①
「あったか〜い」を求めてわざわざ自販機まで来たものの、世は未だ「つめた〜い」らしい。
涼やかな飲み物のサンプルが整列する様にはっと短く息を吐き、小渋は寒さで粟立つ腕を摩った。
ファッキンコールド、本日雨天なり。
燦々と照る太陽は昨日までこの世の生き物全てを焼き殺そうとしていただろうに、日を跨いだ途端気が変わったのか顔ひとつ見せやしない。
まだ秋だ。いけるだろうと身に纏った薄手のシャツとベストは雨に濡れ、お気持ち程度の温かみしか提供してくれなかった。
(……いや、これはたまたま今日、着てっちゃっただけだし。別に季節感が無いわけじゃない)
特に誰から責められたわけでもないのに、頭の中で言い訳をする精神。
かじかむ指先でポケットに突っ込み、中をまさぐってみる。熱い煙で肺を満たして、暖を取ろうという算段だ。
青いパッケージから一本を引き抜いて、薄い唇でそれを咥える。
そういえばこの頃、ようやくヤニを吸っていても視線を気にすることがなくなった。
というのも、巫律はどうにも顔も薄っぺらなつくりをしているようで。垢抜けなく、背だってあまり高くないものだから、よく訝しげに見られたのだった。いやまぁ、見られていると思い込んでいたのかもしれないが。この自意識過剰め。どうせ誰も見ちゃいないぞ。
脳内で咎める陰険な声たちに眉根を寄せつつ、ライターを手に取り、火を灯す。
「ん?」
冷えた指先で着火レバーを何度かカチカチ押すものの、安物のそれは火花を散らして弱々しく煙を吐くだけだった。
「はぁ……」
百円ライター、お前もか。
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②
神代はこうやってよく人を褒めるんだろう。
そうだとしても、なんだか騙しているみたいで申し訳ない気持ちになる。巫律は神代が言うほど良いやつでは全くないのだ。
怠惰で、心底恥ずかしいやつなのだ。
早く死んでしまいたい、いやウソ。
死ぬなんて大層なことできやしない。
ことあるごとによぎる希死念慮の軽口は、心の中で留めておこう。かすり傷だけで泣き出すような弱い人間だと思われたくない、そんなこと口に出したら生きてて申し訳ない。
いや、むしろ言わせてしまっているのか?気を遣わせている?
ありえるありえる。だって、小渋は空気が読めない。中途半端に読めているつもりだからこそ、余計苦しい。自分が話した直後に会話が途切れるLINEとか、自分が口を挟むことでテンポが悪くなる会話とか。身に覚えのある証拠の記憶たちが一斉に起き上がり、シナプスを駆け巡ってぞろぞろと成立し始めた。