆にパーツの造形そのものはぼかされている。革命前から今までの、華美な格好のラキオを知っている人が見れば、すぐに誰の像かはわかるだろう。ご自分の像でなくていいのですか、とレムナンは周りのメンバーに質問されたこともあったが、そのすべてに首を横に振った。性分ではなかったし、何より、革命のシンボルたる人の方が、ここグリーゼ革命記念広場にはふさわしいと心底から思っているからだ。
    「じゃあ、研究って」
    「ああ。『硬直した支配体制を持つ国を変えるためには何が最適解か?』答えは簡単だ、そンなつまらない、自分達だけの独り善がりで古くさい知性で人を支配する害虫どもには、同じ、それも外から来た害虫で対抗すればいい。つまりそういうことだね!」
    「……それ、僕のこと害虫って言ってませんか?」
    「おや、さすがにこれぐらい明示してあげれば君にも理解できるみたいだね、結構なことだ」
    「はあ……」
     じっとり睨めつけるだけで済ませておく。この物言いに歯向かったところで無駄なことは、これまでの経験ですでに骨身に染みている。一応、この反政府組織のリーダーは自分なのだが、その自分を公然と虫扱いできるのも革命の発起人のこの人ぐらいだろう。

     2人でルゥアンに降り立ってすぐ、大量のグノーシアによる騒動に巻き込まれた。たまたま居合わせたD.Q.O.という航行船に命からがら避難でき、かつその船にグノーシアが紛れ込まなかったのは不幸中の幸いだったが、その行き先がレムナンにとっては問題だった。
     ――規程により、検査のため、軍基地に行く。
     そんなことをすれば、あの人に見つかってしまう。せっかく深宇宙に逃げていたのにどうしてこんなことに。これなら、ルゥアンでグノーシアに消されていた方がよかったかもしれない。そうラキオに零した時のレムナンの肩は震え、うつむいた顔も蒼白に冷えていた。そのきっかけが自分であることを、ラキオがどう考えたのかは、未だにレムナンは知らない。ただその時、ラキオの口から出たのは「じゃあ僕が航路を交渉してこよう」という、なんでもないような口調の提案だった。そして、「僕もグリーゼに早く帰りたいしね」と続けたのだ。
    「駄目……ですよ、口外するなって、言われてたじゃない、ですか」
     顔を上げたレムナンは、自分の鼓動が速まっているのを自覚していた。そんなことはいけない、そう薄紫の虹彩が訴えるのにも、ラキオは肩をすくめるだけだった。
    「へえ、どうでもいいことを考慮する余裕はあるンだ? 大体、この船に乗った時点でもう身元照合されてるよ。今更じゃないか」
    「それは、そうです、けど……でも、例えば、他の星に降りてから、船を調達して」
    「そんなまどろっこしいのは御免だね。大体、僕の出身が多少バレたところで何の問題があるンだい? 少なくとも、君の抱えているそれよりはマシだと思うけど。それに」
    「それに?」
    「……とにかく、そうと決まればジョナスのところに行くよ。軍行きが嫌ならそうするしかないだろう?」
    「それは……でも、そんな、僕のために」
    「君じゃない。僕のためだ」
     話は終わりだ、とばかりにさっさとメインコンソールに向かうラキオの背を、慌ててレムナンは追いかけた。この頑固さを攻略する術を掴んでおけばよかったと後悔する反面、その交渉がうまくいきますようにと願っている部分も否定できない。軍に行かないため、あの人ともう会わないためならなんだって利用したい、その欲求は確かにある。ただ、それと天秤にかけるだけの思いが知れず芽生えていたことに、レムナンは戸惑っていた。
     ――だって、本当に「バレたところで」なんですか。貴方を危険な外宇宙に飛び込ませるような国が、ただ一泊しただけの来訪者にあんな通告を出すような国が、貴方を許すんですか。
     ラキオが虚勢を張っているわけではないのはわかる。ただ、帰郷したその身が無事であろうとも思えなかった。
     そう思ったから、レムナンはラキオと一緒にグリーゼに降りることにした。自分のためにわざわざ危険を犯す人を、途中で見送ってそれきりなんて嫌だったから。「君はオトメと一緒にナダで降りた方がよほど安全だと思うけどね」というラキオの進言は曖昧にかわした。これは自分で決めたことだ。
     そんなレムナンにも、そしてラキオにも予想外だったのは、グリーゼという国が国民のみならず、一緒に戻ってきた異邦者もまとめて軟禁したことだ。D.Q.O. がグリーゼから飛び立った直後に国の中から人間たちが大挙してやってきて、低級階層の居住スペースに2人とも連行されたのだ。有無を言わさず取り囲んできた大量の人に、レムナンは自分の目が回ったのを思い出す。ただそんな中、「ちょっと! 僕はともかくレムナンまで連れていく必要はないだろう!」と隣で抗議してくれた声が、一緒に担がれているにもかかわらず、妙に頼もしく聞こえたのを覚えていた。
    「ああ、やっぱり、ラキオさんだけなんですね……、その、格好」
    「……この状況で最初に口から出るのがそんな感想だなンて、君は肝が小さいのか据わってるのかわからないな」
     外で出口にロックがかけられる音を聞きながら、2人で床に座り込んで最初にした会話がそれだった。

     その後すぐに、2人に「処分」が通達された。ラキオは低級階層の市民に降格、レムナンは国からの通告違反で拘留され、ラキオと同じく低級階層と同等の扱いを受けることとなった。そして、最初に押し込まれた家での生活を強制された。一応の衣食住は確保されたが、他には何もない家だった。ただ直前まで人が使っていた痕跡があり、おそらく、最近テラフォーミングの弾に詰めた低級住民の家を急遽そのまま使い回したのだろう。
     処分にはさらに続きがあった。片方が何か問題を起こした場合、もう片方が国にしたがって「正しく」対処すれば、処分が撤回される。対処したのがラキオだった場合、「国民として正しい事」をしたラキオは復権し、住居も戻される。逆にレムナンがグリーゼのためにラキオを告発した場合、レムナンは無罪放免となり国外に出ることができる。その為の船も国が用意する。そういう内容だった。
    「なるほどね。僕達に相互監視させたいんだろう」
     事の次第に顔を青くしたレムナンをよそに、ラキオはため息をついた。
    「君は僕に巻き込まれただけだと、国もわかっているはずだ。面倒な奴に引っ張り回されてさぞ辟易としてるだろうってね。ただ君も国の通告を破ってるわけだから、野放しにしてしまっては余計なことを外で吹聴するかもしれない。だから、君もいつテラフォーミングの弾になってもおかしくない状態にした。かつ、僕が何も問題を起こさないとは国は考えていないだろうから、この状況から解放されるために君が僕を突き出してくるに違いない、そういう算段なンだろうね。そうすれば、国は大手を振って僕を好きにできる。今までみたいに、知性ゆえの上流階級だから仕方ない、というお目零しをする必要がなくなる。脳をいじるか遺伝子を抜き出して優秀な子を作るための材料にするか、いずれにせよ人間扱いしなくていい優秀な素材になるってわけだ。逆に、僕が上流階級という立場欲しさに君を突き出したっていい。それで僕の身分が戻ったとしても、前科ありとして国は監視もつけやすい。僕の頭脳自体はなるべく失いたくないだろうから、国からしたら穏便かつ合理的で完璧、ってところじゃない?」
     ただ1つ、君も僕も告発なんかしなかった、という点だけを除けば。まあ僕は「問題」を起こしたけど。
     そう、その低級階層用の居住区こそ、反政府組織の旗揚げの場所だった。「僕はこの国を革命する」という宣言をラキオがレムナンに耳打ちしたのが、組織活動の始まりだった。最初はその内容の大きさに耳を疑ったが、すぐに腹落ちした。それはそうだ、この人にこの国は無機質すぎる、とずっと自分は思っていたのだから。
     とはいえ、その後すぐ「君がリーダーになるんだ」と言われた時は、さすがに唖然として相手の顔を凝視してしまった。何の縁もゆかりもないはずの自分がどうして? と確認したものの、ラキオから返ってきたのは「君が適任なんだ」という簡潔な理由だけだった。本来なら、「無理です」と断るだろう。だが、レムナンにはそうしたくない理由が2つあった。
     1つは、ラキオによって軍基地行きを回避できたこと。例えグノーシア騒動に巻き込まれるきっかけがラキオであったとしても、ラキオにそうする意志がなかった以上、そんなものは結果論でしかない。それに、ほぼ押し切られていたとはいえ、最終的にラキオを乗せてルゥアンに行くことを決意して船を動かしたのは自分なのだ。その意志を捨てるつもりはない。
     もう1つは、ただの憧れだった。虐げられたり蔑まれたりしている人達を導き、助ける。それを完遂した人への憧れがあった。それは、D.Q.O. の船長もその一員であったアルゴー号のクルーや、あのルゥアンでグノーシアの魔の手から逃してくれた、なぜか顔も思い出せない誰かのような。もし自分が同じものになれるのであれば。
    「僕で、いいなら」
    「君がいいって言ってるンだけど」
     こうして、小さな組織が芽吹いた。

     最初にやったことは、味方を増やすことだった。相手は主に、国に対して反感を抱いているような低級市民達だ。ここで、レムナンはラキオの言っていた「君が適任」の意味を知る。
    「僕は知能の低い人間の機微にあまり明るくないし、そういうのとやり合うのは君の方が得意だろう。君はやけに直情的なところがあるからね。直しておいた方がいいとは思うけど、今はそれが役に立つってわけだ」
     言い方はともかく、確かに、「元」上流階級のラキオでは、低級層の人間たちとは話が合わないかもしれない。いくら、この国の人間に対する扱いが人間性を排除するもので、不穏な動きをしていたラキオが不遇の扱いを受けていたといっても、生活の基盤などは間違いなく上級階級のものだったのだ。その土壌では理解しにくい感情が低級市民にはある。
     一方、レムナンは感情を、特に相手の悲しみや怒りを理解し同調するのが上手かった。その人が不当に誰かに攻撃されていると思えば、一緒になって怒れる情があった。ただし(よほどの遺恨がある場合を除いては)感情に寄りすぎることもなく、ラキオの理屈めいた話も基本的には理解して、その意図通りに実行できる。間を取り持つのにちょうどよかったのだ。ラキオにそう得意気に話されたが、当のレムナンは、自分はただの「取り持ち」でしかない、と考えていた。
     取り持ち役が活躍するためには、取り持たれる「両者」がいなくてはならない。「上流階級のくせに国に従わない、他人とやたら関わりたがって目立つ鼻つまみ者」として有名な誰かの名前がなければ、いくら国に反発を覚えているとはいえ、どこの生まれかもわからないような人と話そうなどとは国民たちも思わなかっただろう。あの人が言うなら本気なんだろう、と反政府組織に名を連ねてくれた人は1人や2人ではない。レムナンが動きやすいように種を蒔いていたのは、他でもないラキオ自身だ。
     ただ一方で、どうせ退学の腹いせのお遊びだろう、とラキオを揶揄したり、逆にレムナンに不信を抱いたりする人間もいた。ラキオが自身ではなく余所者をリーダーにしたのも、自分だけ安全なところで見物して、もし危なくなったら1人で逃げるつもりなのだろうと。レムナンも無理矢理リーダーをさせられているに違いないから、いつかラキオを裏切るかもしれない、と。そういう声はしかし、活動が激化してすぐに消えていった。はみだし者が選んだ異邦者のリーダーは、敵陣で独り囲まれたとしても、文字通り体の一部を吹き飛ばされても帰ってくるような男だった。なお、同伴して遠くから状況を把握していた連絡係は、のちに震える声と手でリーダーの「活躍」、具体的には恐れ慄く政府側の様子を仲間に伝えていたという。しかも、そのリーダーを見たラキオは血相を変えて駆け寄り、血や埃で汚れるのも構わずにぼろぼろの体を支えながら、医療ポッドへの緊急搬入指示を出していた。ただの軽い気持ちの報復程度で、こんな男を、一度こちらに危害を加えた敵には容赦せず、時にはラキオの制止も聞かずに攻撃を止めない男を、こんな風に扱うだろうか。そんな意見が、この組織の信頼度を上げ、そして着実に成果を挙げた。
     かくして革命は成功し、像が立った。革命を志し、リーダーを選んだ、鼻つまみ者の。

    「さて、君は十分以上に役に立ってくれた。あと最初に船に乗せてもらった礼もまだだったね。そこで何かご褒美でもあげようかと思うんだけど、何か欲しいものはある?」
    「えっ」
     ご褒美、という単語にわずかに足がすくむが、言いだしっぺは「どうしたの?」とばかりにこちらを見つめている。そういえば、ラキオに請われたのがきっかけで、自分はこの組織のリーダーをしていたのだった。だからご褒美、なんだろう。もっと自分のためにやっている感覚だったから、まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかった。やり遂げられて、2人とも無事でよかった、その安堵と達成感で胸が満ちていたから。
    「えっ……と……」
    「そんなに悩むことじゃないと思うンだけどね。もうグリーゼには個人船の所持制限もないから、今度こそ深宇宙に行きたいとか、ルゥアンに置き去りになってしまった船の代わりが欲しいとか」
     覚えていたのか、と少し驚きつつ、なるほどこれからの生活に役立つものを与えよう、という意図らしい。確かに、自分がリーダーなのは反政府組織で、その政府が倒された今、自分はただの異星人に戻った、いや戻れるのかもしれない。
     でも、とレムナンは隣に立つ人を見て考えを巡らす。自分はこの人と、最初に思っていたよりは随分と長い時間を過ごしてきた。だからといって、この人のことをたくさん知っているかと言われれば、そうでもない気がする。今でも、この国に戻った時の流れのまま同居こそしているが、例えば、それこそ国からの圧迫も命の危険もない生活で、この奔放な人が何をするのかは知らない。そんな、普通なら知ってそうなことも、これまで見る機会はなかった。掴んだ自由な生活をこの人がどう捉えて、どう楽しむのか、実際に見てみたい。だって革命をするということは、それを叶えるということだったから。革命活動の最中、レムナンは色々な人と一緒に悲しみに沈み、一緒に怒りを訴えたが、はじまりは、この華奢で皮肉屋で話したがりな、青い知性のかたまりのような人だった。
    「じゃ、じゃあ、……これからも一緒に、ラキオさんと一緒に暮らしたい、です」
     思ったよりはすんなりと言葉が出てきたものの、言い切ってからレムナンは不安を覚えた。こんなことをお願いして大丈夫だろうか。さすがに嫌われているとは考えていないが、これからやっと始まる自由な生活、それに自分が邪魔だったら、きっと却下されるだろう。こんな像を建てたとはいえ、少なくとも化粧を変えて身なりを考慮すれば、普通に街を歩けるはずだ。あのグノーシア騒動から逃れた船で、「シャワー室でラキオとバッタリしたんだけど、スッピンだと誰なのかゼンゼンわかんなかったZE……」と呆然と話していた人を思い出す。あと、「人間が政をしては、ただ頭がすげ変わっただけだと国民に思われる」という危惧を根拠に政治への擬知体導入を行ったのも事実だが、そこには「自分達が気ままに生きてみたい」という希望もあった。だからもし、断られたら、その時は。
     レムナンの言葉を聞いたラキオは、一瞬動きを止めた後、心底つまらなさそうに言い捨てた。
    「却下だね。君の喜ぶものをあげるって言ってるのに、現状から何ひとつ変えないつもり? 国ひとつ転覆させておいてそれなンて、ちっぽけ過ぎる要望にも程があるよ。君にだって欲しいものはあるだろう? 僕に対して謙遜する必要あるの? 他のにしなよ」
     それを聞いたレムナンの、力が抜けて固まったその顔を、同居人が見上げる。その顔は明らかに不満げなのに、何故だかきらきらと輝いているようにレムナンには映った。
    「もしかして他は何も考えてなかったの? 僕に意見するときは本命の他に代案もいくつか持ってこいって散々伝えてたと思うんだけど? 出会った頃よりは多少賢くなったと思ってたけど、やっぱり大成した後は腑抜けるものなのかな。そんなんじゃこの先が思いやられるね、やっと自由な生活が送れるっていうのにさ」
    「あ、あはは……」
     わかってるんですか、本当に。僕と貴方が、これからも一緒にいたら、その「自由な生活」に僕もいることになるんですよ。貴方の思い描いているそれに、僕がいるんですか。頭の中でだけ響いた質問は口にしないでおく。きっとまた呆れられるからだ。
    「だいたい、別に旧政府の肩を持つわけじゃないけど、外に出たいとは思わないの? この国に愛着でも沸いたのかな」
    「……そうですね、そうかもしれません」
     愛着。もしかしたらそれが近いかもしれない。国に、というより、だけど。
     正直なところ、レムナンにも今この人について胸を満たしている感情が何なのかわかっていない。でも、それごとこの人には認められている、いや認めてくれそうな気がした。きっと、この人なら何であっても、あれこれ棘のある言い方はしつつ、受け入れてくれるに違いない。自分はこの人に危害を加えない。相手もそうだろう。それがこの革命で、自分が得た一番大きな成果なのかもしれない。そんなことを伝えたらきっと罵倒されるだろうけど。
    「ま、そんなに急いで答えなくてもいいよ、じっくり考えるといい……前にも、君にこんなことを言ったね?」
    「その時みたいに、明日答えろなんて言わないでくださいね」
     せっかく自由になったんですから。レムナンの零した笑みに、ラキオも口角を上げて応えた。
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    I__B_gno

    DOODLEいちゃついたレムラキが見たかったので書いたレムラキ ノマエン革命後 ざっくり書いただけなので後で手を入れるかも
    観察結果を発表します レムナンが目を開けると、自分が起床した瞬間に見るものとしては珍しい表情がそこにあった。相手はまだ寝ているようで、体をこちらに向け、長い睫毛は伏せられたまま、すうすうと寝息を立てている。ブラインドの隙間から入る光の角度を見るに、おそらく朝というにはやや遅い時刻、だろう。グリーゼの人工太陽はいつでも同じように周期を重ねている。
     昨日は何があったのだったか、とレムナンはまだ半分寝ている頭で記憶をたどる。どうも最近進めている研究が佳境らしく、きっと作業の手を止められなかった、のだろう。いつもは自分よりもかなり早く床についているのに、昨日は自分が寝室に赴くタイミングでやっと部屋から出てきて。うつらうつらと眼をこすりながらシャワー室に向かい、半分目を閉じた状態で寝室に入ってきて、まだ湯の温かさの残る体でベッドマットと毛布の隙間、自分のすぐ横に滑り込んで、完全に瞼を下ろした。「おやすみ」ぐらいは交したが、あの様子だとそれも覚えているだろうか。普段の生活リズムを守らないとパフォーマンスが落ちる、とは本人がよく言っているが、定刻になっても起きないのを見るとそれも納得できる話だった。きっと全裸で寝なかっただけマシなのだろう。こちらも、何もまとっていない状態の恋人の隣で寝るのは流石に気を使う。もっとも、疲れているところにあれこれするような趣味は自分にはない。ので、短い言葉のやりとりの後、そのまま自分も寝入って、今に至る。
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