From first love to true loveサンズは毎日ガスターの研究の手伝いに大忙しで睡眠や食事もろくに摂れていなかった。
それはガスターや一緒に助手をしていたアルフィーも同じで研究の合間を縫ってはなんとか手軽なカップラーメンなどのインスタント食品を食べて過ごしていたが、さすがに毎食は飽きていた。
そこでガスターは
「スノーフルの町に美味しいお店があるんだよ。そこの出前を頼んでみようか」
と二人に提案をする。
サンズはずっとホットランドの今現在いるラボに引き篭っていたためにあまり外に出る機会がなく、その店のことを知らなかった。
「もしかしてあのお店?前にアンダインと一緒に行ったことあるんだ!凄く素敵なお店だったよ」
アルフィーはその店を知っているらしく、アンダインとのデートのことを思い出してはニヤケている。
「へぇ~、そんな店があるのか。博士、頼んでくれるか?」
サンズはとにかく違うものが食べたかったのでガスターの提案は有難かった。
「わかったよ。早速電話して注文をするね」
ガスターは携帯電話に番号を押して顔の横に当てると研究室の外の廊下へ出て行った。
しばらくしてからガスターは戻って来た。
「注文したよ。20分くらいで届くそうだ」
「へぇ、そんなに速いのか?」
サンズは少し驚いて目を丸くする。
「うん。それじゃあ、研究の続きを進めながら待とうか」
「はい」
ガスターとアルフィーが作業に戻るとサンズも続いて作業に戻った。
20分後、ラボの扉をノックする音が聞こえた。
「今開けるよ」
ガスターがラボの扉を開けるとそこには、眼鏡をかけバーテンダーの服装に身を包んだ炎のエレメントのモンスターが立っていた。
彼の手には先程注文した料理が入っているであろう紙袋がある。
「ありがとう。時間ピッタリだね」
ガスターは紙袋を受け取ると、炎のバーテンダーへ料理の代金を支払った。
「サンズくんにはまだ紹介していなかったね。彼はグリルビー。スノーフルの町にあるグリルビーズの店長だよ。私がよく通っているんだ」
ガスターが言うとグリルビーはサンズへ向けてぺこりと丁寧にお辞儀をした。
「グリルビーくん。彼がサンズ。私の助手で、研究を手伝ってくれているんだ。私がよく話をしている彼だよ」
ガスターが紹介すると
「オイラはサンズ。スケルトンのサンズさ。よろしくなグリルビー」
サンズはグリルビーへ手を伸ばし握手を求める。
グリルビーはサンズの手を握るとその手からぷぅ~という気の抜けた音が漏れ出てきた。
「ハハ、引っかかったな。手にブーブークッションを仕掛けといたんだ。お約束のギャグだよ」
サンズは笑って手のひらをグリルビーに見せた。
手にはピンクのブーブークッションが乗っている。
グリルビーは少し驚くと、小さく拍手をした。マジックだと思っているらしい。
「……まさか、拍手されるとは思わなかったぜ」
サンズは少し照れた表情を見せた。
「グリルビーくん、少しラボで休憩したらどうだい?君用の油を入れるからさ」
ガスターはグリルビーを招き入れようとする。
しかしグリルビーは店をこれ以上空けられないと断る。
「そうかい?仕方ないね、今度は遊びにおいで」
「グリルビー、お料理の配達ありがとう」
「じゃあな」
ガスター、アルフィー、サンズと別れの挨拶をし、グリルビーはラボから出て行った。
「それじゃあ休憩にしよう」
ガスターは机に広がる書類を適当にまとめると空いたスペースにグリルビーが届けてくれた紙袋の中身を取り出す。
中に入っていたのは三人前のハンバーガーとポテトとドリンクだった。
ハンバーガーのバンズとポテトはこんがりと焼けていていい匂いが部屋中に広がる。
「おお、美味そう……!」
サンズは思わず涎が出そうになる。
「では、いただくとしようか」
「「「いただきます」」」
三人は手を合わせて言うと各々食べ始める。
サンズはハンバーガーを一口かじる。
挟まれたハンバーグから肉汁が溢れ出し、シャキシャキのレタスと濃厚なチーズとの相性は抜群だ。
「うっめぇ……!」
美味しさの余り自然と笑みがこぼれる。
サンズはこんなに美味しいハンバーガーを食べたことがなかった。
ガスターとアルフィーはその様子を見ながらニコニコしている。
「博士!どうしてこんな美味いもんを教えてくれなかったんだ」
サンズはガスターに尋ねる。
「ごめんね。何度も頼むのはグリルビーくんに迷惑かなと思ってさ……」
ガスターは後ろ手に頭をかく。
「確かにな……」
サンズはポテトをつまみながら考え込む。
「ポテトもすげーうめぇ」
思わず口に出るサンズ。
(こんなに美味い料理が作れるのか。本人も結構面白そうなやつだったしまた会いてぇな……)
サンズは初対面でグリルビーに胃袋を掴まれたようだ。
「そうだ!博士、今度からオイラがグリルビーズへ買いに行くよ。一人くらい少し抜けても平気だろ?」
「そうだね、今度からそうしようか。私達の手が離せない場合はグリルビーくんに来てもらおう」
サンズの話を聞いてガスターは同意する。
「良いですね、そうしましょう」
アルフィーも頷く。
(これでグリルビーに会いに行く口実が出来たぞ……!)
サンズは心の中でガッツポーズをする。
こうしてサンズは昼食や夜食などを定期的にグリルビーズへ買いに行くことになった。
そしてサンズは初めてグリルビーズへ行くことになる。
リバーパーソンの小舟でホットランドからスノーフルの町まで来たサンズは、ガスターが書いてくれた地図を頼りにグリルビーズを見付けた。
スノーフルの町に合った外観をしており、とてもお洒落だった。
サンズはゴクリと息を飲みグリルビーズの扉を開けた。
店内は落ち着いた雰囲気で客はまばらだが皆楽しげに食事をとっていた。
カウンターの奥にはグラスを磨いているグリルビーがいて、サンズに気付くとペコリと会釈をした。
「グリルビー、こないだぶりだな。持ち帰りで注文するぜ」
サンズはカウンターの所まで歩を進めると片手を上げて挨拶を返す。
グリルビーが頷くとサンズは続ける。
「ハンバーガーとポテトを三人前、ドリンクはアイスコーヒーとアイスティー、ストレートで。あとオレンジジュース、全部Mサイズで。これで以上だ」
サンズがメニュー表を見ながら注文をし、グリルビーはメモを取るとカウンター席にいた赤い鳥に何か伝えようとしている。
「グリルビーは『ただ今お作り致しますので、こちらにお掛けになってお待ちください』と言ってるよ」
赤い鳥はグリルビーの言葉を通訳してサンズに伝えた。
「お前さん、グリルビーの言葉が分かるのか…!?」
サンズは驚いて赤い鳥とグリルビーを交互に見た。
「いや、適当だけどね。本当は何を言ってるか分からないよ」
赤い鳥は訂正する。
「そうなのか。……でもオイラ、グリルビーの言葉が分かるようになりたい」
サンズはグリルビーをまっすぐ見つめて意気込んだ。
その目線に居心地が悪くなったのかグリルビーは慌ててカウンターの隣にある扉の奥に姿を消した。
「通い詰めればそのうち分かるようになるんじゃない?」
「そうだな。もっとグリルビーのことが知りたい」
サンズは思わずそう呟くと赤い鳥はふーんと言って何やら少しニヤついている。
しばらくしてからグリルビーが先程注文したハンバーガーやポテトを作って持って来た。カウンターに戻るとドリンクも用意していき紙袋に次々と詰めていく。
「グリルビーが『お待たせ致しました。ご注文のハンバーガーとポテトとドリンクです』だって」
グリルビーがサンズに注文した料理が入った紙袋を渡すと赤い鳥は通訳する。
「ありがとうグリルビー」
サンズはお礼を言うとガスターから預かった金で代金を支払い、その場を去ろうとする。
が、立ち止まって振り返りグリルビーに言った。
「グリルビー、また来てもいいか?」
グリルビーはコクリと頷きお辞儀をした。
「そうか。それじゃあ、また来るぜ」
サンズは手をひらひらと振りグリルビーズを後にした。
それからサンズは日に日にグリルビーズへ足を運ぶ回数が増えていった。
毎回ハンバーガーとポテトとドリンクを頼んではグリルビーに昨日今日あった出来事を話すサンズ。
自分のこと、パピルスのこと、アルフィーのこと、ガスターのこと、他の研究員達のこと、研究のこと、たくさんグリルビーに話した。
グリルビーは時々相槌に頷いては真剣に聞いてくれるのでとても話しやすかった。
そんなグリルビーを見詰めながら話すのはとても楽しかった。
会話していくうちに、サンズはグリルビーの言いたいことが徐々に理解出来てきた。
グリルビーの思っていることを言い当てるゲームもするようになり、サンズが当てるとグリルビーは頷きパチパチと拍手をしてくれた。
サンズはグリルビーと過ごすそんなひと時が好きだった。
月日は流れ、ガスターが不慮の事故で帰らぬ人になり、アルフィーは王国直属の研究員だったガスターのあとをのちに引き継ぎラボも彼女が引き取った。
サンズとパピルスの兄弟はスノーフルの町へ引っ越すことになった。
サンズはグリルビーのいるスノーフルの町へどうしても引っ越したかった。
グリルビーの傍に居たいからだ。
サンズとパピルスはスノーフルの町のみんなへ挨拶回りをしていく。
最後にグリルビーズへ赴く。
扉を開けるとグリルビーがサンズとパピルスを見て驚いたのかグラスを磨く動きが止まる。
「グリルビー。オイラ達、ここに引っ越して来たんだ。これからもよろしくな」
「久しぶりグリルビー!兄ちゃんがお世話になってます!」
パピルスは何度かサンズに連れてこられていた為、グリルビーとは既に顔見知りだ。
グリルビーはサンズ達がこちらに引っ越してきたのを知ってとても喜んでくれた。
これで毎日グリルビーに会える。
サンズは嬉しくて仕方なかった。
それからサンズは毎日のようにグリルビーに会うためにグリルビーズに通った。
引っ越してきてからというもの、サンズは金欠で食事代を払うことが出来ずツケにしてもらうようになった。
グリルビーは何も言わずに了承してくれた。
グリルビーはサンズがお金を払わなくても必ず彼の分の食事をいつも用意してくれた。
グリルビーはとても優しいのだ。
そしてサンズはその優しさに甘えてしまっていた。
ある日、とうとうサンズはグリルビーに前から思っていた疑問を聞いてみた。
「どうしてオイラに優しくしてくれるんだ?オイラが客だからか?お得意さんだからか?」
するとグリルビーは首を横に振った。
「……そうだよな、グリルビーは客とか関係なくみんなに優しいもんな」
サンズは困ったように笑う。
「悪い、変なこと聞いちまったな。忘れてくれ」
サンズは苦笑しながら謝るとグリルビーズから出て行ってしまった。
「…………」
グリルビーは何も言わずサンズがいた場所をただ見詰めるだけだった。
サンズがグリルビーに質問した日からまたいつもの二人に戻っており、サンズが注文してはグリルビーが料理を提供し、他愛のない会話をするいつもの日常だ。
サンズはこれで良いんだと心の中で呟いた。
そんなある日、今日もグリルビーズは常連客のみんなで賑わっていた。
皆楽しく食事をしている。
しかしサンズはまだ来ていない。
サンズが来る頃よりかは少し早い時間帯だ。
その時いきなり扉が強くバンと開かれたと思うと、ここいらでは見かけない見知らぬモンスター達が三人わらわらと入って来た。
「ほお……ここがグリルビーズか。なかなか良い店じゃねえか」
見知らぬモンスターの一人が店の中を見回して言った。
グリルビーは見知らぬモンスター達に丁寧にお辞儀をし挨拶をする。
「へぇ……あんたがここの店のマスターか?やけに色っぽいじゃねえか」
「本当だ、体付きがやらしいねぇ……!」
「どうだい、俺らと一晩付き合ってくれねぇか?」
見知らぬモンスター達はグリルビーの体を舐め回すような目で見て下卑た笑い声をあげる。
グリルビーは困って汗をかいている。
「グリルビーは『お客様、申し訳ございませんがそういったものは断りしております。他のお客様のご迷惑になりますのでお帰り下さい』って言ってるよ」
カウンター席にいつもいる赤い鳥が見知らぬモンスター達を睨みながら言い放つ。
「そうだ、ここはそういう店じゃないぞ!」
「帰れ帰れ!」
赤い鳥の隣にいた魚のモンスターや他のみんなもグリルビーを助けようと抗議の声を上げる。
「うるせぇな……俺達はこのドスケベな彼に用があるの」
「あんたグリルビーって言うんだ?可愛いね」
見知らぬモンスター達は常連客のみんなを無視してグリルビーを口説こうとする。
「これ俺らの携帯番号とメアド。良かったら連絡してよ」
見知らぬモンスターの一人がカウンターの中まで侵入し、小さい紙切れのメモを取り出すとグリルビーのズボンの尻ポケットに入れた。
そしてすかさずグリルビーの尻を形をなぞるように撫でた。
「!?」
グリルビーは思わずビクッと体が震えた。
「へへ、良い反応するじゃん」
他の見知らぬモンスター二人もカウンターの中まで入っていき、今度はグリルビーの腰と太ももを撫で回し始めた。
「…!?」
グリルビーは驚いて体が強ばる。
「お、おい、やめろよ……!」
魚のモンスターが止めに入ろうとするが
「うるせぇ!外野は引っ込んでてな!!」
「ひぃっ……!」
見知らぬモンスターに怒鳴られて怖気付く。
そして見知らぬモンスターの一人がグリルビーの胸をまさぐり始めた。
「雄っぱいデケぇ……!柔らかっ……!」
両手でグリルビーの胸を鷲掴みにし揉みしだいていく。
「っ……!」
グリルビーの息が段々と上がっていく。
それを見た常連客のみんなが慌てて制止に入る。
「いい加減にしろ!お前ら!!グリルビーが嫌がっているだろう!」
「そうだよ!グリルビーから離れなさい!」
みんながグリルビーを守ろうと必死になる。
しかし、そんなことお構いなしとばかりに見知らぬモンスター達の行為はエスカレートしていく。
「ああっ……たまんねぇ……!」
見知らぬモンスター達は興奮してグリルビーの体の至るところに手を這わせる。
首すじを甘噛みされ、しまいには舌で舐められているグリルビー。
「……っ!」
恥ずかしさと嫌悪感でどうにかなりそうになるグリルビーに見知らぬモンスターが追い討ちをかけるようにキスをしようとしたその時。
「お前ら!!!グリルビーから離れろ!!!」
いつの間にかグリルビーズの扉が開かれてサンズが物凄い剣幕で見知らぬモンスター達を睨んで怒号を浴びせた。
「サンズ!!!」
「良かった、来てくれた…!!」
店内にいる常連客のみんながサンズを見て安堵の声を上げる。
「……!」
グリルビーもサンズを見て安心したのか眼鏡の縁から涙がポロリと零れ落ちた。
「……なんだ、テメェは?」
見知らぬモンスターの一人がサンズに言うと
「俺はグリルビーの恋人だ!!グリルビーは俺のもんだから手ぇ出すんじゃねえ!!」
サンズは自らグリルビーの恋人と宣言し、グリルビーを守る為に見知らぬモンスター達を威嚇した。
「!」
それを聞いたグリルビーは顔を真っ赤にして俯いている。
その直後サンズは目にも止まらぬ速さで見知らぬモンスター達の急所に骨攻撃を打ち込み三人全員を気絶させた。
グリルビーは腰を抜かして床に座り込んだ。
「二度とここに来るんじゃねえぞ」
サンズは気絶している見知らぬモンスター達に言うと、グリルビーに駆け寄り抱き締めた。
「グリルビーごめんな……もっと早く来ていればこんな事には……」
グリルビーは首を横に振る。
「え?『ちゃんと来てくれて私を助けてくれた。ありがとう』……ああ、でも」
サンズは言葉を詰まらせる。
「とにかく、今日はもう店仕舞いにしてゆっくり休め」
サンズはグリルビーに優しく言うと次に常連客のロイヤルガード達に声を掛ける。
「お前ら悪いが、コイツらを町の外まで捨てて来てくれないか」
サンズは気絶した見知らぬモンスター達を指差して言う。
「分かった」
「任せて」
ロイヤルガード達は見知らぬモンスター達を担ぎ上げると店の外へ出て行った。
「みんなも今日はもう閉店にするから、すまねえが店から出てくれ」
サンズは他の常連客のみんなに言う。
みんなはグリルビーを心配しつつもわらわらと店の外へ出て行く。
店の中にはサンズとグリルビーの二人だけになった。
すると突然サンズはグリルビーをお姫様抱っこした。
グリルビーは炎のエレメントのモンスターなので見た目より軽いらしい。
「!?」
グリルビーはいきなりサンズにお姫様抱っこされて思わず手を回して掴まる。
「グリルビー、腰抜かして動けねぇだろ。家まで送って行く。」
そう言うとサンズはグリルビーを抱き抱えたまま店の外に出ると、グリルビーの家まで歩いていく。
道中、グリルビーはずっとサンズの首に手を回したまま顔を隠していた。
家に着き、グリルビーをベッドに寝かせるとサンズはグリルビーの手を握って言った。
「ごめんなグリルビー……オイラのせいで怖い思いをさせてすまなかった……オイラ、次は今度こそ絶対グリルビーのこと守るから」
サンズの手は小刻みに震えていた。
「……それじゃあオイラは帰るぜ。何かあったら連絡してくれ」
サンズはグリルビーの手を離して去ろうとする。
しかし、グリルビーが咄嗟にパーカーの裾を少し摘んで引き止めた。
「えっ、どうしたグリルビー?」
サンズは驚いて振り返り尋ねる。
グリルビーはじっとサンズを見詰めて何か伝えようとしている。
「……オイラがグリルビーを助けた時、どうして恋人だって言ったのかってことか?」
サンズはグリルビーの言葉を読み取った。
「…………」
グリルビーはゆっくりと頷いた。
「……それは、その……」
サンズは少し吃ってしまった。
サンズはグリルビーが襲われていたあの時にようやくグリルビーのことが好きだと気付いてしまった。
だから助けに入った時につい、グリルビーの恋人だと宣言してしまったのだ。
「……オイラとグリルビーが恋人だったら、もう他の奴らがグリルビーに手を出したりしないだろ?だからそういうことにしたんだ。分かるだろ?」
グリルビーはキョトンとしている。
「……だから、恋人っていうのは“嘘”って訳だ」
それを聞いたグリルビーはハッとして首を横にブンブンと大きく振る。
「えっ、どうしたんだよ……?」
サンズは困っている。
グリルビーに自分の気持ちを悟られないように無理やり恋人と言ったことを嘘にしたが、グリルビーは納得していないらしい。
グリルビーはまた何かを伝えようとしている。
「え、オイラのことを……」
サンズはグリルビーの言葉を翻訳しようとしたが、途中で何かに気付いたのかみるみる顔を赤くしていく。
グリルビーもそれに気付いて恥ずかしいのかもじもじして一緒に顔を赤くしている。
「ま、待ってくれ!オイラから言わせてくれ!」
サンズはグリルビーの言いたいことが分かったらしく、グリルビーに待ったをかけて一息ついてから続けて言った。
「オイラ、グリルビーのことが好きなんだ」
サンズはグリルビーを真っ直ぐ見詰めて告白する。
「グリルビー、オイラと付き合ってくれないか」
「!」
グリルビーは更に顔を赤く染めて、ゆっくりと頷いた。
「ほ、本当かグリルビー!?お前さんもオイラのことが好きなのか……!?」
サンズは告白に成功したのが信じられないようでグリルビーに確認するように問い掛ける。
グリルビーは嬉しそうにコクリと首を縦に振る。
「……そうか、グリルビーはオイラのことが好きなのか……!そっか……!」
サンズは噛み締めるように言うと嬉しそうに笑顔で涙を流した。
「!?」
グリルビーはサンズが泣いたところを初めて見たので困ってオロオロしている。
「ああ、大丈夫だグリルビー。嬉しくて涙が出ただけだ」
サンズは袖で涙を拭うとグリルビーを優しく抱き締めた。
「グリルビーはいつからオイラのことを好きになったんだ?気付いた時は?」
サンズはグリルビーに問うと、グリルビーが答える前に自分のことを話す。
「オイラはな、気付いた時はさっきお前が襲われて危険な目にあった時だ。それからオイラは多分グリルビー、お前と初めて会った時からグリルビーのことを好きになっていたと思うんだ。その時は気付いてなかったけど、一目惚れかもな」
サンズは抱き締めていたグリルビーから離れると照れくさそうに笑みを浮かべている。
「!!」
グリルビーはサンズの話を聞いて必死にコクコクと何度も首を縦に動かしている。
「えっ、グリルビーもオイラと同じってことなのか?」
サンズは目を見開いて驚きグリルビーに訊くと、グリルビーはコクリと大きく一回だけ力強く首を縦に振った。
「……じゃあ、オイラとグリルビーはお互い気付く前から両想いだったってことなんだな」
サンズは幸せそうに笑っている。
グリルビーもそんなサンズを見て胸がじわじわと温かくなった。
「…………グリルビー」
するとサンズは火照った瞳でグリルビーを見詰めると、グリルビーの顔に自分の顔を近付けていく。
「……グリルビー、キスしてもいいか?」
グリルビーは恥ずかしいのか顔を真っ赤にして小さく頷いた。
それを見てサンズは愛おしそうに笑うと、グリルビーの口があるであろう部分に自分の口を重ねて口付けた。
「……っ」
グリルビーは初めての感覚に身を震わせた。
しばらくしてサンズが口を離すと、グリルビーの顔はとろっとろに気持ち良さそうな表情をしているようにサンズには見えた。
「グリルビー……可愛いな……もしかして初めてだったか?」
グリルビーは恥ずかしそうに俯いてコクリと一度、強く首を縦に振る。
「実はオイラも初めてだった」
サンズは頬を掻きながら苦笑いをしている。
「……」
グリルビーは驚いているようだ。
「お互い初めて同士、奪い奪われで良かったよ」
サンズはニッと笑って言った。
グリルビーは頬を染めて嬉しそうに頷く。
するとサンズはグリルビーの手に自分の手を重ねて指を絡ませて握った。
「グリルビー、お前の傍に居たい。心配だから一緒にいていいか?」
グリルビーはサンズの手を握り返すとゆっくりと頷いた。
「グリルビー、これからもよろしくな」
サンズとグリルビーは幸せそうに見詰め合い、一緒にベッドに入るとキスを何度か重ねた。
両想いになれて本当に良かった。
二人はそう思うと抱き締め合って眠りについた。
翌日、サンズとグリルビーは一緒にグリルビーの家から歩いてグリルビーズの前まで着くと、サンズは一度自分の家に戻ってから店に行くとグリルビーに伝えてからその場を離れた。
グリルビーは店に入ると開店準備をしてから店をオープンした。
いつもの常連客のみんなが次々と来店してくる。
「グリルビー、昨日は大丈夫だったか?」
「昨日のことはアンダインに伝えて対処してもらうようにお願いしといたから安心して」
「次からはサンズが遅れた時でも対応出来るように鍛えておくぜ」
常連客のみんながグリルビーを囲んで安心させるように話しかけてくれた。
グリルビーはありがとうという気持ちでみんなにペコペコお辞儀をしている。
そして話しかけられるのが一旦落ち着き、仕事に戻ろうとカウンターに戻ったグリルビーに赤い鳥が話しかけて来た。
「そういえば訊こうと思ってたんだけど、サンズが『俺はグリルビーの恋人だ』って言ってたけどあれって本当なの?」
そう言われてギクッとしたグリルビーはどう答えればいいかオドオドしていると
「オイラが“グリルビーの恋人”なのは本当だぜ」
そう言いながらサンズがグリルビーズに入って来た。
そしてそのままいつものカウンター席に腰を下ろす。
「へぇ~そうなんだ……!いつからどうして恋人になったの?」
赤い鳥は興味津々に質問する。
サンズはニヤリと笑い
「それは秘密だ」
と人差し指を口元に当てながら言った。
グリルビーは昨日のサンズとのやり取りを思い出し、恥ずかしくなって頬を紅潮させた。
そんな二人を見た赤い鳥は
「……ふ~ん、そういうことね」
と言って何かを察したようだった。
「え?なになに?サンズとグリルビーが恋人だって?」
「昨日言ってたことは本当だったのか!」
他の常連客達も話を聞いていたのか会話に飛び入り参加してきた。
「ああ、そうだ。オイラとグリルビーは恋人同士なんだ。みんな、これからもオイラ達をよろしくな」
サンズはみんなにグリルビーは自分のものだと主張するように自慢げに改めて紹介した。
グリルビーは更に居た堪れない気持ちになったが、サンズが嬉しそうに話すので微笑ましくその様子を眺めていた。
その後、グリルビーズではサンズとグリルビーをお祝いする常連客のみんなの声が後を絶たなかった。
二人はお互いに見つめ合うとサンズは幸せそうに笑みを浮かべ、グリルビーは頬を染めて嬉しそうに照れていた。
サンズとグリルビーが恋人になったことが地底中に広まり、グリルビーズにて仲睦まじい二人が名物になったという。