真田先生のブログの「彼女は誰かの為に行動することに抵抗もない反面、誰かが自分の為に行動したり犠牲を払うことに心苦しさを感じていたりします。両親や須賀のことは特に影響が強いです。」(2013.11.13)が大好きで、何度も何度もしぃちゃんの負い目とかを妄想してしまう……。
須賀君が喋りすぎ、長くて同じこと言い過ぎ、しぃちゃんの不安と負い目の2つの話を一気に描くのはムリ、ということで後半はほぼ消し去りました。供養させてください。
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別に、何か悲しいことを考えていたわけじゃない。
ただいつも通りに、須賀くんと話しながら、洗った食器を棚に戻そうとしていただけだ。
取り落としたマグカップがシンクにぶつかって嫌な音をたてた。
隣でコンロ周りの片付けをしていた須賀くんが「ケガは?」と尋ねる。
「大丈夫」と答えた。本当に、大丈夫なはずだった。
手に取ったマグカップの底に、一筋のヒビが走っている。もともと誰が使っていたものか分からないけれど、この家のものなのに、壊してしまった。申し訳なくて、須賀くんに謝ろうと口を開くけれど、喉が詰まって声が出ない。目から零れた水滴がぱたぱたと音をたててシンクに落ちるのを、私はひどく冷静な目で見ていた。
「しぃちゃん、やっぱりどこかケガして、」
私の様子を見て、須賀くんの顔がすぐに青くなった。ああ、私はまた彼を心配させている。
「ち、違うの。……ごめん」
涙をひっこめて声を絞り出した。大丈夫と言うわりには、情けない声だったと思う。
「なんかね、ちょっと最近いろいろとうまくいってなくて」
違う。こんな、愚痴みたいなことを言いたいんじゃなくて。
「就活とか、勉強とか、家のこととか、」
一緒にいるときに、こんなこと、話したくないのに。
「どうしたらいいのか、わからなくなっちゃって……」
──須賀くんは、いままで、もっと辛い思いをしてきたのに。
「急にごめん!愚痴っぽくなっちゃって」
「……しぃちゃん、」
「ちょっと疲れてるみたい」
「……」
「もう、大丈夫だから」
話を切り上げて、マグカップのことを謝ろうとした。同時に、須賀くんの手が私の手に重ねられて、私はまたしても言葉に詰まってしまった。
「しぃちゃん……むり、しないで」
低い声が頭上から聞こえる。顔を上げられない。目を合わせられない。また涙が溢れてきた。久しぶりに会えたんだから、もっと楽しい話がしたいのに。
もう涙を堪えることはできなくて、重ねられた手では涙を隠すこともできなかった。
「でも、みんなこなしてることだから」
心の何処かで話を聞いてほしかったのかもしれない。
「それに、須賀くんが抱えていたことに比べたら、私のことなんて全然、」
いちばん弱いところを見せたくなくて、そしていちばん、全てを曝け出してしまいたい相手は、私の手を静かに握り続けて、泣き止むまでそばにいてくれた。
□ □ □
ソファに並んで、須賀くんが淹れてくれたココアを飲んでいると、彼はゆっくりと口を開いた。
「……しぃちゃんは、僕に、背負わせたと思っているのかもしれないけれど」
彼の声はいつも優しい。少し自信がなさそうなところも、昔と変わらない。
「僕はずっと、おじいさんと、この資料館と……しぃちゃんとの約束に、支えられて生きてこられたんだと、思う」
──ことりおばけとの約束が終わったあとは、どう生きていけばいいか、迷いもしたんだけれど。
でも、つゆさんの資料のこととか、アクセサリー作りとか、新しくやりたいことができて。
それは、全部しぃちゃんがくれたんだよ。
あの夏に、ことりおばけを成仏させて、僕の背中を押してくれたから。
「だから、たくさんもらったぶん、返したいって思うんだ」
また目元が熱い。心配そうにこちらを見る彼も泣き出しそうだった。
「僕が、しぃちゃんの悩みを完璧に理解できるかはわからないけど……ずっと、そばにいさせてくれないかな」
私ひとりでは、ことりおばけを成仏させられるわけがなかった。あのとき、須賀くんが森に助けに来てくれなければ、須賀くんが磨いた夜光石がなければ、こんな未来は迎えられなかったのだから。
新たな資料作りも、アクセサリー作りも、須賀くんが自ら選んだ道だ。私はずっと、なにもかも忘れていた。私の方こそ、須賀くんからもらってばかりなのに。
↑なんかここらへんで良い感じの大ゴマから場面転換して植木鉢のシーンに繋げようとしていたので、文章の場合の終わり方が分からなくなりました \^o^/
「ずっとそばに」ってなんかプロポーズみたいじゃない……!?と後日ひとりで赤くなるしぃちゃんでオチをつけようとしていた痕跡がメモに残っていた。