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    りせ.

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    りせ.

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    茨さんの手料理を食べたい片想いおひ〜さん。
    ひよ茨にアドバイスする閣下も好き。

     今日は仕事がちょっと押したから、晩ご飯は局からのお弁当をいただいた。早く楽屋を出ないとスタッフの方にも迷惑がかかるだろうし、何より楽屋で食べてから帰るのが億劫だったので、星奏館に帰って食べることにした。その方が、きっと誰かとご飯を食べられるからね。
     でも遅くなってしまったからそれも叶わないかもしれない。誰かいるといいなあ。そんな風に考えながら談話室を抜け、キッチンスペースに行くと凪砂くんがご飯を食べていた。

    「…おかえりなさい、日和くん。お疲れさま」
    「ただいま!凪砂くんもお疲れさまだね」
    「…日和くん、ご飯食べた?」
    「ううん、今からだね!お弁当もらってきたからぼくもここで一緒に食べていい?」
    「…もちろん。お茶、淹れてくるね」

     ぼくは向かいに座って凪砂くんが食べているお料理を眺めた。冷製パスタとスープかあ、おいしそうだね。最近は自炊もするようになったって言ってたから凪砂くんの手料理かな?でも茨も凪砂くんにお料理を作っているし、その為にお料理のサークルに入ったとも言っていた。
     ……いいなあ、凪砂くん。


    「…お待たせ」
    「ありがとう!…ねえ、今日のご飯は自分で作ったの?」
    「…ううん、茨だよ。この前サークルで教わった料理を早速披露してくれたんだ。このパスタ、あっさりしてておいしいよ」

     やっぱり。そのパスタもスープも。凪砂くんの為に、かあ。そういう意味じゃなくっても羨ましい。

    「…食べてみる?」
    「ううん、いい。それは凪砂くんの為のご飯、だからね」
    「…日和くんもお願いしてみたら?茨、作ってくれると思うよ」
    「…そんなことないと思うね」
    「…そうかな。茨は優しいから作ってくれると思うけど」
    「きっとジュンくんに頼めばって言われるに決まってるね。また、キッシュの時みたいにぼくたちに作ってくれる時を待つね」
    「…でもそれって『日和くんの為』じゃないよね。それでも、いいの?」
    「……よくはないけど」
    「…ふふ、じゃあ頑張ってみよう」
    「う〜…わかったね……うまくいかなかったら凪砂くん慰めてね」
    「…うん、私が日和くんの為にご飯作るね」
    「それはそれで食べたいからまたお願いしたいね」

     以前、茨がキッシュを作ってきてくれたことがあった。サークルで教わったって言ってたけど、他にも教わったお料理があるだろうに選んだのはキッシュ。一緒に食べたのはEdenのみんななのにぼくの好物。本当にうれしくて写真も撮ってお料理もたくさん味わって大切にいただいた。
     茨のお料理を食べられる機会は少なくて、喜びもひとしおだった。茨の愛がこもったお料理。また食べてあげるから作ってくるといいねなんて言ったけど、本当はぼくがただ茨のお料理を食べたいだけ。できれば、ぼくの為の。

     …本当に作ってほしいってお願いしたら、作ってくれるのかな?
     作ってくれた人たちには申し訳ないけれど、食べているお弁当はなんだか味気なかった。





     翌日。ユニットの仕事で現場入りした時間が早かったのか、今はぼくと茨だけ。チャンスは、今しかない。

     怖いけど、ぼくだって。


    「…ねえ、茨。最近サークルではどんなお料理を習ったの?」
    「何ですか急に」
    「あ、いや…昨日凪砂くんと晩ご飯を食べてね。そのお料理がおいしそうだったし、茨が作ったって聞いたから」
    「…最近は昨日作った冷製パスタと、豚しゃぶに合うタレにフルーツゼリーですかね…。暑さも厳しくなってきたので、夏バテでも食べられそうなレシピをご教授いただきました」
    「そうなんだ。それもおいしそうだね」
    「昨日のパスタは閣下に好評でしたので、次は早速豚しゃぶサラダにしようかと」

    「……ぼくも、食べたい、ね」

     言えたね!!緊張しすぎて喉カラッカラになっちゃってたからすごくぎこちなかったけど!


    「…ジュンではなく?」
    「え?」
    「そういうの、殿下はジュンにお願いしてるじゃないですか。自分ですよ?」
    「う、うん。わかってるね。茨にお願いしてるね」
    「……」
    「茨…?」
    「…やはり、ジュンにお願いした方がいいと思います」
    「…っ、そう。わかった、無理言ってごめんね」
    「いえ……」


     …だめ、だったね。やっぱり。
     悲しくて仕方なくて、後から凪砂くんとジュンくんが来てくれたけど、ぼくは仕事が始まるまでどうしてたか覚えてない。
     仕事はきちんと終わらせてから凪砂くんに結果報告をした後、さっさと帰り支度をして星奏館に戻ってベッドにダイブした。心配してくれた同室の二人やメアリの優しさに、傷んだ心が少しだけ和らいだような気がした。





    「閣下、今日は豚しゃぶサラダです」
    「…ありがとう。これもサークルで?」
    「はい、タレを教わりました。味見もしたので問題ないかと」
    「…そう。この前のパスタもおいしかったし、茨、どんどん上達してるね」
    「痛み入ります。さ、どうぞ召し上がってください」

     …そう。パスタ。この前閣下に冷製パスタを作った後、急に殿下から料理について言及された。前にサークルで作ったキッシュを、せっかくならとEdenで食べた時は好物だったからかとてもうれしそうにしていた。
     キッシュを作っている時、頭の中では殿下がチラついていて、嫌っている自分が作る料理なので好物であれど食べたがらないかもしれないと思っていた。…食べてあげるからまた作って、なんて。あれ、リップサービスじゃなかったのか。

    「…ねえ、なんで日和くんにごちそうしないの?」
    「えっ」
    「…昨日。日和くんに言ったでしょ」
    「……閣下の根回しですか」
    「…焚き付けたのは私だけど、茨の料理を食べたいのは日和くんの本心だよ」

     そこがまずおかしい。殿下のお世話はジュンの役目でしょう。その方が殿下もうれしいはず。

    「作ったとして。その後自分も殿下と食べる、ということですよね」
    「…私もそうしたいけど、茨は作るだけ作って仕事しに行っちゃうから悲しいな」
    「…だったら、殿下は気まずいでしょう。それならご飯もある程度作れる上に楽しく食事できるジュンの方がメリットが」
    「…昨日ね、私、日和くんに一口食べる?って聞いたんだけど、何て言ったと思う?」
    「………何ですか」

    「…『私の為』のご飯だからいい、って。この意味、賢い茨ならわかるよね?」

     何だそれ。自分の料理、でも閣下の晩ご飯では…?それは、つまり。殿下に作った自分の料理、でないと……

    「…明日、日和くんと移動一緒だよね」
    「はい…そうですけど…」
    「…スケジュールを見た感じ、日和くん、お昼食べる時間取れないかもしれないね」
    「…っあ〜〜〜もう!わかりましたよ!作ります!嫌な顔されても閣下のせいにしますからね!」

     なんですかその顔!生温かい眼差しを向けないでくれませんか!





     昨日は茨に会うことがなかったからよかったけど、今日は移動が一緒なんだよね。なんだか気まずい。前まではうれしくて、あまり弾んではなかったけど話もしていて…でも今日は大人しくしていようかな。
     社用車が迎えに来てくれた時にはもう茨は先に乗っていて、乗り込むと元気よく挨拶をしてくれた。…茨は何とも思ってなさそうだ。それはそれで、少しさみしい。

     着くまで茨はお仕事をするだろうし、ぼくは邪魔しないように景色でも見ていようかな。そう思って窓の外に目を向けようとした時。

    「…殿下。少し、いいですか?」
    「なぁに?」
    「あの、これ…よかったら」

     乗り込んだ時には茨で見えてなかったけど、ランチトートを差し出していた。

    「これって…?」
    「ホットサンドです。殿下、今日お昼を食べるタイミングないですよね。今なら少しでも食べられるかと」
    「そうだけど、これ…どうしたの?」
    「……朝、作りました」
    「えっ!?」
    「社用車で食べられて、手も汚れない。サンドイッチでもよかったんですけど、殿下はこういう方がお好きかな、と。違いました?」

     ……どういうこと?ぼくに都合が良すぎない?この前、きみ、断ったよね?

    「合ってる、けど……」
    「時間がなくなってしまいますので早く食べましょう。はい、お手ふきどうぞ」
    「あ、ありがとう」
    「ハムチーズとツナマヨにしてみましたけど、どちらがいいですか?」
    「…ハムチーズ」
    「どうぞ」
    「いただき、ます…」

     混乱したまま茨お手製のホットサンドを食べる。ぼくの為のお料理。ぼくのスケジュールと状況も考えてくれて、おいしくないわけがない。茨の優しさが包まれていて、チーズと一緒にとろけ出てくる。

    「…おいしいね、とっても」
    「……よかったです。自分もいただきますね」
    「うん、きみはツナマヨ?」
    「はい。殿下の分のツナマヨもありますよ。一人二種類食べられるように作りましたから」

     …きみが、ぼくと一緒に食べることも考えてくれてたんだ。うれしい。

    「よかった。そうじゃなかったらきみとはんぶんこしなきゃいけなくなっちゃうね」
    「…そうだったとしても殿下は全部食べてもいいんですが」
    「作ったきみがこんなにおいしいホットサンドを知らないのは損してるね」
    「特別なことはしていないので味の想像はつきます」
    「…一緒に食べると、よりおいしくなるね」
    「自分とでも、ですか?」
    「もちろん!」

    「……なら、豚しゃぶサラダでも冷製パスタでも。今度何でもお作りしますよ」
    「ほ、本当?いいの?」
    「はい…貴方が、自分と食べてそう感じてくださるなら。デザートも付けますよ」

     …ああ、そういうことか。茨が断った理由。

    「じゃあ今度ぼくもきみにごちそうするね!その時はぼくとゆっくりお話もしようね」
    「…! はい。殿下の手料理、楽しみにしています」
    「今は残念だけど、早く食べちゃうね」
    「また作りますよ」
    「ふふ、次は違う中身がいいね」
    「…サークルで聞いておきます」


     ツナマヨも言わずもがなおいしくて、ぼくのお腹と心はとっても満たされて現場に着いた。先に着いていた凪砂くんはそんなぼくを見て微笑んでたし、ジュンくんにも何か良いことがあったのかって聞かれたから、今すっごくわかりやすいぐらい喜んじゃってるかも。

     仕方ないよね。好きな子のお料理、食べられたんだから!
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