四月の初旬、あたりを見渡せば薄桃色の花弁達が空を染めていくのを感じる。 出会いと別れの季節のせいか沢山の感情が入り混じってる人々がいる中で俺はただ一人、商店街を抜けてすぐの通学路を重い足取りで歩いていた。
『桜なんて見たくない』なんて我儘を誰が聞いてくれるんだろう。 待ってほしいと願っても春は止まってくれない。 何もしなくたって咲いて散るだけで褒められる桜と違い、俺はファンに向けて歌って踊って、仕事をしないといけない。 それだけで桜を嫌う理由には充分なはずなのに。
もっと他に嫌う理由がある気がしたのは、なんでだろう。
そんな事を考えながら通学路を歩いていく。 そしたら向こう側から懐かしい声が聞こえた。 俺に前を向かせてくれた大切なヒーロー。
「……なんでこんなところにいるんですか、守沢先輩」
「高峯……!?久しぶりにお前と会えるなんて嬉しいぞ!」
当たり前のように会話が成り立ってない気がする、けどこれが『いつもの日常』だったんだ……。
それを痛感すると何故だか涙が出てきた。
「なぜ泣いてるんだ高峯!ハンカチは要るか?」
あんたは今でもお節介なんだな……気が利くんだかそうじゃないんだか……。
「別に……必要なほど泣いてないですし」
「そうか。 そういえば高峯はお花見したか?」
「してないですけど、それがなんですか……?」
「なら今から一緒に花見をしよう!」
この人から出てきた言葉は今の俺の心を深く抉るようなものだった。
「えぇ……一人で行けばいいじゃん……」
「それだと寂しいだろう、それに高峯と話したい気分だからな」と言って守沢先輩は俺の手を握って近くの公園に向かった。 歩きながら先輩は仕事の話とか特撮の話をずっとしていたけど、話してるときの先輩の瞳はキラキラしていた、楽しそうに見えて少しだけ羨ましくなってる自分がいた。
先輩の目的地であろう公園に着いたものの今はまだ平日の昼だからか、人気はなく落ち着いている。これならまだいいか……と思い「なんで俺と話したかったんですか」って聞いてみた。
チャットでいつでも話せるのに、わざわざ偶然会えた今話したい理由が分からなかったから。
「実は天祥院が予め根回ししてくれたお陰で仕事が想像以上に忙しくてな……、オフの日に気分転換で歩いていたら高峯がいたからつい」
「それ、意味もなく話したかったようにも聞こえますけど」
「意味や理由がないとお前と話しちゃいけないのか?」
この人のこういうところが狡い。
何も考えてないように見えて頭は結構回るし、考えてる事も分からないから、もしこれを天然で言ってるんだったら困る。
「俺だってあんたと話したいと思ってたんでお互い様ですよ」
「高峯……!やはり俺のことを愛していたんだな!俺も高峯を愛しているぞ!」
「……否定はしないでおきます」
言ったそばから恥ずかしくなってきて走って逃げようと片足を踏み出した途端、驚く先輩に手首を掴まれ語りかけられる。
「待ってくれ、ほら、ここの桜は綺麗だろう?高峯にも見てほしかったんだ」
この人が真っ直ぐな目でそう言うから俺もそうだと思えた。 学院を卒業して二度と会えることは無かったこの人と再び会えて見れるはずもないと諦めていた桜も二人で見られた。
「去年も流星隊でお花見しましたけど、まさか今年もまぁ……あんたと二人きりとはいえお花見するとは思いませんでした」
「また、一緒に見られたな!」
向日葵のように明るく咲うこの人を見ると憂鬱な気分も忘れさせてくれる。だから、暫くはこのままで居たい。
でも、本当は桜を見る度に守沢先輩の事や別れを思い出すから見たくなかったのに、これからもこの人と桜を見たり楽しい思い出が作れるなら_____
「来年も一緒に見れると良いですね」
「ああ……!絶対に見れるぞ!」
桜を少しは好きになれそうかも、なんて。