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    ounira

    @ounira
    長編漫画置き場にしています。(九龍中心)
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    ounira

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    ○○年ぶりの小説投稿で震えています。
    出張帰りの新幹線でなんとなくスマホで書き始めたのですが、気がつけば一気に終わりまで書きました。
    壬生、鳴瀧館長、龍麻、如月の4人が出てくるストーリーです。
    (カップリングは無さそうな感じですが、書いた人は普段、鳴主が大好きです)
    時間軸はラスボスを斃した以降かなと思いますが不定です。
    誤字脱字はご容赦を。

    新しいシューズ 拳武館館長・鳴瀧冬吾は、今日起きた出来事の報告を淡々と終えた弟子・壬生紅葉の足元が気になっていた。
    「それは…一体どうしたのかね?自分で買ったものか?紅葉」
    弟子の壬生が履いているのは真新しい靴だが、一種、異様な気を放っていた。どうやら普通に流通しているようなスパイクシューズではなさそうだった。
    「この靴…ですか?」
    壬生は目線を落とした。
    「これは…龍麻に貰いました。」
    「ほう…?龍麻君…。…貰ったとはどういう事かね?」

     そう尋ねられ壬生はドキリとした。
    どういう事かねと尋ねられると、一体どういう意図の質問で、どう答えるのが最良なのか、一瞬言葉に詰まってしまうからだ。
    この館長・鳴瀧には相手に有無を言わせない静かな圧力があり、声には聞いた相手を従わせる力がこもっていた。
    そしてこの師は嘘に対して慎重で過敏だった。

     壬生は全ての事をありのまま正直に話す事にした。
    「龍麻には馴染みの骨董品店があります。そこで僕の技の威力が増す靴を見つけたと言うので、僕に買ってくれたんです。」
    「……」
    鳴瀧は黙って聞いている。
    「真神學園の旧校舎にいる異形の敵は、このような靴で強化しなければ最近僕でも太刀打ちできないところまで行きました。他の仲間も龍麻に装備を貰っています。」
    「そうか…」
    鳴瀧冬吾は少し何か考えているようだった。

    龍麻。
    緋勇龍麻は鳴瀧にとって以前教えていた弟子の一人であり、亡き親友の息子でもある。
    真神學園の地下にある迷宮のような場所に、夜な夜なメンバーを募って出かけ、異形の者を狩って技を磨き、互いにレベルアップをはかり力をつけているという話は壬生からたびたび報告を受けていた。
    龍麻の元へ壬生が参じる時は、拳武館の暗殺稼業も休みの日にあたる。
    (龍麻…君は自ら仲間を呼び、危険な目に合わせる代わりに装備は各自の分、用意をしてあげるという事か。
    だが、強大な敵に打ち勝つには少しずつ力をつけるのも悪くない。仲間と切磋琢磨する時間は何物にも代えられない大切な時間だ)
    鳴瀧は遠い昔の過去に想いを馳せながら、もう一度壬生の履いている靴を見た。
    「…」
    それにしても不思議な靴だった。
    値段がいくらするのかパッと見ただけでは見当もつかない。
    なぜこれを紅葉に買い与えたのか龍麻に聞いてみたいとも思ったし、この異様な靴を売るという骨董品店というのも鳴瀧は気になった。



    「ねぇ…龍麻、今いくら貯まったんだい?」
    壬生は肩を回して準備運動している龍麻に質問を投げかけた。
    時刻は夜7時。8時の旧校舎集合までまだ時間はたっぷりあった。
    「前から比べたら大分稼いでいるんじゃないの?一体今いくら?」
    「えっと…えっとね…。もう、9999999円…かな…」
    「そう…。ひょっとして、君、僕より稼いでいるんじゃないの?」
    「えっ…」
    お金の話をする事に龍麻は驚き、そして少したじろいだ。
    「前から思っていたけど、僕の暗殺の仕事より稼ぎがいいよね。ここ」
    「えっ…あ…う、うん…そ、そう言われたら…そうかも…。」
    「一晩でいくら持って帰るの?」
    「ええと…一晩で100万円行く時もあるよ…」
    そう答えると、ごめんね壬生君…と龍麻はすまなそうに謝った。
    「何故僕へ謝る必要があるんだい?」
    「だ、だって…君は拳武館で…」
    龍麻はうつむいた。
    「館長が、僕の靴を見てこないだ質問をされたよ」
    「えっ…か、館長が…?」
    龍麻はピタッと止まった。緋勇龍麻でも鳴瀧冬吾の話題となると多少なりとも緊張する。
    もうほぼ一年近くろくに会えていないから尚更だった。
    「館長…何か…言っていた…?」
    「別に。君の羽振りの良さについては何も」
    「ちょ、ちょっと…何を報告したの? 僕の事で余計な事は館長に言わないでよ…お願い」 
    「聞かれたらマズい事でもあるの? …館長に聞かれた事は全部答えるだけだよ僕は。館長の前で嘘をつきたくないからね」
    「ちょ、ちょっと待ってよ。僕だって…館長には変な風に思われるのは嫌だよ。ちゃんとしてる所を知ってほしいんだ…」
    「君はちゃんとしてるよ。仲間の事を常に気にかけて考えているし。ちょっとここのところ稼ぎがとてもいいだけで。」
    「何でそういう少しトゲのある言い方するの。君も…君もさ、暗殺なんかやめてこういう風に異形の者を斃すのを生業にしたらどう…? お金が必要なら、暗殺なんかするより…こっちの方が向いている気がするよ」
    「そうかな。」
    君は…拳武館を否定するつもり? と壬生がフッと挑戦的に笑うと龍麻はますます困ってしまった。
    お金の為じゃなく、義の為に殺す─
    お金は単なる副産物─
    けれどそのお金は大切な人の為に必要なもの─
    龍麻は改めて壬生の置かれた立場について反芻していた。

    自分が軽々しく高価な靴を買い与えた事に対しで、壬生の為を思ってやった事が返って裏目に出てしまったのではないかと龍麻は少しばかり後悔した。

     龍麻には壬生の暗殺について、良くない事だと簡単に否定できない理由があった。
    壬生という大切な友がそういう生き方を自ら選択しているのもそうだし、
    その友と自分は同じ師の元で古武術を習っている。
    師の鳴瀧に関しては自らが大勢多数の暗殺者を育てている事を龍麻にはずっと秘密にしていたし、
    それが昔から龍麻との接触を極力持たず、関わろうとしなかった理由でもあった。
    龍麻としては、人として暗殺行為自体は許しがたいと思ってはいても、師や友に対してそれを否定する事自体、彼らとの関係をも否定する事へと繋がり、二人との繋がりが断たれてしまう事をとにかく恐れていた。
    むしろ、壬生と師である鳴瀧は龍麻の前で人を殺める場面を見せたことは一度もない。
    龍麻が「暗殺はよくない」と簡単に言えない理由はここにもある。
    自分が見てもいない事は否定もできない。
    龍麻は暗殺者としての一面を決して見せられないという事に、拳武館の師弟から見えない隔たりを感じていた。自分と彼らは違う存在なのだという疎外感をも感じていた。
    龍麻はむしろもっと彼らの事が知りたかった。
    もっと彼らと関わりたかった。
    暗殺なんて見てはいけないし、できれば想像すらもしたくない。
    しかし、彼らの裏の顔を今知る事はできない。
    それが現実だった。
    龍麻はせめて旧校舎に壬生を呼ぶことで少しでも彼らの情報が知りたかった。もっと彼らとの繋がりがほしかった。
    壬生へプレゼントした靴は、そんな切ない願いの果ての物だったのかもしれない─。




    「ここ、やってますか?」
    如月翡翠の骨董品店に、見覚えのある紺色の制服の男子生徒が二人入ってきた。
    男子生徒らは骨董品を買いに来た客というより、店主がいる店かどうかをただ確認したいという風に如月に一瞥した。
    「ああ─、やっているよ」
    そう答えながら、拳武館の生徒が一体何の用だ?と如月が訝しんでいると、
    男子生徒二人が一礼するのと入れ替えに身長二メートル近いただならぬ気を纏ったスーツの男が入ってきた。
    茶色の波がかった長髪に、髭を蓄え、穏やかとも厳しいとも言える目で如月を見つめている。
    (これは…)
    如月は滅多にない客と出会った気がした。
    緋勇龍麻が初めて店に来たときも一陣の風が吹き抜けるような爽やかさと緊張感があったが、
    この男は一滴の湖面のゆるぎのないような静けさで足音もなく店の中に歩みを進めた。
    纏っている気はなんとなく壬生に似ている。
    (まさか…壬生の師と龍麻の師は共に同じで拳武館の首領だと聞いていたが─、この人物がその人なのか)
    如月は色々と考えを巡らせる内に、額から汗が一雫流れた。
    先ほどから一分の隙も見せないこの男と自分がもしいきなり戦う事になれば、自分は生きて残れるかわからない、そんな恐ろしさを持って、目の前のスーツの男は立っていた。

    「龍麻君はよくここへ?」
    鳴瀧は口元をほころばせながら如月に聞いた。
    龍麻、如月はその名を聞いてハッと少量の息を呑み、
    (ええ…なかなかの上客ですよ)と反射的に答えそうになるのをこらえて
    「他の客の事については答えられないので」
    と、守秘義務を守る骨董品店店主をなんとか演じきった。
    (なんだ…この…人を従わせる力は…)
    如月は戸惑いと警戒心を目の前で極力出すまいとしたが、それは無駄な努力だった。
    そういった事も鳴瀧にはお見通しだった。
    鳴瀧は涼しげだが穏やかな笑みを浮かべて立っている。
    (ヘタな嘘も通じない、か…)
    如月の脳裏には壬生の無骨な忠義心と、素直な性格の龍麻が思い浮かんだ。
    二人を教え導いた師はこんな人物だったのか、
    如月は少し観念するような気持ちになって、
    店主と客とではありながら、壬生と龍麻の二人と関わりを持つ人間として目の前の男と向き合う事に決めた。




     如月は眉間にシワを寄せて旧校舎前に立つ壬生と龍麻に詰め寄った。
    「ビタ一文もまけないそうだね、と僕は笑われたのだが…?」
    時刻は夜7時半─。
    旧校舎の招集はやっと三人集まった。
    「今日、昼間拳武館の先生がいらっしゃったよ。骨董品…特に手甲とスパイクシューズを見せてほしいとね。」
    「「か、館長が!? 如月の店に!?」」
    壬生と龍麻は二人して声を揃えた。
    「僕の店の事を師匠には話しても構わないがね、そこの店主の悪口はよくない」
    「悪口…」
    龍麻は如月を戸惑いの目で見た。僕は言っていないよと目で訴える。
    「僕の店の商品が高いって言った事あるのだろう?」
    如月はやや怒っている。
    「いいか? 君たちは骨董品の価値が分かっていない。分かっていないから人の店の商品に向かって高いだのなんだのと平気で言うんだ。物の価値は目利ができなければわからない。君たちにはまだそれは早い。」
    「僕、高いなんて言ってないよ」
    龍麻は如月に抗議した。しかし、抗議に抗議で返しては店主もますます気分が悪い。
    「靴に35万円するのか?って言ったんじゃないのか? 君たちのどちらかが、あの拳武館の先生に。」
    「言ってないよ」
    龍麻も壬生も頭を振った。
    「少なくとも僕は本人とは会ってないよ。全然…」
    と、うつむいた。
    「となると壬生か」
    如月は今度は壬生へ整った綺麗な顔を向けた。
    「報告したという意味ではそうだね」
    「壬生くん…」
    龍麻は今度は壬生を少し未練がましく見た。
    「報告したのは僕ですよ。でも如月さんはどっちが高いと言ったのかが知りたいんですか?それとも二人に謝ってほしいんですか?」
    「いや…。店に妙な噂を立てられては困る。それだけ釘を刺しておきたいだけだ。…あの先生はこの先も店に来てくださるかもしれないからね。暗器の仕入先として…。」
    えっ、と二人はまた声を揃えた。
    二人は目を合わせて何か気まずい事が起きないか探るように見つめ合ったが、今は何の場面も想像できず、再び視線を如月に戻した。

    「…ところであの先生は、君たちにとって父親のような存在なのか…?」
    如月は二人に対して思っている事をぶつけてみた。
    すると二人とも、そんな事を思った事は一度も無いと返した。
    自分は館長を父親とは思っていない、そう返事はしながらも如月はこの二人がもっと別の感情であのスーツの男を見ている事にそれぞれの表情から感じ取った。
    そして、一方の店に来た鳴瀧の方は如月の前にいる時はまるで二人の父親のような眼差しで二人の事を口にしていたのを思い出して、
    なんとなく三人の関係に少し興味が湧くのだった。
    だが今はそれ以上深く踏み込まない事にした。

    壬生は改めて自分の履いている靴を見た。
    龍麻が自分の為に、
    如月の店で一生懸命選び、
    館長が様々な事を感じ取ったこの靴を─。


    <完>
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