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    八丁目

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    八丁目

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    💜仗億︎︎ ♀

    にょ億ちゃんが処女じゃないと知った仗助は──という話

    たとえお前がそうだとしても 虹村億泰と付き合うことができた。
    その辺の男よりは喧嘩が強くて、顔には大きな傷があって目つきも悪いが、親しい知人へと向ける表情は柔らかい。仗助へと向けた時なんかは特にだ。向日葵みたいに豪快に可愛くて、明るい陽の下が似合う純粋無垢な顔。仗助が惚れたきっかけとも言っていい。
    初めて会ったのは虹村邸前、そして敵同士だった。男と変わらないぐらいに厳つい表情を見せていたから、制服姿の脚元を見るまで女だとは気づかなかった。それからも、楽しくも奇妙なこと、悲惨な事件も解決し、様々な出来事を共に乗り越えていく内に、仗助は億泰に惹かれていった。気の合うダチから、女として意識し、そして好きになった。
    告白は仗助から。断られてしまったらなど考える間もないほど「俺も好きだぜ、仗助ェっ!」と即答され、抱き締められた。恋愛物語でいえばハッピーエンド。仗助も堪らず抱き返した。これでふたりは末永く幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん。と終わることが出来たらどんなに良かったことか。

    「虹村って東京から来たんでしょ?やっぱり向こうの女子高生はみんな経験済みなの?」
    帰りのホームルームも終わって、出来たてほやほやの彼女を迎えにクラスの前まで来ると、そんな声が聞こえてつい立ち止まってしまった。
    「みんなかどうかは分かんねえけど、まあ、ほとんどはそうなんじゃあねえの?」
    「うっそ!じゃあ虹村も?!」
    「そりゃあ、俺だって……そういう相手がいなかったわけじゃあねえしよォ」
    わあわあ、きゃあきゃあっと騒ぐ億泰を含めた女子四人。まだ教室には男子だって残っているのに、声を大にして話すことじゃないだろう。しかし、それ以上に田舎の女子高生は都会に偏見を持ち過ぎている。そう思った矢先、それは偏見でも何でもなく、事実であった。
    だが、そこまでは別に構いやしない。都会の女がどうであれ、自分には関係ないのだから。けれど、億泰は駄目だ。
    あの可愛い億泰が処女じゃない。
    いや、それは仗助が億泰という像を勝手に作り上げていただけ。億泰は処女だろうと決めつけていたことが既に間違いだ。億泰の見た目は男のようでガサツでも、仗助のように本質を知り惚れる男は東京にもいただろう。経験しているかしていないかで億泰への気持ちが変わるわけじゃない。
    ただ、億泰の初めての男になれなかったという悔しさだけは拭えなかった。
    付き合って一ヶ月が経った頃。デートやキスはもう恥ずかしがることもなく、何度もしてきた。喧嘩をすることがあっても、仲直りすることでより関係が深まっていた。最高の関係だった。それなのに──
    「なあ、えっちしねえの?」
    ついに来てしまったと頭を抱えた。
    億泰とセックスはもちろんしたい。
    ただ、既に誰かのものであったということを知ってしまった。だからといって汚いもの扱いをしているわけじゃない。大好きな億泰に触れてキスして交わりたい。それなのに、億泰の過去の男へ対する嫉妬が邪魔をしていた。
    「あっ、別に無理してえっちすることないぜ?」
    したくねえのかなって聞いてみただけだからよ。
    自分の両脚をたたみ、抱え込んで小さくなる体に顔を埋めている。耳は真っ赤に染まって、制服の袖を掴む手は僅かに震えていた。
    ああ、やってしまった。泣きたくなるくらい恥ずかしくて、勇気を出して聞いてくれたのだろうに、男の自分がくだらない嫉妬に悩んでいるせいで、惨めな思いをさせてしまった。
    「あぁ?んだよ無理ってえのはよォ。無理なわけねえだろ。彼女のオメェとやりたくて仕方なかったっつの」
    安心させたかった。だから、今まで以上に優しい声をだし、大事に億泰の顔を包んでこちらへ向かせる。
    うるうるした瞳が仗助を見つめた。
    「でもよォ~、仗助の前の彼女と比べたら、俺はやっぱりキツいんじゃあねえかなって」
    「前の、彼女……?」
    「仗助ならやっぱいただろ?俺の前にも、カノジョ」
    仗助には前にも彼女がいて、その女の子たちと比べたら自分は筋肉質で背も高く、肌も白くなければ色っぽい声も出せないと卑下している。
    彼女なんて、今までもこれから先もずっと億泰だけだ。億泰が最初で最後の女だと決めている。
    「バカは妄想豊かで困るぜ。オメェが初めての女なんだから比べようがねえっての。そういうオメェは俺んことどう思うよ?過去一グレートな男なんだよなァ?」
    億泰がそうやって居もしない仗助の過去の女と自分を比べるならば、今度は仗助が億泰の過去の男を引きずり出す。
    億泰があの日教室で女友達に、彼氏がいて既に経験済だと匂わせるような話をしていたのを聞いただけで、億泰から直接仗助に彼氏がいたことを話したことはなかった。だから、やや困惑気味の億泰に、あの日の教室で話を聞いてしまったことを素直に話した。
    「オメェが処女じゃあねえっことには驚かされたがよ、でも俺は……」
    「そりゃあ俺なんかが処女じゃあねえとか聞いたらビビるよなァ。けど男は処女相手にすんの面倒だって言うだろ?だから俺も早く誰かにやっちまおうかなって思ってよ」
    「処女が面倒だなんて誰が言ったんだよ」
    「形兆の兄貴だけど?」
    まさかあの兄貴が。堅物でそんなことには一切興味が無さそうなあの男が、こんないらない知恵を億泰に吹き込んでいったのか。
    まだ形兆が生きていた頃。まだ十代であるにも関わらず、既に手を血で染めていた男。精神的にも身体的にも苦しいはずだが、それを抑え込むことが出来たのは女の身体だった。抑えられない興奮を女で発散することで自我を保っていた。ただの殺人マシーンなんかではなく、虹村形兆であり続ける為に。
    しかし、一度だけ不完全燃焼のまま帰ってきた形兆が言った。
    『処女は面倒くせえ。相手にしてられねえぜ』
    頭を抱え体を震わせ、その夜はどうにか衝動を押さえ込もうと、その状態のまま眠気が来るのをひたすら待っていた。形兆が眠りについたのは翌日の昼間だった。
    けれど、そのひとことが男の本音なのだと、億泰はそう理解してしまっていた。
    「オメェの兄貴のは彼女とかじゃあねえだろ?!その辺の行きずりの女だろうが!」
    「そうなんだよな。けどよォ、やっぱ仗助に面倒くせぇって思われたくなくて俺、どうにか誰かとヤれねえかなって思って……」
    おかしい。
    億泰の手を掴みながら震えた。
    億泰が初めて男とセックスしたのは東京にいた時の話だった。けれど、今億泰は仗助に面倒だと思われたくなくて、別の男とセックスしたと。仗助と付き合っているに。
    手に力が入る。
    悔しい。大好きな億泰が、そんな理由で誰かに抱かれたのだと思うと、頭がおかしくなる。
    形兆のせいだ、億泰がバカなせいだ。くそくそくそっ。
    「おくやす……っ」
    誰のせいでもない。行き場のない怒りが瞳から溢れる。それならば、自分でなくとも、ちゃんと好きな相手とセックスして欲しかった。零れていく涙が頬を伝う。ぽたりと手に落ちたのを見て、億泰は眉を顰め仗助の顔を覗いた。
    「けどよォ、やっぱ好きな人とじゃあねえとえっちしたくねえし。もし仗助に面倒だと思われても、仗助は優しいからちゃんと俺の処女もらってくれるかなって思って……だから」

    ──俺の処女、もらってくれる?

    ──え?

    つまりどういうことなのか。処女ではないと自ら言っておいて処女だと言う。仗助とスムーズにセックスをしたいが為に別の男と済ませた、という話だったはずだ。
    「あ?どういうこったよ。オメェもう処女じゃあねえって……」
    「学校ではよォ……その、強がり言っちまっただけで、向こうでは彼氏もいたことねえし、シたこともねえんだよ」
    さっきまで流していた涙は嘘のような引っ込んでいき、バカな億泰への怒りがふつふつと沸き上がってくる。
    「俺にまで強がってどうすんだよ!処女かどうかなんてヤっちまえばすぐ分かることなんだぜっ!」
    「だから仗助にはちゃんと言ったじゃあねえかよっ!やっぱ、面倒くせえの?処女は嫌か?」
    言いたいことは山ほどあった。とにかく億泰が誰のものでもなく処女であり続けて居てくれたことが何より嬉しい。何から話せばいいのか分からなかったが、もうどうでもいい。
    「嫌じゃあねえ!むしろ大っ歓迎だっつんだよ!なのに、お前がっ、億泰が誰かとセックスしちまってたって聞いてどれだけショックだったか……、いいか?!俺以外の奴とヤろうだなんて二度と考えんじゃあねーぞっ!分かったか?!」
    「あ、おっおう!……あっ、ぁ……」
    素直な返事を小さな口と一緒にかぷりと喰らいついてやった。
    自分が億泰のハジメテの男だと改めて実感すればするほど愛しくて堪らなかった。手を繋いだ時も、デートも、キスも。思い返してみれば全てハジメテの時は初々しく照れたり、恥ずかしくて億泰からキスしてくれなかったこともあった。なにひとつ慣れた様子なんてなかった。よく考えてみれば、分かりやすい嘘だったなと思う。
    ちゅっと軽く唇を吸ってから離してやる。唾液でてらてらと光る唇は「じょう、すけ……」と名前を呼んでいる。赤らんだ顔に、とろとろに溶けた瞳を向けて求めてくる。
    「億泰、好きだぜ」
    「おれも、すきぃ……っ」


    だから、じょおすけ。えっちしよ?
    おう、優しくする。



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