海を見に行こう(仮)ーーその時ふみやは察してしまった。もうこの世に六人は存在していないのだと。
二度寝をしてしまったふみやがリビングへと降りると誰の姿もなかった。依央利やテラ達は仕事、猿川はまた喧嘩をしに。大瀬くらいだろう部屋にいるのは、とふみやは思った。
テーブルには依央利が作っておいてくれた朝食がラップされて置いてある。
ふみやはそれを食べながら、今日は何をして過ごそうか……そういえばあの小説の後編まだ読んでなかったなと考えていた。
朝食を食べ終わりシンクに食器を置いて自室に一度戻る。さっき思い出した小説を取りに行ったからだ。
「あったあった」
リビングのソファに座って小説を読み始める。
ふみやが読んでいる小説の内容は恋愛ものだった。恋愛ものといっても内容はある男性が事故に遭ってしまったが、自分も周りも死に気付いていなかった。しかしその男性の恋人だけは気付いてしまった。
けれどその事を男性に伝えるとこの世から消えてしまうのではないかと言う怖さから、恋人はずっと黙っていた。
そんな話で前編の小説は終わった。後編はと言うと、意を決して恋人が男性の死を伝える話だった。
もちろん男性はそんな事信じなかった、周りがも普通になのにと伝えるが恋人が男性の手を握って発覚した事があった。
冷たい。
恋人が死を気付いたのはそれだった。そしてネットで検索すると事故に遭ったはずの被害者の姿が消えたという記事が出てきた。
貴方の事を失いたくなくて伝えるのが怖かったと恋人は告げた。でもずっと騙し騙しもいけないと。
男性は自分の死を受け入れて、恋人に最後のキスをする。
来世でもまた絶対に会おう。そう言って男性の体は消えていった。
「……ふーん、不思議な話だ」
慧が読んだらこれはホラーになるのか? なんて考えながらテーブルに本を置きソファに寝転がった。
「ふわぁ……なんか眠くなってきたな」
二度寝までしたのにと、ウトウトしながら夢の中へとふみやは落ちていった。
ガサガサという音に気付いてふみやは目が醒めた。すると目の前には天彦の顔があった。
「おはようございます、ふみやさん。寝顔がセクシーだったので堪能してました」
「あれ……帰ってきたんだ、おかえり」
「猿ちゃんそれ取ってー」
「あぁ? 自分でとりゃいいだろ」
「それもそっか! ご奉仕ご奉仕!」
「テラくん今日も完璧だよ……」
「テラさん! 鼻血! 鼻血が出てますよ!」
「鼻血出したテラくんもキュート!」
大瀬はいつもの場所に座っていた。皆帰って来たみたいで家の中が賑やかになる。
「依央利ー、今日の夕飯何?」
「今日は依央利特製オムライスですよ! ケチャップでお好みの絵を描いてあげます!」
「そっか、楽しみにしてる」
そう言って立ち上がり一度部屋に戻ろうとした。
「あぁ、ふみやさん。本をお忘れですよ」
「ん、さんきゅ」
その時ふみやは天彦の手に少し触れて違和感を覚えて心臓がドクンと鳴った。小説が床に落ちてしまったのは、ふみやが天彦の手を握ったからだった。
「ふ、ふみやさん?」
どうしました?と聞く天彦を無視して、理解とテラ、依央利と猿川の手も握っていく。心臓の音が大きく早くなる。まさか、まさか……そんなはずは。
皆が不思議に思う中、ふみやは大瀬にも近寄って手を握った。
ふみやは何も言わずに立ち上がってリビングから離れ、自分の部屋に戻った。
「なん、で……あいつらの手が……冷たいんだ……」
小説を読んだせいでそう感じてしまっているのか。いやでも、全員の手が冷たいなんておかしい。