そんな貴方を。「遅いなー、おやつ出来たのに。寝ちゃったのかな?」
リビングで一息ついていると依央利さんがそう呟いた。テーブルにはふみやさんがリクエストした焼き菓子が置かれ、良い匂いが鼻をくすぐる。
「今日は朝から元気なさそうに見えましたから、もしかしたら寝てるかもしれませんね」
「ちょっと僕見てきます」
「あ、依央利さん」
「ん?」
立ちあがろうとした依央利さんに声をかける。
「良ければ僕が見てきますよ。部屋から取ってきたい物もありますし」
「そう?うーん……じゃあお願いします」
負荷をかけてごめんねと続けた依央利さんに大丈夫ですと声をかけ二階へ上がる。本当は部屋に用はなく、元気がなさそうに見えた恋人の様子が気になっていただけだった。
「……ふみやさん、天彦です」
ドアを軽くノックして声をかけるが応答がない。やはり寝てしまったのではないかと思ったがそれなら少し顔を見ておきたい気もする。
「……ふみやさん入りますよ?」
控え気味にドアを開けると部屋はシンと静まり返っていた。しかしベッドには誰かが寝ている様子がない。疑問に思いつつも一歩足を踏み入れたところで気付いた。
「ふ、ふみや……さん?」
目に止まったのは床に倒れ込んでいるふみやさんだった。
「ふみやさん!」
慌てて駆け寄ると硬いものを蹴り飛ばしてしまい、コロコロと転がっていくそれを目で追うと空になった風邪薬の瓶だった。
「ふみやさん!一体何があったんですか!」
体を抱え起こし何度も名前を呼ぶが、手も脚も力が抜けたようにだらんとして目を覚ます気配がない。さっき蹴り飛ばしてしまった薬の瓶から想像出来るのは、ふみやさんがオーバードーズをしたのではないかという疑惑。
「あ……あ……」
凄く血の気が引いていく感じがする。あまりにも唐突な出来事にパニックを起こして、正常な判断が出来ずふみやさんの体をただ揺さぶる。
「そ、そうだ救急車……」
おぼつかない手でポケットからスマホを取りボタンを押そうとしたところで、急に伸びてきた手が僕の手を掴んだ。
「えっ……」
「……はは、天彦慌てすぎ」
何事もなかったかのようにスッと目を開けたふみやさんが居た。
「ふみや、さん……これは一体……」
「ん?サプラーイズ。俺が倒れてたら皆どういう反応するかなと思って。天彦もあんなに取り乱すんだね」
そう言うとふみやさんは体を起こして僕に意地悪そうな笑みを浮かべる。
「……はー」
安心と何とも言えない気分に一つため息を溢した。
「ふみやさん心臓に悪いことしないでくださいよもう。あとこういうのはドッキリって言うんですよ、全然サプライズじゃない」
「ははっ、間違えた」
イタズラが成功した子供のように楽しそうにしているふみやさん。そして気付くと僕は力強くふみやさんを抱きしめていた。
「わっ、天彦苦しいって。苦しい」
「……かった……」
「?」
声が震える。目頭が熱くなって気を抜いたら泣いてしまいそう。
「良かった……ふみやさんが無事で良かった……こんな冗談キツいですって……」
「天彦……」
「本当に、死んじゃったりしてたら……どうしようかと思って……」
暫く沈黙が続いたがそれを解いたのが、体を離して重なったふみやさんからのキスだった。
「……ごめん天彦、ちょっとやりすぎた」
「そうですよ、反省してください」
「……でもさ」
「?」
ふみやさんは真っ直ぐ僕を見て話を続ける。
「天彦があんなに慌ててくれて嬉しいと思っちゃった。好きなんだな俺のこと」
「……そうですよ」
「ははっ、俺も好きだよそんな天彦が。愛されてるね俺」
そう言ってまた僕にキスをするふみやさん。少し長めのキスが安心感をくれた。
「天彦さーん?ふみやさんどうでした……かっ?え、何してんの二人とも」
突然入ってきた依央利さんにお互い体が固まる。そういえば僕、ふみやさんの様子を見にきたんだった。
「あー僕におやつ作らせておいて食べないでそうやって怪しいことするんですねふみやさん!」
「違う依央利、これは」
「もう作りませんよおやつ!」
「やだ作って。ってか作りたいだろお前も」
「うん!作りたい!」
二人のやりとりを見て笑いが溢れる。その後はリビングに戻り幸せそうに焼き菓子を食べるふみやさんを眺めながらコーヒーを飲む。
相変わらずのふみやさん、そんな貴方を僕は愛しています。