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    pandatunamogu

    降新文をポイポイします

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    pandatunamogu

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    過去のネタメモ消化週間で書いた降新

    ##降新

    きみの本音はハチミツのあじ 俺が元の姿を取り戻してから三年。
     降谷さんとは良い友人関係を築けていると思っている。
     たまに捜査の方針や考え方の食い違いから険悪な喧嘩に発展することもあるけれど。
     それでも大体最後はお互いに謝って丸く納まっている。

     だから良い友人関係を築けていると思っていたんだ。そう、今のこの瞬間までは。

     今日はひと月ぶりに現場で降谷さんと顔を合わせ、半日ほど要したものの、何とか犯人を特定してその場で逮捕がかなった。その後の処理に三時間ほど要したのだけれど、「待っていてくれないか。久しぶりだからゆっくり君と話したい」と友人の顔で声をかけられ、当然悪い気がしない俺は二つ返事で降谷さんの業務がひと段落するのを休憩室で待っていた。
     待合室で三時間ほど待たされた後、やや慌てたように入ってきた降谷さんは、至極申し訳なさそうに眉尻を下げて「三時間も待たせてしまってすまない!」と入ってきた。
     あんまりに申し訳なさそうに入ってくるので思わずおかしくなった俺は、「オイシイもん食べさせてくれるなら全然イイっすよ」と笑った。

     そうしてもう何度目になるか分からない降谷さんの本宅に招かれ、『フライパンひとつで出来る本格ピッツァ』なるものとシーザーサラダを振る舞われた。フライパンひとつで作られたとは思えないほどに本格的なピザは絶品だったし、シーザーサラダに入っていた角切りベーコンは外がカリッカリで中身がジュワッとジューシーで、手作りのドレッシングも絶妙な味わいだった。食後にレモンソルベを出してもらい、大満足で淹れたてのコーヒーをリビングのソファに移動して楽しむことにしたのだ。いつものようにほんの少しだけパーソナルスペースを開けて隣に座った降谷さんと、何気なくテレビを観ながら歓談していた、まさにその時だった。
     世界の絶景を紹介するその番組をまったりと二人で眺めつつ、やれあそこに行ってみたいだの、やれあそこは幼少期に父親に連れていかれただの羨ましいだのと他愛ないやり取りをしているうちに、心做しか降谷さんの体が少しずつこちらに近寄ってきているように感じたが、別段気にせずテレビを観ていたら、不意にローテーブルに一旦置いたマグカップに手を伸ばした降谷さんが、ぽろっと口を開いて言葉を転がしたのだ。
    「愛してる」
    「………………え?」
     聞き間違いかと思った。
     だって、だ。
     今の今まで友人以上でも友人以下でもなかったひと回り年上のモテ男が、俺相手にこんなセリフを口にするだなんて、いったい誰が予測できるだろうか。
     だが、どうやら予想外だったのは俺だけではなかったようで。
     ポロリととんでもない発言を転がした張本人が、今にも顔面から発火するんじゃなかろうかと危ぶむほどに赤面し、カッチカチに固まっているではないか。
    「…………え?」
    「…………聞こえた?」
    「……あ……ハイ」
    「あー……いや……ごめん」
     途端にガリガリと頭を激しく掻きむしり、ガックリ項垂れてしまった彼の耳は、顔と同じぐらい真っ赤だ。あろうことか、そんな彼にキュンと胸が小さく鳴いてしまったではないか、どうしてくれる。だからうっかり絆されて、持っていたマグカップをテーブルに戻した俺は、そっとその丸まった背中に手を当てた。ビクリと過剰なまでに反応する降谷さんに、言葉を投げかける。
    「愛してるって、青の洞窟を? それとも、俺のこと?」
    「ーっ。…………後者だよ。……はぁぁ……言うつもりなんてなかったのに」
     完全に項垂れて頭を抱え込んでしまった降谷さんの耳に着実に届くように、こう告げた。
    「降谷さん、顔上げてくれよ」
    「……嫌だよ。今ひどい顔してるから」
    「いいから。な?」
    「…………」
     強請るようにそう言えば、渋々ゆるゆると顔を上げた降谷さんの手を取って、そのまま俺は自分の狂ったように早鐘を打つ胸に導いた。
    「な……っ工藤く……っ」
    「今まで年の離れたアニキみてぇに思ってたのに……責任取ってもらわねぇと困るんだけど」
    「っ!……良いのか? きっと俺の愛は君がおののくほど重いぞ?」
    「は。望むところだよ」
     そう不敵に答えてやれば、すごい勢いで抱きついてきた。

     世の中なんて、何が起こるか分からないものだ。
     例えば末永く友人として付き合っていくつもりだったひと回りも年上のモテ男とうっかり恋人同士になってしまったり。
     例えば女性ならば誰しもが振り返り見惚れるほどのモテ男が、その恋愛遍歴をぶっ飛ばすほど純情を絵に書いたように、己自身がうっかり零してしまったハチミツのように甘い本音に真っ赤になりながら頭を抱えるその姿に、うっかりキュンと来てしまったり。

     人生は何が起こるか分からない。
     だからこそ、人の世はこんなにも、愛おしいのだろう。


             END
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