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    pandatunamogu

    降新文をポイポイします

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    お付き合いをみんなに内緒にしている降新
    過去のネタメモ消化作品

    ##降新

    ないしょだよ 先日までおよそ半年もかかっていた事件がようやくおなじみの名探偵によって解決され、その事後処理に三日ほど掛かっていたが、ようやくそれも終わってひと息つこうと警視庁の廊下を歩いていた高木は、珍しい組み合わせと偶然出会した。

    ────降谷警視正と、工藤くん。

     現在大学生探偵となった工藤がこの警視庁にいるのは説明するまでもなく、先日の事件解決の功労者であるからだ。その件での理事官を担当していたのが降谷であるから、その組み合わせとしては別段珍しくないと言われればそうなのだが。
     だが、多忙の警視正は現在別件を請け負っていると聞くし、何よりこの二人が特段親しい間柄であるという認識はない。捜査本部(チョウバ)で顔を合わせればお互い会釈や挨拶ぐらいはするものの、わざわざ近寄って歓談するような親しさはなかったように思う。少なくともこれまでは。
     それなのに、である。
     高木の見間違いでなければ、この自販機の前で工藤が選ぼうとしていたブラックコーヒーを、今まで目にしたこともないようなイタズラっ子の笑みを浮かべた降谷が横から手を伸ばして微糖のカフェラテのボタンを押し、それに対して「なにすンだよ降谷さん」とジト目を向けて膨れる工藤の頭をポンポンと撫で、ガコッと出てきたあたたかいカフェラテの缶を手渡しながら「ブラック何杯目だい? 少しは胃と脳を労わって」と優しく言葉を投げかけていたように思うのだが。
     一見して信じられないような光景にビシリと固まる高木に気づいた二人の反応は、実に対称的なもので。
     降谷はいっさい慌てることも無く表情を仄かな笑みに変え、こちらに向き直る。
    「お疲れ様です、高木さん」
    「お疲れ様であります、降谷警視正っ」
     高木は少し、この優秀すぎる警視正が苦手だ。嫌悪や不快感という意味ではなく、単に隙が無さすぎて呼吸ひとつするのも緊張して噎せてしまうぐらいに。ビシッと敬礼しながらそう口にしながら、その隣にいる今回の功労者に視線をスライドさせると、明らかに挙動不審に目線を泳がせている。
    「おつかれさまです、高木刑事」
    「工藤くんこそお疲れさま。今日も調書に付き合ってもらってすまないね。これから帰りかい?」
    「ええ」
     何とも煮え切らないと言うか、いつもハキハキと受け答えをする彼にしては珍しく、何とも曖昧な返答ばかりだ。少し不思議には思ったものの、そうだと高木は続ける。
    「ちょうど僕も手が空いたんだ。送っていこうか」
     しかしその誘いに対して反応を示したのは名探偵ではなく、警視正の方だった。
    「いや、彼は私が送って行くので大丈夫」
    「へ……? 降谷警視正が、ですか?」
    「ええ。──何か問題でも?」
    「あ、いえ。ですが珍しいな、と思いまして。あまりお二人が会話されている所もお見かけしませんし、特段親しいようにも見受けられなかったものですから……」
     余計な一言だったか、と思いもしたが気になって仕方がないので口にしてしまった。高木のその発言に対しても降谷は仄かな笑みを崩さないままだったが、対する傍らの工藤は何やらソワソワと尻が落ち着かない様で益々不思議に思う。
     そんな折、ふと警視正の左手薬指に、つい昨日まではなかった物がキラリとさりげなく光っているのを目にしてしまい、高木は思わず目を見張った。
    「え……え……? 降谷警視正……ご結婚を……? そんな話、何も……」
    「ああ、これですか? これはただのペアリングです。結婚指輪の予行演習みたいなものですね」
    「ぺ、ペアリング……! 警視正、将来を見据えた恋人がいらっしゃるんですか!?」
    「はは。私ももういい歳ですから。────それにようやく出会えた運命の人であれば、逃したくないと思うのは男の性。貴方にもお分かりいただけると思いますが?」
    「あっ、そ、それはまあ……」
     つい先月籍を入れたばかりの愛妻の顔が頭に浮かびながらはにかみ答える高木に構わず、降谷はこう続ける。
    「昨夜ようやく婚約を受け容れてくれましてね、もうこの時を逃しては一生添い遂げられないと思い指輪を贈ったんです」
    「お、おめでとうございます!」
     全力でお祝いの言葉を贈った後、どうにも気になったのはニコニコと余裕気な笑みを絶やさない警視正ではなく、その隣で真っ赤に顔を染めて縮こまって外方を向いている工藤の反応だった。よくよく見れば、普段あまりアクセサリーなどつけるタイプの青年ではないのだが、その首からネックチェーンの様なものがチラリと見えているのが引っかかった。些細なものを見逃さないのは、刑事のクセだ。
    「あれ? 珍しいね工藤くん。普段アクセサリー付けるタイプじゃないのに、今日はネックレスしてるのかい?」
    「っ!? ……あー……いや、これは……あの……ハイ」
     いつもの冷静沈着で動揺を微塵も見せない名探偵とは思えないほど、激しく動揺している。慌てて開けていたシャツの第一ボタンまできっちりと止めて、完全にネックチェーンを隠してしまった。その反応に、さしもの高木とて何かと何かが結びついてしまった。
    「え……? 指輪、ネックレス……もしかして……?」
     そう呟きながら改めて降谷と工藤を見比べると、相変わらず何を考えているのか食えない笑みを悠然と浮かべている警視正と、明らかに動揺してギュッと己の胸元──おそらくそこにぶら下がっているのだろう。隣の警視正の薬指にハマっているものとお揃いのアレが──を握りしめる名探偵。耐えられなくなったのか、赤らんだ顔を俯けて、早口で「お、俺! 次の予定があるのですみません!」と言うが早いか競歩選手も驚くほどの早歩きでエレベーターに向かってしまった。それを悠然と追うように歩を進め、高木とすれ違いざまにそっと色男は囁いた。
    「ないしょ、ですよ?」
    「!! は、はい! 誰にも言いません!」
     再敬礼して答えると、肩を揺らして笑いながら、降谷はエレベーターの下りボタンを必死に押している探偵の隣に並び、両手をポケットに突っ込んだ。
     正面に回り込んで確認しなくてもわかる。もう今は他人同士の顔になっているはずだ。

    ────降谷警視正はさすがとしか言いようがないけど……意外だな。工藤くん、恋愛ごとになるとあんなにウブで簡単な嘘ひとつ吐けなくなっちゃうなんて……。

     あまり色事の機微に詳しくない自分でさえ気づいてしまえるぐらいなのだ。これがその手のことに詳しく興味津々の婦警たちなど、一目瞭然でバレてしまうだろう。
     来たる時がやってくるまで上手く二人の可愛らしい秘密が守られることを、高木は願うばかりだった。



              END
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