その後俺たちはゲームセンターを訪れた。
普段こういうところにはあんまり来ないので、ちょっとテンションが上がる。
適当にぶらつきながら、俺は堅作の様子を観察する。
すると堅作は一点をじっと見つめながら何かを思案しているようだ。
そして、何かを思いついたようで、こちらに向き直ると俺に言った。
「乱人、俺と勝負しねぇ?」
「は?勝負?」
いきなり何を言い出すんだ、こいつ。
俺が怪しげに眉を顰めると、堅作は得意げに笑う。
何か企んでる顔だ。一体何をするつもりだ?
「三本勝負だ。三つのゲームで対戦して、先に二本取った方が勝ち。どうだ?」
「ほぉ……おもしれェじゃん。で、勝ったらどーなるんだ?」
堅作の提案に興味を惹かれた俺は、すぐに承諾する。
それにしてもこんなことを考えていたとはな。
堅作は更にルール説明を続けた。
「この勝負で負けた方が、勝った方の言うことを何でも聞く…ってのはどうよ?」
俺に勝てる自信があるってことか。
だが俺は負けず嫌いだ。
「いいぜ、受けて立ってやるよ」
俺がその発言に乗ってやると、堅作はますます嬉しそうな顔をした。
まず一本目はレースゲーム。
筐体に座りコインを投入し、そしてスタートボタンを押した。
レースゲームは苦手じゃないし、家庭用でもこのゲームは何度もやり込んでいる。
そして勝負が始まった。
……レースは拮抗していた。
しかし最終コーナーに差し掛かったところで、俺の投げたアイテムが堅作のカートにヒットしクラッシュ。
そのまま追い抜き、俺が1着でのゴールとなった。
即ち一本めの勝負は、俺の勝ちとなったわけだ。
「あんなとこで甲羅投げんじゃねぇよ馬鹿野郎ーーー!!」
「うっせーな、勝ちは勝ちだ」
悔しそうに地団駄を踏む堅作に向かって、俺は得意げに言ってやった。
次はパンチングマシーンの対戦だった。
モードがイージーから5段階あったが、俺達は迷わず最難関のモードを選択する。
さっきのレースゲームでは俺がリードしたが、今度はそうはいかない。
何故なら、相手はかつてハードパンチャーとして名を馳せた男だ。油断はできない。
先攻は俺だ。俺は構えながら息を整える。
グローブを嵌めた拳を突き出しながらタイミングをはかる。
その瞬間がやってきたら、一気に振り抜くだけだ! 俺は気合いを込めて、勢いよく右手を振り抜いた。
叩き出した記録は250kg。これには周りのギャラリーもざわついていた。
どうやら腕は鈍っていなかったらしい。
続いて堅作も挑戦する。
グローブを嵌めた瞬間、その目つきが変わった。
まるで獲物を狙う肉食獣のような鋭い眼光だ。
堅作はグローブを嵌めた手を、弓を引くようにゆっくりと引く。
そして次の瞬間、堅作は渾身の一撃を放った。
「…………オラァ!!!!!」
気合いと共にズドン!!と轟音が響き渡る。
と同時に、衝撃で筐体がビリビリと振動していた。
同時にモニターには計測不能の赤い文字が表示され、店員呼び出しブザーが鳴り響いた。
あまりの威力に、集まっていたギャラリーがしんと静まりかえる。
堅作はグローブを外し、何事もなかったかのように姿勢を正す。
「……ざっとこんなもんよ」
「いやいやいや待てって!!数値出てねぇだろーが!ンなもんノーカンだノーカン!!」
「あ?勝ちは勝ちだろ」
ドヤ顔でさっきの俺の台詞をそっくりそのまま返され、思わずムッとする。
……しかし、だ。こんな細っそい体で、よくあんなすげえパンチ打てるよなぁ。
そーいや以前こいつがちらっと“パンチは腰で打つんだよ”と言っていたのをふと思い出す。
腰……ねぇ。俺は堅作の腰に目をやる。
痩せ型だがしなやかに筋肉のついたその裸体を思い出し、ごくりと唾を飲み込む。
いかんいかん、まだ真っ昼間だしここはゲーセンだ。
煩悩を打ち消すため、首をぶんぶんと横に振る。
そういえばまだ勝負の途中だった。
今のところは一勝一敗のイーブン。
「さぁ、次は何やんだ?」
気を取り直してそう言うと、堅作は口の端を上げた。
どうやら次の勝負はこいつの得意分野みたいだ。