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    ほぼ女体化百合 ほか供養CP成人向けなど
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    ひかり 七夕 24/7/7
    ユメミル眼帯(前半)ひかり(後半)

    ○199x年 7月

    それは活気のない談話室にぽつんと佇んでいた。窓辺に立て掛けられた笹は、偽物の葉を携えるばかりで一切の飾り付けもなく、ただ項垂れている。傍には歪に切られた折り紙の短冊が数枚と、芯が柔らかめの鉛筆が用意してあるが、それらが使われた様子はない。

    僕は鉛筆を手に取った。

    「順調にいけば7月には退院できるかもしれません」

    先生がそう教えてくれたのは、雨続きの真ん中あたりだった。僕は、すっかり、季節というものが馴染んできて、雨の日には食欲がなくなるなあとか、そういうことを考えていた。

    目が覚めるまでの8年間という時間に対し、リハビリのための病院に移るまでの期間の短さ。さらに大きな障害も残らず歩行器を使い歩けるまでに回復する、ということは、奇跡というほかないらしい。
    そして、奇跡というのは素晴らしいことらしい。
    1人で立つことすらままならない。誰にも見られて
    いないし、誰のことも見ていない。何を託されるわけでもなく、使命もなく、意味もなく、手段もなく、自由に生きている。窓の隙間から黒い風が吹き、さらさらと不自由に揺れている。
    これが奇跡の姿らしい。血の通っていない脈に無病息災のお願いをするらしい。それが叶えば、奇跡らしい。

    短冊を1枚拝借し、白い面と対峙する。
    表面は朱色しか用意されておらず彩りに乏しかった。そもそもお願い事を書くときには色のついているほうが裏面ということになるのだから、先月の広報誌とか、そういうものを使ったって良かったのに。
    新品の折り紙を用意して、誰も興味ないことを知っているから少なめに切って、できれば誰にも見つけてほしくないというような場所に置いている。そんな人がいる。
    嬉しい。
    僕の事情を知った人は、みんな僕に寄り添う。冷たい目と温かい心で以て介入してくる。僕の命を奇跡と謳う口で愛を語る。
    この笹と短冊もそんな優しい人が用意したんだ。誰からも願われていないし、期待されていない。それがなんだかとても嬉しいのだ。

    僕は「星が見えますように」と書いた。もちろん、笹に吊るしたりせずそのままポケットにしまった。
    今度こそ死んでしまったら、星じゃなくて、浜辺の砂粒になって、工場の塵と油と煙と交わりたい。この町から星が見たい。
    願い事の数だけ輝くあの星々の中には僕の友がいるらしい。



    ○198x年 7月

    僕とタミヤ君とカネダは、根本的な感性が違うみたい。でこぼこだからこそ一緒にいるのが楽しいんだ、なんてことすら思わない。2人と親友であるということに、「僕が僕で、タミヤ君がタミヤ君で、カネダがカネダである」以上の、あるいは以下の理由はないと、そう感じているから。
    でも僕はやっぱり、死んだら星になるなんて怖いって思う。

    「も、物の例えでしょ?怖いって思うことのほうが、なんか怖いって……」
    「なんでだよ?だってほら、天の川。こんなに綺麗なんだよ。全部死んだ人の命って、怖いよ」
    「テツガク的でよくわかんねーよ。死んだ後のこととか、今考えても、なあ」

    タミヤ君の言葉に、僕とカネダはうんって言って、また空を見上げた。

    七夕だろうが満天の星空だろうが、螢光町はお構い無しに黒い息を吐いている。僕達がいるのは潮風の吹くバルコニーなんかではなくて、塀に囲まれた空き地の真ん中。多分世界でいちばん空から遠い場所だ。

    タミヤ君が頑張って背伸びしても届かないところに点々と浮かぶ光。煙突や煙が邪魔だけど、それでも空ってこんなに高くて広いんだって今更知った。2人がいなきゃきっとずっと気づかなかった。

    「でも、ダフは死んだら星になるって信じてるんだ?」
    「そう。だから、怖い」
    「まあ、あの中に混ざったら、はぐれちまいそうだな」

    夕方、僕んちに集合して願い事を書いた。小さな笹を置いて、そこに3人分の短冊を吊るすのだ。こういうことは、小学校と共に卒業するのかもしれないけど、僕達はさっきまで、星空が綺麗だってことにも気づかなかったくらい、まだ何も知らない。だから、これからも3人でいろんなことを経験したいと、本当に思った。

    「僕が最初に星になるから、2人が僕を見つけてよ。僕、1人で待つのは耐えられるけど、途中から離れ離れになるのは絶対嫌」
    「そしたらカネダが2番目で、俺が最後か?」
    「僕、3人一緒がいいよ〜」

    同時に空を見たくて、ここに来るまでの道中、俯いて歩いてきたみたいに?
    カネダの駄々に、僕は心の中でそう続けた。そうなればいいけど、無理だろうから、せめて僕は2人を待っていたい。
    だってほら、天の川。こんなに綺麗。死ぬことより1人でいることより、怖い。あの光の川に呑まれた2人を見つけ出せなくなるなんて、名前のない星になるなんて、怖すぎる。

    (短冊には、まず「ずっと3人が親友でありますように」って書いた。)
    (書き終わったあとに、2人にも見られることを思い出し、僕はその字を慌てて消そうとした。)
    (力が入ってビリッて破れちゃうのと同時に、タミヤ君は自分の紙をくしゃって丸めたし、カネダはものすごく小さく、雑に畳んだ。)
    (僕達はお互いに何を書いたのかが分かって、笑ってしまった。)
    (それで結局、僕は身長が伸びますようにって書いたし、カネダも身長が伸びますようにって書いてたし、タミヤ君はこれ以上身長が伸びませんようにって書いてて、また笑った。)

    「織姫と彦星ってどれ?」
    「僕に分かるわけないじゃん」
    「だから聞いたんだよ」
    「ムカつくなあ」
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